機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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「どうします、これ」

 フリスは床に這い蹲ったまま、残った左手を挙げて降参の意を全身で示しているLフレームメイデンを見下ろした。
 先ほど僚機達と共にロッドを振るってフリスを追いつめた迫力は微塵も残っていない。

「うーん……」

 余りにも全力の降伏姿勢に、思わずフィオも毒気を抜かれてしまっていた。

「降参、ね。 降伏しますから、どうか、ね」

「でも、君、あのディモンって奴のメイデンだろ。
 勝手に降伏したりして、主人に裏切ったって思われてもいいのかい」

「あいつ、私のマスターじゃありません、ね」

「マスターじゃない? それじゃ何であいつの命令聞いてたの?」

 Lフレームメイデンは土下座体勢のまま、恐る恐る顔を上げた。
 メイデンの常で整った容貌だが、長い黒髪とタウン48製の機体には余りいない糸のように細まった瞳が印象的だ。

「私のマスター、あいつに填められました。
 借金、たくさん。
 私、借金の形にあいつに貸し出されました、ね」

「……それじゃ、なおさら裏切ったら拙いんじゃないかい?
 君が裏切ったら、君のマスターに危害が及ぶんじゃないの?」

 フィオの言葉に、フリスは無言で右腕をメイデンに向けた。
 翠に輝くレーザークリスタルで狙いを付けられたメイデンはわたわたと左手を振る。

「待って、待って!
 マスター、もう、居ないの!
 あいつに殺された、ね!」

 メイデンは細い目尻を下げ、悲しげに顔を歪める。

「私と同じ境遇の子達のマスターも、多分、一緒。
 危ない仕事で使い捨てられて、死んだって。
 ディモンの手下が、笑いながら話してた、ね」

 メイデンの言葉に、同じくメイデンであるフリスは首を傾げた。

「主が居なくなったのに、何故あいつに従っていたのですか?」

「行き場、なかったから」

 あまりにもシンプルな返答にフリスは眉をひそめる。

「そもそも、主の仇を討とうという気はないのですか?」

「勝算なかったね。
 私一人が反抗しても、他の子達に袋叩きにされるだけ」

「他の子にマスター達の事を伝えて、味方になってもらえなかったの?」

 メイデンはふるふると首を振った。

「他の子はきっと信じてくれないか、信じたらストレスでおかしくなるから。
 特にあの子なんか、マスターに依存しきってた、ね」

 メイデンは身を起こすと、頭部を破壊されて転がった『盾』の機体を指さした。

「私たちに魂とかあるのか知らないけど、天国でマスターと一緒になれるといい、ね」

 メイデンは『盾』の残骸へ残った左手を向け、ナムナムと呟いた。

「まあ、わたしもマスターにもしもの事があれば発狂する自信がありますが……」

「いや、そんな事、胸張って言わないでよ」

 ちょっと引いている主の言葉を聞き流しつつ、フリスは追求する。

「逆説的に言うと、貴女はマスターへの忠義が薄かったと受け取れるのですけど?」

「私のマスター、全然私の忠告聞いてくれなかったね。
 ギャンブル弱いくせに生活費まで突っ込むのはやめろって、ずっと言ってたのに……」

「……僕もフリスに愛想を尽かされないようにしよう」

「あり得ませんから、大丈夫です!」

 ふんすと鼻息荒く豊かな胸を張る相棒に苦笑すると、フィオはメイデンに手を差し伸べた。

「わかった、妙な事をしなければ壊さないよ。
 とりあえずは捕虜という扱いで、後の事は僕の友達を助けてから考えよう」

「はい、お手数おかけします、ね」

 片腕のメイデンはフィオに手を貸されて立ち上がった。

「そうだ、君の名前は?」

「イェンファ、いいます。
 タウン417製造のCクラス戦闘メイデン、ね」




「痛ぇっ!フリスちゃん、沁みるって!」

「もう、じっとしてください。 消毒液が塗れません」

 フリスは悲鳴を上げるルースの頭を鷲掴みにして固定すると、腫れ上がった顔面にオキシドールを染み込ませた脱脂綿を押しつけた。
 断末魔じみた絶叫があがり、傍で見ていたフィオは思わず首をすくめる。

