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フリスに迫る敵メイデンは四体。
フレームサイズもバラバラなメイデン達はそれぞれ銃器ではなく、六尺棒のような金属製のロッドを手にしている。
飛び道具なしで挑む敵手に、フリスは内心嘲笑を送りながら、両腕のレーザークリスタルを向けた。
だが、フリスの発砲よりも早く、ディモンの次の仕掛けが発動した。
天井に設置された複数のスプリンクラーが同時に作動し、人工の驟雨を作り出す。
「なっ!?」
突然のシャワーに驚きつつも、フリスは先頭の敵メイデンにレーザーを放った。
確かにレーザーは気候の変動、特に雨天に弱い。
だが、この距離なら減衰しようとも十分な破壊力を維持できるはずだ。
しかし、フリスの予想はあっさりと裏切られた。
碧の閃光を撃ち込まれた敵メイデンは損傷を受けた様子も見せずにロッドで殴り掛かってきたのだ。
「くっ!」
バックステップでかわしつつ、降り注ぐ水滴の違和感に気付く。
妙にキラキラと光っている。
水の中に攪乱剤が混ぜられているのだ。
攪乱剤の正体は、反射率が高く軽量な金属粉。
レーザー光は水滴内で踊る金属粉に乱反射させられ、その収束率を極端に落としてしまっている。
これではまともな破壊力は発揮できない。
「このぉっ!」
レーザーが使えないなら、腕力で叩き伏せるまで。
見れば相手はBクラスかCクラスといった所。
ジェネレーター出力ではこちらが圧倒的に勝っている。
「せやっ!」
フリスの拳をロッドの中程で受け止めた敵メイデンは、衝撃でそのまま吹き飛ばされる。
追撃を行おうとするフリスを遮るように、二本のロッドがわずかな時間差を置いて突き出された。
「うっ!?」
絶妙なタイミングで繰り出されるロッドの先端にフリスはたたらを踏み、追撃を断念する。
殴り飛ばされた敵メイデンは、その隙に体勢を整えると僚機と共に波状攻撃へと移行した。
四本のロッドが交互に突き出し、振り回され、フリスを襲う。
「くうぅっ!」
フリスは両腕を盾にして防戦一方だ。
単純な速度、パワーではフリスに匹敵する敵メイデンはいない。
それなのにフリスは攻撃に転じる事ができない。
四体の連携が優れているからだ。
形式もフレームサイズも不揃いな癖に、巧みな動作で互いの隙を補ってロッドを振るいフリスを寄せ付けない。
フリスは主に指摘された言葉を痛感していた。
相手は自分たちの性能を使いこなしている。
スペックで大幅に上回るフリスを数と技量で圧倒しているのだ。
(ならば……!)
こちらはこちらで自分を使いこなすべく、持ち味を活かして戦うまで。
フリスは一番大柄なLフレームメイデンに狙いを定めた。
敵方の軸になっている機体だ。
速度に任せて突撃し、あの機体を掴まえて動かなくなるまでぶん殴る。
ロッドによる打撃のダメージはすぐさま動けなくなる程ではない、こちらが大きな損傷を受けるよりも早く敵の数を減らしていけば勝算はある。
脳筋そのものの戦法だが、今のフリスの手札ではこれしかない。
「てぇぇいっ!」
Lフレームが攻撃に移ったタイミングを狙って、スラスターを点火する。
急加速を開始したフリスにLフレームは一瞬狐目のようなカメラアイを見開くが、鋭く斜めからロッドを振り下ろした。
殴打される左肩のダメージを無視して、フリスはLフレームの襟首めがけて右手を伸ばした。
捕らえた、と思った瞬間。
フリスの視界は反転した。
「えっ!?」
襟首を捕まれそうになったLフレームはロッドを手放し、フリスの右腕に飛びついたのだ。
そのまま巻き込むように右肘の関節を固めながら諸共に転倒すれば腕挫ぎ十字固めが完成する。
「くぅっ!」
