機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 甘辛いミソソースをたっぷり塗り付けたデンガクケバブ串をかじりつつ、露天通りをぶらつくどこか軽薄な印象の少年。
 フィオとバンの金魚鉢兄弟バースブラザーで、満腹食堂に勤めるルースだ。

 職場は本日定休日。
 そして懐はあったかい。
 半年に一度のボーナスが出たばかりなのだ。
 月給にやや足りない程度の額でしかないとはいえ、嬉しいものは嬉しい。
 自然、足取りも軽くなる。

「さぁて、どの店から行こうかな」

 ウキウキと呟きつつも、使い道は決まっている。
 童貞喪失である。

 金魚鉢バースプラントから出て三年、ようやくルースは人並みの生活を手に入れていた。
 安価なプレハブワンルームのアパートに、ちょっとした家財道具、それらを少しずつ集めるのに食堂の店員の安月給では三年も掛かってしまったのだ。

 三年目にしてようやく、娼館へ出向ける資金を捻出できたのである。
 もっとも、彼の生活水準は悲観するほど低いわけでもない。
 堅気の稼業において下積みの若い衆というものは、彼のような貧乏生活が相場だ。

 故にその境遇に我慢ならない若者は一攫千金を夢見て、砂潜りや弾薬虫を志す。
 だが、その大半は泣かず飛ばずで食うにも困る極貧生活。
 砂漠に骸を晒すパターンも決して少なくはない。

 ルースはチャラチャラした外見に似合わず、堅実な価値観を持つ少年である。
 自分の命をチップにして、そんな博打を打つ気にはなれなかった。

 金魚鉢兄弟バースブラザー達が波瀾万丈な砂潜りの道へ進む一方、食堂の店員としてごく平凡な人生を歩んでいる事を、ルースは微塵も後悔していない。
 フィオが連れているメイデンだけは羨ましいと思っていたが。

「いいよなぁ、キキョウさん……。
 砂潜りをやる気にはなれないけど、メイデンは俺も欲しい……」

 焦げ目の付いたトーフブロックを呑み込みながら、金魚鉢兄弟バースブラザーのパートナーの美貌を思い浮かべる。
 初対面の時、砲弾を思わせる豊かなバストに圧倒され、思わずガン見してしまった事も思い出して苦笑した。

 彼はまだ、フィオが新たに巨乳少女人形を手に入れた事を知らない。
 さらに言うなれば、もう一人の金魚鉢兄弟バースブラザーであるバンがぺたんこわんこメイデンを手に入れた事も知らなかった。
 金魚鉢兄弟バースブラザー達が来店した折り、パートナーを紹介されて嫉妬に悶えるのは、また別の話である。

「いいよなぁ、でかいおっぱい……」

 食いきったケバブの串を口にくわえてピコピコと上下に振りながら、ルースはやに下がった顔で呟く。
 その視界を戦闘装備のメイデンが横切った。
 スカイブルーとホワイトのツートンカラーがまばゆいボディスーツ。
 パトランプとサイレンユニットが追加された乙種装備を背負った警邏パトメイデンだ。

「おぉ……」

 武装アームに搭載されたサブマシンガンと電磁警棒を揺らしながらパトロールを行う警邏パトメイデンに、ルースは感嘆のため息を漏らした。
 その視線はハイレグのボディスーツに包まれたヒップラインに釘付けである。 

「おっぱいもいいけど、お尻もいいな。
 むっちりしたの、スレンダーなの、どれもいい……」

 ぶっちゃけてしまうと、なんでもいい。
 ズボンの下で童貞少年の相棒は、歩行を阻害しそうになるレベルで硬度を上昇させていた。

 彼の獣欲がここまで追いつめられているのは、職場環境にも一因がある。
 満腹食堂の看板娘、Cクラス民生用メイデンのサクラ。
 彼女の存在が問題であった。

 彼女が嫌いな訳でも、邪魔な訳でもない。
 むしろその逆だ。
 量産型ゆえ派手さを抑えつつも素朴に愛らしいサクラの容姿は、食堂を訪れるお客のみならずルースの心もがっちりキャッチしている。
 サクラの給仕動作は、あまり高性能ではないCPU性能もあってやや不器用であり、そんな所もまた可愛いと思える程だ。

 そして、そんな可愛らしい看板娘は休憩時間のたびにマスターである店主と睦みあっている。

 店舗二階の自室で行われているとはいえ、同じ職場で働くルースが気付かないはずがない。
 それどころか、こっそり覗いてオカズ確保すら行っていた。
 最初はそれで良かった。

