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砂塵を蹴立てて車群は疾走する。
彼らが進むのは交易道とも呼ばれる、わずかに踏み固められた轍の跡だ。
キャラバンが行き来する轍によって作られた道ともいえぬ道を行く、交易商人の一団。
中型トラック3台を中心とし、四方を武装したジープやバギーが囲む編成の小規模交易隊である。
バンの軽トラはその最後尾を走っていた。
装甲機生体に追い掛けられながら。
「あーっ、くそぉっ! 全っ然スピード出ねえっ!」
アクセルをベタ踏みにしても軽トラの速度はろくに上がらない。
安価で汎用性重視の車両ゆえ純然たるオフローダーに比べれば、悪路走破性能が格段に劣っているからだ。
弾薬虫たちのジープやバギーどころか、足周りをチューンしたトラックにまで置いていかれそうな始末であった。
「畜生、金入ったら絶対足周り強化してやる……!」
先行する一団が巻き上げる砂煙で汚れたフロントグラスをワイパーで拭いながら、バンは徐々に遠ざかるテールランプの群を睨みつけた。
バンの軽トラは、殿の役目をなし崩し的に押しつけられていた。
別に他の弾薬虫たちと相談した訳ではない、単純に彼の軽トラが他の車両の全力疾走に追いつけないだけの話だ。
能力的に足りない者が餌食になるのは、弱肉強食のこの世の習い。
その点、バンも納得する所ではある。
「だからと言って、生け贄にまでなってやるつもりはないけどなぁ!
スコール! どうなってる!」
バックミラーに視線を上げると、キャビンの後方窓に押しつけられた小振りなお尻が映っていた。
武装アームに据え付けた重機関銃を小脇に抱え、スコールは薙ぎ払うように掃射を行っている。
軽トラのキャビンに背を預ける事で50口径の衝撃を上手く逃がしていた。
おかげで射撃用補正プログラムを追加していないスコールでも、それなりに射線を安定させる事ができている。
もっとも、彼女の腕前がどうあれ、撃てば当たるような状況ではあったのだが。
「へって、ない……」
スコールは赤と青のオッドアイを後方に向け、呟いた。
彼女のカメラアイが捉える情景は、一面の鉄色。
地を這う装甲機生体の背の色だ。
鉄の芋虫とでも呼ぶべきデザインの装甲機生体は、一体ずつなら大した事はない。
しかし、まるで鉄の川を思わせるほどの数が集まって、うじゃうじゃと移動しているとなれば恐るべき驚異となる。
スコールの放つ12.7ミリ弾のシャワーは何体ものアーマークローラーを穿ち、破壊していた。
だが、アーマークローラーの数はまるで減ったように見えない。
アーマークローラーは破壊された同胞の残骸を一口かじっては乗り越え、突き進んでいく。
一口かじるだけとは言え、圧倒的な数だ。
群の最後尾が通り抜けた後には、痕跡すら残ってはいない。
「ますたー! きりがない、よぉ!」
スコールの甲高い悲鳴に、バンは唇を噛んだ。
「えぇい、しゃあねえ! スコール、しっかり掴まってろよ!」
意を決し、一気にハンドルを左に切る。
「わ、わぁっ!?」
急旋回した軽トラの荷台でバランスを崩したスコールは、荷台の端にしがみついて何とか転落を免れる。
「くっ、このっ!」
走りやすい交易道から逸れ、たちまち砂に足を取られそうになる軽トラを必死で制御するバン。
ハンドルにしがみつくバンを尻目にアーマークローラーの群は驀進していく。
構造上、直進以外を苦手とするアーマークローラー達にとって、鼻先から逃れた小さな餌より大きな餌の塊であるキャラバン本隊の方が魅力的であるらしい。
「やっぱ、こっちには来ないか」
なんとか窮地を脱し停車した軽トラの中で、ハンドルに突っ伏して一息つくバン。
「ますたー、これから、どうするの?」
助手席の窓からひょっこりと横向きに顔を覗かせたスコールが問いかける。