右腕にしがみつく敵メイデンを剥ぎ取ろうとするフリスの動きを他の三機は見逃さない。
僚機がフリスの腕を取ったと見るや、他三機も示し合わせたように四肢に飛びつき、それぞれに関節を極める。
「は、離しなさいっ!」
一機ずつには出力で勝っていても、四肢のそれぞれに全力でしがみつかれては振り解けない。
フリスは完全に拘束されてしまった。
降り注ぐ攪乱剤入りのシャワーが止まないまま、奥の扉が再度開く。
シャワー避けにポンチョのフードを被ったディモンが姿を現した。
「いやあ、思い通りに事が進むと気持ちいいもんだねぇ。
なぁフリスちゃんよぉ」
ディモンは頬のこけた不健康な顔に、ニタリといやらしい笑いを浮かべた。
臓物をまき散らして散らばった少年を一瞥すると、『盾』は身を翻した。
流石にここまでやれば生死を確認するまでもない。
これでまた少し、本来の主の元へ帰れる日が近づいた。
主に背負わされた借金の形として『盾』はディモンへ仕えさせられている。
敵を倒したり、ディモンと性行為を行ったりする度に主の借金が少しずつ減額されていくのだ。
『盾』は階上の支援の為、階段へと歩み出す。
上には同じ境遇の僚機達がいるが、相手はAクラスメイデンだ。
後詰めに控えておけば、その分借金への査定にプラスが入るかも知れない。
少しでも早く主の元へ戻るため、何でもしなくては。
主の笑顔を思い出し、『盾』は頬を緩ませた。
その聴覚センサーに床を蹴る音が響く。
素早く振り返った『盾』の額に高速振動ナイフが突き立った。
「がっ!?」
加害者は、内臓をぶちまけ真っ二つになったはずの少年。
いや、今は上下に分断されていない。
少年の腹腔が有るべき空間は丸々空いていたが、辛うじて背骨一本で繋がっていた。
「あぁぁぁぁっ!」
少年は絶叫と共に高速振動ナイフを押し込む。
「あっ、がっ……!?」
目隠し型バイザーが刃に触れて破損し、『盾』の顔から落ちる。
剥き出しになった紫の瞳がぐるんと裏返り、『盾』は額から火花を散らしながら動きを止めた。
「はっ……はぁっ……
し、神経繋がってりゃ、動くんだな、体……」
荒い息のフィオは薄ら寒そうな顔でスカスカの腹を見下ろして呟いた。
背骨を中心に見る間に肉と内臓が再構成されつつある。
最早治癒どころか、再生だ。
「頭に食らったらどうなるかも実地で試せちまったし、ほんとどうなってんだろ、僕の体……」
己の肉体のでたらめさに呆れ返ったような呟きを漏らすフィオだったが、その顔色が急激に悪くなっていく。
「や、やばい、カロリーが足らない……っ!」
再生の為、手足の皮下脂肪を使いきったフィオは、猛烈な飢餓感に苛まれつつ周囲を見回した。
「くそっ、腹吹っ飛ばされても死なないのに、飢え死にはするのかよっ!」
切羽詰まりつつも情けない言葉を漏らすフィオの視界に、散らばったレトルトパックが映る。
先ほど突っ込んだコンテナの中身だ。
「食い物……!」
フィオはパックを拾い上げると、端に噛みつき引き千切った。
「はっはぁ! いい格好だなぁ、フリスぅ!」
四体のメイデンにしがみつかれ、手足を大の字に広げる形で拘束されたフリスを見下ろし、ディモンは高らかに笑う。
「このっ! 離しなさいっ!」
フリスはディモンを睨みながら、必死で四肢を動かそうとする。
大出力に弾き飛ばされまいと、四体のメイデンはそれぞれフリスの四肢を一本ずつ全力で押さえつけた。
四体掛かりで辛うじて拘束している有様に、ディモンは感心したように口笛を吹く。
「ひゅーっ! すげえパワーだ! ジェネレーターがでけえだけの事はある!」
ディモンはニヤつきながら、ボディスーツに包まれたフリスの乳房を鷲掴みにする。
「触るなぁっ!」
「んんーっ、いい揉み心地ぃ!」
「そこを触っていいのはわたしのマスターだけっ!
