119 / 153
リュラン立つ
しおりを挟む
「へぇ、それが深紅の騎士か。あれっ、でもおかしいなぁ。俺がネッドに聞いた話じゃ、兜はもっと長くて、黄金の角は両肩についてるって事だっだけどな」
リュランの前に現れた深紅の騎士は、ネッドとの戦いで半分に切られた兜に蓋をして、応急処置を施したものを被っており、また肩の角も失った半分はそのままであった。
「へらず口を!」
ゴワドンが、二刀の太刀を振るい鋭くリュランに迫る。その剣が彼の首元を捉えると思われた時、そこにリュランの姿はなかった。
「なに?」
一瞬、リュランの居場所を見失う深紅の騎士。だが、すぐに右から剣を抜いた敵が駆けて来る。ゴワドンは咄嗟に電撃を発し、牽制したが、片側の肩からしか放てぬ電撃は容易にリュランに避けられた。
「見くびって貰っちゃ困るな。そんなヘナチョコ電撃に当たってたまるかよ。諜報活動には、早い足が必要だって知らないのか」
狙い撃ちされないように、ジグザグに移動するリュランが軽口をたたく。
「なるほど、逃げ足だけは早いわけか。しかしな、逃げるだけじゃ勝てないぞ。それにそんな細身の剣では、この鎧に傷一つ付けられまい」
ゴワドンは、電撃を撃ちながらリュランと並行して疾走する。
「そいつぁあ、どうかな」
リュランはスピードを一速あげた。途端に彼の体はゴワドンの間近に迫る。
「くっ!」
彼の速さについてこれないゴワドンが、思わず二振りの剣を交差させ、彼の剣を受け止めたが、リュランは速やかに細身の武器を今度は敵の脇腹へと打ち込んだ。
「だから、そんなものでは切れな……」
そう言いかけたゴワドンの体は、剣が当たったところを中心に大きくクの字に曲がる。そのままフッ飛んで、樹木に打ちすえられる深紅の騎士。
「ぐっ……、き、貴様、何をした?」
ゴワドンは脇腹を手で押さえ、剣を地面に突き立てようやく片膝立ちになる。その声は、激しい痛みに震えていた。
「あぁ、これね。ネッドが機能付加してくれたアイテムでね。敵に打ちつけた瞬間、任意で打撃の方向へ強力な重力が働くんだ。剣の重さを遥かに超える重力がさ。グラビティなんとかって魔物の魂石を使うらしいぜ。
つまりあんたは今、ガタイのいい戦士が渾身の力で大剣を振るった時と同じダメージを喰らったんだよ」
鎧は、普通の剣では切る事が出来ない。よって重い剣を大きな力で鎧に叩きつけ、その中にある肉や骨を砕くのが常套手段となっている。だが、大剣は重く、振り回すのにも隙が出来やすい。しかしリュランの剣は普段は軽く、打ち込む時だけ大剣と同じ効果を得るのである。元々、素早い動きを得意とするリュランが持てば、正に鬼に金棒であった。
「タネを明かしてしまっていいのかい? それとも、私をなめているのかな」
ゴワドンの言い分はもっともだが、リュランはそれを百も承知で打ち明けたのだ。敵に勝ち目のない事を悟らせて、負けを認めるように……。リュランの第一目的は捕縛であった。彼からすれば、秘密を明かすのも一つの作戦である。
「もう、降参しろ、ゴワドン」
剣をバックハンドに構え、反逆者を見下ろすリュラン。
「出来んな」
樹木を背に立ち上がったゴワドンは、再び電撃を発した。
「無駄な事はやめろ」
だが華麗に雷を避け続けるリュランの目が、森の彼方から急速に近づく炎を捉える。
「ちっ! やっぱり来たか」
その炎の塊は、すぐにリュランとさほど離れていない場所へと到達した。その姿を確認したゴワドンは、高らかに宣言する。
「紹介しよう。彼が私の最高傑作”炎の魔人”だ」
誇らしげなゴワドンの声が森に響いた。
「任務は、果たしたか」
ゴワドンの問いに魔人が頷く。だが魔人は心なしか、苦しんでいるようにも見えた。ネッドに負わされた足の傷が癒えていないのだろうか。
「任務? 任務って何だ?」
「わからんのかね? 君は、ここへ一人で来たわけじゃないだろう? まぁ、君への伝文には単身で来るように書いたが、こちらも君がバカ正直にそれを守るとは思っていない。
君が期待する部下たちは、今頃、黄泉の国へと進軍しているだろうよ」
