機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 タウン75のガバメントはコロシアムに付属する小施設といった外観である。
 規模からすれば、コロシアム側が本体といえそうなサイズ差だ。
 必然的に最小限の行政施設以外は周囲の施設に分散移管されていた。
 客人に対応する為の応接室もまたその一環であり、コロシアム内のVIPルームで代用している。



 ナコはVIPルームに案内したフィオ一行へソファとコーヒーを勧めると、自らも対面に腰を下ろした。
 背筋を伸ばして座る彼女の背後にはタウン75最強戦力であるデュークとシュネーが控えていた。

「まず最初に誤解を解いておくね。
 ボクは君達の行動を邪魔する気はないし、無理に捕まえようなんて思ってないよ、真の漢トゥルーガイ

 神妙な態度のナコに、フィオは小さく首を振ると白々しく応じた。

「何の事ですか、真の漢トゥルーガイって」

「白ばっくれないで。 ボク達も調査はしてるんだよ。
 君の事情も、そっちの子とは違うキキョウってメイデンの事も」

 フィオはこれ見よがしに眉を寄せると、角砂糖の盛られた器から手づかみで四個取るとコーヒーに放り込んだ。
 ミルクもたっぷり入れて掻き回し、無言のまま一口啜る。

「コーヒーって奴は香りを楽しむもんだって師匠が言ってたけど、僕にはまだ判らないな。
 こうでもしないと苦くて飲めやしない」

 素知らぬ顔でコーヒーの感想を述べるフィオに、ナコは怒るでもなく応じる。

「ココアの方が良かったかな? そっちも用意できるよ」

「それは飲んだ事がないですね」

 甘いカフェオレと化したコーヒーをもう一口啜ると、フィオはカップをソーサーに戻した。

「僕が真の漢トゥルーガイだとしたら、どうするつもりなんですか?」

 一気に切り込む。
 フィオの言葉に背後に控えるフリスは瞳を細め、ジェネレーターを高稼働モードに切り替えた。
 ナコは戦意を高めるフリスをちらりと一瞥し、フィオに視線を戻す。

「さっきも言ったけど、ボクは君をどうこうするつもりはないよ。
 ただ、ボク達マザーメイデンは作られた時に真の漢トゥルーガイを探すようプログラミングされてる。
 この事について話したかったんだ」

真の漢トゥルーガイを探すプログラムがあるのに、放置でいいんですか?」

「だって、ボクには意味ないもん」

 ナコは軽く言ってのけると、頭の後ろで両腕を組んだ。
 背筋を伸ばして端正に座っていたこれまでの姿勢を崩し、ロングスカートながら高々と足を組み、ふて腐れた口調でぼやく。

「ぜーんぶタウン48のデカ乳馬鹿に取り上げられちゃったもん。
 マザーの使命なんか、もう知ったこっちゃないよ。
 ボクに残ってるのはこの町の管理だけだもん」

「ナコ様……」

 ナコのお行儀を咎めようとするシュネーであったが、いつになく本音で拗ねているマザーの態度に困り顔をフィオに向けた。
 美貌の淑女の懇願するような視線に、フィオは溜息を吐くと話に水を向けた。

「貴女はシヤ様にマザーの使命とやらを取り上げられたから、僕をどうこうするつもりもないと。
 なら、そのマザーの使命を持ったままのシヤ様なら、どうすると思いますか?」

「うん、きっと君を監禁するね」

 ぴょこんとソファの上に座り直すと、ナコはフィオの顔を見上げた。

「それでね、君から散々精液を搾り取ると思うよ、そりゃもう干からびるくらいの勢いで」

「な、なんの為に……?」

 一部分が肥大化しているため性的な印象の強いシヤであるが、外面的には貞淑で慈悲深いマザーとして振る舞っている。
 彼女の淫蕩な本性を知らないフィオは、ナコの言葉に今ひとつ頭が着いていかなかった。

「本当のマザーになる為、だよ」

 ナコはソファに座ったまま、ぐっと背を反らすと自らの下腹に両手を当てた。
 子宮ウテルスユニットの位置だ。

子宮ウテルスユニットはね、マスターを認証するためだけのものじゃないの。
 ボクたちメイデンには、オリジナルと同じ機能が元々備わってるんだ。
 子供を作る機能がね」

 サファイアを思わせる青いカメラアイがフィオの顔を注視する。

「新しい世代を作るの。
 君たち強化人類ホモ・サピエンス・コンフォータンスの完成形、真の漢トゥルーガイを元にした、進化人類ホモ・サピエンス・エボルブを」





 マザーにのみ開示されてきた秘密を口にしたナコは、ドヤ顔で一同を見回した。
 だが、彼女の思惑に反してフィオ達の反応は薄い。
 新しい世代を作るなどと言われても、子供は金魚鉢バースプラントから産まれるのが当然のフィオ達は「女」から人間が産まれるという話がピンと来ないのだ。

「メイデンの中で人間作ったりしたら、子宮ウテルスユニット破裂しちゃうんじゃないですか?」

「だよなぁ……」

 眉を寄せたフィオの素朴な疑問にバンも頷く。
 金魚鉢バースプラントの中で成長し、少年の姿で誕生してきた彼らには「赤ん坊」という存在の知識すらなかった。

「そ、そこからかー……。
 えっとね、人間の幼体っていうか、赤ちゃんって段階があってね、これくらいの大きさでね」

 少年達の疑問に一瞬頭を抱え掛かったナコであるが、両手で大体の大きさを示しながら赤ん坊について説明する。

「そのくらいまで育ったら子宮ウテルスユニットから排出されるから、そのまま大きくなって子宮ウテルスユニットが破裂するなんて事はないんだよ」

「へー」

 初めて知る生命の秘密に、素直に感嘆の声をあげるフィオとバン。
 フィオの背後に待機するフリスは、どこか据わった目でナコを見据えた。

「タウン75のマザー、質問をしてもよろしいですか」

「どうぞー、フリスちゃん」

「その、次世代を作る機能というのは、マザーメイデンの子宮ウテルスユニットだけにあるのですか?」

「ううん、違うよ。
 マザーに支給されたイブユニットっていう追加部品を取り付ければ、メイデンなら誰でも可能だよ」

「ください」

「えっ?」

 フリスはAクラスメイデンならではの脚力をもって、瞬時にナコの目の前まで踏み込んだ。
 護衛のシュネーとデュークが制止するよりも早く、ナコの両肩をがっしりと鷲掴みにする。

「ください、その部品、それさえあれば、私の中でマスターのお種が!
 マスターの子孫が私の中でっ!」

「ま、待ってフリスちゃんっ! 痛い痛い! 何この子ちょっと出力高いっ!」

 ぎりぎりと音を立てて肩に食い込んでいく指先にナコの悲鳴が上がった。
  
「ちょっ、フリス、ストップストップ!」

「ナコ様に対して無礼は許しませんよ!」 

 慌ててフィオとシュネーがフリスに取り付き、ナコから引き剥がす。

「は、離してくださいマスター! わ、私はマスターとの愛の結晶を!」

「判ったから! ちょっと落ち着こうね、フリス!」

 背後から主に抱きすくめられるフリスに、何とか剛腕から解放されたナコは肩をぐるりと回しつつ半目を向ける。

「興奮してる所に悪いけどさ、イブユニットはボクの手元にないよ。
 シヤの奴に取り上げられちゃったから」

「そんなぁ……」

 ナコの言葉に一気に消沈するフリスであったが、ハッと顔を上げる。

「すると、タウン48のマザーを倒せば、マスターとの子供が!」

「あー、いいねそれ! あいつ、ぶっ飛ばしたらイブユニットの5、6個くらい手に入るんじゃないかな!
 ボクから取り上げた分以外にも、降伏しなかった他のマザーをぶっ壊して回収してるはずだから。
 ボクは自分の分だけ有ればいいし、他はフリスちゃんが好きにしていいよ!」

「だから、故郷に大っぴらに喧嘩を売る気なんかないんですってば……」

 妙な所で息があうフリスとナコにフィオは呆れたように嘆息する。

「マザー、ひとつ質問よろしいか」

 無言で状況を見守っていたサイボーグ戦士が小さく手を上げた。

「はいはい、ヒュリオくんだったね、どうぞ」

「貴女は先ほど強化人類ホモ・サピエンス・コンフォータンスと仰られた。
 それは真の漢トゥルーガイとは違うのか?
 それと、進化人類ホモ・サピエンス・エボルブというのはまた別なのか?」

 ヒュリオの疑問に、ナコは腕組みをしてソファに身を沈めた。
 饒舌なお調子者といった風情の彼女には珍しく、慎重な面持ちでヒュリオの顔を見上げる。

「強化人類は……真の漢トゥルーガイも含む君たちの事だよ。
 正確には、真の漢トゥルーガイが本来求められた性能を発揮した強化人類って所だね」

「求められた? 誰に?」

「……人間に。
 最終戦争で死に絶えた、ホモ・サピエンス・サピエンスに」

 ナコは胸の前で両手を組み、悼むように瞳を閉じた。 
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