機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 タウン75の哨戒部隊は臨時に雇い入れた弾薬虫アモワーム砂潜りサンドモールで構成されている。
 その主目的は街道のパトロールであり、これは跳梁する盗賊達への示威行動だ。
 ある程度の戦力が街道を巡回していれば、小規模な山賊はそれだけで行動を控える。

 それなりに効果をあげているパトロールだが、その実体は張り子の虎と言っていい。
 チーム単位で軽機関銃以上の火器を搭載した車両を所有していれば哨戒部隊に応募できる。
 車両を持たない新人でも、どこかのチームに便乗させて貰えれば手持ち火器ひとつで参加できるという緩さだ。
 結果、駆け出し弾薬虫アモワーム達にとって安定のアルバイトとなっていたが、戦闘力としてみれば頼りない新米を寄せ集めただけの烏合の衆に過ぎなかった。

「なんだか浮き足だってる感じがするな……」

 デュークに指示されたセントラルゲートにやってきたバンは周囲に屯する面子を見回し、小さく呟いた。
 哨戒部隊に参加しようと車両ごと列に並んでいるメンバーは総じて若い。
 装備品の貧弱さも伴って一目で駆け出しと見て取れる、バンからすれば気を使わなくてよいので楽な連中だ。

 だが、彼らが一様にこちらに向かってちらちらと視線を送ってくるとなると別だ。
 正確にはバンの軽トラの助手席、スコールに対してである。

「……お前が見られてるみたいだな」

「わたし?」

 シートベルトをして助手席に収まったスコールはこてんと首を傾げた。

「なんか、した、かな?」

「んー、コロシアムに出てたから、顔が売れたんじゃねえかな……」

「あのひと、たち、おきゃくさん?」

「だったんじゃねえの?」

「……」

 スコールは腕組みすると、彼女には珍しく眉根を寄せた難しい顔をした。

「どした?」

「んー……なんか、もやもや? する……?」

「もやもや?」

「ん。 なんだろ……」

 スコールは両手で下腹を押さえて俯いた。

「おきゃく、なら、わたしが、シュネーねえさまに、いろいろされちゃったとこ、みられたん、でしょ?」

「まあ、そうだろうなあ」

 バンも顔をしかめる。
 納得の上ではあるが、結果的にスコールの痴態を見せ物にしてしまった事は彼にしても面白い話ではない。

「ぜんぜん、あうことなんて、ない、ひとなら、べつに、いいんだけど。
 いっしょに、おしごと、するひとがみてた、のは、なんか、もやもや……」

「ふむ……」

 バンはスコールの言葉を腕組みして吟味した。

「そいつはあれか、恥ずかしいって事じゃねえか?」

「はずか、しい?」

「お前、裸見られたりするの気にしなかったもんな……。
 羞恥心とか、そういうのピンと来ないか」

「しゅーちしん……」

 自分の抱えている感情を分析できていないスコールに助け船を出す。

「スコール、シュネーさんにされた事を、キキョウさんに見られてたらどうだ?」

「いや、それは、いや」

 スコールは即座に首を振った。

「フィオやフリスちゃんに見られてるのは?」

「それも、やだ……」

「なんでだ?」

「んー……みっとも、ない、から?」

「そのみっともないって思うのが、羞恥心の根っ子だよ。
 親しい相手や知り合いにみっともない所見られるのは、誰だって恥ずかしい。
 できれば、よく知らない相手にだって、みっともない所は見られたくないもんさ」

「この、もやもや、が、はずかしい……」

「まあ、こっち見てる連中とはこれから一緒に仕事するだけって関係しかないんだ。
 あんまり気にするな」

「ん」

 金髪頭をぐりぐりと撫でつつ、スコールの情緒が少しずつ成長している事にバンは奇妙な感慨を覚えていた。
 
「あ、あの!」

 不意に助手席側の窓から声を掛けられる。
 いかにも新米っぽい弾薬虫アモワームの少年が数人、しゃちほこばって並んでいた。

「スコールさんですよね? メイデンバトルに出てた」

「う、うん……」

「あの、握手、してもらえませんか!」

「えっと……」

 窓越しに少年達に期待に満ちた目で見つめられ、スコールは困惑して主の顔を仰ぎ見た。
 思わず苦笑しながらバンは頷く。

「まだ時間はあるみたいだ。 行っといで」

「うん」

 スコールは軽トラから降りると、少年達の顔をぐるりと見回し最初に声を掛けてきた少年の手を取った。

「これで、いい?」

「うわ、や、やわらか……。 あ、ありがとうございますっ!」

「お、俺もお願いしますっ!」

「うん」

 順番に握手をしていくスコールに少年達が歓声を上げる様子を、バンはハンドルに上体を預けた姿勢で見守っていた。
 なんとなく、頬が緩んでくる。

「……こいつは優越感、って奴なのかね」

 少年達がスコールに向ける憧憬の視線は、かつて自分がキキョウに向けたものと同じ。
 そんな彼らが見るだけしかできないスコールの体を、バンは自由にする事ができる。
 そう思うと、あまり経験のない奇妙な喜びのようなものが腹の内から沸き上がってくるのだ。

