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昇らないお日さま (2) 大魔法使いパーパス
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少し話が脱線してしまいました。話を戻しましょう。
そのお家、いかにも魔法使いの家という感じがする不思議な三階建ての家なんですが、そこの二階に、大魔法使いパーパスはいました。ベッドでスヤスヤと眠っています。何の夢を見ているのでしょうかね。魔法の夢? いえ、実際はご馳走の山に囲まれている夢のようです。昔からちょっと、食い意地が張っているのが玉にキズのお爺さんです。
「マスター、マスター! もう朝ですよ。早く起きて下さいな」
カラクリ人形のシュプリンが、両手を腰に当てて、ご主人様の顔の近くで叫びます。本当はもっと優しい起こし方も出来るのですが、いつもパーパスからウルサク小言を言われる事が多いので、ちょっとした仕返しのつもりです。
ここで、少しシュプリンのご紹介。
”彼”は、パーパスが作った木で出来た魔法のカラクリ人形です。服を着ている姿であれば、遠目からは四十代のヒト妖精にしか見ません。間近でみると、さすがにわかりますけどね。もうパーパスとは大変長い付き合いです。
シュプリンに揺り動かされ、
「なんじゃ、シュプリン。何かあったのか?」
大魔法使いパーパスが、まぶたをやっと少し開けました。そして部屋に煌々と灯る明かりに目を細めます。美味しい夢から引きずり出されて、かなりご機嫌斜めのようですね。
「なんじゃも、もんじゃもないでしょう? もう起きる時刻ですよ。年寄りが寝すぎるのは、健康によくありません」
シュプリンが、お説教じみた口調で喋ります。
「お前、遂に壊れたか。窓を見なさい。カーテンの隙間から、太陽の光がこぼれて来てるかの? まだ真っ暗じゃないか」
体を半分起こしたパーパスは、窓の方を指さして言いました。確かにカーテンの隙間は真っ暗です。
「あぁ、なるほどそうですね。でも私の体の中の時計も、ついでにあなたの枕元にある目覚まし時計も、二つとも起きる時間を指し示しているのですよ?」
今度はシュプリンが、少し機嫌の悪い声を出しました。ご主人様とはいえ、パーパスのワガママぶりにはいつも手を焼いているからです。
「だから、壊れたのかと聞いてとるんじゃ。そもそも朝ならば、なんで天井の明かりをつけるんじゃよ。そんな道理も分からなくなってきたのかね」
パーパスとシュプリンの、いつものやり取りが始まりました。ほんと、いつもこんな感じなのです。もちろん二人とも、それを楽しんでいる部分もあるのですけれどね。
「そんなに言うのなら、地下室にある大時計を見て来たらいかがですか? 私が正しいに決まってますけどね」
シュプリンが提案します。地下室の大時計とは、百万年に一秒も狂わないと言われている魔法のかかった大きな柱時計の事です。町はおろか小さな村さえ存在しない影の森では、正確な時間を知る事は難しく、この大時計は大変に重宝するのでした。
シュプリンの、あまりにもコシャクな言いように、パーパスは「おぉ、見て来てやるともさ。覚えておけよ」と売り言葉に買い言葉を発します。大魔法使いは、早速寝室のドアを開けて地下室へと向かいました。
「あんまり急ぎすぎて、腰を痛めないようにしてくださいね」
シュプリンが、皮肉の追い打ちをかけます。
それから数分後。下の方からドタドタと階段を駆け上がってくる音がしました。
「おい! どういう事だ。もう、とっくに朝の時間じゃないか!」
ねまき姿のパーパスが、血相を変えて叫びます。
シュリンプは、勝ち誇ったように、
「だから、言ったじゃありませんか。マスターも少しは私のいう事を……」
と、言いかけた時、
「いや、それどころじゃない。朝が来ないんじゃぞ? 一体なんで……」
と、パーパスが慌てた顔で叫びます。
「そんな事、私は知りません。それより、やっぱり私の方が正しかったですよね」
シュプリンは、その作り物の顔に満面の笑みを浮かべながら答えます。
「うるさい! それどころじゃないだろう!」
パーパスは部屋のあちこちを見回して、どうにか落ち着こうとしました。
「ひ、ひどい。マスターってば私の事を何だと……」
シュプリンはうずくまり、両手で顔を押さえて泣きました。