下郎が触るなっ!」
「はっ、言ってくれるねぇ!
ならさっさとマスター登録してやろうかっ!」
ディモンは両足にしがみつくメイデン達によって大きく広げられたフリスの股間へ手を伸ばした。
秘所を覆うスーツをめくると、密集した翠のアンダーヘアが現れる。
「うおっ、こりゃまたマニアックな!」
「見るなっ! めくるなぁっ!」
「しかもドロドロこぼしやがって、お前、寸前までヤってやがったな?
このドスケベメイデンめ」
「ぐっ……!」
秘唇から主の寵愛の証が溢れる様まで目の当たりにされ、フリスは恥辱と怒りに顔を紅潮させた。
「まあいいさ、小僧の精液掻き出して俺のザーメンで上書きしてやらぁ!」
ディモンはベルトを緩めると、逸物をボロンと取り出した。
「ひっ……!?」
少年らしさを残した主の物とは違う、ドス黒く節くれ立ったグロテスクな逸物を突きつけられ、フリスは顔をひきつらせた。
「いっ、いやっ!? そんな物出さないでっ!」
「そんな物たぁご挨拶だな! すぐにこいつの味を覚え込ませてやるぜ!
おう、お前ら! しっかり押さえとけよぉ!」
「やだぁぁっ!? マスターっ! マスターっ!」
メイデン達に拘束されたフリスは涙目で必死にもがく。
身動きできないフリスの秘唇に、ニヤつくディモンの逸物が押し当てられた時。
銃声というには大きすぎる轟音が響いた。
「なっ……あぁぁっ!?」
同時にディモンの左腕が肩口から弾け飛ぶ。
あまりの衝撃に半回転して転倒するディモンは、自分が出てきたドアにあり得ない人影を認め、目を見開いた。
「頭を狙ったんだけど……。
扱いにくい銃だなあ」
乙女殺しを右手にぶら下げ、どこか暢気にも聞こえる優しげな声音の少年。
身につけたシャツは何故か胸の下から千切れており、薄い腹回りが露出している。
「マスターっ!」
階下に配置した『盾』に始末されているはずのフリスの主、フィオだ。
フィオは左手に持っていた齧りかけのレトルトハンバーグのパックを握り潰してミートソース状にすると、一息に呷った。
頬を一杯に膨らませて咀嚼しつつパックを投げ捨て、乙女殺しの反動で外れた右肩を空いた左手で無理矢理はめ込んだ。
メイデン達に押さえつけられた相棒と、下半身丸出しで転がるチンピラ、降り注ぐ奇妙な雨粒。
ひと目で状況を把握すると口内の咀嚼物を呑み下し、フリスに指示を出す。
「フリス! 接射なら減衰しない!」
「!」
主の言葉を理解したフリスは、両膝のクリスタルからレーザーを撃ち放つ。
少年の声に両足を掴んだメイデン達も離脱しようとするが、全身でしがみついていただけに反応が遅れる。
二条の閃光がそれぞれのメイデンの胴中を撃ち抜き、ジェネレーターを損壊させた。
動力源を破壊されパワーダウンした足の二体を蹴り飛ばしつつ、両腕に力を込める。
右腕を捉えていたLフレームメイデンはあっさりと弾き飛ばされた。
見れば、その右腕がない。
フィオの放った乙女殺しの弾丸は、ディモンの腕程度の障害物では全くエネルギーを減衰させず、その向こうのメイデンにも損傷を与えていたのだ。
少しずれればフリスに当たる所であった。
残った左腕のメイデンは、他の僚機がすべて排除されたのを見て自ら拘束を解くと、転がったディモンを抱えて素早く飛び退いた。
「ぐっ……、しくじりやがったな『盾』ぇ!」
メイデンに横抱きにされたディモンは、左脇の止血点を押さえながら吐き捨てる。
只でさえ血色の悪い顔が失血のため蒼白になっていた。
フリスを助け起こすフィオを睨み、自らを抱えるメイデンに命じる。
「ずらかるぞっ!」
執着心は強い癖に、この危険に対しての切り替えの早さがディモンを生き延びさせてきた武器だ。
「逃がすと思ってるのかい?」
降り止まない水滴の中、フィオは乙女殺しを構える。
大きすぎる銃の反動を受け持つため、フリスが主の腕に手を添えていた。
「そっちが売ってきた喧嘩だ。
きちんとケリは付けさせてもらうよ。