「あんまり良くないな、こいつは。
 これを楽しむのは趣味が悪すぎる」

 一時はグレンクスと連んで身を持ち崩していたが、バンは本質的に素朴でお人好しな気質の持ち主だ。
 それ故に優越感に浸りすぎる危険性を本能的に悟っていた。

 コロシアムに出場した以上、今更ではあるがスコールを見せびらかすような事は控えた方がいいかも知れない。
 
 そんな事を考えていると、別口の集団が目に入った。
 スコールに握手をして貰っている少年達と同じく、バンとさして変わらない年頃の一団。
 仲間内でボソボソと話しながら、こちらにちらちら向けられる視線は好意的とは言いがたい。

「メイデンを見せ物にして……」

「俺だってメイデンがあれば……」

「メイデンバトルで稼いでるくせに……」

 切れ切れに陰口が聞こえてくる。
 ハンドルに突っ伏したバンは嘆息した。

「なるほどなぁ、こいつぁ面倒くせぇ」

 メイデンを持つ事へのやっかみ。
 かつては自分自身が抱いていただけによく理解できる感情だ。
 しかし、それを向けられる側になると何とも不快極まりない。

「フィオの奴はいつもこんなのを我慢してたんだなあ」

 友人の我慢強さに頭が下がる想いだ。
 とはいえ、メイデンを持つ以上、今後はバン自身もやっかみの対象となるのは仕方のない事である。

「慣れないとな……」

 ファンの少年達への握手二周目に入ったスコールを横目で見ながら、小さく呟いた。




 タウン75所属のとある中規模キャラバンは運が悪かった。
 7台の軽車両に分乗した20人ほどの山賊、本来なら引き連れた護衛で十分撃退できる程度の小さな襲撃部隊に何の間違いかAクラスメイデンが混ざっていたのだ。

 装甲ブーツと武装ユニットのスラスターによるホバー機動で疾走するキキョウは、すれ違いざまの高速振動ヴィヴロマチェットの一撃で護衛車両の足周りを斬り裂いていく。
 護衛部隊の中核を為す装甲車は、無限軌道キャタピラの履帯を破壊され足を止めた。
 だが、そのまま銃座に据えた重機関銃を撃ち返してくる。
 キキョウは地を蹴って跳ねるとジャンプの勢いのままにスラスターを吹かして上昇、上から装甲車の銃座に軽機関銃を叩き込んだ。
 ライフル弾を物ともしない装甲を施された装甲車だが、銃座の可動部やセンサーシステムまでは護られていない。
 非装甲部位を的確に射抜かれ、装甲車の銃座は沈黙した。

 無力化した装甲車の上に着地したキキョウは、装甲ブーツの足裏で重機関銃の銃身を踏み折りながら周囲を威圧した。

「無益な殺生は好みません。
 降伏し、荷物の半分を差し出すならば命の保証はしましょう」

 よく通る声での降伏勧告だが、キャラバン側としても簡単に屈するわけにはいかない。

「ふざけるなっ! クソ人形がっ!」

 タイヤを潰されたバギーから護衛の弾薬虫アモワームが喚き返す。
 ドアを遮蔽にアサルトライフルを向けてくる男へ、キキョウは武装アームにマウントした軽機関銃を単射で発射した。

「ぐあっ!?」

 正確に右肩を撃ち抜かれ、弾薬虫アモワームの男はアサルトライフルを取り落とす。

「他に異論のある方は?
 鉛玉で応じさせていただきますが」

「わ、判った! 降伏する!
 みんな、武器を下ろせ!」

 キャラバンのリーダーらしい中年男が脂汗を流しながら叫び、護衛の男たちは無念の表情で銃を放り出した。
 抵抗が失せた所でキキョウの部下達がトラックに取り付き、積み荷を運び出していく。
 軽機関銃を構えたまま警戒態勢を続けるキキョウに、部下の一人が耳打ちした。

「キキョウさん、全部奪わなくていいんスか?」

「全部奪ってしまっては、あの交易商人トレーダーが再起できなくなってしまいますから」

 リーダーの中年男は蒼白になりながらも、荷物を運び出していく山賊達を睨みつけている。

「へえ、相手の事も考えてやるなんて優しいんスね」

「優しい?」

 キキョウは冷笑した。

「それは違います。
 彼が再起すれば、いずれまた私たちの獲物になってくれるでしょう。
 その為ですよ」

「あー、そっか……」

 感心した様子の部下にキキョウは眉を寄せた。

「これまではどうしていたのですか?」

「ヴァトーさんは根こそぎにしちまえって……」

「それでは獲物が居なくなって先細りでしょうに、あの方は……」

 主の無軌道なやり方にキキョウは思わず額を押さえる。

「Aクラスメイデンってのは強いだけじゃなくて色々知ってんスねえ。
 オレら学がねえんで、そういうの教えてもらえるとありがたいっス」

「……」

 部下の言葉にキキョウは複雑な顔で黙り込んだ。
 CPUの奥底に、かつて教え導いた少年の面影がロードされている。

「……私に人を教えるような資格はありませんよ」

 揺れる視線を部下から逸らしたキキョウのアメジストの瞳が鋭く細まった。
 複数の車両が接近する砂煙を捉えたのだ。

「どうやら騎兵隊のお出ましのようです。
 各員、迎撃準備を!」

 率先して軽機関銃を構え直すキキョウは話を打ち切る理由が現れた事に、むしろホッとしていた。
 迫る車両の群に、知己が混ざっている事も知らずに。
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