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「ぁ……」
スコールの口が開き、咥えた自らの右腕がぼとりと落ちた。
胸の真ん中を抉りジェネレーターを貫いた刃を驚いたように見下ろすと、マチェットを握るキキョウの顔を見上げる。
「ねえさ……」
言葉の途中でコンデンサの備蓄電力が尽きた。
スコールの唇は物を言いかけた形で固まり、赤と青の瞳からは光が失われ硝子玉と化す。
「あ、あぁぁ……」
カウンターの一撃を放ってしまったキキョウは動かなくなった妹分の驚愕も引き継いだかのように、がくがくと震えながら腕を引く。
マチェットの刀身が引き抜かれると破壊されたジェネレーターの断末魔のように小さな火花が踊った。
刃を抜かれた勢いに引かれて棒のように倒れる小さな機体を、キキョウは慌てて抱き止めた。
「なんて、事を……」
CPUを破壊しない限り、メイデンは再生可能だ。
それでも、妹分を機能停止にまで追い込んでしまった事実は、旧主の生存を知らされて混乱する疑似精神をさらに苛んだ。
キキョウを追い込むかのように、リンク通信が飛び込んでくる。
「キキョウさん! まだッスか!
こっちヤバい! ヤバいッス!」
ある意味、福音でもあった。
解決できない山積みの問題の中に、とりあえず手が着けられる案件が来たのだ。
逃避と知りつつ、飛びついてしまう。
「すぐに行きます!」
短く通信を返すと、抱き止めたスコールの機体を砂漠に横たえた。
「……」
何を言えばいいのか、それ以前に自分は何を言いたいのか。
キキョウは目を伏せ頭を一振りするとスラスターを起動した。
両目を見開いたまま機能停止したスコールの機体に、巻き上げられた砂粒がぽつぽつと降り注いだ。
哨戒部隊の責任者であるブランは、思わぬ事態に驚愕していた。
赤い火線が弧を描いて地を穿つ。
響く轟音と広がる爆発、それに圧されるわずかな悲鳴。
ロケットランチャーの制圧射撃だ。
ターゲットは幸いにしてこちらではなく、山賊側の車両だ。
だが、あんな重火器を装備した参加者はいなかったはずである。
「おいおい、あんな大物の出張なんて聞いてないぞ……」
ホバー走行で後方から追い上げてくる攻撃者の姿に、ブランは呆然と呟いた。
黒地に金糸でデコレートされた豪奢なスーツに、純白に塗られた武装ユニット、風にひるがえる白銀の放熱髪。
メイデンバトルチャンピオンにしてタウンの守護神の片割れ、Aクラス戦闘メイデンのシュネー。
タウン75の住人なら知らぬ者のないビッグネームだ。
シュネーは半ば呆けたブランのバイクに併走すると、秀麗な美貌に微笑みを浮かべた。
「引率役のブランさんですわね?」
「あ、は、はい! そうです!」
思わず声が上擦るブランに、シュネーは小さく頷いた。
「お勤めご苦労様です、私の新しいライバルも参加していると聞きまして陣中見舞いに来ましたの。
どこにいらっしゃるか、ご存じ?」
「お、おちびちゃんでしたら、遊撃に回ってくれてます。
マスターくんの方は他の若い衆と一緒にいるかと」
ブランの言葉にシュネーはわずかに眉をひそめた。
「わかりました、ありがとうございます」
シュネーの背負った小山のような武装ユニットが、轟とスラスターの推力を上げる。
重々しい見た目のフル装備大火力メイデンは、その印象とは裏腹の速度で加速していった。
「あーっと……」
ブランは掛けようとした言葉を飲み込み、シュネーの後ろ姿を見送った。
いくらお気に入りのライバルの為とはいえ、タウンの防衛を放り出して彼女がここに居るのは明らかに尋常ではない。
あのおちびちゃんとマスターくんには何かある、しかし、下手に首を突っ込むのはキナ臭すぎる。
即座にその判断を下せたブランは、やはり有能な中堅弾薬虫であった。
スコールを遊撃に出したバンは後詰めを心がけてハンドルを握っていた。
バンの軽トラはスコールを運搬するための車両であり、車載武装は他にない。
戦闘に参加するならば運転席から身を乗り出して手持ちの銃を撃つしかないが、そんな真似をするくらいならば負傷者の救援や回収に回った方がマシだと判断したのだ。
血の気に逸らず行動できるようになった辺り、スコールだけでなくバンもしっかりと成長していた。
「怪我人が出たら手当に回らないと……なんだ!?」
不意に敵陣に火球が生じる。
轟音と共に爆風に吹き飛ばされた砂塵がフロントグラスに叩きつけられた。
「ば、爆発ぅ!?