大人しく投降して警邏隊に突き出されるか、20ミリで吹っ飛ぶか、どっちがいい?」
「ちぃ……」
ディモンは苛立たしげに頬を歪めた。
あんなガキにとっ捕まったりしたとあっては、彼の看板に傷が付く。
今後の商売あがったりだ。
「……どっちも御免だね!」
ディモンの叫びと共に、彼を抱えたメイデンが装甲ブーツのスラスターを吹かす。
「そうかいっ!」
乙女殺しの重い引き金を絞ろうとした時、フィオが現れた扉から新たな人影が飛び出してくる。
額の破損孔から火花を散らした『盾』だ。
「くっ!?」
とっさに高速振動ナイフを振りかざす『盾』へ目標を変更すると、発砲する。
本来、彼女の持ち物であった乙女殺しの20ミリ弾は、半壊した頭部へ吸い込まれ、破砕した。
主を自由の身にする。
それだけを想って無理矢理再起動を果たしたCPUは砕けたシリコンチップの残骸となり、バラバラと飛び散った。
「マスター! あいつが!」
「ちっ……」
ディモンはすでに姿を消している。
倉庫の壁の一部に仕込んだ隠し扉に逃げ込んだのだ。
「あんな仕掛けまで……。
まったく手の込んだアジトだよ」
フィオは呆れたように呟くと、乙女殺しを下ろした。
「マスター」
「ん?」
フリスの視線の先には、唯一残ったLフレームメイデンがこそこそとした匍匐前進で逃亡しようとしている。
フィオは乙女殺しのボルトを引くと、銃口を向けた。
「降参っ! 降参っ!」
その場で動きを止めたLフレームメイデンは、残った左腕をあげると、切羽詰まった叫びをあげた。
フレームサイズもバラバラなメイデン達はそれぞれ銃器ではなく、六尺棒のような金属製のロッドを手にしている。
飛び道具なしで挑む敵手に、フリスは内心嘲笑を送りながら、両腕のレーザークリスタルを向けた。
だが、フリスの発砲よりも早く、ディモンの次の仕掛けが発動した。
天井に設置された複数のスプリンクラーが同時に作動し、人工の驟雨を作り出す。
「なっ!?」
突然のシャワーに驚きつつも、フリスは先頭の敵メイデンにレーザーを放った。
確かにレーザーは気候の変動、特に雨天に弱い。
だが、この距離なら減衰しようとも十分な破壊力を維持できるはずだ。
しかし、フリスの予想はあっさりと裏切られた。
碧の閃光を撃ち込まれた敵メイデンは損傷を受けた様子も見せずにロッドで殴り掛かってきたのだ。
「くっ!」
バックステップでかわしつつ、降り注ぐ水滴の違和感に気付く。
妙にキラキラと光っている。
水の中に攪乱剤が混ぜられているのだ。
攪乱剤の正体は、反射率が高く軽量な金属粉。
レーザー光は水滴内で踊る金属粉に乱反射させられ、その収束率を極端に落としてしまっている。
これではまともな破壊力は発揮できない。
「このぉっ!」
レーザーが使えないなら、腕力で叩き伏せるまで。
見れば相手はBクラスかCクラスといった所。
ジェネレーター出力ではこちらが圧倒的に勝っている。
「せやっ!」
フリスの拳をロッドの中程で受け止めた敵メイデンは、衝撃でそのまま吹き飛ばされる。
追撃を行おうとするフリスを遮るように、二本のロッドがわずかな時間差を置いて突き出された。
「うっ!?」
絶妙なタイミングで繰り出されるロッドの先端にフリスはたたらを踏み、追撃を断念する。
殴り飛ばされた敵メイデンは、その隙に体勢を整えると僚機と共に波状攻撃へと移行した。
四本のロッドが交互に突き出し、振り回され、フリスを襲う。
「くうぅっ!」
フリスは両腕を盾にして防戦一方だ。
単純な速度、パワーではフリスに匹敵する敵メイデンはいない。
それなのにフリスは攻撃に転じる事ができない。
四体の連携が優れているからだ。
形式もフレームサイズも不揃いな癖に、巧みな動作で互いの隙を補ってロッドを振るいフリスを寄せ付けない。
フリスは主に指摘された言葉を痛感していた。
相手は自分たちの性能を使いこなしている。
スペックで大幅に上回るフリスを数と技量で圧倒しているのだ。
(ならば……!)