「……わ、悪かったよ。……ってか、お前それ、ウソ泣きだよな」
パーパスは反省しつつも、召使い兼執事のカラクリ人形を見やります。
「あ、バレましたか。まぁ、私は作り物の人形ですので、涙を流せませんからね。今度、体を作り直す時には、泣く事が出来るようにしてくださいね。今日のお詫びとして」
「あぁ、わかった。わかった」
シュプリンの性格を知っているパーパスは、キリがなくなると思い適当に受け流します。
「うーん。しかし、どうしたわけなんじゃろうか? 朝が来ないとは……」
パーパスは、その場で腕組みをして考えます。
「ほらほら、悩んでいたって何も解決しませんよ。まずは着替えて、食堂にいらして下さい。朝ごはんは、とうの昔に出来ていますからね。冷めてしまって、味が落ちても知りませんよ」
シュプリンは、木の関節をキシキシ言わせながら部屋を出て行きました。膝の蝶つがいには潤滑剤を塗った方が良いみたいですね。
着替えをして顔を洗った大魔法使いが食堂にやって来たのは、それから十五分くらいが経ってからでした。シュプリンが、朝ご飯を温めなおしたと文句を言います。でもパーパスは、耳を貸さずに思案します。
「考え事をしながらご飯を食べるのはやめて下さいね。消化に悪いし、何せ作ってくれた人に失礼ですよ」
シュプリンが機嫌悪そうにハムエッグを口に運びます。彼はカラクリ人形ですが、食べたり飲んだりする機能がついているのです。三つ前のバージョンからそうなりました。もちろんシュプリンが、パーパスにしつこくおねだりした結果です。
カラクリ人形の話を、右の耳から左の耳へ素通りさせながらパーパスは更に考えます。
朝が来ないという事は、太陽が昇らないという事だ。もしくは月が引っ込まないとも言えるだろう。ならば……。
シュプリンの小言を聞きながら食事を終えたパーパスは、出かける準備を始めました。
「ワシの帽子を出しておくれ」
パーパスがそう言うと、
「お出かけで? またあの昔ながらの、というか古くさい帽子とその衣装で行くのですか?」
と、シュプリンが呆れた顔をします。まぁ、彼が言うのも無理はありません。だって、パーパスの服装といったら、星の柄がついたゾロッとしたローブに、同じ柄のつばひろトンガリ帽子という、千年は前の魔法使いがしていた恰好なのですから。
そのお家、いかにも魔法使いの家という感じがする不思議な三階建ての家なんですが、そこの二階に、大魔法使いパーパスはいました。ベッドでスヤスヤと眠っています。何の夢を見ているのでしょうかね。魔法の夢? いえ、実際はご馳走の山に囲まれている夢のようです。昔からちょっと、食い意地が張っているのが玉にキズのお爺さんです。
「マスター、マスター! もう朝ですよ。早く起きて下さいな」
カラクリ人形のシュプリンが、両手を腰に当てて、ご主人様の顔の近くで叫びます。本当はもっと優しい起こし方も出来るのですが、いつもパーパスからウルサク小言を言われる事が多いので、ちょっとした仕返しのつもりです。
ここで、少しシュプリンのご紹介。
”彼”は、パーパスが作った木で出来た魔法のカラクリ人形です。服を着ている姿であれば、遠目からは四十代のヒト妖精にしか見ません。間近でみると、さすがにわかりますけどね。もうパーパスとは大変長い付き合いです。
シュプリンに揺り動かされ、
「なんじゃ、シュプリン。何かあったのか?」
大魔法使いパーパスが、まぶたをやっと少し開けました。そして部屋に煌々と灯る明かりに目を細めます。美味しい夢から引きずり出されて、かなりご機嫌斜めのようですね。
「なんじゃも、もんじゃもないでしょう? もう起きる時刻ですよ。年寄りが寝すぎるのは、健康によくありません」
シュプリンが、お説教じみた口調で喋ります。
「お前、遂に壊れたか。窓を見なさい。カーテンの隙間から、太陽の光がこぼれて来てるかの? まだ真っ暗じゃないか」
体を半分起こしたパーパスは、窓の方を指さして言いました。確かにカーテンの隙間は真っ暗です。
「あぁ、なるほどそうですね。でも私の体の中の時計も、ついでにあなたの枕元にある目覚まし時計も、二つとも起きる時間を指し示しているのですよ?」
今度はシュプリンが、少し機嫌の悪い声を出しました。ご主人様とはいえ、パーパスのワガママぶりにはいつも手を焼いているからです。