装甲機生体の餌になる運命は回避できたが、このままタウン75へ向かっても仕事を放り出したという謗りは免れない。
バンは砂煙で汚れたフロントグラス越しにアーマークローラーの群を見上げた。
彼の瞳には未だ闘志の光が宿っている。
「もうちょい頑張ってみるとしようぜ」
身を起こし、窓から覗き込む相棒の頬を撫でながら思考を巡らせる。
「あのタイプの装甲機生体は、群を統率してる個体がいるって話だ。
そいつをぶっ壊せば、混乱して足が止まるらしい。
こないだ、ロスさんに教わったばかりだぜ」
バンは不敵に笑うとハンドルを握り直した。
「スコール、他の連中よりでかい個体だ。
そいつを探し出して潰すぞ!」
「うん!」
相棒の返事を聞きながら、バンはアクセルを一気に踏み込んだ。
アーマークローラーの統率個体は他の個体よりもふた回りは大きく、遠距離からでも簡単に識別できた。
「いたぞ! あいつだ!」
流れるアーマークローラーの川を遡る形で併走していたバンは、統率個体を確認するやUターン。
統率個体を真横に睨むポジションを取る。
「スコール! やっちまえ!」
「うんっ!」
荷台の上で重機関銃を構えたスコールは、統率個体に狙いを定めると掃射を開始した。
唸りのような銃声と共に火線が踊る。
「うっ、くっ……」
側面へ向けての射撃ゆえ、軽トラのキャビンを背もたれ代わりに使えない。
50口径の強烈な反動がスコールの小さな体を揺さぶる。
よりハイパワーな純戦闘用機体であれば易々と受け止めれる程度の反動だが、出力に乏しいスコールの腕力では抑え込む事ができない。
銃口は彼女の意図に反して激しくぶれ、狙いは甘い。
それでも数発の50口径弾が統率個体の表皮に着弾する。
しかし。
「きいてない?」
貧弱な装甲しか有していない並のアーマークローラーに50口径を叩き込めば、その部位は大きく陥没し内部まで重大な損傷を与えることができる。
だが、統率個体は戦車にも匹敵するような重装甲を纏っているようだ。
集弾の甘い重機関銃の弾幕は虚しく火花を散らすのみ。
銃撃を受けた統率個体は、攻撃者をセンサー波でスキャンした。
スコールは機体を舐めるように精査するセンサー波に一瞬身をすくめる。
だが、統率個体はそれ以上何もせず、変わらぬ疾走を続けた。
スコールの手持ち火器の情報を把握し、己を破壊し得ないと無視したのだ。
「あいつ……!」
センサー波を受けながら、それ以上のアクションがない事で統率個体の意図を読みとったスコールの眉が上がる。
馬鹿にされたと感じ、幼い美貌に怒りの色が浮かんだ。
同時に、彼女のCPUに想起されるのは、主の金魚鉢兄弟の新しい相棒の姿。
スコールの慕うねえさまと違って意地悪なあのメイデンは事ある毎にスコールの性能不足を言い立てる。
スコールだって自覚しているのだ、自分は彼女やキキョウねえさまの足下にも及ばない性能でしかないと。
それでも、主の為に役立ちたいと思うのは、幼いなりにメイデンとしての矜持であった。
「わたし、だって……」
スコールは重機関銃の射撃を止めると、武装アームからパージした。
陽炎が立ち上る重機関銃がごとりと荷台に転がる。
今からやる事に関しては、40キロもある機関銃は単なるデッドウェイトにしかならない。
「スコール、どうした?」
射撃が止まった事にバンがいぶかしげな声を上げる。
「Grr……がうっ!」
主の声に応えず、スコールは荷台を蹴って跳躍した。
「お、おい! スコール!?」
空中で装甲ブーツとガントレットに仕込まれた走行球を起動しつつ、群の端っこにいたアーマークローラーの背に四つん這いで着地する。
着地と同時に四機の走行球が全力回転、丸みを帯びて滑りやすいアーマークローラーの背中から再跳躍するだけの加速力を無理矢理生み出した。
