ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

文字の大きさ
54 / 218

魔女の薬 (14) 魔女は泣いちゃダメ

薬工場には、実にたくさんの薬の原料が保管されています。薬というのは人々の健康を維持するものですが、使い方によっては毒にもなってしまいます。ましてやその原料なのですから、非常に危険な薬品も数多く保管されているのです。

これは悪い事をしようとする輩にとっては、ある意味、宝の山となります。色々な犯罪に利用できますからね。もちろん工場では防犯に労を惜しんでいませんが、絶対とは言えません。油断は禁物なんです。

そこで薬のラベルには、現在使われている言葉ではなく、古代ヴォルノース地方で使われていた特別な言葉で、薬びんのラベルに名前が書かれているのでした。その言葉は魔女以外には門外不出のものであり、つまりは魔女にしか読めません。仮に泥棒が保管庫に入ったところで、どのびんに、どの薬が入っているのかを知るのは不可能なんです。

いくらなんでも、全ての薬びんを盗むわけには行きません。つまり実質的な被害を、最小限におさえるための知恵というわけですね。

さぁ、ここまで言えば、もう謎が解けた方もいるでしょう。そうです。ゲンキノールとワスレノール。現在のヴォルノースで使われている言葉では全然違いますが、古代ヴォルノース語では非常に似た綴りなんですね。それを慌てんぼうのネリスが、勘違いしてしまったというのが真相でした。

「じゃぁ、ワスレノールの原液、いえ、それが更に濃縮されたものが気化して、町へ流れて行ったって事ですか?」

ネリスはやっと、事の重大さに気がつきました。人は皆、色々な知識や記憶を頼りに生活しています。もしそれが、なくなってしまったら……。これはもう、世の中メチャクチャです。

「そう言う事になるわね」

コリスが答えます。

その時です。

「それで、町の人たちは、町の人たちは大丈夫なんですか!? 師匠、見て来たんでしょ? どうなんですか!!」

今までノラリクラリとした態度をとってきたネリスが、突然叫び出しました。まるで、コリスを詰問するような勢いです。

「私が町へ着いた時には、もう殆どの人は症状が治まっていたわ。風に流れる内に、薬がかなり薄まっていたのが、幸いしたのね。

私もそのおかげで、臭いは感じ取ったものの、薬の影響を受けずに済んだわ」

コリスが、務めて冷静に返事をします。

「そうですか……、良かった」

ネリスは自分の失敗が誰かの不幸につながらなかった事を悦び、涙が出そうになりましたが、すぐに唇をギュッとかみしめました。

魔女は薬づくりに関しては、泣いちゃいけないんです。泣いたって何一つ解決する事はありません。どれだけ悲しい事、辛い事があっても、歯を食いしばって前を向かなきゃいけないというのが魔女の鉄則でした。新米魔女のネリスにも、この魔女精神はしっかりと叩き込まれているようです。
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しても何も変わらない? 〜実は出会うたびに最強の力を「吸い取る」チート持ちだった〜

みきもと
ファンタジー
主人公「風間章」{かざまあきら} ある日当然意識を失い、気がつくと森の中で見たこともない景気 異世界に引き込まれたような・・・詳細は不明 しかし定番とも言えるスキルや魔法も使えない 森を彷徨う。古びた家を見つけ誰も住んでいないのでそこに住みだす。 しかし彼はまだ自分の能力に気づいていない。 人の能力を吸収して成長するその力に・・・・ 【異世界でも「おじさん」は、マイペースに掃除から始める】 ブラック企業を辞め、異世界の森にある古民家へ転移したアキラ。 誰もいない静かな場所で、彼が始めたのは「自分らしく生きるためのお掃除」だった。 しかし、その何気ない動作一つ一つが、実はこの世界のシステムに干渉していた。 静寂の中に秘められた、真の力の目覚めを描くプロローグ。 主人公「風間章」{かざまあきら} ある日当然意識を失い、気がつくと森の中で見たこともない景気 異世界に引き込まれたような・・・詳細は不明 しかし定番とも言えるスキルや魔法も使えない 森を彷徨う。古びた家を見つけ誰も住んでいないのでそこに住みだす。 しかし彼はまだ自分の能力に気づいていない。 人の能力を吸収して成長するその力に・・・・ なんとか生き延びて入るが他に人影もない 動物?のようなものを狩ってはその日を過ごす毎日 月日は流れ数カ月、なんとか生活は出来ているある日 人の声が聞こえてくる?耳を澄ませるとなにかと争っているような声と叫び!? それは人?エルフのような不忘だ 獣と暖かっているようだったが、そのエルフは怪我をしている。 彼の能力は未知数で未だに彼自身もきづいてない能力。 そしてそれは広大な能力であり100年に1人といない珍しい能力である。 わくわくドキドキ、そしてラブストーリもありの物語。成長していく彼の物語 この作品は1話毎が短めになっています。 おおよそ2000文字前後ほどですので、話ごとにバラツキがあります。 「本作品はカクヨムにも掲載しています。」

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。