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 路地を出たフィオは多目的端末の通信保留を解除した。

「お待たせ、バン。
 連絡してきたって事は何か収穫があったのかい?」

 声を潜めつつも気忙しげに問いかける。

「ああ、大当たりだ、キキョウさんに会ったぜ。
 ……敵としてだけどな」

「くっ、やっぱりか……。 詳細を頼む」

 苦悩を噛み殺すような表情のフィオに金魚鉢兄弟バースブラザーも沈痛な声音で応える。

「俺たちは街道のパトロール隊に参加したんだ。
 ちょうど襲われてるキャラバンが居てな、それで襲ってたのが」

「キキョウさんか……」

「ああ、キキョウさんを含む山賊だ
 こっちに増援もあったんで、逃げられちまった」

「あいつは居たのか、ヴァトーは」

「いや、お前が話してたデカブツは居なかった。
 どうもキキョウさんが山賊を率いていたように思う」

 バンのもたらす情報にフィオは眉根を寄せた。

「別行動を任せられるくらい、信用されてるって事か……」

「完全にあちら側のメイデンになっていますね」

 冷えた声音で口を挟んだフリスに、フィオは苛立った視線を向ける。
 フリスはぷいと顔を背けた。
 一瞬怒鳴りつけかけたフィオだったが、今はそれ所ではないとなんとか自制し多目的端末に向き直る。

「……貴重な情報をありがとう、バン。
 他に何かあるかい?」

「キキョウさんとの戦闘でスコールがやられた。
 こっちはしばらく身動きが取れねえ」

「やられた? 大丈夫なのか?」

「CPUは無事だし、修理の目途も立ってる。
 まあ、懐具合以外は何とか、な」

「すまない……」

「いいさ、俺もスコールも好きでやってる事だ。
 とりあえず、こっちの情報はこんな所だ。
 そっちはどうだ? 出歩けるようになったか?」

「いや、まだだ」

「おいおい、どうすんだよ」

「まあ、何とかするさ。
 マザーに泣きついてみたり、とかね」

「……気をつけろよ。
 それじゃ、通信代も心配だ、そろそろ切るぜ」

「ああ、それじゃまた」

 通話が切れる。
 フィオは消灯した多目的端末に視線を落とし、唇を噛んだ。
 キキョウが発見された事は嬉しい。
 だが、予想していたとはいえ、キキョウが山賊に与して襲撃を行っているという事実に叫びだしたい程の焦燥を覚えていた。

 湧き上がる激情を必死に抑える主を半目で見つめるフリスは、膨れっ面のまま問いかける。

「それで、どうなさるんです、マスター。
 本当にマザーに泣きつくんですか?」

「まさか。
 マザーに外出許可を貰いに行くのは怖い、藪蛇になりかねないからね。
 今のはフェイクだよ、多分、僕の通話回線はアーミーに盗聴されてるから」

 タウン75からの通話はタウン48が敷設した通信網を利用して行われている。
 アーミーからの監視がついている以上、盗聴の可能性は非常に高い。
 その為、あらかじめバンと相談し、外部からの通話の際にはフィオが真の漢トゥルーガイである事に触れないよう取り決めもしていた。

「マザーの目をくぐって、何とかタウン75へ向かわないと」
 
 できる限り穏便に済ませたい所であったが、キキョウがタウン75近隣に居ると判った以上、もう迷っている暇はない。
 グズグズしていては、キキョウを含む山賊が他の地域に移動してしまうかもしれないのだ。
 そう思うだけでフィオの胸中で焦りが渦巻く。

「前に提案しましたけど、わたしの武装ユニットでゲートを飛び越えますか?」

「最悪、その手を使う事になるな……。
 間違いなく追撃されるから、避けたい所だけど」

 フィオは半月が登りつつある夜空を見上げ、大きく深呼吸した。
 逸る心を抑えつつ、決断する。

「今日明日で勝負だ、何とかしてタウンの外に出るよ、フリス」




 フィオの読み通り、シヤは通話を盗聴させていた。
 通信部を統括するオフィサーメイデンはフィオの通話内容を逐一記録し、シヤへと報告する。
 主無しマスターレスであるオフィサーメイデン達にとって、タウンのマザーたるシヤが忠誠の対象だ。
 彼女たちがマザーの奇妙な指示に異議を申し立てる事はない。
 執務室で通信記録を受けとったシヤは、身の回りの世話を受け持つメイデンを下がらせた。

「しばらく集中します。 緊急の連絡以外は各部署で処理するように」

 シヤの指示にメイド服のメイデンは恭しく一礼して退室する。

「ふふ、さて今日はどんなトラブルに巻き込まれていますか、フィオ」

 シヤは楽しそうに通話記録の確認を開始する。  
 実際、真の漢トゥルーガイに関する調査はシヤにとって楽しみな趣味と言ってもいい。

 彼女たちマザーメイデンの使命は第一にタウンを運営し人類文明を保全する事。
 次世代型進化人類の完成形である真の漢トゥルーガイの探索は第二の使命に当たる。
 だが、第二の使命は最終戦争より千年もの時間が過ぎてなお、碌な成果が上がっていない。
 現存するマザーメイデンの大部分は実在も定かではない真の漢トゥルーガイの発見を諦め、己のタウンの運営に注力している。

 その点、シヤは大きなアドバンテージを持っていた。
 稼働中のメイデンファクトリーを有するタウン48は近隣随一の勢力を誇っており、その支配領域は今なお拡大中だ。
 メイデンファクトリーは戦力である戦闘用メイデンだけでなく、都市運営に携わるオフィサーメイデンや各種業務をこなす民生用メイデンも生産できる。
 今のシヤは、産み出された多くのメイデン達に都市運営業務を任せ楽隠居を決め込める身なのだ。

 手透きになったリソースを最早マザー達の道楽と化した真の漢トゥルーガイ探索に振り分けれるようになってから、すでに数十年以上。
 長らく影も見えなかった真の漢トゥルーガイだが、近年になってヒュリオやマイザーのようにその片鱗を見せる者が現れ始めた。
 
 与えられた使命を厭う気はないが、成果が見えればやる気も違ってくる。
 シヤは真の漢トゥルーガイ探索にこれまで以上の熱意を注いでいた。

「まあ、私に泣きつくだなんて、可愛らしい事を言って」

 通話記録を確認したシヤはコロコロと上品に笑うと、桜色の舌を出して唇を舐める。

「本当に泣きついてくるのなら、どんな交換条件を出して上げましょうか」

 女帝の顔に浮かぶ笑みはサディスティックに歪み、どんな妄想がCPUを駆けまわったのか頬が紅潮していく。
 シヤはこくりと唾を呑み込むと、執務室の隅にひっそりと置かれたロッカーに歩み寄った。
 壁に溶け込むような無機質なデザインのロッカーを開ける。

 シヤの身長よりも大きなロッカーの中には、整然と大量のディルドーが並んでいた。
 大きさ、色、素材も様々な男根の模造品が几帳面にカテゴライズされて陳列されている様はどこかユーモラスな風情があったが、シヤは大真面目な顔でディルドーを検分する。

「フィオの体格からすると……これくらいの大きさでしょうか」

 底に吸盤が取り付けられたピンクのシリコン製の品を選び、手に取る。
 ちなみに、本物よりもちょっと大きく、しっかりと包皮の剥けたデザインである。
 メイデン達からのデータフィードバックがあれど、実際に本物のペニスに触れた事はないシヤは、この分野においてやや大げさに見積もる癖がついてしまっていた。
 言ってみれば千年物耳年増であった。

「ん……♡」

 亀頭を模した先端に軽く口づけると、そこに本人が居るかのようにディルドーに囁く。

「どうしましょうか、フィオ♡
 本当は来る気なんてないんでしょう?」

 金魚鉢バースプラントから生まれてくる男達には睡眠学習でタウンへの帰属意識とマザーへの忠誠が刷り込まれているが、真の漢トゥルーガイの兆候を見せた者はそれが薄れる傾向にある。
 独断で過剰な行動をしがちなマイザーには手を焼かされているし、日々無難な報告しか寄越さないヒュリオにもシヤはサボタージュの気配を感じていた。
 フィオもまた、キキョウ恋しの余りこちらの指示を無視する可能性が高いとシヤは予測している。

「殿方は本当に仕方ないもの……。
 お仕置きしてあげなくては♡」

 シヤは口いっぱいにディルドーを含んだ。

「んっ♡ ちゅるっ♡」

 頬を窄めて模造男根を吸引しながら、亀頭に舌を絡ませる。
 右の掌に載せたディルドーに熱烈なフェラチオを行いつつ、左手はアンバランスな程に豊かな乳肉を掬い上げ乱暴に揉みしだいた。
 たちまち、パフィーニップル気味の大振りな乳首がボディスーツに浮き上がった。

「んぅっ♡ んふぅっ♡」

 強く自己主張する乳首をスーツの上から弄り回しながら、口の中をディルドーに占拠された女帝は鼻に掛かった愛らしい喘ぎを漏らす。
 
「ぷぁっ♡ ふぅ、いけませんね、やはり……」

 ディルドーから唇を離したシヤは上気した顔で恥じらうように呟くと小さく首を振った。
 おかっぱのように纏められた亜麻色の髪がさらりと揺れる。

「胸を弄るばかりでは物足りなくって♡」

 シヤは下腹部に左手を伸ばすと、スーツの股間に走るファスナーを引き下ろした。
 布地が左右に開き、しっとりと潤んだ秘唇が露わになる。
 大迫力の爆乳とは裏腹に、小ぢんまりとした少女らしい秘所にシリコンの切っ先を押し当てる。

「んっ♡」

 挿入はしない。
 初めてはまだ見ぬ真の漢だんなさまへ捧げるため、大事に取っているのだ。 千年くらい。
 ふにふにとした陰唇に唾液に塗れた疑似亀頭を擦り付けると、肉付きの良い太腿に漣が走る。

「あっ♡ はぅんっ♡」

 溢れ出した潤滑液愛液もたっぷりとシリコン棒に纏わせると、シヤはディルドー格納用ロッカーに縋りついた。
 ロッカーの扉の低い位置にディルドーの底の吸盤を押し付ける。
 無機質なロッカーからピンクのペニスが生えている様は、何とも言えない間抜けさが漂っていた。

 シヤは両手を床に付き四つん這いになると、バストに比較すると小振りだが体格からすれば十分に豊かなヒップをディルドーに向ける。  
 ボディスーツの股間部のファスナーは後方にまで続いており、陰唇のみならず菊門まで丸出しになっていた。
 ピンクの亀頭の切っ先が豊かな尻肉の間で窄まった菊座に触れる。

「んっ♡ んんぅっ♡」

 シヤがロッカーの扉へ尻を突き出すと、シリコンの疑似男根は女帝の尻穴を穿ち、内部へと侵入していく。
 尻たぶが軽金属のロッカーに触れ、ディルドーを完全に呑み込んだシヤはぞくぞくと背筋を震わせた。

「はぁぁっ……♡  奥まで来たぁ……♡」

 ディルドーを受け入れた尻穴はきゅうきゅうと締まり、内部を占領する物体の形状を余す所なくシヤのCPUへと伝えてくる。
 前は使用厳禁だが体の火照りを沈めるために後ろを使い続けた結果、完全に自己開発してしまった女帝であった。
 トロンとした顔のシヤは四つん這いのまま体を前後に動かし始める。
 猫が背伸びをするように背筋を伸ばせばディルドーが抜けていき、床に両手を突っ張るように尻を突き出せば奥深くまで貫く。

「はぅっ♡ んぁっ♡ あぅんっ♡」
 
 亀頭のエラが腸壁を削り、シヤは甘ったるい声を上げて悶えた。 
 後背位を思わせる体勢で豊かすぎる爆乳が強調され、激しく揺れている。
 千年物で未貫通の秘唇は淡く開き、はしたない潤滑液愛液を滴らせていた。

「あぅっ♡ フィオっ♡ 見てくださいっ♡ フィオっ♡」

 尻をロッカーに打ち付けながら呻くように少年の名を囁くと、記録したポートレートが中空にいくつも浮かび上がる。
 様々な表情の少年の映像に囲まれながら、シヤはなおも激しく尻を動かす。

「私がっ♡ 達してしまう所っ♡ はしたない所、見てくださいフィオっ♡」

 ディルドーが女帝の尻穴を蹂躙し、快楽信号に浸ったシヤは口の端から涎を垂らしながら喘いだ。

「んあぁぁっ♡♡ あはぁーーっ♡♡♡」

 一際強く尻を突き出すとシヤは甲高い絶頂の叫びを上げ、両腕を突っ張った。
 爆乳がぶるぶると震え、秘唇からは潤滑液愛液の飛沫が吹き出し床を汚す。
 普段は慈母の微笑みを湛えた美貌は朱に染まって快楽に歪み、秘めた本性を曝け出していた。

「あは……♡ はぁ……♡」

 激しく達したシヤの両腕から力が抜け、女帝の体はずるずると床にうつ伏せた。
 豊満すぎる乳肉が潰れ、窮屈そうに広がる。
 ディルドーは吸盤が緩んで外れてしまい、シヤの尻穴奥深くに咥え込まれたままだ。
 快楽の残滓で投げ出された両足がひくひくと震え、尻穴に突き刺さったピンクの玩具も揺れる光景は、タウンの民には見せられない無様さであった。

「はぁ……♡ 思わず堪能してしまいました……」

 ひとしきり快楽の残り香を楽しんだシヤはのろのろと身を起すと、尻に嵌ったままのディルドーを引き抜いた。

「んぅっ♡」

 執務室の床に淫らな液体で濡れた玩具を放り出すと、シヤは紅潮した顔のままフィオのポートレートに語り掛けた。

「貴方が本当に泣きついてくるのなら、覚悟を決めて確かめてしまった方が良いのかも知れませんね」

 外出を禁じつつもフィオを捕縛して強制的に彼が真の漢トゥルーガイかどうか調査しないのは、この中途半端な状態をシヤ自身が望んでいるからであった。
 手元にあるチケットがジャックポットなのか大外れなのか、確認してしまう事が怖い。
 期待を抱いているだけに違った時の落胆は大きかろう。

 そして、いざ大当たりであったとしても、それはそれで躊躇いを感じてしまう。
 千年もの間探し続けた存在を手中にした時、喜びの余り自分がどのような行動を取ってしまうか、シヤ自身にも予測がつかなかった。

 その為、様々な言い訳を自分にしつつフィオの検査を先延ばしにしていたのだ。
 その間フィオをネタに一人遊びに耽っていたのは、本人に言わせると予行練習のようなものであった。 

「貴方が真の漢トゥルーガイならば……旦那様としてお仕えするのもやぶさかではないのですよ、フィオ」

 シヤは執務室の床にうつ伏せたまま、目の前に浮かぶポートレートにそっと唇を寄せた。
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