車のガスの爆発にしちゃあ、連続してるな……」
ワイパーを動かして視界を確保しながら首を捻るバンの背に、ドンと重い響きが伝わる。
背後の荷台に何かが着地した衝撃だ。
次いで、運転席側の窓にひょっこりと首が突き出される。
スコールがよくやる行動だが、今回は白銀の髪を持つ美貌のAクラスメイデンであった。
「うぇっ!? シュネーさん!?」
「ご機嫌よう、バンさん」
「な、なんでここに!?」
「陣中見舞いですわ」
淑女の笑みと共に轟音が響き、山賊の車両が一台吹き飛んだ。
「陣中見舞いっつーか、もうシュネーさんだけでいいんじゃっつーか……」
呆れたようにバンは呟く。
山賊に対してAクラスメイデンは明らかに過剰戦力だ。
にも関わらず、山賊側は撤退しようとしない。
「あいつら、退かないな。
こっちにはメイデンが二体もいるのに……」
「スコールさんは?」
「遊撃に出したんですが……。
そういや見当たらない」
小さなメイデンの姿が戦場にない。
まさかさっきの爆発に巻き込まれたかとバンが心配した時、シュネーが硬質な声を上げた。
「どうやら彼女の相手をしていたようですわね」
淑女が指さす方向には、ホバーを吹かして突進してくる黒いスーツのメイデン。
バンにとって、天使とも崇めた相手だ。
「キ、キキョウさん!?」
見覚えのある軽トラの運転席で、知己の少年が驚愕の表情を浮かべている。
だが、キキョウはその情報を無視した。
軽トラの荷台を蹴って飛び出した敵メイデンの方が重要であると自分に言い聞かせながら。
実際、脅威と言わざるを得ない敵手だ。
その搭載武装と外観から判断するに間違いなくAクラス。
対してキキョウの装備は間に合わせであり、疑似精神は乱れてぐちゃぐちゃの最低状態。
こんな状態でフル装備のAクラスメイデンなど相手にできるはずもない。
キキョウは即座に決断し、通信を開いた。
「総員、撤退。 残っている車両に分乗して離脱してください。
撤退までの間、私が時間を稼ぎます」
「キキョウさん、あのメイデン倒せませんかね?」
「無理です。武装が足りません」
装備に言い訳を押しつけて通話を切ると、白銀の髪と黄金の瞳を持つ敵メイデンに向き直る。
積載限界まで武装を詰め込んだ大艦巨砲主義的なスタイルは、高速戦闘を得意とするキキョウとは対照的だ。
しかし、敵手の第一撃は砲弾ではなかった。
「スコールさんをご存じかしら、キキョウさん?」
たった今、機能停止に追い込んだばかりの妹分の名を投げかけられ、キキョウのCPUは一瞬激しく動揺する。
一秒の何十分の一にも満たない僅かな動揺も、Aクラスメイデン同士の戦闘では大きな隙だ。
そこをつけ込むように撃ち込まれる速射砲をかろうじて回避する。
「くっ……!」
砲の発射と同時に敵メイデンは高速振動刀を抜き放ち突進する。
早い。
見るからに砲戦タイプにも関わらずインファイトを挑んでくる敵の意図が読めないながらも、マチェットで応戦する。
二本の刃が中空で互いを弾き合い、耳障りな異音を放った。
互いを砕きあってしまう為、高速振動武器同士の戦いは一撃離脱の繰り返しとなるのがセオリーだ。