 ディモンが逃亡した倉庫に、最早障害はなかった。
 フィオは司令室に転がされていたルース達を救出すると、手早く撤退した。
 破壊したメイデンの残骸の回収に色気を出すよりも、友人達を安全圏へ離脱させる事を優先したのだ。

 クローズの札を出した満腹食堂はようやく店員一同を取り戻していた。

 だが、万事平穏という訳にもいかない。

 汚され、シャットダウンしたサクラを抱えた店主は、自分の傷の手当てよりも伴侶の洗浄を優先した。
 シャワーで陵辱の痕を洗い流したサクラをバスタオルで包むと、二階の自室へ運ぶ。
 ベッドにサクラを横たわらせると、店主は床に膝を着いて清楚に整った顔を覗きこんだ。

 サクラはまだ再起動できていない。
 民生用として平穏な生活を送ってきたサクラにとって、強烈な衝撃によるシャットダウンは初めての経験である。
 サクラのCPUがあまり高性能とはいえない事も、再起動に手間取る要因のひとつであった。
 そもそも、シャットダウンからほいほい再起動できるメイデンの方が珍しいのだが。

「親父っさん! 怪我の手当しましょうよ!」

「ああ、すぐ行く」

 階下からのルースの声に応え、店主はサクラの頭を撫でると立ち上がった。






「後はそいつの処遇か」

 ルース同様にフリスの手当を受けながら、店主はじろりとイェンファを睨んだ。
 店内の隅っこに正座したイェンファは好意的とは言えない目付きを向けられ、びくりと首をすくめる。

「親父さん、そう睨まないでやってよ。
 彼女にも事情はあったんだし」
 
「判ってるけどな……」

 彼女が襲撃者の手下であった事に変わりはない。
 イェンファ自身が行った事ではなくとも、伴侶を暴行された店主が不快感を覚えるのは仕方のない話であった。

「まあ、フィオが引き取るのが順当じゃねえのか?」

「要りません」

 店主の手当を行いながら、フリスは主より先に即答した。

「い、いや、フィオの仕事ならいくらでも戦力が」

「要・り・ま・せ・ん!」

 フリスはオキシドールを染み込ませた脱脂綿をグリグリと店主の傷口に擦りつけながら、断言した。

「うん、まあ、僕はいいよ」

 苦悶に顔を歪める店主を気の毒そうに見ながら、フィオはフリスに同意した。 
 フィオはフリスに負い目を感じている。
 彼女の同意を得ず、二人目のメイデンとして娶ってしまった事についてだ。
 戦力はあるに越したことはないが、フリスへの不義理をこれ以上働くわけにはいかないと肝に銘じていた。

「僕が引き取るよりも、この店に置いといた方がいいんじゃないかな、用心棒として。
 普段はサクラちゃんと一緒にウェイトレスさせてさ」

 ふむ、と店主も頷く。
 Cクラスとはいえ戦闘メイデンがいれば、店内で起こりうる大抵の厄介事を片づけられるだろう。

「……俺はサクラ以外のメイデンを娶る気はない。
 ルース、お前が引き取れ」

「え、えぇっ!?」
 
 指名を受けたルースは仰天した。
 イェンファは正座のまま膝だけでルースの前まで滑り、唯一残った左手で彼の手を取る。

「お願いします、ね。
 どうか私のマスターに」

「い、いや、俺でいいのかよ」

「はい、もう危ない事ばかりする主に振り回されるのはたくさん、ね」

「俺だって危ない事するかも知れないぞ」

「食堂の店員さんが、ですか?」

 ルースは言葉に詰まった。
 実際、ルースは金魚鉢兄弟バースブラザー達とは違って、自ら危険に飛び込むタイプではない。
 その点、戦闘メイデンでありながら平穏な生活を望むイェンファとは相性がいいと言える。

