騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
8 / 153

スピリッツァー

しおりを挟む
「ヌーン、代物なんて”モノ”みたいな言い方は失礼ですよ。君もガサツさではライルと変わらないね。女性なんだから、もう少し何とかなりませんか」

僧侶らしい、説教口調でカンナンが戦士をたしなめた。

「古ーい! カンナンさまよ、今はジェンダーレスの時代なんよ。男らしいとか女らしいとか言ったら、誰もあんたの説教なんぞ聞きに来なくなるからね」

女戦士が僧侶に逆襲する。

「はいはい。で、さっきの話なんですが、私もスピリッツァーにお会いするのは初めてです。前回の冒険で、ライルが身に着けていた鎧。あなたが機能付加したそうですね。あれもスピリッツァ―ならではの仕事とか」

「そうそう、そうなんだよね。あれ、凄い機能だと思うわけよ、私としても興味津々なわけ」

僧侶と女戦士が畳みかけて来る。こちらはこちらで良いコンビらしい。

「だろ? 俺の見込みは間違っていなかったわけさ」

いつの間にかライルが横から口を挟む。

「あれ? 夫婦喧嘩はもうおしまい?」

ヌーンがニヤニヤしながらマルチェナに言った。

「誰が夫婦よ、誰が! でも、あれには私もびっくりしたわ。あんなものを作れるなんて、スピリッツァーって凄いと思う。だけど、何で滅多にお目にかかれないのかしら?」

パーティー最後の一人、魔法使いのマルチェナも参戦し、ネッドに迫って来る。

こうなっては、軽くいなすというわけにはいくまい。ネッドは覚悟を決めて、四人の猛者たちに説明を始めた。

「あ~、はい。では、ご説明いたします。結論から言えば、世界の歴史と大いに関係あるんですね」

「おぉ、世界の歴史とは大きく出たねぇ」

ライルが茶々を入れる。

「こら、水を差すんじゃないよ、ライル! さ、バカには構わないで続けて続けて」

ヌーンが男戦士を睨みつけた。

「え、えぇ……。今から数百年前まではこの大陸を含め、世界中が戦争に明け暮れていた事は皆さんご存じだと思います。そうなると各国々は、少しでも有利に戦いを進めたいと考えますよね。

そこで目を付けたのが、アイテムへの機能付加なんですよ。魔道具ではないので、誰でも気軽に戦闘力や防御力を上げられますからね」

「うーん、道理ですねぇ」

カンナンが、一言添える。

「戦争ですから事態は流動的です。それに対応する為には、常に効率性が求められてたんですよ。それで魂石よりも魔石を使用する機能付加を各国が競って奨励したんです」

「いや、ちょっと待て。それはさっきの話と違うぞ。さっき、店では、魂石を使った方が効率的に機能を付加できるみたいに言ってたじゃないか」

ノンアルコール葡萄酒をすすりながらライルが疑問を呈す。

「えぇ、その通りです。でも魂石が効率的なのは”機能性”についてなんです。さっきもお話ししたように、同じ耐火性能を付加する場合でも、魂石なら魔石の半分のレベルで行えます」

「おう、確かにそういう話だったよな」

ライルが軽く頷く。

「でも”生産性”から言えば、魂石は効率が悪いんですね。魔石で耐火機能を付加する場合、その魔石がどのモンスターから精製されたかは関係ありません。なんでも使えます。

でも魂石でそれをやろうとすると、サラマンダーなどの火に関係するモンスターを探して、魂石を精製しなければならないんですよ」

「あ、なるほど。魔石での付加なら、とにかく多くのモンスターを倒して魔石を手に入れれば、必要に応じた思い通りの強化がすぐに出来るわけですよね。国が人海戦術を取れば、それは難しい事ではない……」

あごに手を当て、納得した様子の僧侶カンナン。

「で、それだと何でスピリッツァー、つまり魂石職人が珍しくなるんだ?」

ライルが首をかしげる。

「アンタ、やっぱりバカでしょ? 同じパーティーとして情けなくなるわ」

マルチェナがライルのこめかみを、人差し指で突っついた。

「なんだとぉ? じゃぁお前にはわかるっていうのかよ」

「当然でしょ。戦争を有利に導くために、国を挙げて大量の魔石を集める。だけどそれだけじゃぁ、意味がないわ。集めた魔石を使って、武器や防具に機能付加しなくちゃならないわけよ。

その為には、これまた大量の付加職人が必要になるじゃない。当然、国家としては魔石職人の育成に力を入れるだろうし、優遇もするわよね。となると、必然的に魂石職人の数は少なくなってくる」

「そして一度出来上がった魔石職人と魂石職人の比率は、戦争が終っても変わる事はなかった。魔石職人にとって都合の良いシステムが、既に出来上がっていたでしょうからね」

マルチェナの後を、カンナンが引き継いだ。

「だから今もって、魂石職人の数が極端に少ないってわけね」

ヌーンが最後を締めくくる。

「なーるへそ」

「って、あんた、やっぱりオジさんね……」

ライルのオヤジ言葉を聞いて、マルチェナが呆れ果てたようにつぶやいた。

実際のところは、モンスターから魔石を精製するよりも魂石を精製する方が難しい事。魂石をアイテムに機能付加する魔法自体も、魔石のそれに比べて熟練度が高くなくてはいけない事。その他にもいくつか理由があるのだが、ネッドは敢えて言わなかった。

言ってしまえば、何か魂石職人の方が魔石職人よりもレベルが上の様な印象を、皆に与えてしまいかねないからだ。よしんばこのテーブルに集う者たちはそう思わなくても、脇で聞き耳を立てているかも知れない他の冒険者達がどう解釈するかはわからない。

もし思い上っているなどと噂が広がれば、ネッドにとって望ましくない結果が待っているだろう。だから今はこれでいいとネッドは思った。

「冒険者諸君、待たせたな。では大切な話を始めよう」

ネッドが大演説で乾いた喉をノンアルコールビールで潤そうとした時、ギルマス、ガント・ライザーの声がギルド館のロビーに響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...