にも関わらず、敵メイデンは鍔迫り合いの間合いを維持したまま、細かく打ち込んでくる。
「自分を慕ってくる子を倒した気分は如何かしら?」
「な、何を……!?」
ジャブを思わせる細かい突きと共に繰り出される言葉にキキョウは絶句した。
この敵は何を知っている。
そもそも何者なのだ。
バンの車から飛び出してきたという事は、スコールとも知己であるのか。
妹分を倒した気分など、最悪に決まっている。
疑似精神が千々に乱れる。
キキョウの回避マニューバは精彩を失い、掠めた刃が栗色の放熱髪を一房切り飛ばした。
「うっ……!?」
敵メイデンが高速振動刀を肩口に構える。
「私、怒ってますのよ!」
巨大な武装ユニットをパージ、脚部の推力のみでの突進は瞬時に音の壁を突き破った。
やはり、勝てない。
戦闘時の高速思考の中でキキョウは痛感した。
基礎性能、技量では負けてはいないはずだ。
だが、装備とマインドセットが違いすぎる。
判っていた事だ。
振り降ろされる刃に応じ、マチェットを叩きつける。
耳障りな高周波音が鳴り響き、高速振動武器同士の反発でマチェットの刀身が砕け散った。
だが、相手の刀は原型を残している。
数打ちの量産品と業物の差だ。
しかし、キキョウの目論見は十分果たされた。
刃こぼれした愛剣を再度振り上げようとする敵メイデンに対し、キキョウはその場でソバットのように片足を上げて旋回した。
上げた足の臑のスラスターを噴射。
未だ地に落ちていないマチェットの破片が、敵メイデンへと散弾のように吹き付けられた。
「小細工をっ!」
敵メイデンは両腕で顔を庇いながら後退する。
同時にキキョウは全スラスターを全力で噴射、一目散に逃走に移る。
「この……お待ちなさい!」
武装ユニットを排除した敵メイデンの速度では、全力で逃げるキキョウに追いつけない。
諦めた敵手は最後に言葉を投げつけた。
「スコールさんの姉にはふさわしくない方ですわね!」
下手な砲弾よりもダメージある一言にキキョウは唇を噛みしめた。
「判ってます、そんな事……」
罪悪感にまみれながら、キキョウは敗走した。
スコールの口が開き、咥えた自らの右腕がぼとりと落ちた。
胸の真ん中を抉りジェネレーターを貫いた刃を驚いたように見下ろすと、マチェットを握るキキョウの顔を見上げる。
「ねえさ……」
言葉の途中でコンデンサの備蓄電力が尽きた。
スコールの唇は物を言いかけた形で固まり、赤と青の瞳からは光が失われ硝子玉と化す。
「あ、あぁぁ……」
カウンターの一撃を放ってしまったキキョウは動かなくなった妹分の驚愕も引き継いだかのように、がくがくと震えながら腕を引く。
マチェットの刀身が引き抜かれると破壊されたジェネレーターの断末魔のように小さな火花が踊った。
刃を抜かれた勢いに引かれて棒のように倒れる小さな機体を、キキョウは慌てて抱き止めた。
「なんて、事を……」
CPUを破壊しない限り、メイデンは再生可能だ。
それでも、妹分を機能停止にまで追い込んでしまった事実は、旧主の生存を知らされて混乱する疑似精神をさらに苛んだ。
キキョウを追い込むかのように、リンク通信が飛び込んでくる。
「キキョウさん! まだッスか!
