機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 日課の早朝パトロール中のケディン巡査長は、露店通りストールストリートに鳴り響くエンジンの爆音に眉を跳ね上げた。
 マザーの統制の下、平和なタウン市街ではあるが調子に乗ったはみ出し者や跳ねっ返りといった輩は居る。
 この手の若者の暴走を時になだめ、時に叱りつけるのもまた警邏隊の職務のひとつであるが、今は時間が悪い。
 まだ夜も明けきらず寝ている者も多い時間にエンジン全開で走り回るのは、余りにも市民シチズンの皆さんに迷惑だ。
 巡査長は肩に担いだ暴徒鎮圧用ライアットショットガンを握ると、露店通りストールストリートに飛び出した。

「こらぁ! 何をやっとるかぁ!」

 一喝した所で、錆の浮いた車両を駆る一団の異様さに気付く。
 砂埃にまみれたラフな格好は砂潜りサンドモール弾薬虫アモワームなどヤクザな商売に憧れるアウトロー気取り風であったが、それにしては汚れ具合が板に付きすぎていた。
 タウンの住人であれば、底辺層であっても最低限の文化的な生活を送る事ができる。
 硬貨ひとつで汚れを落とせる安価なコインシャワーはチンピラ砂潜りサンドモールですら常用しており、ここまで年季の入った汚れっぷりの市民シチズンなどそうはいない。

「まさかこいつら、外の……?」

 暴徒鎮圧用ライアットショットガンを構えながら不審げに呟く初老の警官へ、暴走車両の群れから銃口が向けられる。
 危険に総毛立つも、全盛期をとうに過ぎ去った体は咄嗟に動かない。
 そもそも彼はベテランの警官であるが、警邏隊の任務は元より平和なタウン内の「お巡りさん役」に過ぎず、銃撃戦など数えるほどしか行った経験がなかった。
 敵か、あるいは疑わしい相手にはとりあえず銃口で対応するタウン外のアウトローとは、引き金の軽さが違う。

「マスター!」

「のわっ!?」

 ケディンの相棒、Cクラス警邏パトメイデンのアンズが横から飛びつくと諸共に転がって、硬直した主を火線から退避させた。
 アンズの放熱髪をかすめて雑多な銃器の弾丸が飛びすぎる。
 暴走車両の一団はケディンを仕留め損ねた事を意に介さないかのように、下卑た笑いと叫びを上げながら突っ走っていった。
 主ごと路地まで転がり込み、遮蔽を確保したアンズはようやくマスターの顔を覗き込んだ。

「ご無事ですかぁ、マスター」

「あ、ああ、あんがとよ、アンズ」

 ごま塩頭を振りながらケディンは身を起こす。
 回転で酔っ払った三半規管をなだめつつ、走り去った一団の後ろ姿を睨んだ。

「あいつら、暴走族気取りの悪ガキじゃねえぞ。
 まさか山賊をタウン内に入れちまったのか? ゲートのアーミーどもは何してやがんだ」

 毒づきながら左手首の多目的端末を操作し、警邏隊本部へコールを送る。
 繋がらない。

「なんだ? アンズ、お前の方でも通信掛けてくれ」
 
 ゆるふわとした雰囲気の警邏メイデンは主の命に小さく頷いてとリンク通信を発信するが、すぐにその表情は曇った。

「マスター、こちらより上の権限が通信帯を占有してて、繋がりませぇん」

「はあ? 何が起きてんだ?」

 ケディンは無精髭の浮いた顎を撫でながら首を捻る。

「上の連中が情報を独占してる? 俺らみたいな警邏隊の下っ端なんぞにゃ関わらせたくねえ事態ってか?」

 警邏隊より上の権限を持つとなると、一番に思い浮かぶのはアーミーだ。
 アーミーの連中は、山賊をタウン内に入れてしまった失態を隠蔽しようとしているのだろうか。
 元よりアーミーに対して隔意を持つケディンの不信感に満ちた勘ぐりは、一面では当たっていた。
 緊急事態ゆえに情報のセキュリティランクを上昇させ、アーミーレベルでしか警備用回線にアクセスできなくなっている。
 人員の能力、装備、職務意識が低い警邏隊を特級の危険事態に関わらせまいとするマザー自身による緊急判断であったが、それ自体がマザーが警邏隊に向ける信頼の低さを明示していた。

 だが、そんな警邏隊にあっても、タウンの守護者たらんと奮闘する者はいる。
 ケディンは無言で手にした暴徒鎮圧用ライアットショットガンのチューブマガジンを開くと、装填された非殺傷用ゴム弾を排出した。
 弾薬ポーチから念のために持ち歩いている実弾、12ゲージのショットシェルを取り出すと、一発ずつマガジンに込めていく。

「あの野郎ども、何の躊躇もなく撃ってきやがった。
 あんなのに街中で好き勝手させて堪るかよ。
 アンズ、お前も実弾を装填しておけ」

「は、はい」

 アンズは背負った警邏用乙種装備の武装アームに接続されたサブマシンガンの弾薬を交換する。
 ショットガンのチューブマガジンをセットしたケディンは、相棒の顔が妙に火照っている事に気付いた。

「どうした? なんか調子わりぃのか、アンズ」

「い、いえ、そのう……。 なんだか変にドキドキして……」

 アンズは言葉を濁しながら、モジモジと太腿を擦り合わせた。
 スカイブルーとホワイトのツートンカラーのメイデンスーツは、股間部に潤滑液愛液の染みが滲んでいる。

「おい、何サカってんだ、お前」

 流石に呆れ声を出すケディンに、アンズは真っ赤になって俯いた。

「ご、ごめんなさいぃ……」

「まあ最近、ご無沙汰だったけどよぅ……」

 若い頃に比べて、最近のケディンは「立ち」が悪くなってしまっている。
 控えめな性格ゆえに文句をつける事の無いアンズだが、内心不満に思っていたのだろうか。
 何にせよ、緊急事態を迎えた勤務中にあるまじき状態だ。

「何とか我慢できねえか?」

「は、はいぃ、我慢しますぅ……。
 おかしいんです、急にジェネレーターが高稼働になって、子宮ウテルスユニットが熱くなって。
 こんな感じ、はじめてで、変なんですぅ……」

「ふーむ……?」

 太腿を擦り合わせながらボソボソと言いつのるアンズに、ケディンは首を捻った。
 だが、メイデン本人にも不明な不調の原因が彼に判るはずもない。
 ケディンは判らない疑問について悩んで時間を無駄にせず、一端棚上げにした。

「まあ、何とか堪えてくれ。
 帰ったら久しぶりにヤるとしようや」

「は、はい!」

「まあ、今日は定時じゃ終わりそうにねぇがなぁ……」

 銃器に実弾を装填し終えた主従は、山賊の車両を追って露店通りストールストリートを走り始める。

 定時上がりを諦めたケディンであるが、この騒動が残業どころでは済まない事態になっていくとはまだ認識していなかった。
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