こちらはこちらで自分を使いこなすべく、持ち味を活かして戦うまで。
フリスは一番大柄なLフレームメイデンに狙いを定めた。
敵方の軸になっている機体だ。
速度に任せて突撃し、あの機体を掴まえて動かなくなるまでぶん殴る。
ロッドによる打撃のダメージはすぐさま動けなくなる程ではない、こちらが大きな損傷を受けるよりも早く敵の数を減らしていけば勝算はある。
脳筋そのものの戦法だが、今のフリスの手札ではこれしかない。
「てぇぇいっ!」
Lフレームが攻撃に移ったタイミングを狙って、スラスターを点火する。
急加速を開始したフリスにLフレームは一瞬狐目のようなカメラアイを見開くが、鋭く斜めからロッドを振り下ろした。
殴打される左肩のダメージを無視して、フリスはLフレームの襟首めがけて右手を伸ばした。
捕らえた、と思った瞬間。
フリスの視界は反転した。
「えっ!?」
襟首を捕まれそうになったLフレームはロッドを手放し、フリスの右腕に飛びついたのだ。
そのまま巻き込むように右肘の関節を固めながら諸共に転倒すれば腕挫ぎ十字固めが完成する。
「くぅっ!」
右腕にしがみつく敵メイデンを剥ぎ取ろうとするフリスの動きを他の三機は見逃さない。
僚機がフリスの腕を取ったと見るや、他三機も示し合わせたように四肢に飛びつき、それぞれに関節を極める。
「は、離しなさいっ!」
一機ずつには出力で勝っていても、四肢のそれぞれに全力でしがみつかれては振り解けない。
フリスは完全に拘束されてしまった。
降り注ぐ攪乱剤入りのシャワーが止まないまま、奥の扉が再度開く。
シャワー避けにポンチョのフードを被ったディモンが姿を現した。
「いやあ、思い通りに事が進むと気持ちいいもんだねぇ。
なぁフリスちゃんよぉ」
ディモンは頬のこけた不健康な顔に、ニタリといやらしい笑いを浮かべた。
臓物をまき散らして散らばった少年を一瞥すると、『盾』は身を翻した。
流石にここまでやれば生死を確認するまでもない。
これでまた少し、本来の主の元へ帰れる日が近づいた。
主に背負わされた借金の形として『盾』はディモンへ仕えさせられている。
敵を倒したり、ディモンと性行為を行ったりする度に主の借金が少しずつ減額されていくのだ。
『盾』は階上の支援の為、階段へと歩み出す。
上には同じ境遇の僚機達がいるが、相手はAクラスメイデンだ。
後詰めに控えておけば、その分借金への査定にプラスが入るかも知れない。
少しでも早く主の元へ戻るため、何でもしなくては。
主の笑顔を思い出し、『盾』は頬を緩ませた。
その聴覚センサーに床を蹴る音が響く。
素早く振り返った『盾』の額に高速振動ナイフが突き立った。
「がっ!?」
加害者は、内臓をぶちまけ真っ二つになったはずの少年。
いや、今は上下に分断されていない。
少年の腹腔が有るべき空間は丸々空いていたが、辛うじて背骨一本で繋がっていた。
「あぁぁぁぁっ!」
少年は絶叫と共に高速振動ナイフを押し込む。
「あっ、がっ……!?」