 ルースが躊躇したのは何度か通った娼館クラウディハーツのチグサの事が頭をよぎったからだ。
 金が貯まったら、彼女を身請けする。 
 寝物語にそういう話をしていた。

「ルースさん」

 イェンファは手に取ったルースの腕をぎゅっと抱きしめた。
 店主の治療を続けながら様子を窺っているフリスに比べると、数段小さいがそれでもしっかりとした柔らかさに頬が緩む。
 細い瞳を潤ませて切なげに哀願する様は、薄幸の佳人といった風情だ。

 チグサの事は本気だ。 金を貯めたら彼女を迎えに行く。
 だから、これは別件であって、別にチグサを裏切った訳ではないのだ。 多分。

 こうしてルースはあっさりと陥落した。





 

 片腕を失い、メイデンに担がれてアジトに転がり込んだディモンには一息吐く余裕もなかった。
 寝室のメイデン達に傷の手当てをさせているディモンに、手下の一人が恐る恐る封書を差し出したのだ。

「あぁ? デッドマンの旦那からだぁ?」

 無駄に凝った手書きのメッセージは彼の上役たる初老の男の趣味だ。
 古風な蝋の封印などが施されているが、残念ながら受け取り側にはそれをありがたがるような教養もない。
 無造作に封筒を破って中身を取り出し、目を走らせる。
 思わず舌打ちが漏れた。

「一足遅ぇぜ、旦那ぁ……」

 書面は砂潜りの少年フィオに対する調査依頼であった。
 実質的には命令であるが、ディモンも一組織のトップであるので依頼という体裁を取っている。
 そして、その中にはアーミーの息が掛かっている可能性があるので慎重にという注意書きがあった。

「思いっ切り喧嘩売っちまったってーの……」

 しかもこっちの惨敗である。
 ディモンは断面に医療用ジェルを塗り付けて応急処置を行った左腕を苛立たしげに見下ろし、舌を打つ。

 だが、彼の災難はまだ終わりではない。

 突如、ズンと腹に響くような振動がディモンの寝室にまで届いた。

「地震、ですかね?」

 封書を持ってきた男が天井を見上げ、暢気に呟く。
 ディモンはさらに苛立たしげに舌打ちして、ベッド脇のインターフォンに飛びついた。
 彼はこの類の振動を知っている。
 爆発だ。

 インターフォンの受話器を右肩と右頬で挟み、階上の見張りのナンバーを叩く。
 数コールで繋がった。

「今の音は何だ! 爆弾か!?」

 ディモンの怒鳴り声に、インターフォンの向こうから落ち着き払った声が応える。

「いいや、ロケット弾だ」

「……誰だ、手前」

 ディモンに対して、こんな口の利き方をする部下はいない。

「アーミー所属、マイザー。
 ディモンだな? 君に対して逮捕令状が出ている。
 大人しく投降したまえ」

「ざっけるな、くそ野郎!」

 ディモンは受話器を本体に叩きつけて電話を切る。

「くそっ、くそっ、マジでアーミーが出張ってきやがった!
 なんて厄ネタだ、あのガキ!」

 残った右腕でガリガリと頭をかきむしりながら喚くと、ディモンは頭を切り替え室内のメイデン達に命令を下した。

「お前ら、迎撃だ! 上にあがれ!
 あと、お前は俺と一緒に来い! 護衛だ!」

 倉庫から自分を担いで脱出したメイデンに護衛を命じ、他の機体は迎撃に出す。
 だが、アーミー相手では些細な時間稼ぎしかできまい。
 ここにいるメイデン達の多くは純戦闘用ではない。

 倉庫の仕掛けに戦闘力の高いメイデンを割り振った挙げ句、破壊されてしまったのは痛かった。

「こういう時にこそ『盾』の奴が役に立つのによぉ」

 ディモンの手持ちで最も戦闘力が高かったのが『盾』だ。
 出力など機体スペックは並だが、蓄積された経験値に裏打ちされた高い技量を備えていたのだ。
 この窮地からの脱出には最適な護衛だったのに。

