機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 スゥの爆撃が開始された時、キキョウはヴァトーの部屋に居た。
 ヴァトーお手製の巨大ベッドの端に腰掛け、CPUの稼働率を極端に落とした瞑想のような半待機状態だ。
 連れ回すヴァトーが不在な今、キキョウは部屋に籠もりきりであった。
 緊急時の防衛以外に彼女に割り振られた仕事はないし、そもそもフォート内を出歩いていれば山賊達にストリップなどのショーをねだられるのだ。
 山賊達もヴァトーの私室までは押しかけて来ないので、この部屋はある意味安全地帯であった。
 もっとも、一人で居ればそれはそれで余計な事に思いを馳せてしまうのだが。

 ズンと鈍い振動が部屋を揺らし、暗く沈んでいたキキョウの紫水晶アメジストの瞳に光が灯る。

「……爆発?」

 経験豊富なキキョウは類似の状況を知っていた。
 すぐさま扉に飛びついて開けると、至近で炸裂した爆炎と熱風が吹き付けてくる。

「くっ!?」

 爆風から遠ざかろうと下がっても、室内に戻ってはどん詰まりだ。
 両腕を交差させて顔面を庇いつつ、咄嗟の判断で横っ飛びに跳ねる。
 爆炎を振り切り、片膝をついて着地したキキョウは空を見上げた。

「爆撃ですか!」

 爆音、怒号、悲鳴に混じってジェットエンジンの奏でる高音を聴覚センサーに捉えるキキョウであったが、武装ユニットを背負っていない状態では飛び去っていく攻撃者に追いすがることもできない。

「反復攻撃はない……」

 爆撃メイデンの航跡を読み取り、キキョウは立ち上がった。
 陸戦の追撃が来るのは明らかだが、僅かな時間はある。
 今のうちに武装ユニットを装備しなくては。

 駆け出そうとしたキキョウであったが、苦しげな呻きを耳にして足を止めた。
 爆風で倒壊したプレハブの残骸に両手を掛けると、一息に持ち上げる。

「ひいぃ……」

 拗くれたように左腕を歪めた山賊が半泣きで這い出てくる。

「キ、キキョウさん、何があったんスか」

 へし折れた左腕を庇いながら尋ねる山賊に、キキョウは小さく首を振った。

「襲撃です、恐らく。 足は動きますか?」

「あ、は、はい」

「ここは危険です、倉庫……いえ、ガバメント跡に避難してください」

 普段レックスが寝起きしているガバメント跡は岸壁に刻み込まれるように造られている。
 チャチなプレハブ小屋に比べれば段違いに堅牢な建築物だ。

「は、はい! あの、キキョウさんは」

「私は……」

 キキョウは眉を寄せ逡巡した。
 彼女の聴覚センサーはまだ複数の呻き声を捉えている。
 燃えさかる建物はともかく、倒壊しただけの建物ならば彼女の重機並の腕力を用いれば救助も可能だ。
 だが、戦術的に考えて敵の追撃が間近に迫っているはずであり、何よりも主から命じられたキキョウの任務はフォートの防衛だ。
 救助ではない。

「私は、迎撃に当たります!」

 キキョウは周囲の呻き声を振り切るように、武装ユニットを格納した倉庫へと走り始めた。



 エメラルドのレーザーが宙を裂き、褐色のメイデンに殺到する。

「効かんっ!」

 レーザーはサンクチュアリと名乗ったメイデンが掲げるシールドアームに弾かれ霧散した。
 その挙動の早さにスコールは目を見張る。
 背後に背負った巨大な武装ユニットがシュネーを思わせる重火力型メイデンでありながら、強力なアクチュエーターで軽快な機動性を確保している。
 重くて、早い。
 単純明快なコンセプトゆえに強力なメイデンだ。
 その群を抜いた長身といい、タウンの規格外で制作された採算度外視のワンオフ機に違いない。
 スコールなどとは比べるべくもないハイスペック機だ、矢面に立てば圧倒的な速度と火力で瞬殺されるのは目に見えている。
 真っ正面からぶつかるのは得策ではないと判断するスコールだったが、僚機の方は彼女の考えなど頓着せず猛攻を仕掛けていた。

「こんのぉぉっ!」

 フリスは六門のレーザークリスタルから矢継ぎ早に閃光を撃ち放つ。
 単体では全力射撃を行うと過熱してしまう火力偏重設計のフリスだが、追加放熱器でもある武装ユニットを背負っていればその弱点は消える。

