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魔女の薬 (14) 魔女は泣いちゃダメ
薬工場には、実にたくさんの薬の原料が保管されています。薬というのは人々の健康を維持するものですが、使い方によっては毒にもなってしまいます。ましてやその原料なのですから、非常に危険な薬品も数多く保管されているのです。
これは悪い事をしようとする輩にとっては、ある意味、宝の山となります。色々な犯罪に利用できますからね。もちろん工場では防犯に労を惜しんでいませんが、絶対とは言えません。油断は禁物なんです。
そこで薬のラベルには、現在使われている言葉ではなく、古代ヴォルノース地方で使われていた特別な言葉で、薬びんのラベルに名前が書かれているのでした。その言葉は魔女以外には門外不出のものであり、つまりは魔女にしか読めません。仮に泥棒が保管庫に入ったところで、どのびんに、どの薬が入っているのかを知るのは不可能なんです。
いくらなんでも、全ての薬びんを盗むわけには行きません。つまり実質的な被害を、最小限におさえるための知恵というわけですね。
さぁ、ここまで言えば、もう謎が解けた方もいるでしょう。そうです。ゲンキノールとワスレノール。現在のヴォルノースで使われている言葉では全然違いますが、古代ヴォルノース語では非常に似た綴りなんですね。それを慌てんぼうのネリスが、勘違いしてしまったというのが真相でした。
「じゃぁ、ワスレノールの原液、いえ、それが更に濃縮されたものが気化して、町へ流れて行ったって事ですか?」
ネリスはやっと、事の重大さに気がつきました。人は皆、色々な知識や記憶を頼りに生活しています。もしそれが、なくなってしまったら……。これはもう、世の中メチャクチャです。
「そう言う事になるわね」
コリスが答えます。
その時です。
「それで、町の人たちは、町の人たちは大丈夫なんですか!? 師匠、見て来たんでしょ? どうなんですか!!」
今までノラリクラリとした態度をとってきたネリスが、突然叫び出しました。まるで、コリスを詰問するような勢いです。
「私が町へ着いた時には、もう殆どの人は症状が治まっていたわ。風に流れる内に、薬がかなり薄まっていたのが、幸いしたのね。
私もそのおかげで、臭いは感じ取ったものの、薬の影響を受けずに済んだわ」
コリスが、務めて冷静に返事をします。
「そうですか……、良かった」
ネリスは自分の失敗が誰かの不幸につながらなかった事を悦び、涙が出そうになりましたが、すぐに唇をギュッとかみしめました。
魔女は薬づくりに関しては、泣いちゃいけないんです。泣いたって何一つ解決する事はありません。どれだけ悲しい事、辛い事があっても、歯を食いしばって前を向かなきゃいけないというのが魔女の鉄則でした。新米魔女のネリスにも、この魔女精神はしっかりと叩き込まれているようです。
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