目隠し型バイザーが刃に触れて破損し、『盾』の顔から落ちる。
剥き出しになった紫の瞳がぐるんと裏返り、『盾』は額から火花を散らしながら動きを止めた。
「はっ……はぁっ……
し、神経繋がってりゃ、動くんだな、体……」
荒い息のフィオは薄ら寒そうな顔でスカスカの腹を見下ろして呟いた。
背骨を中心に見る間に肉と内臓が再構成されつつある。
最早治癒どころか、再生だ。
「頭に食らったらどうなるかも実地で試せちまったし、ほんとどうなってんだろ、僕の体……」
己の肉体のでたらめさに呆れ返ったような呟きを漏らすフィオだったが、その顔色が急激に悪くなっていく。
「や、やばい、カロリーが足らない……っ!」
再生の為、手足の皮下脂肪を使いきったフィオは、猛烈な飢餓感に苛まれつつ周囲を見回した。
「くそっ、腹吹っ飛ばされても死なないのに、飢え死にはするのかよっ!」
切羽詰まりつつも情けない言葉を漏らすフィオの視界に、散らばったレトルトパックが映る。
先ほど突っ込んだコンテナの中身だ。
「食い物……!」
フィオはパックを拾い上げると、端に噛みつき引き千切った。
「はっはぁ! いい格好だなぁ、フリスぅ!」
四体のメイデンにしがみつかれ、手足を大の字に広げる形で拘束されたフリスを見下ろし、ディモンは高らかに笑う。
「このっ! 離しなさいっ!」
フリスはディモンを睨みながら、必死で四肢を動かそうとする。
大出力に弾き飛ばされまいと、四体のメイデンはそれぞれフリスの四肢を一本ずつ全力で押さえつけた。
四体掛かりで辛うじて拘束している有様に、ディモンは感心したように口笛を吹く。
「ひゅーっ! すげえパワーだ! ジェネレーターがでけえだけの事はある!」
ディモンはニヤつきながら、ボディスーツに包まれたフリスの乳房を鷲掴みにする。
「触るなぁっ!」
「んんーっ、いい揉み心地ぃ!」
「そこを触っていいのはわたしのマスターだけっ!
下郎が触るなっ!」
「はっ、言ってくれるねぇ!
ならさっさとマスター登録してやろうかっ!」
ディモンは両足にしがみつくメイデン達によって大きく広げられたフリスの股間へ手を伸ばした。
秘所を覆うスーツをめくると、密集した翠のアンダーヘアが現れる。
「うおっ、こりゃまたマニアックな!」
「見るなっ! めくるなぁっ!」
「しかもドロドロこぼしやがって、お前、寸前までヤってやがったな?
このドスケベメイデンめ」
「ぐっ……!」
秘唇から主の寵愛の証が溢れる様まで目の当たりにされ、フリスは恥辱と怒りに顔を紅潮させた。
「まあいいさ、小僧の精液掻き出して俺のザーメンで上書きしてやらぁ!」
ディモンはベルトを緩めると、逸物をボロンと取り出した。
「ひっ……!?」
少年らしさを残した主の物とは違う、ドス黒く節くれ立ったグロテスクな逸物を突きつけられ、フリスは顔をひきつらせた。
「いっ、いやっ!? そんな物出さないでっ!」
「そんな物たぁご挨拶だな! すぐにこいつの味を覚え込ませてやるぜ!
