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白い悪魔
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並の冒険者なら、ここでパニックに陥っても何ら不思議ではない。何せ、誰の助けも得られない暗黒の森の中、明らかな脅威が迫っているのだから。
しかしネッドは、微塵も慌てない。それは、騎士として鍛え上げられた精神力の賜物であった。一階に駆けあがり、幾つかの窓から外の様子を伺うネッド。今のところ異変は無いように見える。どうやら反応したのは、一番離れた所に設置した警報装置であるようだ。
立てこもるか? 脱出するか?
ネッドは、一瞬で脱出の判断を下す。まだ、小屋の周りを取り囲まれている様子はない。要塞でも何でもない、只の避難小屋に留まる理由は皆無に等しかった。疾風の如く、表に飛び出すネッド・ライザー。
「どこだ?」
彼は、咄嗟に侵入者の影を追う。闇雲に走り出しても、下手をすれば敵の正面に飛び出してしまう危険性がある。相手がどんな存在なのか全くわからない段階で、そんな行動に出るのは愚の骨頂でしかない。
そんな彼の目と耳に、悪夢とも言える音と光が飛び込んできた。ケシャッ、ケシャッという、不気味な響きと松明の炎。それらが遠くの方から全方位で少しずつ近づいて来る。小屋の周りは、確かに取り囲まれてはいなかった。だが建物を中心に、三~四十メートル外側は、かなり大勢の魔物に取り囲まれている。
「ティシカー・エンジェルか?」
ネッドの背筋が、一瞬にして凍り付いた。
ティシカー・エンジェル。常に大きな集団で移動し、極めて残忍な人型モンスターである。体型は肥満体の大柄な男性程度であるが、全身真っ白で、頭部は六十センチばかりのヒョロ長い形状をしている。頭頂部には毛のような触手が多数うごめき、細長い顔には縦に四つずつ合計八個の小さい目が並んでいた。
彼らは集団行動を得意とし、その腕力に物を言わせて敵を殲滅する。大抵は、圧倒的な数の差を利用しての虐殺であった。彼らは、自分以外の存在を認めない。自分たち以外は生きる価値のない存在として、見せしめの意味を込めて血祭りにあげる。背中の上部に、小さな羽根らしき物があるのでエンジェルと名がついているものの、正に白き悪魔であった。
ネッドの頭の中は、いま打開策を模索する為にフル回転をしている。まともに戦って、無事に済む相手ではない。正面からぶつかっても十数匹は問題なく倒せるだろう。だがやがて疲弊し、あの炎を有した松明がわりの太い棍棒で、肉塊になるまで殴り潰されてしまう事は目に見えている。正に、絶体絶命の危機であった。
だがネッドは、冷静に対策を講じ始める。
彼はバッグの中から、小さい皿を二枚合わせたような、円盤状のアイテムを数個取り出した。本来ならこれは、炎の魔物対策の一つとして用意した機能付加アイテムだが、ここで死んでしまっては、元も子もない。ネッドの判断は早かった。
彼がアイテムの一つ目のスイッチを入れて地面に置くと、何かの音が鳴り出したものの目に映るもの何もない。ネッドは白い悪魔の包囲網が狭まるのを今か今かと見計らい、アイテム発動のタイミングを探った。
何十もの”ケシャッ、ケシャッ”という不気味な音が、ネッドへと近づいて来る。そしてついには、先頭の者達の姿がチラホラと見え始めたその時、彼はアイテムの二つ目のスイッチを入れ、発動の命を下した。
途端に数個の皿状のアイテムが、敵の包囲網へと、地面すれすれのところを滑空して飛んでいく。ネッドはその間にも、出来るだけ包囲の手薄な所を見つけ出す算段を怠らない。
「ギィ――!!」
十数秒後、最初の白い悪魔が悲鳴をあげた。続いて二匹、三匹、四匹と次々と甲高い鳴き声が静かな森に響き渡る。
「よし、とりあえずは上手く行ったか」
ネッドは、脱出の成功を確信した。
しかしネッドは、微塵も慌てない。それは、騎士として鍛え上げられた精神力の賜物であった。一階に駆けあがり、幾つかの窓から外の様子を伺うネッド。今のところ異変は無いように見える。どうやら反応したのは、一番離れた所に設置した警報装置であるようだ。
立てこもるか? 脱出するか?
ネッドは、一瞬で脱出の判断を下す。まだ、小屋の周りを取り囲まれている様子はない。要塞でも何でもない、只の避難小屋に留まる理由は皆無に等しかった。疾風の如く、表に飛び出すネッド・ライザー。
「どこだ?」
彼は、咄嗟に侵入者の影を追う。闇雲に走り出しても、下手をすれば敵の正面に飛び出してしまう危険性がある。相手がどんな存在なのか全くわからない段階で、そんな行動に出るのは愚の骨頂でしかない。
そんな彼の目と耳に、悪夢とも言える音と光が飛び込んできた。ケシャッ、ケシャッという、不気味な響きと松明の炎。それらが遠くの方から全方位で少しずつ近づいて来る。小屋の周りは、確かに取り囲まれてはいなかった。だが建物を中心に、三~四十メートル外側は、かなり大勢の魔物に取り囲まれている。
「ティシカー・エンジェルか?」
ネッドの背筋が、一瞬にして凍り付いた。
ティシカー・エンジェル。常に大きな集団で移動し、極めて残忍な人型モンスターである。体型は肥満体の大柄な男性程度であるが、全身真っ白で、頭部は六十センチばかりのヒョロ長い形状をしている。頭頂部には毛のような触手が多数うごめき、細長い顔には縦に四つずつ合計八個の小さい目が並んでいた。
彼らは集団行動を得意とし、その腕力に物を言わせて敵を殲滅する。大抵は、圧倒的な数の差を利用しての虐殺であった。彼らは、自分以外の存在を認めない。自分たち以外は生きる価値のない存在として、見せしめの意味を込めて血祭りにあげる。背中の上部に、小さな羽根らしき物があるのでエンジェルと名がついているものの、正に白き悪魔であった。
ネッドの頭の中は、いま打開策を模索する為にフル回転をしている。まともに戦って、無事に済む相手ではない。正面からぶつかっても十数匹は問題なく倒せるだろう。だがやがて疲弊し、あの炎を有した松明がわりの太い棍棒で、肉塊になるまで殴り潰されてしまう事は目に見えている。正に、絶体絶命の危機であった。
だがネッドは、冷静に対策を講じ始める。
彼はバッグの中から、小さい皿を二枚合わせたような、円盤状のアイテムを数個取り出した。本来ならこれは、炎の魔物対策の一つとして用意した機能付加アイテムだが、ここで死んでしまっては、元も子もない。ネッドの判断は早かった。
彼がアイテムの一つ目のスイッチを入れて地面に置くと、何かの音が鳴り出したものの目に映るもの何もない。ネッドは白い悪魔の包囲網が狭まるのを今か今かと見計らい、アイテム発動のタイミングを探った。
何十もの”ケシャッ、ケシャッ”という不気味な音が、ネッドへと近づいて来る。そしてついには、先頭の者達の姿がチラホラと見え始めたその時、彼はアイテムの二つ目のスイッチを入れ、発動の命を下した。
途端に数個の皿状のアイテムが、敵の包囲網へと、地面すれすれのところを滑空して飛んでいく。ネッドはその間にも、出来るだけ包囲の手薄な所を見つけ出す算段を怠らない。
「ギィ――!!」
十数秒後、最初の白い悪魔が悲鳴をあげた。続いて二匹、三匹、四匹と次々と甲高い鳴き声が静かな森に響き渡る。
「よし、とりあえずは上手く行ったか」
ネッドは、脱出の成功を確信した。
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