 だが、人間とは慣れる生き物であり、さらには贅沢な生き物だ。
 驚き、やがては興奮に息を荒げて盗み見たサクラの艶姿。
 それを見るだけでは、最早我慢できない段階に来ていた。
 給仕中も、メイド風ウェイトレス服の下に細く白い背や肉付きの薄いお尻、頼りなく儚げな胸の膨らみ、そういったものが隠されていると思えば、股間がいきり立ちそうになる。

 ルースはサクラに手を出したいなどとは、微塵も思っていない。
 雇い主であり調理師としての師でもある店主へ、ルースは恩義を感じ慕っている。
 そのパートナーを汚すような恩知らずな真似をするわけにはいかない。
 しかし、若い衝動は日々強まり、いずれは制御不能になるのではないかと不安を覚えていた。

 今回のボーナスで娼館へ向かうのは、獣欲に駆られてとんでもない事をしでかす前に、欲求不満を解消しようという狙いもあった。

 ルースは強ばる股間を誤魔化しながら露天通りストールストリートを抜け、歓楽エリアに踏み込む。
 数多くのメイデン娼館が連なるこの界隈では、昼間だというのにメイデン達が美貌を武器に客引きをしている。
 肌も露わな美姫が連なる有様は、まさに壮観であった。

「おぉー……。
 目移りするなあ」

 そう言いつつも、ルースはある程度の狙いを定めていた。
 お相手を願うのはAクラスメイデン。
 懐のボーナスが丸々飛んでしまうかもしれないが、一生に一度の事だ、妥協はしたくない。

「キキョウさんみたいな子がいいな、おっぱいでかいの」

 ルースが目の当たりにしたAクラスメイデンといえばキキョウしかいない。
 判断材料は彼女が基準になっていた。

 キキョウに関して、店主が評していた言葉が頭をよぎる。

「ありゃあ本物の高嶺の華って奴だ、俺らにゃ手が出んよ。
 ああいうレベルのは、ごくたまに店で遊ぶくらいでいい」

 カリカリにチューンされたレーシングマシンなど一般人が乗りこなせるものではない、安価で燃費もお手頃な軽自動車が一番とサクラの尻を撫でながら嘯く店主は、頬を膨らませた軽自動車サクラに手の甲を抓られて悲鳴を上げていた。

「まあ、そのサクラちゃんレベルですら、今の俺には高嶺の華なんだけどね……」

 ため息を吐いて首を振る。
 恒常的に保有することは無理でも、一時の時間を借りて疑似マスター体験はできるのだ。
 普段の貧乏生活は忘れて楽しもう。

「んっ、あの店……」

 いかにも高級店といったシックな佇まいの店舗が目に入る。
 他の店と違い、客引きのメイデンを出していないのは、それでも客が来るという自信の現れか。

「クラブ・エルジェーベトか……。
 よし!」

 あそこなら間違いなくAクラスメイデンも居るだろう。
 ルースはひとつ頷くと、クラブ・エルジェーベトを男の門出の母港と定めて歩を向けた。

 


 重厚な木製のドアに近づくと待ちかまえていたかのように内側へと開き、ルースは虚を突かれた。

「おぅっ?」

 自動ドアではない。
 ドアの裏側で、ベストとスラックスを身に纏った小柄なメイデンが微笑んでいる。

「いらっしゃいませ、お客様。
 クラブ・エルジェーベトへようこそ!」

 ボーイッシュなメイデンは愛らしい営業スマイルのまま立て板に水とばかりに続ける。

「当店のメイデンは全てAクラス、お客様に至福のお時間をお届けいたします。
 さぁ、奥へどうぞ!」

「は、はい……」

 ドア担当のアシスタントメイデンに促されるまま、ルースは店内へと足を踏み入れる。
 自動ドアを用いず、わざわざドアの開け閉めだけにメイデンを配置するという高級志向に、ルースは初手から呑まれていた。

 玄関から続く、薄暗い廊下の先には大扉。
 そこには先のメイデンと同じく男装した長身のメイデンが微笑んでいた。

「ようこそ、お客様。
 当店の支配人ゼネラルマネージャー、シノノメと申します」

 細いフレームの伊達眼鏡の下に浮かぶ、淑やかな微笑み。
 完璧な動作で頭が下げられると、後頭部で編み込むように結われた黒髪が揺れる。
 同時に、ベスト程度では隠しようもないほどに豊かなバストも大きく揺れた。