おう、お前ら! しっかり押さえとけよぉ!」
「やだぁぁっ!? マスターっ! マスターっ!」
メイデン達に拘束されたフリスは涙目で必死にもがく。
身動きできないフリスの秘唇に、ニヤつくディモンの逸物が押し当てられた時。
銃声というには大きすぎる轟音が響いた。
「なっ……あぁぁっ!?」
同時にディモンの左腕が肩口から弾け飛ぶ。
あまりの衝撃に半回転して転倒するディモンは、自分が出てきたドアにあり得ない人影を認め、目を見開いた。
「頭を狙ったんだけど……。
扱いにくい銃だなあ」
乙女殺しを右手にぶら下げ、どこか暢気にも聞こえる優しげな声音の少年。
身につけたシャツは何故か胸の下から千切れており、薄い腹回りが露出している。
「マスターっ!」
階下に配置した『盾』に始末されているはずのフリスの主、フィオだ。
フィオは左手に持っていた齧りかけのレトルトハンバーグのパックを握り潰してミートソース状にすると、一息に呷った。
頬を一杯に膨らませて咀嚼しつつパックを投げ捨て、乙女殺しの反動で外れた右肩を空いた左手で無理矢理はめ込んだ。
メイデン達に押さえつけられた相棒と、下半身丸出しで転がるチンピラ、降り注ぐ奇妙な雨粒。
ひと目で状況を把握すると口内の咀嚼物を呑み下し、フリスに指示を出す。
「フリス! 接射なら減衰しない!」
「!」
主の言葉を理解したフリスは、両膝のクリスタルからレーザーを撃ち放つ。
少年の声に両足を掴んだメイデン達も離脱しようとするが、全身でしがみついていただけに反応が遅れる。
二条の閃光がそれぞれのメイデンの胴中を撃ち抜き、ジェネレーターを損壊させた。
動力源を破壊されパワーダウンした足の二体を蹴り飛ばしつつ、両腕に力を込める。
右腕を捉えていたLフレームメイデンはあっさりと弾き飛ばされた。
見れば、その右腕がない。
フィオの放った乙女殺しの弾丸は、ディモンの腕程度の障害物では全くエネルギーを減衰させず、その向こうのメイデンにも損傷を与えていたのだ。
少しずれればフリスに当たる所であった。
残った左腕のメイデンは、他の僚機がすべて排除されたのを見て自ら拘束を解くと、転がったディモンを抱えて素早く飛び退いた。
「ぐっ……、しくじりやがったな『盾』ぇ!」
メイデンに横抱きにされたディモンは、左脇の止血点を押さえながら吐き捨てる。
只でさえ血色の悪い顔が失血のため蒼白になっていた。
フリスを助け起こすフィオを睨み、自らを抱えるメイデンに命じる。
「ずらかるぞっ!」
執着心は強い癖に、この危険に対しての切り替えの早さがディモンを生き延びさせてきた武器だ。
「逃がすと思ってるのかい?」
降り止まない水滴の中、フィオは乙女殺しを構える。
大きすぎる銃の反動を受け持つため、フリスが主の腕に手を添えていた。
「そっちが売ってきた喧嘩だ。
きちんとケリは付けさせてもらうよ。
大人しく投降して警邏隊に突き出されるか、20ミリで吹っ飛ぶか、どっちがいい?」
「ちぃ……」
ディモンは苛立たしげに頬を歪めた。
あんなガキにとっ捕まったりしたとあっては、彼の看板に傷が付く。
今後の商売あがったりだ。
「……どっちも御免だね!」
ディモンの叫びと共に、彼を抱えたメイデンが装甲ブーツのスラスターを吹かす。
「そうかいっ!」
乙女殺しの重い引き金を絞ろうとした時、フィオが現れた扉から新たな人影が飛び出してくる。
額の破損孔から火花を散らした『盾』だ。
「くっ!?」
とっさに高速振動ナイフを振りかざす『盾』へ目標を変更すると、発砲する。
本来、彼女の持ち物であった乙女殺しの20ミリ弾は、半壊した頭部へ吸い込まれ、破砕した。
主を自由の身にする。
それだけを想って無理矢理再起動を果たしたCPUは砕けたシリコンチップの残骸となり、バラバラと飛び散った。
「マスター! あいつが!」
「ちっ……」
ディモンはすでに姿を消している。
倉庫の壁の一部に仕込んだ隠し扉に逃げ込んだのだ。
「あんな仕掛けまで……。
まったく手の込んだアジトだよ」
フィオは呆れたように呟くと、乙女殺しを下ろした。
「マスター」
「ん?」
フリスの視線の先には、唯一残ったLフレームメイデンがこそこそとした匍匐前進で逃亡しようとしている。
フィオは乙女殺しのボルトを引くと、銃口を向けた。
「降参っ! 降参っ!」
その場で動きを止めたLフレームメイデンは、残った左腕をあげると、切羽詰まった叫びをあげた。
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大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
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