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バルファ旅行記すりー前編
すりー前編17
しおりを挟む「ラルクスがいないといいな」
すぐに言えたのはそんな言葉。
「そうだな。他の幻獣には悪いが、そう思ってしまう」
「ラルクスもけっこう大変だな。ジェスは…。シバルに拾われてよかった…。そうでなかったら…」
「野良ラルクスになってただろうな」
「…は?」
俺はもっとすごく暗いことを想像したんだが、野良? たしかに猫も犬も捨てられると野良になるんだからラルクスでも…、なるのか?!
「なんだそれ。どんなラルクスになるんだ」
「大人しいラルクスがいろんな奴が敵に見えてエサ、いや、食料の為に人から奪ったりする」
エサを言い換えたのは触れないでおこう。
「不良だな」
「そうだ。そうして悪ラルクスになる」
「悪ラルクス…。可愛い気もしてしまう。とはいえそんなに悪さしないよな?」
「可愛くても幻獣だ。それなりに人へ害をなすことはできる。とくに力の強いラルクスとなると厄介だ」
「そういえば、力の個体差があるんだったな。というか、その言い方からするに、そんな話、実際聞いたことがあるのか?」
「………それはっ」
複雑そうな顔になる誠那。そんなに嫌な話なのか? 無理に話さなくてもいいぞ。
「身内の話だ…」
「ああ…。え?! セイナの身内に悪ラルクスがいたのかっ」
誠那の身内ってことはそりゃあ力の強いラルクスだろうな。それが悪ラルクスになったのか。
「ジェスと同じでな。小さい頃にさらわれ、お嬢様の愛玩動物だったんだ。しかし、そのお嬢様が新しく来た幻獣にばかりかまうようになって、父は拗ねてちょっとその新人幻獣に噛みついたらあっさり捨てられたそうだ。殺る気はなかったと言っている」
「父?!」
え。聞き間違いか?!
「…そうだ。父の話だ」
「マジか…」
悪ラルクスが誠那の父親とか………色々あるんだな。誠那は生粋の王族の家系みたいな感じの純粋な血だとか思ってたんだが。
「このさいだから、ぶっちゃけると、俺の母は現在ラルクスの長をしている」
「そういえば、長の息子だったな。そっちのほうだったんだな」
つい長とか王とかは男を思い浮かべてしまう。
「その母は長の1人娘だったんだ」
「ん。やっぱりいい血統ではあるんだな。それがどうして悪ラルクスが父に?」
「母は…。豪快というか、長の娘であること関係なく、力は一族で一番だったから、次代長に早くに確定するような人だった」
「ふんふん」
「で、母はある日、遊びに行った街で悪い連中がいると聞いてな。普段なら人にそこまで深く関わらないのに、その時は気になって会いに行ったんだ」
「うん…。次代長確定ほどの実力だからって、娘が街の悪人に会いに行くって…。1人で、か」
「そうだ。母は護衛なんてふりきってふらふらと適当にどっか行く人なんだ」
「ん? その話の流れからするに、街の悪はお前の父の悪ラルクスか?」
「父もかなりの力を持っていた。父を知る人は父が捨てられたと聞いたらもったいないことをすると言うくらいな。そんな父だから、当然人の姿もある。飼われていた時はびっくりされるんじゃないかと隠してたらしいが、街中でラルクスの姿だと面倒ばかりだから人の姿だったんだ。そうして街の不良を束ねるリーダーになっていたらしい」
「それで?」
もう誠那の親の話だとか関係なく興味津々で前のめりで話を聞く。
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