ゴワドンの勝ち誇った演説を聞きながら、リュランは唇を噛んだ。
リュランの前に現れた深紅の騎士は、ネッドとの戦いで半分に切られた兜に蓋をして、応急処置を施したものを被っており、また肩の角も失った半分はそのままであった。
「へらず口を!」
ゴワドンが、二刀の太刀を振るい鋭くリュランに迫る。その剣が彼の首元を捉えると思われた時、そこにリュランの姿はなかった。
「なに?」
一瞬、リュランの居場所を見失う深紅の騎士。だが、すぐに右から剣を抜いた敵が駆けて来る。ゴワドンは咄嗟に電撃を発し、牽制したが、片側の肩からしか放てぬ電撃は容易にリュランに避けられた。
「見くびって貰っちゃ困るな。そんなヘナチョコ電撃に当たってたまるかよ。諜報活動には、早い足が必要だって知らないのか」
狙い撃ちされないように、ジグザグに移動するリュランが軽口をたたく。
「なるほど、逃げ足だけは早いわけか。しかしな、逃げるだけじゃ勝てないぞ。それにそんな細身の剣では、この鎧に傷一つ付けられまい」
ゴワドンは、電撃を撃ちながらリュランと並行して疾走する。
「そいつぁあ、どうかな」
リュランはスピードを一速あげた。途端に彼の体はゴワドンの間近に迫る。
「くっ!」
彼の速さについてこれないゴワドンが、思わず二振りの剣を交差させ、彼の剣を受け止めたが、リュランは速やかに細身の武器を今度は敵の脇腹へと打ち込んだ。
「だから、そんなものでは切れな……」
そう言いかけたゴワドンの体は、剣が当たったところを中心に大きくクの字に曲がる。そのままフッ飛んで、樹木に打ちすえられる深紅の騎士。
「ぐっ……、き、貴様、何をした?」
ゴワドンは脇腹を手で押さえ、剣を地面に突き立てようやく片膝立ちになる。その声は、激しい痛みに震えていた。
「あぁ、これね。ネッドが機能付加してくれたアイテムでね。敵に打ちつけた瞬間、任意で打撃の方向へ強力な重力が働くんだ。剣の重さを遥かに超える重力がさ。グラビティなんとかって魔物の魂石を使うらしいぜ。
つまりあんたは今、ガタイのいい戦士が渾身の力で大剣を振るった時と同じダメージを喰らったんだよ」
鎧は、普通の剣では切る事が出来ない。よって重い剣を大きな力で鎧に叩きつけ、その中にある肉や骨を砕くのが常套手段となっている。だが、大剣は重く、振り回すのにも隙が出来やすい。しかしリュランの剣は普段は軽く、打ち込む時だけ大剣と同じ効果を得るのである。元々、素早い動きを得意とするリュランが持てば、正に鬼に金棒であった。
「タネを明かしてしまっていいのかい? それとも、私をなめているのかな」
ゴワドンの言い分はもっともだが、リュランはそれを百も承知で打ち明けたのだ。敵に勝ち目のない事を悟らせて、負けを認めるように……。リュランの第一目的は捕縛であった。彼からすれば、秘密を明かすのも一つの作戦である。
「もう、降参しろ、ゴワドン」
剣をバックハンドに構え、反逆者を見下ろすリュラン。
「出来んな」
樹木を背に立ち上がったゴワドンは、再び電撃を発した。
「無駄な事はやめろ」
だが華麗に雷を避け続けるリュランの目が、森の彼方から急速に近づく炎を捉える。
「ちっ! やっぱり来たか」
その炎の塊は、すぐにリュランとさほど離れていない場所へと到達した。その姿を確認したゴワドンは、高らかに宣言する。
「紹介しよう。彼が私の最高傑作”炎の魔人”だ」
誇らしげなゴワドンの声が森に響いた。
「任務は、果たしたか」
ゴワドンの問いに魔人が頷く。だが魔人は心なしか、苦しんでいるようにも見えた。ネッドに負わされた足の傷が癒えていないのだろうか。
「任務? 任務って何だ?」
「わからんのかね? 君は、ここへ一人で来たわけじゃないだろう? まぁ、君への伝文には単身で来るように書いたが、こちらも君がバカ正直にそれを守るとは思っていない。
君が期待する部下たちは、今頃、黄泉の国へと進軍しているだろうよ」
ゴワドンの勝ち誇った演説を聞きながら、リュランは唇を噛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる