機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 いつも首に引っかけている多目的ゴーグルを装着したフィオは、砂丘に身を伏せながら倍率を調整した。
 ゴーグルの望遠機能で拡大された視野に、岸壁を切り裂いたような谷間が広がる。
 タウン75の索敵部隊スカウトが発見した山賊の拠点だ。

「なるほど、防衛施設が整ってる。 山賊とは思えないくらい上等な拠点だ」

 谷の両側に設けられた監視所兼用の砲台や簡易トーチカなどの防備を見て取ったフィオは、眉を寄せて唸った。
 ゴーグルの調整つまみを弄るフィオの隣に、異様に気配の薄い小男が膝をつく。

「マザーから下手に近寄るなとは言われちゃ居ましたが、ありゃあ迂闊に寄れませんよ。
 坊ちゃん方の戦力が頼りでさあ」

「いえ、ここを探り当ててくださっただけでも有り難いです、ミヤマルさん」

 拠点の様子を観察しながら礼を述べるフィオに、砂色のシールドポンチョのフードを目深に下ろした小男はわずかに覗く口元を笑みの形に緩めた。
 砂漠に溶け込むサンドイエローの装備で全身を固めた、この男の名はミヤマル。
 デュークと共にナコが信頼を寄せる、タウン75きっての腕利き斥候スカウトである。

「しかし、シュネーの姐さんまでいらしてるとは。 マザーは随分と坊ちゃんを買ってらっしゃるご様子」

 ミヤマルは砂丘の上から背後を見下ろした。
 砂丘の影では、フィオの仲間達と共にシュネーが装備の最終点検を行っている。
 白銀の淑女は武装ユニットを背負うスコールに手を貸しながら、砂丘を振り仰いだ。

「Aクラス戦闘メイデンを抱えた優秀な砂潜りですもの、マザーも贔屓になさいますわ」

「左様で。 まあ、お仲間に元アーミーやらも居られるとなれば、さもありなんという所ですなあ」

「……ミヤマルさん、あまり詮索するものではなくてよ?」

「詮索屋に何をおっしゃる」

 ミヤマルはフードの奥で忍び笑いを漏らす。

「そういえば、コロシアムの方では姐さんが数十年ぶりにヌードを披露したとか。
 いやあ、アタシも見たかったですなあ、姐さんの艶姿!」

「ふ、普段タウンの外に出てるくせに、耳が早いですわね……」

「ははは、アタシの耳は特別製なんで」

 ミヤマルはフードの上から耳元を指先で叩いた。
 コツコツと硬質な音がする。
 フードに隠された彼の両耳はイヤーマフを思わせる形状のサイバーイヤーに置換されていた。
 さらにその両目は一体化したゴーグル型の旧式サイバーアイに換装されている。
 ミヤマルはタウン75に所属する、唯一の索敵型サイボーグであった。

「まったくもう、グラスさんに言いつけますわよ?」

「よそのメイデンの裸を見たぐらいで怒るほど、アタシの嫁は焼き餅焼きじゃありやせんよ。
 それにタウンで一休みする時にゃ、姐さんの舞台を見に行くのはいつもの事でさぁ」

「それならグラスさんもメイデンバトルに出場させればいいのに」

「嫁は恥ずかしがり屋なんですよ」

 ミヤマルの相棒、主と同じく索敵型メイデンのグラスは移動中の山賊部隊を追跡し彼らの目的地を探っており不在である。

「それでそちらが姐さんと互角にやりあったニューフェースで、坊ちゃんの相棒と……」

 ミヤマルはフリスに機械の視線を移す。
 武装ユニットの装備を終えたフリスは、焦点の判りづらいゴーグルアイを向けられて居心地悪そうに身じろぎした。

「な、なんですか?」

「うんうん、こりゃあ別嬪さんだ。 いやあ、姐さんとの絡みは是非とも見たかった!」

 赤いゴーグルアイの下で鼻を伸ばしたミヤマルはスケベ親父丸出しの口調で戯ける。

「白銀の淑女と翡翠の乙女の濃厚な一幕! 今回のボーナス代わりにマザーから録画データを頂戴しましょうかねえ」

「や、やめてください! セクハラですよ!」

「やあ、こりゃまた初々しい!」

 眉を吊り上げるフリスの反応は、ミヤマルは楽しませるばかりだ。

「もう! マスター、何か言ってやってください!」

 フリスの苦情にフィオは応えず、砂丘の上から山賊の拠点を見下ろしている。
 砂を蹴ったフリスは、スラスターを軽く吹かして跳躍すると主の隣に着地した。

「マスター?」

「……ああ、ごめん、フリス」

 ゴーグルを額に上げたフィオは、砂を払って立ち上がる。
 主の動作にわずかなぎこちなさを感じたフリスは、彼の腕を取った。

「マスター、あと少しです。 どうか逸らないで」 

「判ってるさ、フリス。 ありがとう」

 気遣う相棒を抱き返す少年の姿に、小男の斥候はフードの下の頬を緩める。
 和んだ空気が流れた所で、最後のメンバーが準備を完了した。

「皆さん、お待たせしました」

 砂丘の影に駐められた彼らの車両のうち、ヒュリオのハーフトラックのコンテナ部から淑やかな声と共にスゥが現れる。
 普段、装甲ブーツのみで行動する事が多い彼女であるが、今は専用の武装ユニットを装着していた。
 大型の翼を装備した、飛翔特化のユニットである。
 兵器としてのメイデンは本来陸戦型であり、飛行可能なメイデンであってもスラスターの推力に依存した力任せの飛翔に過ぎない。
 ジェネレーターへの負荷も大きいため、Aクラスメイデンであっても飛行時間は短時間に限られる。
 スゥはその点に対応した試作メイデンであった。
 空力特性を考慮されたデザインの武装ユニットは、スゥに長時間の超音速巡航も可能な抜きん出た飛行能力を与えている。
 積載量重視の本体の設計も相まって大量の武装を装備可能な彼女は、全身のハードポイントに投下型爆弾を括り付け即席爆撃機と化していた。

「す、凄いスね……」

 全身弾薬の塊のようなスゥの状態に、バンは目を丸くした。
 相棒の身支度を手伝ったヒュリオはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「堅牢な拠点相手にチマチマやっていられないからな、爆撃で吹き飛ばすに限る。
 もっとも、これでタウン48から持ち出した弾薬は品切れだが」

「すみません、ヒュリオさん」

 頭を下げるフィオにヒュリオは小さく首を振った。

「武器弾薬なんて消耗品だ、気にする事はないよ。
 それに使った分はナコ様にツケておくさ」

 傷の走る左目を閉じて精悍な顔に似合わないおどけたウィンクを飛ばすヒュリオに、フィオは改めて頭を下げた。
 顔を上げると、決然と告げる。

「それでは、これより山賊の拠点に攻撃を開始します!」





 ファーストアタックはスゥによる爆撃。
 拠点内で爆炎が次々に閃き黒煙が立ち上る様に、シュネーは黄金の瞳を細める。
 彼女のカメラアイは、爆撃を敢行したスゥが速度を上げて離脱していく様子を捉えていた。
 長時間巡航能力と高い機動性を併せ持つスゥではあるが、今は爆装のため機体重量が大幅に上がっている。
 仮想敵であるAクラスメイデン、キキョウとのドッグファイトになった場合、一方的に敗北しかねない。
 追撃に全く色気を出さず的確に自分の仕事をこなして離脱していく姿に、職人気質を感じシュネーは微笑んだ。

「やはり彼女ともメイデンバトルで一戦交えてみたい所ですわね。
 あの大人しい方がどんな顔で悶えてくださるのやら」

 呟きながら、シュネーもまた自分の仕事を実行する。
 背に背負った一対の二連装砲、計四門が次々に火を噴く。
 崖に設置された砲台兼用の監視所を打ち砕くと、そのまま火力制圧に移る。
 その秀麗な眉が顰められた。

「あのたち……!」

 黒煙に包まれた敵拠点へ向けて、地表すれすれを突っ込んでいくフリスと、四つん這いでそれを追うスコール。
 シュネーの制圧砲撃終了の後に切り込む手筈であったのに、タイミングが早い。

「もう、逸っているのは貴女の方でしょう、フリスさん!」

 シュネーは砲撃を切り上げると、ホバーとスラスターを吹かして若いメイデン達の後を追う。


 

「フリス! まだはやいよ! フリス!」

 スコールの声をフリスは黙殺した。
 手筈を無視しているのは百も承知、だが、このままではスゥとシュネーだけで片がついてしまいそうではないか。
 主の目的であるキキョウがここに居るかどうかまだ判らないが、爆撃と砲撃でそのまま無力化されてしまう恐れがある。
 そうなってしまってはフリスがキキョウを叩きのめし、どちらが主のメイデンに相応しいかを示すという秘かな目的が達せれなくなってしまう。
 キキョウが無事な内に発見し、倒さなくてはならない。

 地表すれすれを飛翔しながら、フリスはちらりと後方に視線を飛ばした。
 フィオ、バン、ヒュリオ、ミヤマルの四人は、後方の砂丘の影で車両と共に待機している。
 爆撃と砲撃が乱れ撃つような戦場に生身で突っ込む訳にはいかない。
 彼らが踏み込むのは大勢が決してからだ。

 フィオはキキョウが居るのならば、この程度の攻撃で無力化されはしないと確信していた。
 その無条件の信頼はフリスにとって腹立たしいものだ。
 
「ですが、私が上であると示せば……っ!」

 黒煙を切り裂いて飛んできた砲弾に、フリスは咄嗟に機体をロールさせて回避を行う。

「外したか、よく避ける!」

 耳障りの良いアルトと共に、銀の放熱髪を靡かせた褐色肌のメイデンが姿を現す。
 敵メイデンの出現にフリスは眉を吊り上げた。

「貴女がキキョウですか!?」

「キキョウ? 違う、私はサンクチュアリだ!」

 シュネーにも匹敵する重武装を担いだ明らかに高性能なメイデンは、一喝と共に砲撃を開始した。 
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