「わぅっ!」
四つ足のまま、スコールは宙を飛ぶ。
アーマークローラーを飛び石代わりに踏みしめ、統率個体へと迫る。
近寄ってくる小さなメイデンに対し、統率個体は一切反応を示さない。
すでにセンサーによるサーチでこの小型機の火力では自分を破壊し得ない事は把握している。
ならば放置してよい。
統率個体といっても所詮は群体型の小型装甲機生体、判断力はこの程度のものであった。
火力不足の敵手が何を考えて肉薄してきたのか、想像する能力など備わっていない。
あと三度の跳躍で統率個体へ届くタイミングのジャンプで、スコールは勝負を仕掛けた。
跳躍と同時に装甲ブーツの臑と簡易コアユニットに一発ずつ装備されたスラスターを点火する。
スコールの低出力は推力面でも足を引っ張っており、キキョウのように飛翔するどころか、連続30秒の噴射で息切れしてしまう。
だが、そんなささやかな推力でも、この瞬間宙に舞ったスコール自身を矢のように打ち出す事はできる。
とっておきの全力噴射で空中を疾走しつつ、スコールは切り札を起動した。
「ぶれいく、くろー!」
振りかぶった右のガントレットに備わる二本の爪が高周波の唸りを発する。
ここに至って、統率個体は身じろぎした。
無力と見た敵が、強力な武器を隠し持っていた事にようやく気づいたのだ。
最早遅い。
「やぁーっ!」
スコール自身の体重と全力噴射の推進力も乗せた機械の爪を振り降ろす。
ブレイククローは高速振動系武器の中では変わり種の一品だ。
高速振動で鋸のように「挽き切る」のではなく、振動波の共振破砕で「砕き切る」武器である。
鉤爪が触れた点を中心としてアーマークローラーの装甲がぼこりと浮き上がり、次いで振り降ろしの勢いのままに引き裂かれていく。
クローの切れ味ではなく、共振破砕によって装甲の構造そのものがぐずぐずに破壊されてしまった結果である。
強固な装甲といえど、この一撃の前にはひとたまりもない。
瞬時に統率個体の前半分は抉りとられたかのように破砕される。
強烈な一撃は判断の遅いCPUをも破砕し、統率個体は機能停止した。
これほどに威力のある武器でありながらブレイククローが変わり種のポジションから抜け出せないのは、その破壊力の制御が難しい点にある。
振動波をまき散らしながら叩きつける武器であるため、大雑把な破壊しかできないのだ。
精密性に乏しく、武器というよりは単純な掘削作業に向いた装備である。
そしてもう一点、ブレイククローがあまり利用されない理由があった。
「うぅっ……」
小容量コンデンサに蓄えた、なけなしの備蓄電力までブレイククローに吸い取られ、スコールはクローを振り降ろした姿勢のまま砂地に膝を着いた。
電力不足で停止しかかった小さな機体の中で、安物のジェネレーターが必死で稼働している。
ブレイククローはメイデン用近接武器の中では最もエネルギー消費が激しい装備である。
スコールの場合、体内の電力のほとんどをつぎ込んで、ようやく一瞬だけ起動させる事ができる。
まさに切り札であった。
「スコール! 立て!」
マスターの切羽詰まった声が聴覚センサーに届き、電力不足のスコールは貧血を起こした人間のような緩慢な動作で顔を上げ、周囲を見回した。
統率個体が破壊され、アーマークローラーの群は無秩序な混乱状態に陥りつつある。
足を止める個体、でたらめに走り続けようとする個体など動作は様々だが、このまま座り込んでいては、おしくらまんじゅう状態で踏み潰されてしまう。
「んっ……しょ……」
スコールは自ら引き裂いた統率個体の残骸を手すり代わりになんとか立ち上がった。
混乱に陥り、互いにぶつかり合いながらてんでバラバラに動くアーマークローラー達を見て、その隙間をすり抜ける事は無理だと判断する。
「とべる、かな?」
