機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 デッドマン。
 それはタウン48の街角で声を潜めて語られる都市伝説。

 曰く、再生処理機ディスポーザーに放り込まれ損なった死体であるとか。
 曰く、最終戦争前の生物兵器バイオウェポンの生き残りであるとか。
 曰く、頭がいかれた改造人間サイボーグであるとか。
 曰く、太古の呪術オカルトで蘇った動く死体ゾンビ―であるとか。

 語る者によってまちまちなその実体は、まさに正体不明。
 だが、ひとつだけ、判を押したかのように同じ言葉も語られる。

 デッドマンとは何者か。
 彼こそマザーの目を出し抜いて蔓延る、このタウンの裏側の王であると。



「うっそくせえ」

 声を潜め、雰囲気たっぷりにおどろおどろしく語る店主を、ロスは鼻を鳴らして笑い飛ばした。

「ちったぁ怖がるとかしろよ、脅かし甲斐のねえ奴だな!」

 詰まらなさそうに舌打ちする店主に、ロスは苦笑する。

金魚鉢バースプラント出たての餓鬼じゃあるまいし、そんな怪談にビクビクしてられるかよ」

「怪談、怪談ね……」

 店主は唇をへの字に結んでロスの顔をじっと見た。

「なるほど、お前さん相変わらず硬派だな。
 ランク2にもなって、後ろ暗い連中とはまるで縁がないらしい」

 からかうような声音だが、店主の顔には微笑の一片もない。
 店主の様子にロスは眉を寄せる。

「大将?」

「ロス、お前さんの知ってるアウトローの顔役、上げてみな」

「……二枚看板のライゾール、ハーレムキングのディモン、食通のサイズ、鼠殺し、これくらいかな。
 二枚看板以外は噂に聞いただけだ」

 ロスの上げた名前に、店主は小さく頷いた。

「なるほど、手持ちの情報がちぃと古いな。
 二枚看板と食通はくたばった」

「二枚看板が? 食通はよく知らないがライゾールが早々死ぬとも思えんが」

 ランク2砂潜りでありながら、同時に裏社会の用心棒として名を馳せていた男、ライゾール。
 Bクラス戦闘メイデンを3体も有する彼は警邏隊など軽く一蹴するだけの戦闘力を保持していたのだが。

「あいつはやりすぎた。 アーミーが出張っちゃお仕舞いよ」

「ああ、そりゃあ……」

 如何に個人で武力を誇ろうとも、組織化されたアーミーの物量にはかなわない。
 しかも彼らは末端まで一騎当千を誇るエリート集団なのだ。
 裏社会で生き延びるには、アーミーに目を付けられないよう程々を心掛ける才覚が必要であった。

「それじゃ、食通もアーミーに?」

「いや、あいつは……ミュータント砂蜥蜴の刺身に当たったとかでな……」

「……ある意味噂通りの死に様だな……」

 あまりにも締まらない食通の最期に、ロスは何ともいえない表情になった。

「それじゃ今はハーレムキングと鼠殺しの二頭体制って所なのか?」

「いや、鼠殺しはここ数ヶ月噂を聞かねえ。 確証は取れてないが、多分あいつもくたばってる。
 かといってディモンが裏の頭を取ったにしちゃあ動きがおかしい」

 店主はスコッチのボトルを手に取ると磨いたばかりのグラスにとくとくと注いだ。
 ワンフィンガー分をぐっと飲み干し、酒臭い吐息を吐きながら続ける。

「ディモンの上役がいる、そいつは間違いない。
 だが、正体が掴めん」

「それがデッドマン、か。
 ジョン・ドゥやミスター・ジョンソンみたいな名無しの権兵衛な仇名って訳か」

「どうも当人がそういう噂を流してる節もあるがな。
 最近はあっちこっちで話を聞くのさ。
 しゃらくせえ奴だよ、全く」

 不快気に鼻を鳴らす店主の顔には、言葉とは裏腹の不敵な笑みが浮かんでいる。

「そう言いつつ楽しそうじゃないか、大将」

「へっ、正体不明たぁ上等じゃねえか。 そういう奴の化けの皮を剥いでやるのも情報屋の醍醐味ってもんよ」

 不敵に言ってのける店主にロスは肩をすくめた。

「ま、程々にな。 あんたも年だ、あんまり危ない橋を渡るもんじゃないぜ」

「やかましいわ、若造め」



 交易商人トレーダーの護衛はトレジャーハンターである砂潜りサンドモールよりも弾薬虫アモワーム向けの仕事である。
 ある意味裸一貫でもやりようがある砂潜りと違い、弾薬虫は明確に戦闘力を必要とされる。
 砂潜りが弾薬虫の代役をしようと言うのならば、それ相応の戦闘力を提示しなくてはならない。

「だからまあ、この位は持ってないとね」

 バンの軽トラの荷台に転がされた重機関銃HMGを眺めて、フィオは小さく頷いた。
 キキョウの甲種兵装パックから取り外してきた重機関銃HMGは12.7ミリの弾丸を秒間20発のオーダーでばら撒く事ができる。
 生身の人間に叩き込めば瞬時にミンチどころか血煙、装甲化されていない通常の車両なら数秒の連射で破壊可能な汎用性の高い武器である。

「おー、こいつは頼もしいなあ!」

 銃身を覆う黒光りする放熱カバーを撫でながらバンは満面の笑みを浮かべた。

「荷台に銃架ガンマウントを設置しなくても大丈夫ですか?」

銃架ガンマウントつけても射手担当は結局スコールだしなあ。 武装アームで保持すればいいんじゃないかな」

 フリスの指摘に応じるフィオの言葉を聞き、スコールは軽トラの荷台に上がった。
 彼女の小振りなお尻の上には、武装アームを一本備えたコアユニットが取り付けられている。

「よい、しょ」

 スコールは40キロ近い重機関銃HMGを持ち上げた。
 民間用の低出力機とはいえ、メイデンはメイデン。 このくらいのパワーはある。
 とはいえ、スコールの腕力では長時間重機関銃HMGを保持するのは辛い。
 両腕がぷるぷるし始める前に、スコールは背面から回した武装アームに重機関銃HMGを載せた。
 武装アームのラッチが重機関銃HMGを接続し、50口径の凶悪な武器はスコールの一部分と化す。

「ん……インストールかんりょう……だいじょぶ」

 スコールは武装アームで支えられた重機関銃HMGに両腕を添え、小脇で抱える姿勢で構えて見せた。

「うん、スコールが銃架ガンマウント代わりすれば良さそうだね」

「フィオさん、ありがと。 これで、キキョウねえさま、たすけるね」

 重機関銃HMGの銃身をぎゅっと抱きしめて感謝の言葉を述べるスコールにフィオは真剣な目を向けた。

「もしも、キキョウさんを浚った奴らに出くわしたとしても、戦っちゃダメだよ」

「わかってるよ、俺達の仕事は情報集めだ。
 キキョウさんを助け出すのはお前らに任すさ」

「ますたー、わたしも……」

「ダメです」

 スコールの言葉をフリスが冷たく遮った。

「相手はAクラス戦闘メイデンを下す相手です。 貴女では露払いにもなりません」

「むー……」

 重機関銃HMGを抱えたまま不満げに睨みつけてくるスコールのオッドアイを、フリスは全く意に介さない。

「キキョウを倒した敵の相手はわたしが行います。
 そこらのAクラスとは違うと言うところをお見せしましょう!」

「そースか……」

 胸を張って自信満々に言ってのけるフリスに、バンは小さくため息を吐いた。

「フィオよぅ、お前、ちゃんと監督しないと」

「わかってる。 ヴァトーの相手をするのはフリス一人じゃない。
 僕とフリスで、あいつを倒す」

 キキョウを倒した敵の話となると、フィオは腹の奥に納めた怒りを露わにする事を厭わない。
 言い切る口調には、燃える闘志と意固地なまでの決意が漲っていた。
 明らかに気負っている金魚鉢兄弟バースブラザーに、バンは若干の不安を覚えざるを得ない。

「フィオ、ロスさんともよく相談しろよ。
 お前らが一番戦闘力あるったって、それだけで済む話じゃないんだからな」

「わかってるさ」

 ホントかねえ、とバンは内心呟く。
 キキョウが絡むとフィオの脳味噌は瞬間湯沸かし器になってしまう。
 普段は頭が回る方の金魚鉢兄弟バースブラザーだが、この点ではまるで信用が置けない。

「ロスさんに手綱掴んどいてくださいって頼んどかねぇとなぁ……」
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