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幸福と、(現代)
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大通りから一つずれた道にこぢんまりとした喫茶店がある。
それなりの年月がたってはいるが、だからといってアンティークな雰囲気がとくにあるわけでもない喫茶店。
悪い意味での古さもそれほど感じず清潔感があった。
そんな喫茶店に男が1人入る。
店内には10歳くらいの女の子が1人いた。
「あ!いらっしゃいマサキさん」
女の子は来店した男を雅樹と呼び、満面の笑顔を見せた。
「こんにちは。サクラちゃん。ユウヤは?」
「掃除しにいってる」
「じゃあ、サクラちゃんがお留守番なのか。えらいな」
雅樹が桜の頭を撫でると嬉しそうに笑った。カウンターに座る桜の横に雅樹も座った。
そして2人が楽しく話していれば店の奥から1人の男が現れる。雅樹と同じような年代だ。
「あれ?マサキ。どうしたの?」
「なんだよ。つれない言い方だな。メシ食いに来たんだぞ?」
「ははっ。わかった。なにがいい?」
男は喫茶店の主の優弥だ。桜の父親である。
雅樹は和風パスタを頼み、、優弥はそれを2人の前で作った。
「はい。お待たせ」
「おう。うまそうだ」
和風パスタを勢いよく食べていく雅樹を桜は面白そうに眺めた。
「で?他になにか用があるんだろ」
食べ終えた雅樹に優弥が声をかけた。雅樹はよくここに来るが、だいたい事前に連絡があるので何かあったのではと思ったのだ。
「あー、わかったか。…いや、情報が入ったんだ。また、うるさく言ってきてるんだろ?」
「うわ、どっからの情報だよ。…んー、たいしたことはないよ?」
優弥は妻がいたが、数年前に事故で亡くなった。その妻の早由はけっこうやり手でかなりの額を稼いでいた上に親の遺産も持っていたことで、親戚が遺産を優弥から取ろうと脅しに近いことをしてきたことがあった。
それを親友である雅樹が助けた。弁護士相手は不利だと理解したのか静かになってくれた。
それがまた最近お金でもいるのかしつこく会いにくる。
「遠慮すんな。俺にたっぷり頼れ、俺がそんな奴らぶっとばすから」
「いやいや…」
「お願いマサキさん。あの人達ひどいんだよ!パパをいじめるの」
「おう。大丈夫だ」
「あー…。サクラが情報提供したのか…」
「サクラちゃんだって、ユウヤを守りたいんだよなー」
「うん!」
雅樹が桜の頭をわしゃわしゃ撫でれば、桜は元気よく返事をした。
元気がいいのはいいが、危ないことはしないでほしい優弥は複雑に笑みを浮かべる。
「とにかく頼れ。しばらくは何度もここに来るからな」
「そこまでは…」
「わー、ホント?サクラと遊んでくれる?」
「おー、もちろん」
「サ、サクラ…」
母親がいないからかもしれないが、桜は雅樹にすこぶる懐いている。雅樹のほうもずいぶん桜に甘く、一緒に遊ぶことが多い。
「そういうことで今日は泊まっていってもいいか?」
喫茶店のすぐ近くのマンションに優弥と桜は住んでいる。
「いいよ!」
「よし!」
桜が了承してしまい、優弥は口も挟めない。苦笑しながらしかたないなと思う。しかし、次の言葉に慌てる。
「というか、マサキさんうちに住めばいいのに」
「サクラ?!なに言って…」
いくら仲良しだからってそれはないだろう。他人なのだ。
「おう。俺もそう思って言ったことあるんだが、断られた」
「えーー。なんでー」
「だよなー」
「マサキ…、いくらなんでもそこまで甘えることはできないだろ」
拒否する優弥だが、その言葉に雅樹の目が光る。
「へー、迷惑じゃないんだな?」
「そ、そりゃ…、別に…」
自分の言った言葉が間違ったのだと気づくが、嘘ではない。
「だったら、一緒に暮らそう。俺は2人は家族だって思ってるからな」
満足そうに雅樹は言う。
「あのな…。マサキもいい歳なんだし、この先自分の家族を持つだろ。その前に重荷を背負ってどうする」
呆れたように雅樹を見る優弥。
「あ?いいんだよ。つか、言っただろ。お前らが家族だって思ってるんだ」