不安を口にしつつ、乏しい出力を掻き集めてスラスターに回し、推力へと変換する。
スラスターが一瞬閃き、スコールの小さな体を跳ねさせた。
放物線を描く機体は、行きと同じくアーマークローラーの背を足場として着地する。
だが、整然と行軍をしていた先ほどとはアーマークローラーの動きが違う。
「あっ!?」
足場として踏みつけたアーマークローラーが唐突に急ブレーキを掛け、再跳躍しようとしたスコールの足が滑る。
このまま地面に落ちては、混乱したアーマークローラーの群に踏みつぶされてジャンク間違いなしだ。
「このっ!」
スコールは不安定な姿勢のままスラスターを噴射した。
ここで落ちる訳にはいかない、CPUへの電力供給すら滞る程のエネルギーを推力に回し、必死でスラスターを噴かす。
落下しかけた小さな機体が、突然見えない巨人に蹴り飛ばされたかのように飛ぶ。
スコールの体内の電力は最早からっぽ、低電力モードのCPUは落下点を演算する事すらできない。
だが、彼女の落ちる先には迎えが来ていた。
「スコール!」
バンの軽トラはアーマークローラーの群にぎりぎりまで近づいていた。
飛んでくるスコールが荷台ではなくキャビンにぶち当たると見て、とっさに運転席のドアを開ける。
「うぎゅ」
金髪を尾のようになびかせたスコールは、マスターとフロントグラスの隙間に飛び込み、助手席のドアにぶつかって停止した。
ひっくり返り、助手席の窓から片足をはみ出させたスコールを腕を伸ばして押さえつつ、バンはアクセルを踏み込んだ。
互いにぶつかり合い、団子のようになっているアーマークローラーの群から一目散に離脱する。
「ふぅ……お前、無茶するなぁ」
サイドミラーで遠ざかる装甲機生体たちを睨みながら、バンは呆れ声を出した。
「ん……しょ……」
ひっくり返っていたスコールは体勢を整えて助手席に座り直すと、マスターを見上げた。
「ああしないと、たおせなかった、よ?」
「うん、まあそりゃそうなんだが」
バンは軽トラを走らせながら片手を伸ばし、見上げるスコールの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「いきなりはやめてくれ、肝が冷えたぜ」
「ん……」
ちょっと不服そうに頬を膨らますスコールにバンは苦笑した。
「でもまあ、よくやったよ。 頑張ったな、スコール」
「うん!」
スコールは満面の笑みを浮かべると、頭を撫でる主の手を取り、自分の頬に擦りつけた。
彼らが進むのは交易道とも呼ばれる、わずかに踏み固められた轍の跡だ。
キャラバンが行き来する轍によって作られた道ともいえぬ道を行く、交易商人の一団。
中型トラック3台を中心とし、四方を武装したジープやバギーが囲む編成の小規模交易隊である。
バンの軽トラはその最後尾を走っていた。
装甲機生体に追い掛けられながら。
「あーっ、くそぉっ! 全っ然スピード出ねえっ!」
アクセルをベタ踏みにしても軽トラの速度はろくに上がらない。
安価で汎用性重視の車両ゆえ純然たるオフローダーに比べれば、悪路走破性能が格段に劣っているからだ。
弾薬虫たちのジープやバギーどころか、足周りをチューンしたトラックにまで置いていかれそうな始末であった。
「畜生、金入ったら絶対足周り強化してやる……!」
先行する一団が巻き上げる砂煙で汚れたフロントグラスをワイパーで拭いながら、バンは徐々に遠ざかるテールランプの群を睨みつけた。
バンの軽トラは、殿の役目をなし崩し的に押しつけられていた。
別に他の弾薬虫たちと相談した訳ではない、単純に彼の軽トラが他の車両の全力疾走に追いつけないだけの話だ。
能力的に足りない者が餌食になるのは、弱肉強食のこの世の習い。
その点、バンも納得する所ではある。
「だからと言って、生け贄にまでなってやるつもりはないけどなぁ!
スコール! どうなってる!」
バックミラーに視線を上げると、キャビンの後方窓に押しつけられた小振りなお尻が映っていた。
武装アームに据え付けた重機関銃を小脇に抱え、スコールは薙ぎ払うように掃射を行っている。
軽トラのキャビンに背を預ける事で50口径の衝撃を上手く逃がしていた。
おかげで射撃用補正プログラムを追加していないスコールでも、それなりに射線を安定させる事ができている。
もっとも、彼女の腕前がどうあれ、撃てば当たるような状況ではあったのだが。
「へって、ない……」
スコールは赤と青のオッドアイを後方に向け、呟いた。
彼女のカメラアイが捉える情景は、一面の鉄色。
地を這う装甲機生体の背の色だ。
鉄の芋虫とでも呼ぶべきデザインの装甲機生体は、一体ずつなら大した事はない。
しかし、まるで鉄の川を思わせるほどの数が集まって、うじゃうじゃと移動しているとなれば恐るべき驚異となる。
スコールの放つ12.7ミリ弾のシャワーは何体ものアーマークローラーを穿ち、破壊していた。
だが、アーマークローラーの数はまるで減ったように見えない。
アーマークローラーは破壊された同胞の残骸を一口かじっては乗り越え、突き進んでいく。
一口かじるだけとは言え、圧倒的な数だ。
群の最後尾が通り抜けた後には、痕跡すら残ってはいない。
「ますたー! きりがない、よぉ!」
スコールの甲高い悲鳴に、バンは唇を噛んだ。
「えぇい、しゃあねえ! スコール、しっかり掴まってろよ!」
意を決し、一気にハンドルを左に切る。
「わ、わぁっ!?」
急旋回した軽トラの荷台でバランスを崩したスコールは、荷台の端にしがみついて何とか転落を免れる。
「くっ、このっ!」
走りやすい交易道から逸れ、たちまち砂に足を取られそうになる軽トラを必死で制御するバン。
ハンドルにしがみつくバンを尻目にアーマークローラーの群は驀進していく。
構造上、直進以外を苦手とするアーマークローラー達にとって、鼻先から逃れた小さな餌より大きな餌の塊であるキャラバン本隊の方が魅力的であるらしい。
「やっぱ、こっちには来ないか」
なんとか窮地を脱し停車した軽トラの中で、ハンドルに突っ伏して一息つくバン。
「ますたー、これから、どうするの?」
助手席の窓からひょっこりと横向きに顔を覗かせたスコールが問いかける。
装甲機生体の餌になる運命は回避できたが、このままタウン75へ向かっても仕事を放り出したという謗りは免れない。
バンは砂煙で汚れたフロントグラス越しにアーマークローラーの群を見上げた。
彼の瞳には未だ闘志の光が宿っている。
「もうちょい頑張ってみるとしようぜ」
身を起こし、窓から覗き込む相棒の頬を撫でながら思考を巡らせる。
「あのタイプの装甲機生体は、群を統率してる個体がいるって話だ。
そいつをぶっ壊せば、混乱して足が止まるらしい。
こないだ、ロスさんに教わったばかりだぜ」
バンは不敵に笑うとハンドルを握り直した。
「スコール、他の連中よりでかい個体だ。
そいつを探し出して潰すぞ!」
「うん!」
相棒の返事を聞きながら、バンはアクセルを一気に踏み込んだ。
アーマークローラーの統率個体は他の個体よりもふた回りは大きく、遠距離からでも簡単に識別できた。
「いたぞ! あいつだ!」
流れるアーマークローラーの川を遡る形で併走していたバンは、統率個体を確認するやUターン。
統率個体を真横に睨むポジションを取る。
「スコール! やっちまえ!」
「うんっ!」
荷台の上で重機関銃を構えたスコールは、統率個体に狙いを定めると掃射を開始した。
唸りのような銃声と共に火線が踊る。
「うっ、くっ……」
側面へ向けての射撃ゆえ、軽トラのキャビンを背もたれ代わりに使えない。
50口径の強烈な反動がスコールの小さな体を揺さぶる。
よりハイパワーな純戦闘用機体であれば易々と受け止めれる程度の反動だが、出力に乏しいスコールの腕力では抑え込む事ができない。
銃口は彼女の意図に反して激しくぶれ、狙いは甘い。
それでも数発の50口径弾が統率個体の表皮に着弾する。
しかし。
「きいてない?」
貧弱な装甲しか有していない並のアーマークローラーに50口径を叩き込めば、その部位は大きく陥没し内部まで重大な損傷を与えることができる。