(おぉ……)

 ルースは思わず唾を呑む。
 サイズ比ではキキョウと互角、長身なLフレームであることも考えれば、この男装のメイデンの方に軍配が上がるだろう。
 純白のシャツに黒いベストとスラックスというシックな装いの下から、蕩けるような色香が滲み出るメイデンであった。

「さ、どうぞ」

 シノノメは大扉を押し開け、ルースを誘う。
 扉の向こうから差し込む光の眩しさにルースは目を細めた。

「あ、あれ……?」

 娼館の知識など大雑把にしか持たないルースだったが、抱いていたイメージと目の前の光景のギャップに間抜けな声を出してしまう。

 広いホールには数多くのソファが並べられ、そこには男達がくつろいでいた。
 そして、寄り添い、歓談する着飾ったメイデン達。

 娼館という言葉のイメージとは裏腹に、男達は肌を晒して劣情を露わにしてはいない。
 それどころかネクタイまできっちりと締めた正式な装いの者が多い。
 高価な礼服になど縁のないルースだが、彼らがそれぞれ大枚を叩いて「おめかし」している事は理解できた。
 ワークシャツにジーンズという、カジュアルな格好で踏み込んでしまった自分の場違いさに凍り付く。

 ホールの入り口で立ちすくむルースへ、近くの席の男達から胡乱気な視線が注がれる。
 小僧っ子にすぎないルースと引き替え、男達の年齢層は中年以上と高い。
 それぞれの脇卓に置かれた高価そうな酒瓶といい、裕福な生活を営む一角の人物ばかりと知れた。

「あ、あの、シノノメさん?」

「なんでしょう?」

 背後を振り返り、大扉の前で微笑む長身の支配人に囁く。

「こ、このお店、娼館なんですよね?」

「はい、そうですよ?」

 色香溢れる男装の美女が小首を傾げて不思議そうに答える様には、可愛らしいギャップがある。
 だが、ルースの疑問が彼女にピンと来ていないのでは、その様子を楽しむわけにはいかない。

「はっはっは、マダム、坊主が言いたい事はちょっと違うぞ」

 近くのソファから視線を向けていた男達の一人、恰幅のいい中年男が腹の贅肉を揺らしながら笑いかけた。

「坊主、お前さんは手っとり早くこういう事をしたくてここに来たんだろう?」

 言いながら、同席のメイデンをぐっと抱き寄せる。
 そのまま太い指で無遠慮に乳肉を揉みしだいた。

「やんっ!もうっ!」

 メイデンはするりと中年男の腕から抜け出すと、むっちりした耳たぶを摘んで引っ張った。

「おうっ、痛い痛いっ」

 そう言いながらも男の目尻はだらしなく下がっている。

「この店ではそういう床急ぎする野暮天は、ああいう目に合うんじゃよ」

 別のソファに腰を下ろした白髪の老人は、同席のメイデンが作ったオンザロックを傾けつつ、少年にゆっくりと言い聞かせた。

「会って、話して、楽しい時間を過ごして、それを何日か繰り返してようやく……ってのがこの店の醍醐味よ。
 話すだけで終わる日も多い。
 ヤリたい盛りの坊やが楽しむには、ちょいと早いかのう」

「は、話すだけって、娼館に来てるのに……?」

 ルースは困惑を隠せない。
 金魚鉢バースプラントの中でもらった知識によると、セックスとは要するに逸物を穴に突っ込む事。
 ルースに前戯などの細かい知識はない。
 逢瀬を重ねる事でより雰囲気を盛り上げるという、一種のピロートークを重視するこの店のスタイルはルースにはまだまだ早すぎる。
 セックスする為の施設に来ているのにセックスしないで帰る事もあるなど、理解の外だった。