「……そういや、あいつの元の名前、なんだったかな」

 『盾』はディモンがつけた符丁コードネームだ。
 本来の名ではなくコードネームで呼ぶ事で、主以外に仕えているというストレスを緩和させる狙いがある。
 一瞬、破壊されたメイデンへと思いを馳せたディモンであったが、新たに響いた爆発音が彼の思考を打ち切らせた。

「くそっ、バカスカ撃ちまくりやがって!
 どんなトリガーハッピーだよ!」

 悪態を吐きながら、下水道と直結した脱出口へと走る。
 それきり、彼が『盾』の事を思い出すことはなかった。





 
 ディモンの倉庫は主が逃走し、満腹食堂の一同をフィオが救出した後は、そのまま打ち捨てられていた。
 停止命令が出されていないスプリンクラーは貯水タンクの限りに水を撒き続けており、人工の雨粒が破壊された三体のメイデンに降り注いでいる。 
 時折、生き残った回路が水滴でショートするのか小さな火花が上がっていた。

「無惨なもんだな……」

 ヒュリオはメイデンの残骸を見下ろし、小さく呟いた。
 肉体の半分を機械と入れ替えた鋼の戦士の魂は、意外な程にウェットだ。
 見も知らぬメイデン達の残骸に、失われたかつての相棒の姿を重ね、哀惜の念を覚えていた。

「マスター! こちらに情報端末があります!」

 主の心情を知ってか知らずか、スゥが奥から呼びかける。

「ああ、すぐに行く」

 ヒュリオはごくわずかな時間、メイデン達に黙祷を捧げると倉庫の奥へ踏み込んだ。
 司令室へ入ると、スゥがコンソールに張り付き操作している。

「倉庫内を映したカメラの映像、出せるか?」

「はい、音声はありませんけど」

 モニターに映像が映し出される。
 フィオとフリスの背後で大扉が閉じた場面だ。
 監視カメラごしの荒い映像だが、機械の目を持つヒュリオとスゥは自分で補正する事ができる。
 画面の中で床が抜け、フィオが落下した。

「分断されたか……」

「スプリンクラーでレーザーを攪乱してますね、フリスさんへの対策をしてるみたいです」

 モニターの中のフリスは腕力任せの荒々しい戦い方の末、四体掛かりで組み付かれて動きを封じられた。
 ディモンが画面内に現れ、フリスと何事か話すと逸物をむき出しにした。

「ああっ!? フリスさん……!」

 フリスの貞操の危機にスゥは悲鳴じみた声をあげる。
 だが、次の瞬間、画面内のディモンはもんどりうって倒れ、フリスは手足を拘束するメイデン達を弾き飛ばして自由を取り戻した。
 大振りな銃を持ったフィオがフリスに駆け寄る。

「良かった……」

 ほっと溜息を漏らすスゥとは裏腹にヒュリオは眉を寄せた。

「何だ? 随分大胆なファッションになってるじゃないか、少年」

 フィオのシャツは胸から下が無くなり、腹が露出しているのが画面越しにも確認できた。

「スゥ、地下の方のカメラはあるか?
 少年は下で何をしてたんだろう」
 
「はい……ありました、これです」

 地下室に設置されたカメラは荒いだけでなく光量不足で酷く映りが悪い。
 だが、そこに映し出された映像は歴戦の二人を絶句させる内容であった。

 腹を吹き飛ばされ真っ二つになった少年が背骨のみを繋いで立ち上がり、メイデンを倒した。
 スカスカになった彼の腹は、まるでビデオの逆再生のような勢いで修復されていく。

「マスター、これは……」

「スゥ、ここのデータを一切残さず破棄しろ。
 絶対にマザーに報告するなよ。 
 それから地下のスプリンクラーも起動させて全て洗い流せ」

 有無を言わせぬ強い口調でヒュリオは命じた。

「間違いない、彼はオレの同類。
 マザーの探していた三人目だ」
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