こっちヤバい! ヤバいッス!」
ある意味、福音でもあった。
解決できない山積みの問題の中に、とりあえず手が着けられる案件が来たのだ。
逃避と知りつつ、飛びついてしまう。
「すぐに行きます!」
短く通信を返すと、抱き止めたスコールの機体を砂漠に横たえた。
「……」
何を言えばいいのか、それ以前に自分は何を言いたいのか。
キキョウは目を伏せ頭を一振りするとスラスターを起動した。
両目を見開いたまま機能停止したスコールの機体に、巻き上げられた砂粒がぽつぽつと降り注いだ。
哨戒部隊の責任者であるブランは、思わぬ事態に驚愕していた。
赤い火線が弧を描いて地を穿つ。
響く轟音と広がる爆発、それに圧されるわずかな悲鳴。
ロケットランチャーの制圧射撃だ。
ターゲットは幸いにしてこちらではなく、山賊側の車両だ。
だが、あんな重火器を装備した参加者はいなかったはずである。
「おいおい、あんな大物の出張なんて聞いてないぞ……」
ホバー走行で後方から追い上げてくる攻撃者の姿に、ブランは呆然と呟いた。
黒地に金糸でデコレートされた豪奢なスーツに、純白に塗られた武装ユニット、風にひるがえる白銀の放熱髪。
メイデンバトルチャンピオンにしてタウンの守護神の片割れ、Aクラス戦闘メイデンのシュネー。
タウン75の住人なら知らぬ者のないビッグネームだ。
シュネーは半ば呆けたブランのバイクに併走すると、秀麗な美貌に微笑みを浮かべた。
「引率役のブランさんですわね?」
「あ、は、はい! そうです!」
思わず声が上擦るブランに、シュネーは小さく頷いた。
「お勤めご苦労様です、私の新しいライバルも参加していると聞きまして陣中見舞いに来ましたの。
どこにいらっしゃるか、ご存じ?」
「お、おちびちゃんでしたら、遊撃に回ってくれてます。
マスターくんの方は他の若い衆と一緒にいるかと」
ブランの言葉にシュネーはわずかに眉をひそめた。
「わかりました、ありがとうございます」
シュネーの背負った小山のような武装ユニットが、轟とスラスターの推力を上げる。
重々しい見た目のフル装備大火力メイデンは、その印象とは裏腹の速度で加速していった。
「あーっと……」
ブランは掛けようとした言葉を飲み込み、シュネーの後ろ姿を見送った。
いくらお気に入りのライバルの為とはいえ、タウンの防衛を放り出して彼女がここに居るのは明らかに尋常ではない。
あのおちびちゃんとマスターくんには何かある、しかし、下手に首を突っ込むのはキナ臭すぎる。
即座にその判断を下せたブランは、やはり有能な中堅弾薬虫であった。
スコールを遊撃に出したバンは後詰めを心がけてハンドルを握っていた。
バンの軽トラはスコールを運搬するための車両であり、車載武装は他にない。
戦闘に参加するならば運転席から身を乗り出して手持ちの銃を撃つしかないが、そんな真似をするくらいならば負傷者の救援や回収に回った方がマシだと判断したのだ。
血の気に逸らず行動できるようになった辺り、スコールだけでなくバンもしっかりと成長していた。
「怪我人が出たら手当に回らないと……なんだ!?」
不意に敵陣に火球が生じる。
轟音と共に爆風に吹き飛ばされた砂塵がフロントグラスに叩きつけられた。
「ば、爆発ぅ!?
車のガスの爆発にしちゃあ、連続してるな……」
ワイパーを動かして視界を確保しながら首を捻るバンの背に、ドンと重い響きが伝わる。
背後の荷台に何かが着地した衝撃だ。
次いで、運転席側の窓にひょっこりと首が突き出される。
スコールがよくやる行動だが、今回は白銀の髪を持つ美貌のAクラスメイデンであった。
「うぇっ!? シュネーさん!?」
「ご機嫌よう、バンさん」
「な、なんでここに!?」
「陣中見舞いですわ」
淑女の笑みと共に轟音が響き、山賊の車両が一台吹き飛んだ。
「陣中見舞いっつーか、もうシュネーさんだけでいいんじゃっつーか……」
呆れたようにバンは呟く。
山賊に対してAクラスメイデンは明らかに過剰戦力だ。
にも関わらず、山賊側は撤退しようとしない。
「あいつら、退かないな。
こっちにはメイデンが二体もいるのに……」
「スコールさんは?」
「遊撃に出したんですが……。
そういや見当たらない」
小さなメイデンの姿が戦場にない。
まさかさっきの爆発に巻き込まれたかとバンが心配した時、シュネーが硬質な声を上げた。