「家族なら一緒に住むのが当然だよね!」
「なあー?」
桜も味方では反論しようがない。
「はあ…。知らないからな。ずっと独り身でも」
といってみた優弥だが、雅樹はかなりの美形で仕事もうまくいってるのだから、いくらでも相手はいると考えている。
優弥が観念したと分かった雅樹は表情を緩めた。
「やった!やったぞサクラ!今から家族だ!」
さっそく桜を呼び捨てする雅樹に若干イラッとした優弥。
「わーい!マサキパパさん今日はお祝いだね!」
桜もパパ呼びなんてして、さらに優弥はイラッとする。
だけど、子供のようにはしゃぐ雅樹と手を上げて喜ぶ桜にまあいいかと諦めた。にぎやかになりそうなのは楽しそうだ。2人を見て優弥は目を細めた。
笑顔で幸せそうな雅樹。この先もずっと、たぶん、優弥の近くにいつづけるだろう。
それは幸せなことで、心がほっこりとする。
だけれど、ほんの少し切ない。
雅樹が側にいることは、ほんの少しだけ切なくなるのだ。
優弥と雅樹と早由は高校の時に知り合って、3人は気があいよく一緒にいた。
大学も同じにして、その最後の年に、優弥は早由から告白された。
美しい女性だった早由がきれいな笑顔でかっこよく告白してきて、断れる男がいると思えない。
早由のことは確かに好きだった優弥だけど、実は雅樹が一番好きだった。
男同士で付き合えると思っていない優弥は、雅樹とどうこうなんて考えてなかったし、雅樹は別の人が好きだった。
半分流された感じだが、早由と結婚した優弥は幸せに暮らした。
雅樹とは少し疎遠になっていたが、こうして再び近くに来るようになって、優弥は雅樹への想いが蘇っていた。
それは複雑な想い。
こうして雅樹がよく来る理由も少し疎遠になっていた理由も、雅樹が早由を好きだったから。
雅樹に早由をと考えもしたが、早由がたくましくて無理だった。
雅樹は今でも早由が好きだから、優弥と桜の側にいて守ろうとしているのだ。
それはほんの少し切なくなる。
けれど目の前で喜ぶ姿を見ているのは幸せな気分だ。
ほんの少し切ないけれど、訪れた幸福に優弥は笑った。
(その後は、ものすごく遅い速度でうまくいくんじゃないかな)
20130601
それなりの年月がたってはいるが、だからといってアンティークな雰囲気がとくにあるわけでもない喫茶店。
悪い意味での古さもそれほど感じず清潔感があった。
そんな喫茶店に男が1人入る。
店内には10歳くらいの女の子が1人いた。
「あ!いらっしゃいマサキさん」
女の子は来店した男を雅樹と呼び、満面の笑顔を見せた。
「こんにちは。サクラちゃん。ユウヤは?」
「掃除しにいってる」
「じゃあ、サクラちゃんがお留守番なのか。えらいな」
雅樹が桜の頭を撫でると嬉しそうに笑った。カウンターに座る桜の横に雅樹も座った。
そして2人が楽しく話していれば店の奥から1人の男が現れる。雅樹と同じような年代だ。
「あれ?マサキ。どうしたの?」
「なんだよ。つれない言い方だな。メシ食いに来たんだぞ?」
「ははっ。わかった。なにがいい?」
男は喫茶店の主の優弥だ。桜の父親である。
雅樹は和風パスタを頼み、、優弥はそれを2人の前で作った。
「はい。お待たせ」
「おう。うまそうだ」
和風パスタを勢いよく食べていく雅樹を桜は面白そうに眺めた。
「で?他になにか用があるんだろ」
食べ終えた雅樹に優弥が声をかけた。雅樹はよくここに来るが、だいたい事前に連絡があるので何かあったのではと思ったのだ。
「あー、わかったか。…いや、情報が入ったんだ。また、うるさく言ってきてるんだろ?」
「うわ、どっからの情報だよ。…んー、たいしたことはないよ?」
優弥は妻がいたが、数年前に事故で亡くなった。その妻の早由はけっこうやり手でかなりの額を稼いでいた上に親の遺産も持っていたことで、親戚が遺産を優弥から取ろうと脅しに近いことをしてきたことがあった。
それを親友である雅樹が助けた。弁護士相手は不利だと理解したのか静かになってくれた。
それがまた最近お金でもいるのかしつこく会いにくる。
「遠慮すんな。俺にたっぷり頼れ、俺がそんな奴らぶっとばすから」
