機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

文字の大きさ
88 / 125

65

しおりを挟む
 メイデンバトルに出場した後、御褒美にホルモン串を買ってもらうのはスコールの秘かな楽しみだ。
 もっとも、高効率化されたメイデンのジェネレーターは僅かな水以外の燃料を必要とせず、食事は見せかけのものに過ぎない。
 メイデンに飲食の必要などない為、貴重な食料を無為に消費しているという見方もある。
 だが、公園のベンチに主と並んで座って串をかじっていると子宮ウテルスユニットに主の精を注がれるのとも違う、不思議な幸福感に満たされるのだ。
 未熟なスコールの疑似精神は未だその感覚を言語化する事はできないが、これが何物にも代えがたい時間であると本能的に悟っている。
 しかし、今日は無粋な邪魔が入った。

「あんな見世物に出るなんて、恥ずかしくないんですか」

 メイデンバトル終了後の昼下がり、うららかというには強い日差しが照りつける公園のベンチでフリスはスコールに切り口上の言葉を投げつけた。
 半目でこちらを睨むフリスを、スコールは口内の肉片をこくんと呑みくだして見つめ返す。

「はずかしい、よ。 だけど、えるもの、おおいし」

 思うところを偽りなく答え、スコールはもう一口串をかじった。
 まだ熱々のホルモンは噛み締めると甘みのある肉汁を噴き出し、スコールの味覚センサーに強い刺激を与える。
 色違いの瞳を細めて、スコールはCPUに流れ込む複雑な味覚情報を分析した。
 ごく淡々と答えられたフリスの方は一瞬鼻白んだものの、柳眉を立てて続けた。

「得るものが多いからって、マスター以外の人の前であんな恥ずかしい姿を晒していいんですか?
 貴女にメイデンとしてのプライドはないんですか?」

 こうまで高圧的に言われては、スコールとて黙っていられない。
 もぐもぐとホルモンを噛みながら、眉根を寄せて反論する。

「ぷらいど、ある、よ。 ますたーの、やくにたつのが、めいでんのぷらいど。
 わたし、よわい、から、つよくならないと、ますたーのやくに、たてない。
 つよくなるため、なら、なんでも、する、よ」

 主の為なら己の恥にも耐え忍ぶ、これもまたメイデンの在り方と言えるがフリスには受け入れがたかった。
 なおも舌戦を挑もうとするフリスを串焼きを手にした主が制する。

「フリス、スコールとバンが納得してるなら、外野が色々言う事じゃないよ。
 余所は余所、さ」

「まあ、俺もスコールの裸を見せびらかしたい訳じゃないんだけどな……。
 実際にスコールの腕が上がってるからなあ」

 スコールの主であるバンもまた、消極的ではあるが納得している。
 こうなってはフリスもこれ以上難癖を付けるわけにはいかない。

「むぅ……」

 頬を膨らませつつも不承不承矛を収めると、主に手渡されたホルモン串を苛立たしげにかじった。
 フリスとて論理的に考えればスコールの方針にも一理ある事は理解している。
 だが、理屈とは別の反感が疑似精神の奥から湧き出し、フリスにイチャモンを付けさせていた。
 彼女自身明確に自覚していない事ではあるが、これは焦りと嫉妬によるものである。

 圧倒的な格下で取るに足らないメイデンと見なしていたスコールの思わぬ活躍と成長に対し、ハイスペックを自認するフリスはそのプライドとは裏腹に思うような戦果を上げれていない。
 どういう手段であれ最終的に勝てばいいというスタンスのフィオと違い、フリスは高性能な自分であれば華麗に鮮やかな勝利を飾って当然という自負を持っている。
 その思いを叶えられないでいるフリスはスペック以上の奮闘をし賞賛を受けているスコールに対し、無意識に嫉妬の念を抱くのであった。

「まあ、仲良くやってくれよフリスちゃん。 ダチのメイデンなんだしさ……」

 苛立たしげにガジガジとホルモン串をかじるフリスに、バンは取りなすように手を合わせた。
 次いで、視線を横に向ける。

「それで、あっちの旦那とあねさんとはどういう関係なんだ、フィオ」

 視線の先のベンチではヒュリオとスゥが並んでホルモン串を楽しんでいた。
 ヒュリオの頬に串から跳ねた汁をスゥがハンカチでそっと拭う様子は、仲睦まじい新婚夫婦のようにも見える。
 メイデンに甲斐甲斐しく世話を焼かれる様を年下の砂潜りに見られたサイボーグ兵士は、ごほんと咳払いをして姿勢を正した。

「うーん……なんというか……まあ、敵ではないんだけど……」

 友人に答えるフィオの言葉はなんとも歯切れが悪い。
 フィオ自身、ヒュリオの行動原理を今ひとつ理解し切れていないのが原因だ。
 そんなフィオにヒュリオ本人が助け船を出した。

「オレは彼のファンなんだよ、バンくん」
 
「ファ、ファン!?」

 思いも寄らない言葉にバンは素っ頓狂な声を上げた。

「ファンって……」

 フィオもまた呆れ顔になるが、ヒュリオはごく真面目な表情で続ける。

「君に宿る力は、成り損なったオレとは違う。 オレ達が本来あるべき形が君なんだと思う。
 オレの生き甲斐はそんな君の行く末を見守り、見極める事なんだ。
 これはファンと言っても過言じゃなかろう」

 胸を張って述べるヒュリオの精悍な顔には、晴れ晴れとした表情が浮かんでいる。
 自分の中から半ば以上失われた力の正体という長年の疑問への明確な手掛かりは、ヒュリオにそれ以外の全てを捨てる決意をさせる程のものであった。

「……なあ、この旦那、お前の秘密の事、知ってんの?」

 声を潜めたバンの囁きに、フィオは小さく頷いて肯定した。

「ヒュリオさんも、僕の同類らしいから」

「詳しく聞きたいなあ、その話」

 不意に掛けられた声に、仲間内で緩んでいた空気が張り詰める。
 フリスとスゥはベンチから跳ねるように立ち上がると身構え、ヒュリオの手の中には瞬間移動したような速度で大型拳銃が現れる。
 フィオもまた野獣めいた身のこなしで地を転がると、声の主に向き直った。
 後ろ手にベルトの背中側に吊した高速振動ナイフの柄を握っている。

 戦闘態勢に移行しなかったのは、わずかに舌足らずな甘い響きの声音に聞き覚えのあるバン主従だけであった。

「あんないちゃん?」

 食べきった串を口に咥えてぴこぴこ動かしながら、スコールは小さく首を傾げた。

「はいはい、タウン75のアイドル案内ちゃんだよー!
 ……怖いからそんなに睨まないで、ね? ね?」

 いつも通りのエプロンドレス姿の案内ちゃんは両手を上げると、おどけたようにひらひらと振った。
 ホールドアップというよりも、うさぎ耳のゼスチャーのようにも見える。

「タウン75所属のメイデンか。
 ……ここのガバメントに嗅ぎ回られると厄介だな、早々に始末するか?」

 エプロンに描かれた数字の75を意匠化したエンブレムを睨み、ヒュリオは冷徹に呟いた。
 フィオも同意しかけたが、制するようにバンが口を挟む。

「……そのメイデン壊すと、余計に厄介になりますぜ。
 ここのマザーだから」

「そうそう! タウン75のアイドルとは仮の姿、皆さんの生活を誕生からご臨終まで見守るマザーのナコちゃんでーす!」

 バンの言葉に被せるように、案内ちゃんことナコはくるんと回転して両手の指で頬を突く決めポーズを披露した。
 おどけるナコに対してスコールが真顔で両手指を頬に当てた以外、一同は全く反応を返さない。

「……ふざけてます?」

 一同のイラっとした気分を代表してレーザークリスタルを向けるフリスに、ナコは慌てて両手をばたばたと振った。

「のーのー! ふざけてないふざけてない!
 あいむべりーしりあす! 話を聞いて!」

「……話を聞いて欲しいなら、それなりの態度を示して下さい、タウン75のマザー。
 あんまりふざけられると、僕も相棒に攻撃指示を出したくなる」

 冷え切ったフィオの声音に、ナコはバツが悪そうに咳払いをした。

「なるだけフレンドリーに行こうと思ったんだよ、ほんとだよ。
 ……改めて、話を聞いて下さい、真の漢トゥルーガイ
 ボク達が探し続けた人」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

処理中です...