だが、統率個体は戦車にも匹敵するような重装甲を纏っているようだ。
集弾の甘い重機関銃の弾幕は虚しく火花を散らすのみ。
銃撃を受けた統率個体は、攻撃者をセンサー波でスキャンした。
スコールは機体を舐めるように精査するセンサー波に一瞬身をすくめる。
だが、統率個体はそれ以上何もせず、変わらぬ疾走を続けた。
スコールの手持ち火器の情報を把握し、己を破壊し得ないと無視したのだ。
「あいつ……!」
センサー波を受けながら、それ以上のアクションがない事で統率個体の意図を読みとったスコールの眉が上がる。
馬鹿にされたと感じ、幼い美貌に怒りの色が浮かんだ。
同時に、彼女のCPUに想起されるのは、主の金魚鉢兄弟の新しい相棒の姿。
スコールの慕うねえさまと違って意地悪なあのメイデンは事ある毎にスコールの性能不足を言い立てる。
スコールだって自覚しているのだ、自分は彼女やキキョウねえさまの足下にも及ばない性能でしかないと。
それでも、主の為に役立ちたいと思うのは、幼いなりにメイデンとしての矜持であった。
「わたし、だって……」
スコールは重機関銃の射撃を止めると、武装アームからパージした。
陽炎が立ち上る重機関銃がごとりと荷台に転がる。
今からやる事に関しては、40キロもある機関銃は単なるデッドウェイトにしかならない。
「スコール、どうした?」
射撃が止まった事にバンがいぶかしげな声を上げる。
「Grr……がうっ!」
主の声に応えず、スコールは荷台を蹴って跳躍した。
「お、おい! スコール!?」
空中で装甲ブーツとガントレットに仕込まれた走行球を起動しつつ、群の端っこにいたアーマークローラーの背に四つん這いで着地する。
着地と同時に四機の走行球が全力回転、丸みを帯びて滑りやすいアーマークローラーの背中から再跳躍するだけの加速力を無理矢理生み出した。
「わぅっ!」
四つ足のまま、スコールは宙を飛ぶ。
アーマークローラーを飛び石代わりに踏みしめ、統率個体へと迫る。
近寄ってくる小さなメイデンに対し、統率個体は一切反応を示さない。
すでにセンサーによるサーチでこの小型機の火力では自分を破壊し得ない事は把握している。
ならば放置してよい。
統率個体といっても所詮は群体型の小型装甲機生体、判断力はこの程度のものであった。
火力不足の敵手が何を考えて肉薄してきたのか、想像する能力など備わっていない。
あと三度の跳躍で統率個体へ届くタイミングのジャンプで、スコールは勝負を仕掛けた。
跳躍と同時に装甲ブーツの臑と簡易コアユニットに一発ずつ装備されたスラスターを点火する。
スコールの低出力は推力面でも足を引っ張っており、キキョウのように飛翔するどころか、連続30秒の噴射で息切れしてしまう。
だが、そんなささやかな推力でも、この瞬間宙に舞ったスコール自身を矢のように打ち出す事はできる。
とっておきの全力噴射で空中を疾走しつつ、スコールは切り札を起動した。
「ぶれいく、くろー!」
振りかぶった右のガントレットに備わる二本の爪が高周波の唸りを発する。
ここに至って、統率個体は身じろぎした。
無力と見た敵が、強力な武器を隠し持っていた事にようやく気づいたのだ。
最早遅い。
「やぁーっ!」
スコール自身の体重と全力噴射の推進力も乗せた機械の爪を振り降ろす。
ブレイククローは高速振動系武器の中では変わり種の一品だ。
高速振動で鋸のように「挽き切る」のではなく、振動波の共振破砕で「砕き切る」武器である。
鉤爪が触れた点を中心としてアーマークローラーの装甲がぼこりと浮き上がり、次いで振り降ろしの勢いのままに引き裂かれていく。
クローの切れ味ではなく、共振破砕によって装甲の構造そのものがぐずぐずに破壊されてしまった結果である。
強固な装甲といえど、この一撃の前にはひとたまりもない。
瞬時に統率個体の前半分は抉りとられたかのように破砕される。
強烈な一撃は判断の遅いCPUをも破砕し、統率個体は機能停止した。
これほどに威力のある武器でありながらブレイククローが変わり種のポジションから抜け出せないのは、その破壊力の制御が難しい点にある。
振動波をまき散らしながら叩きつける武器であるため、大雑把な破壊しかできないのだ。
精密性に乏しく、武器というよりは単純な掘削作業に向いた装備である。