「いやいや…」
「お願いマサキさん。あの人達ひどいんだよ!パパをいじめるの」
「おう。大丈夫だ」
「あー…。サクラが情報提供したのか…」
「サクラちゃんだって、ユウヤを守りたいんだよなー」
「うん!」
雅樹が桜の頭をわしゃわしゃ撫でれば、桜は元気よく返事をした。
元気がいいのはいいが、危ないことはしないでほしい優弥は複雑に笑みを浮かべる。
「とにかく頼れ。しばらくは何度もここに来るからな」
「そこまでは…」
「わー、ホント?サクラと遊んでくれる?」
「おー、もちろん」
「サ、サクラ…」
母親がいないからかもしれないが、桜は雅樹にすこぶる懐いている。雅樹のほうもずいぶん桜に甘く、一緒に遊ぶことが多い。
「そういうことで今日は泊まっていってもいいか?」
喫茶店のすぐ近くのマンションに優弥と桜は住んでいる。
「いいよ!」
「よし!」
桜が了承してしまい、優弥は口も挟めない。苦笑しながらしかたないなと思う。しかし、次の言葉に慌てる。
「というか、マサキさんうちに住めばいいのに」
「サクラ?!なに言って…」
いくら仲良しだからってそれはないだろう。他人なのだ。
「おう。俺もそう思って言ったことあるんだが、断られた」
「えーー。なんでー」
「だよなー」
「マサキ…、いくらなんでもそこまで甘えることはできないだろ」
拒否する優弥だが、その言葉に雅樹の目が光る。
「へー、迷惑じゃないんだな?」
「そ、そりゃ…、別に…」
自分の言った言葉が間違ったのだと気づくが、嘘ではない。
「だったら、一緒に暮らそう。俺は2人は家族だって思ってるからな」
満足そうに雅樹は言う。
「あのな…。マサキもいい歳なんだし、この先自分の家族を持つだろ。その前に重荷を背負ってどうする」
呆れたように雅樹を見る優弥。
「あ?いいんだよ。つか、言っただろ。お前らが家族だって思ってるんだ」
「家族なら一緒に住むのが当然だよね!」
「なあー?」
桜も味方では反論しようがない。
「はあ…。知らないからな。ずっと独り身でも」
といってみた優弥だが、雅樹はかなりの美形で仕事もうまくいってるのだから、いくらでも相手はいると考えている。
優弥が観念したと分かった雅樹は表情を緩めた。
「やった!やったぞサクラ!今から家族だ!」
さっそく桜を呼び捨てする雅樹に若干イラッとした優弥。
「わーい!マサキパパさん今日はお祝いだね!」
桜もパパ呼びなんてして、さらに優弥はイラッとする。
だけど、子供のようにはしゃぐ雅樹と手を上げて喜ぶ桜にまあいいかと諦めた。にぎやかになりそうなのは楽しそうだ。2人を見て優弥は目を細めた。
笑顔で幸せそうな雅樹。この先もずっと、たぶん、優弥の近くにいつづけるだろう。
それは幸せなことで、心がほっこりとする。
だけれど、ほんの少し切ない。
雅樹が側にいることは、ほんの少しだけ切なくなるのだ。
優弥と雅樹と早由は高校の時に知り合って、3人は気があいよく一緒にいた。
大学も同じにして、その最後の年に、優弥は早由から告白された。
美しい女性だった早由がきれいな笑顔でかっこよく告白してきて、断れる男がいると思えない。
早由のことは確かに好きだった優弥だけど、実は雅樹が一番好きだった。
男同士で付き合えると思っていない優弥は、雅樹とどうこうなんて考えてなかったし、雅樹は別の人が好きだった。
半分流された感じだが、早由と結婚した優弥は幸せに暮らした。
雅樹とは少し疎遠になっていたが、こうして再び近くに来るようになって、優弥は雅樹への想いが蘇っていた。
それは複雑な想い。
こうして雅樹がよく来る理由も少し疎遠になっていた理由も、雅樹が早由を好きだったから。
雅樹に早由をと考えもしたが、早由がたくましくて無理だった。
雅樹は今でも早由が好きだから、優弥と桜の側にいて守ろうとしているのだ。
それはほんの少し切なくなる。
けれど目の前で喜ぶ姿を見ているのは幸せな気分だ。
ほんの少し切ないけれど、訪れた幸福に優弥は笑った。
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