「どうやら彼女の相手をしていたようですわね」
淑女が指さす方向には、ホバーを吹かして突進してくる黒いスーツのメイデン。
バンにとって、天使とも崇めた相手だ。
「キ、キキョウさん!?」
見覚えのある軽トラの運転席で、知己の少年が驚愕の表情を浮かべている。
だが、キキョウはその情報を無視した。
軽トラの荷台を蹴って飛び出した敵メイデンの方が重要であると自分に言い聞かせながら。
実際、脅威と言わざるを得ない敵手だ。
その搭載武装と外観から判断するに間違いなくAクラス。
対してキキョウの装備は間に合わせであり、疑似精神は乱れてぐちゃぐちゃの最低状態。
こんな状態でフル装備のAクラスメイデンなど相手にできるはずもない。
キキョウは即座に決断し、通信を開いた。
「総員、撤退。 残っている車両に分乗して離脱してください。
撤退までの間、私が時間を稼ぎます」
「キキョウさん、あのメイデン倒せませんかね?」
「無理です。武装が足りません」
装備に言い訳を押しつけて通話を切ると、白銀の髪と黄金の瞳を持つ敵メイデンに向き直る。
積載限界まで武装を詰め込んだ大艦巨砲主義的なスタイルは、高速戦闘を得意とするキキョウとは対照的だ。
しかし、敵手の第一撃は砲弾ではなかった。
「スコールさんをご存じかしら、キキョウさん?」
たった今、機能停止に追い込んだばかりの妹分の名を投げかけられ、キキョウのCPUは一瞬激しく動揺する。
一秒の何十分の一にも満たない僅かな動揺も、Aクラスメイデン同士の戦闘では大きな隙だ。
そこをつけ込むように撃ち込まれる速射砲をかろうじて回避する。
「くっ……!」
砲の発射と同時に敵メイデンは高速振動刀を抜き放ち突進する。
早い。
見るからに砲戦タイプにも関わらずインファイトを挑んでくる敵の意図が読めないながらも、マチェットで応戦する。
二本の刃が中空で互いを弾き合い、耳障りな異音を放った。
互いを砕きあってしまう為、高速振動武器同士の戦いは一撃離脱の繰り返しとなるのがセオリーだ。
にも関わらず、敵メイデンは鍔迫り合いの間合いを維持したまま、細かく打ち込んでくる。
「自分を慕ってくる子を倒した気分は如何かしら?」
「な、何を……!?」
ジャブを思わせる細かい突きと共に繰り出される言葉にキキョウは絶句した。
この敵は何を知っている。
そもそも何者なのだ。
バンの車から飛び出してきたという事は、スコールとも知己であるのか。
妹分を倒した気分など、最悪に決まっている。
疑似精神が千々に乱れる。
キキョウの回避マニューバは精彩を失い、掠めた刃が栗色の放熱髪を一房切り飛ばした。
「うっ……!?」
敵メイデンが高速振動刀を肩口に構える。
「私、怒ってますのよ!」
巨大な武装ユニットをパージ、脚部の推力のみでの突進は瞬時に音の壁を突き破った。
やはり、勝てない。
戦闘時の高速思考の中でキキョウは痛感した。
基礎性能、技量では負けてはいないはずだ。
だが、装備とマインドセットが違いすぎる。
判っていた事だ。
振り降ろされる刃に応じ、マチェットを叩きつける。
耳障りな高周波音が鳴り響き、高速振動武器同士の反発でマチェットの刀身が砕け散った。
だが、相手の刀は原型を残している。
数打ちの量産品と業物の差だ。
しかし、キキョウの目論見は十分果たされた。
刃こぼれした愛剣を再度振り上げようとする敵メイデンに対し、キキョウはその場でソバットのように片足を上げて旋回した。
上げた足の臑のスラスターを噴射。
未だ地に落ちていないマチェットの破片が、敵メイデンへと散弾のように吹き付けられた。
「小細工をっ!」
敵メイデンは両腕で顔を庇いながら後退する。
同時にキキョウは全スラスターを全力で噴射、一目散に逃走に移る。
「この……お待ちなさい!」
武装ユニットを排除した敵メイデンの速度では、全力で逃げるキキョウに追いつけない。
諦めた敵手は最後に言葉を投げつけた。
「スコールさんの姉にはふさわしくない方ですわね!」
下手な砲弾よりもダメージある一言にキキョウは唇を噛みしめた。
「判ってます、そんな事……」
罪悪感にまみれながら、キキョウは敗走した。
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