そしてもう一点、ブレイククローがあまり利用されない理由があった。
「うぅっ……」
小容量コンデンサに蓄えた、なけなしの備蓄電力までブレイククローに吸い取られ、スコールはクローを振り降ろした姿勢のまま砂地に膝を着いた。
電力不足で停止しかかった小さな機体の中で、安物のジェネレーターが必死で稼働している。
ブレイククローはメイデン用近接武器の中では最もエネルギー消費が激しい装備である。
スコールの場合、体内の電力のほとんどをつぎ込んで、ようやく一瞬だけ起動させる事ができる。
まさに切り札であった。
「スコール! 立て!」
マスターの切羽詰まった声が聴覚センサーに届き、電力不足のスコールは貧血を起こした人間のような緩慢な動作で顔を上げ、周囲を見回した。
統率個体が破壊され、アーマークローラーの群は無秩序な混乱状態に陥りつつある。
足を止める個体、でたらめに走り続けようとする個体など動作は様々だが、このまま座り込んでいては、おしくらまんじゅう状態で踏み潰されてしまう。
「んっ……しょ……」
スコールは自ら引き裂いた統率個体の残骸を手すり代わりになんとか立ち上がった。
混乱に陥り、互いにぶつかり合いながらてんでバラバラに動くアーマークローラー達を見て、その隙間をすり抜ける事は無理だと判断する。
「とべる、かな?」
不安を口にしつつ、乏しい出力を掻き集めてスラスターに回し、推力へと変換する。
スラスターが一瞬閃き、スコールの小さな体を跳ねさせた。
放物線を描く機体は、行きと同じくアーマークローラーの背を足場として着地する。
だが、整然と行軍をしていた先ほどとはアーマークローラーの動きが違う。
「あっ!?」
足場として踏みつけたアーマークローラーが唐突に急ブレーキを掛け、再跳躍しようとしたスコールの足が滑る。
このまま地面に落ちては、混乱したアーマークローラーの群に踏みつぶされてジャンク間違いなしだ。
「このっ!」
スコールは不安定な姿勢のままスラスターを噴射した。
ここで落ちる訳にはいかない、CPUへの電力供給すら滞る程のエネルギーを推力に回し、必死でスラスターを噴かす。
落下しかけた小さな機体が、突然見えない巨人に蹴り飛ばされたかのように飛ぶ。
スコールの体内の電力は最早からっぽ、低電力モードのCPUは落下点を演算する事すらできない。
だが、彼女の落ちる先には迎えが来ていた。
「スコール!」
バンの軽トラはアーマークローラーの群にぎりぎりまで近づいていた。
飛んでくるスコールが荷台ではなくキャビンにぶち当たると見て、とっさに運転席のドアを開ける。
「うぎゅ」
金髪を尾のようになびかせたスコールは、マスターとフロントグラスの隙間に飛び込み、助手席のドアにぶつかって停止した。
ひっくり返り、助手席の窓から片足をはみ出させたスコールを腕を伸ばして押さえつつ、バンはアクセルを踏み込んだ。
互いにぶつかり合い、団子のようになっているアーマークローラーの群から一目散に離脱する。
「ふぅ……お前、無茶するなぁ」
サイドミラーで遠ざかる装甲機生体たちを睨みながら、バンは呆れ声を出した。
「ん……しょ……」
ひっくり返っていたスコールは体勢を整えて助手席に座り直すと、マスターを見上げた。
「ああしないと、たおせなかった、よ?」
「うん、まあそりゃそうなんだが」
バンは軽トラを走らせながら片手を伸ばし、見上げるスコールの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「いきなりはやめてくれ、肝が冷えたぜ」
「ん……」
ちょっと不服そうに頬を膨らますスコールにバンは苦笑した。
「でもまあ、よくやったよ。 頑張ったな、スコール」
「うん!」
スコールは満面の笑みを浮かべると、頭を撫でる主の手を取り、自分の頬に擦りつけた。
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優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
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