 降り注ぐ六条のレーザーに対し、サンクチュアリの背後で武装ユニットのコンテナ部が展開した。
 最初から展開していた一本に加えて出現したシールドアームは計六本、サンクチュアリ本体を中心に円状に構えレーザーを易々と弾き飛ばす。
 さらに武器を備え姿勢制御スラスターを持つマルチブーストアームが六本。
 十二本の腕を広げた怪異な姿に、フリスは蒼玉サファイアの瞳を見開いた。

「蟹ですか、貴女は!」

「はっ、そっちは鳥のようだな! 毛の一本まで毟ってやるぞ、襲撃者!」

 爆発したかのようにサンクチュアリの火力が炸裂した。
 散弾のようなクラスター型ロケットランチャーと連装式120㎜砲弾の弾幕を、フリスは碧の放熱髪を翻して掻い潜る。
 とっさに砂地に伏せて弾幕の暴風をやり過ごしたスコールは、顔を上げると叫んだ。

「フリス! シュネーねえさまをまとうよ、フリス!」

「こんな相手! 私だけで十分ですっ!」

 スコールの言葉に、フリスは噛みつくように応える。
 完全に意固地になっている僚機にスコールも覚悟を決めた。
 四足の走行球グライドスフィアを駆使して側面に回り込みつつ、重機関銃で援護射撃を行う。
 しかし、サンクチュアリはスコールに対して一瞥を投げることすらなかった。
 褐色の肌に12.7㎜弾が着弾するも、まったく無頓着でフリスへの攻撃を続行している。

「なっ……」

 重機関銃の直撃を受けたにも関わらずサンクチュアリには傷一つない。
 圧倒的なナノスキンコートの性能にスコールは絶句する。
 スコールの火器は一本だけの武装アームに搭載した重機関銃のみ。
 これが通じないとなれば、両手のブレイククローを叩き込むしかないが、大火力をぶちまけているサンクチュアリに近寄れるとも思えない。
 コロシアムでスコールがシュネーに挑み続けていられるのは、チャンピオンがあくまで接近戦武器での戦闘に限っているからなのだ。
 フル装備のAクラスメイデンとの火力戦になれば、スコールに為す術はない。

「くっ……」

 唇を噛みながらもスコールは射撃を続行する。
 少しでも気を逸らしてフリスを支援しようという心積もりだ。
 スコールの中でフリスの評価は正直高くない。
 カタログスペックはともかく、攻撃的に過ぎる気性と蓄積経験の少なさはマイナスポイントだ。
 同じAクラスメイデンでも、シュネーほど当てになると考えていない。
 元が戦闘用ガンマペットだけに、戦闘に関してはシビアな判断のできるスコールであった。
 
 サンクチュアリは広げた六枚のシールドでフリスのレーザーを受け止めながら、足を止めて砲撃を行っている。
 真っ向から叩き合う、ストロングスタイルだ。
 シールドのないフリスは持ち前の機動性で回避し続けながらもレーザーの雨を絶やさない。
 採算度外視で造られた二体のメイデンの戦いは正面切っての殴り合い染みていく。
 サンクチュアリを中心に円を描くような軌道で援護射撃を行っていたスコールは、山賊の砦から増援のメイデンが現れたのに気付いた。

「キキョウねえさま!」

 黒いメイデンスーツのキキョウが、軽機関銃を両脇に構えて低空を飛翔してくる。
 スコールの声に鋭く反応したのは、キキョウ本人ではなく僚機の方だった。

「そっちかぁっ!」

 蒼玉サファイアの瞳を爛々と光らせたフリスは、一声叫ぶと同時にスラスターを全力で吹かして急旋回した。
 サンクチュアリとの砲撃戦を放り出し、キキョウに向かって一直線で飛翔する。

「何っ!?」

「ちょっ、フリスぅっ!?」

 余りの行動に、撃ち合っていた当人であるサンクチュアリとスコールは敵味方でありながら同時に絶句した。
 だが、敵手の大きな隙を見逃すほどサンクチュアリも甘くはない。
 一瞬の驚愕から冷めると同時にフリスの背に向けて照準を合わせる。

「させないっ!」

 スコールはサンクチュアリの狙いを逸らそうと火線を集中させる。
 しかし、サンクチュアリはスコールの銃撃を完全に無視すると、腰を落とした全力射撃体勢に移った。
 その肩口で砲弾が弾ける。

「ぐあっ!?」

 よろけた弾みに、サンクチュアリが放った砲撃は明後日の方向へと飛び去った。
 
「まったく、あのと来たら……。 スコールさん、後でフリスさんにはたっぷりお仕置きしますよ!」

「シュネーねえさま!」

 後方からようやく追いついてきたシュネーが参戦する。
 サンクチュアリはナノスキンコートが破損し火花を散らす左肩を庇いながら、新たに現れた重火力メイデンに向き直った。 
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