「だから、壊れたのかと聞いてとるんじゃ。そもそも朝ならば、なんで天井の明かりをつけるんじゃよ。そんな道理も分からなくなってきたのかね」
パーパスとシュプリンの、いつものやり取りが始まりました。ほんと、いつもこんな感じなのです。もちろん二人とも、それを楽しんでいる部分もあるのですけれどね。
「そんなに言うのなら、地下室にある大時計を見て来たらいかがですか? 私が正しいに決まってますけどね」
シュプリンが提案します。地下室の大時計とは、百万年に一秒も狂わないと言われている魔法のかかった大きな柱時計の事です。町はおろか小さな村さえ存在しない影の森では、正確な時間を知る事は難しく、この大時計は大変に重宝するのでした。
シュプリンの、あまりにもコシャクな言いように、パーパスは「おぉ、見て来てやるともさ。覚えておけよ」と売り言葉に買い言葉を発します。大魔法使いは、早速寝室のドアを開けて地下室へと向かいました。
「あんまり急ぎすぎて、腰を痛めないようにしてくださいね」
シュプリンが、皮肉の追い打ちをかけます。
それから数分後。下の方からドタドタと階段を駆け上がってくる音がしました。
「おい! どういう事だ。もう、とっくに朝の時間じゃないか!」
ねまき姿のパーパスが、血相を変えて叫びます。
シュリンプは、勝ち誇ったように、
「だから、言ったじゃありませんか。マスターも少しは私のいう事を……」
と、言いかけた時、
「いや、それどころじゃない。朝が来ないんじゃぞ? 一体なんで……」
と、パーパスが慌てた顔で叫びます。
「そんな事、私は知りません。それより、やっぱり私の方が正しかったですよね」
シュプリンは、その作り物の顔に満面の笑みを浮かべながら答えます。
「うるさい! それどころじゃないだろう!」
パーパスは部屋のあちこちを見回して、どうにか落ち着こうとしました。
「ひ、ひどい。マスターってば私の事を何だと……」
シュプリンはうずくまり、両手で顔を押さえて泣きました。
「……わ、悪かったよ。……ってか、お前それ、ウソ泣きだよな」
パーパスは反省しつつも、召使い兼執事のカラクリ人形を見やります。
「あ、バレましたか。まぁ、私は作り物の人形ですので、涙を流せませんからね。今度、体を作り直す時には、泣く事が出来るようにしてくださいね。今日のお詫びとして」
「あぁ、わかった。わかった」
シュプリンの性格を知っているパーパスは、キリがなくなると思い適当に受け流します。
「うーん。しかし、どうしたわけなんじゃろうか? 朝が来ないとは……」
パーパスは、その場で腕組みをして考えます。
「ほらほら、悩んでいたって何も解決しませんよ。まずは着替えて、食堂にいらして下さい。朝ごはんは、とうの昔に出来ていますからね。冷めてしまって、味が落ちても知りませんよ」
シュプリンは、木の関節をキシキシ言わせながら部屋を出て行きました。膝の蝶つがいには潤滑剤を塗った方が良いみたいですね。
着替えをして顔を洗った大魔法使いが食堂にやって来たのは、それから十五分くらいが経ってからでした。シュプリンが、朝ご飯を温めなおしたと文句を言います。でもパーパスは、耳を貸さずに思案します。
「考え事をしながらご飯を食べるのはやめて下さいね。消化に悪いし、何せ作ってくれた人に失礼ですよ」
シュプリンが機嫌悪そうにハムエッグを口に運びます。彼はカラクリ人形ですが、食べたり飲んだりする機能がついているのです。三つ前のバージョンからそうなりました。もちろんシュプリンが、パーパスにしつこくおねだりした結果です。
カラクリ人形の話を、右の耳から左の耳へ素通りさせながらパーパスは更に考えます。
朝が来ないという事は、太陽が昇らないという事だ。もしくは月が引っ込まないとも言えるだろう。ならば……。
シュプリンの小言を聞きながら食事を終えたパーパスは、出かける準備を始めました。
「ワシの帽子を出しておくれ」
パーパスがそう言うと、
「お出かけで? またあの昔ながらの、というか古くさい帽子とその衣装で行くのですか?」
と、シュプリンが呆れた顔をします。まぁ、彼が言うのも無理はありません。だって、パーパスの服装といったら、星の柄がついたゾロッとしたローブに、同じ柄のつばひろトンガリ帽子という、千年は前の魔法使いがしていた恰好なのですから。
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