「か、金持ちのする事はわかんねえ……」

「これが粋と言うもんじゃよ、坊や」

 琥珀色の液体を満たしたグラスを掲げる老人に微笑まれ、ルースは言葉もない。

「坊主、この店はシステムを知らない一見さんが楽しめる店じゃねえ。
 有り金握りしめて飛び込んできた勇気は立派だが、ここよりもお前さん向きの店はあると思うぜ」

 メイデンに耳たぶを引っ張られたままの中年男が諭すように言う。

「う、うぅん……」

 ルースは男の言葉に唸りを上げた。
 明らかな高級店であるこの店に何度も通い詰める資金などない。
 男の門出にいきなりケチがついてしまったが、店を変えるべきか。

 唸りながら悩むルースは、不意に後頭部を柔らかな感触に包まれ、硬直した。

「シ、シノノメさん!?」

「マダム!?」

 背後から少年を胸に抱いた男装の支配人に当人のみならず、店内の男達も驚きの声を上げる。

「お客様、皆様がおっしゃられますように、当店は睦みあい以外の時間を重視しております。
 ですが、例外もございます」

「れ、例外?」

「はい。 お客様、失礼ながら……童貞でいらっしゃいますね?」

 衆人環視の中でそんな事を問われるとは、どんな羞恥プレイであろうか。
 しかし、ふかふかとした感触に理性の大半を奪われたルースは、蕩けるような声に問われるまま頷いていた。

「は、はい、そうです……」

「では、私でよろしければお相手を勤めさせていただきますが、如何でしょうか」

「ちょっ、マダム!?」

 同席のメイデンに耳を引っ張られていた中年男が、慌てて口を挟む。

「自分は案内役だから相手はできないと、前に言われていたではないですか!
 な、なんで坊主とだけ!」

 シノノメはルースを後ろから抱きすくめたまま、中年男に申し訳なさそうな視線を向けた。

「当店の趣向では、経験のないお客様に楽しんでいただく事ができません。
 しかし、マザーは全ての娼館は初めての殿方を導く担当を用意すべきとの意向を示されております。
 当店に置きましては、その担当が支配人である私なのです」

 マザーの意向によるものとあれば、苦情を言い立てる訳にもいかない。
 中年男は、どこか呆然とした視線をシノノメに向けたまま呟いた。

「お、俺も童貞なら、マダムと……」

「ちょっとぉ、私の所に何度も通い詰めといて、そういう事言うの!?」

 男の耳を引っ張るメイデンは低い怒声と共に指先にぐりぐりと捻りを入れた。
 流石に切羽詰まった声でメイデンに平謝りをする中年男に目礼し、シノノメは再度ルースに問いかける。

「お客様、如何なさいますか?」

「は、はい、お願いします!」

 半ば流されながら、ルースはしゃちほこ張ったまま叫ぶように応えた。




 奥の個室に案内されたルースは、ガチガチに緊張していた。

 ベッドに腰掛けた彼の目の前で、長身のメイデンは後頭部に手を回し髪留めバレッタを外す。
 丁寧に纏められていた長い黒髪がこぼれて広がった。
 豊満な肢体を包む男の装束により、多少なりとも抑えられていた色香が一息に吹き出す。

 ごくりと唾を呑むルースの隣にそっと腰を下ろすと、シノノメは優しく微笑んだ。

「気持ちを平らかに。
 遊びに来られたのでしょう? 過度な緊張は楽しみを損なってしまいます」

「は、はい」

 ぎこちなく頷くルースの頬をシノノメの指先が撫でる。

とうの立ったメイデンで申し訳ありませんが、お相手勤めさせていただきます」

とうの立ったって……シノノメさん、そんなに綺麗なのに」

 しなやかな指先が頬を滑り、喉を撫でながら下っていく。
 ルースの喉仏が、ぐびりと上下した。
 シノノメは少年の反応に目尻を下げる。

「ありがとうございます。
 そろそろロールアウトから百年経とうかという旧式に過分なお言葉です」

「……百年」

 金魚鉢バースプラントから出てまだ3年のルースには、想像もつかない年月だ。
 目を丸くする少年のワークシャツのボタンを、白魚のような指が外していく。

「百年の間、ずっとこの店を?」

 ルースの問いにシノノメは首を振った。
 編み込みの跡をわずかに残して波打った黒髪が、さらりと揺れる。

「かつてはアーミーに勤めておりました。
 ……当時の主と共に」

 アーミーのメイデン。
 すなわち、最精鋭の戦闘メイデンだ。
 彼女の胸は伊達ではない、強力な大出力ジェネレーターを搭載している証である。

「アーミーのメイデンがなんで」

 思わず問うたルースの唇をシノノメの人差し指が塞いだ。

「紛い物とはいえ、女の過去をあまり掘り返すものではありませんよ」

 いたずらっぽく微笑むシノノメに、こくこくと頷く。
 確かに彼女の過去は重要ではない。
 アーミーに所属していた最高ランクのメイデンが相手をしてくれるという幸運を思えば、余計な詮索はしないに限る。

 ワークシャツのボタンを全て外し、少年の意外に逞しい胸板を露出させたシノノメは、次いで下半身に手を伸ばす。
 ジーンズのファスナーを下ろすとガチガチに勃起したペニスが、ぼろりと飛び出した。

「まぁ」

 元気いっぱいの肉棒にシノノメは楽し気な声をあげる。
 一方のルースは美貌のメイデンにマジマジと男性自身を見つめられて赤面した。
 ルースの逸物は彼の本質そのものであるかのように、平凡。
 特別大きくも太くも長くもないが、体格よりも極端に小さい事もない、ごく普通の持ち物だ。
 白魚のような指先が、膨張した幹を撫で上げる。

「うぅっ」

 ルースは尻から背骨へ這いあがるかのような快感に思わず呻きを漏らした。
 開始された麗しのメイデンによる奉仕に、彼の興奮はすでに最高潮。 目は血走り、鼻息は荒い。

 今にも暴発しそうな童貞少年の様子を見て取ったか、シノノメは肉棒をゆっくりと擦りながらも激しい技巧を凝らさない。
 少年の興奮を維持したまま、反対の手で自分のシャツのボタンを外す。
 シャツの下から現れた豊かな双丘は、黒いレースの下着に覆われている。
 目を皿のように見開いて、露わになったセクシーランジェリーを見つめるルースに見せつけるように、フロントホックを外す。

「おぉ……」

 優美な黒い枷が外され、量感溢れる純白の山が雪崩の如くまろび出る。
 感嘆の声を上げるルースの逸物を、シノノメはその深い峡谷へと挟み込んだ。
 体感した事のない柔らかさと温かさに包み込まれ、たちまち昇りつめそうになる。

「うっ、くぅっ」

 唇を噛んで必死にこらえる少年にシノノメは囁きかけた。

「お客様。 我慢なさらず」

 蕩かすような声と同時にシノノメは両腕で双丘を圧迫した。
 しっとりとした柔らかな肉の雪崩が、ルースの逸物を覆い尽くす。

「うっ、うあぁっ!?」

 童貞小僧に耐えれるはずもない猛攻に、ルースは情けない声と共に限界を迎えた。
 すかさずシノノメは乳肉に半ば押しつぶされ、わずかに先端を覗かせた亀頭に口付ける。

「んっ、んくっ」

 迸る青い精を、シノノメは喉を鳴らして呑み下していく。
 美貌のメイデンが己の逸物に吸いつき、精液を受け止める光景に少年の逸物はさらにいきり立つ。

「ふぅ……♡」

 初めての快感に少年が腰を震わせながら放った大量の精液を飲み干し、シノノメは逸物から唇を離した。
 艶やかな唇と、亀頭の間に細く白い粘液の橋が架かる。
 シノノメは桜色の舌でぺろりとその橋を舐めとると、つまみ食いを見つかった少女のようにいたずらっぽく微笑んだ。

「シ、シノノメさん……」

 不意に生まれた性欲以外の不思議な衝動に、ルースの胸は大きく高鳴った。




 女体の事など何も知らないルースは、シノノメに導かれるままに時を過ごした。
 口付けの仕方や女体の触り方といった即物的な事柄から、粋な振る舞い、洒脱な誘い方といったルースには少々早い駆け引きの手ほどきを受ける。

 ルースが知る由もない事だが、それは彼の金魚鉢兄弟バースブラザーのフィオが師より受け継いだメイデンに施された性教育にも似通っていた。
 ごく短い時間であったが、それは後のルースの人生において、ひとつの指標ともなる珠玉の時であった。

「んっ♡ なかなか、お上手になりましたね♡」

 ぎこちなく豊かな双丘を揉みしだく少年の指先に、シノノメは賞賛の言葉を贈る。
 あながちリップサービスという訳でもないのか、美貌のメイデンの優美な裸体は仄かな桜色に染まっていた。
 己の指先の挙げた成果が誇らしく、ルースの股間は雄々しさを増す。

「では、そろそろこれの使い方と参りましょう」

「は、はい!」

 シノノメはサイドテーブルからコンドームのパッケージを取り上げた。
 本来避妊の為の道具であるコンドームは、孕む事のないメイデンには別の用途で用いられている。
 コンドームを使用していれば、主以外の精液を子宮ユニットに注がれる事はないのだ。
 故に「コンドームを使う」とは娼館へ向かう事の隠語にもなっていた。

「あむ……」

 パッケージを破ったコンドームを唇に当て、そのまま少年の亀頭に被せる。

「ん、んむ……♡」

「うぅ……」

 ぞろりと喉まで呑み込まれる感触にルースは背筋を震わせた。
 
「ぷぁ……♡」

 シノノメの唇が離れると、ルースの逸物は鮮やかな蛍光グリーンのゴム製品に覆われていた。
 ド派手なカラーリングになった分身を見下ろし、ルースは眉を寄せる。

「シノノメさん、やっぱりこれ、しないとダメ……?」

 情けない声でシノノメを見上げるルースの顔には甘えの色がある。
 だが、シノノメはきっぱりと首を振った。

「いけません。 私は現在タウン預かりの主無しマスターレスの身ですから」

 子宮ウテルスユニットに注がれてしまっては、ルースを主と認証してしまうのだ。
 だが、少年は決然と顔をあげるとシノノメの両肩を掴んだ。

「お、俺がマスターじゃ、ダメですか!?」

 シノノメは困ったように瞳を細めると、少年の鼻の頭を指先で撫でる。

「それは私をお買い上げになるという事ですか?
 これでもAクラス、それなりのお値段なのですよ?」

 囁かれた金額にルースは絶句した。
 彼のボーナス半世紀分でも足りなさそうな額である。
 消沈した少年にシノノメはくすりと微笑む。

「どうせお買い上げになるのなら、こんな旧式よりももっと新しい子達にしなさいな。
 さ、姿勢を楽に……」

 ルースをベッドに寝そべらせると、天井を指してゆらゆらと揺れる逸物の上に跨る。
 大迫力の巨乳と、そこから続く薄い腹筋を纏った女体の凛々しさと優美さを併せ持つボディラインが目の前に覆い被さり、ルースは生唾を飲み込んだ。
 シノノメの繊手がルースの肉槍を導き、怒張の切っ先を己の秘裂にあてがう。

「参ります」

 ゆっくりとシノノメの腰が落とされると、ルースの亀頭が秘唇に飲み込まれていく。
 匂い立つような色香とは裏腹に、少女のように無毛の秘所に己の分身が突き立っていく様を、ルースは荒い息と共に見つめた。

「うあ、あぁ……」

 今まさに童貞を喪失している少年の口から洩れるのは快楽とも感嘆ともつかない呆然とした呻き声。
 シノノメはついに腰を落としきった。

「ふぅ……♡ 奥まで一杯です……♡」

 少年の分身を収めた下腹部をひと撫でして微笑むシノノメは、腰を落としきっていながら体重をルースに預けてはいない。
 男に跨る騎乗位の姿勢ながら、両足でしっかりと己の体重を支えている。
 金属骨格を持つメイデンの重量をお客様に架けてしまう訳にはいかない。 これもまたプロフェッショナルの技法である。

「童貞卒業、おめでとうございます♡
 如何ですか、私の中は」

「あ、あったかくて、ぎゅってしてて……き、気持ちいいです」

 これでコンドームが無ければ。 そう思ってしまうルースであった。
 そんな少年の内心を知ってか知らずか、シノノメはゆっくりと腰を使い始める。
 結合部を中心に左右に大きく捻じる。

「うぅっ!?」

 コンドーム越しに吸い付く肉襞が、腰の捻りと共に若い幹を擦り、締め、弄んでいく。
 思わず声を上げてしまうルースを見下ろしながらシノノメは唇を舐めると、腰の動きに回転を加えた。 グラインドだ。

「あっ、うあっ、あぁっ!?」

 絞りだされるように、放った。
 子宮ウテルスユニット目指して飛び出した白濁液は薄いゴムの障壁に阻まれ、シノノメの膣内で虚しくゴム風船を膨らませるに留まる。
 シノノメは胎内で膨らんだゴムの感触に目を細めると、腰を上げた。

「んっ……♡」

 愛液潤滑液に濡れた少年の逸物が、ずるりと引きずり出される。

「はぅんっ♡」

 その先端に膨らむ熱い粘液を溜め込んだゴム風船がぷっくりとした陰唇を潜ると、シノノメは背筋をぞくりと震わせて甘い声を上げた。
 目元を朱に染めたメイデンはサイドテーブルに手を伸ばしパッケージの束を掴む。

「さぁお客様、スキンも時間も、まだまだたくさん有りますよ?」

 ポーカーのカードのようにコンドームのパッケージを指先に広げ、シノノメはぺろりと唇を舐めた。
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 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

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