55 / 218
魔女の薬 (15) 魔女魂
しおりを挟む
一方、コリスは不肖の弟子の様子を見て、ホッと胸をなでおろしていました。ついさっきまでは、自分の責任を少なく見せようと腐心していたのに、今は見ず知らずの他人の心配を本気でしています。
この期に及んでもまだ言い訳をしたり、これからの自分の処遇を気に掛けるようであるならば、ネリスに如何に隠れた才能が有ろうとも見限らねばなるまい。そう考えていたコリスは、ネリスに対する自分の見立てに自信を持ちました。
「さぁ、忙しくなるわよ」
コリスがそう言うと、ネリスの口元もいっそう引き締まります。
まずは工場に務める魔女と、魔女ではありませんが薬づくりの補助をする従業員全員を緊急に招集しました。十年前に起こったある出来事以来、ヴォルノースの森に住む魔女とその仲間たちは、急を知らせるためのアイテムを肌身離さず持たされています。
その効果もあって、招集から三十分も経たない内に、総勢四百人を超える人達が工場へとはせ参じました。見ていて実に爽快な光景です。そしてコリスの号令一下、全員で街にちらばり、住民の健康調査が始まりました。
でも文句を言う魔女など一人もいませんし、ましてやネリスを責める魔女も誰一人としていませんでした。そんな事をしている場合じゃないと分かっていましたし、仲間の失敗を我が事のように受け止めフォローするのがすなわち”魔女魂”。人の健康を預かっているという、魔女の誇りでもありました。
そして魔女ではない他の従業員たちも、彼女たちと思いは一緒でした。
もっとも後日、ネリスの頭をコツンと軽く叩く先輩魔女はいましたけどね。だけどもそれは、落ち込んでいるだろう後輩にエールを送る”コツン”なのでありました。
調査団一行には、もちろんネリスも同行します。しかしコリスの指示で、ネリスが騒動の張本人だという事は秘密にされました。これは事態を複雑にしないためと、先ほど申し上げた通り、大いなる魔女魂の賜物でした。
さて、彼女たちに対する町の人達の反応は、どうだったのでしょうか、? 激怒したに決まっているだろうって? いえいえ、そんな事はありません。みなそれほど腹を立てたりもせず、むしろ魔女たちの調査に協力を惜しみませんでした。
薬の効き目は、もう、とうに切れてる上、大した実害もありませんでしたし、何より町の人たちはコリスに大変な恩義を感じていたからです。それは十年前に起こった出来事と深く関係しているのですが、また後のお話となります。
それから、もう一つ理由がありました。何か大切な事を忘れ、後になってそれを思い出した時に不思議な感覚に襲われた人が多かったからです。
シェフのジェイドは、今はウエイターをしていますが、シェフ志望のソランを本格的に指導しようと決めました。彼に、ソースのレシピを伝えるためです。ジェイドは今まで、頑なにレシピを隠してきましたが、ある事に気がついたのです。
この期に及んでもまだ言い訳をしたり、これからの自分の処遇を気に掛けるようであるならば、ネリスに如何に隠れた才能が有ろうとも見限らねばなるまい。そう考えていたコリスは、ネリスに対する自分の見立てに自信を持ちました。
「さぁ、忙しくなるわよ」
コリスがそう言うと、ネリスの口元もいっそう引き締まります。
まずは工場に務める魔女と、魔女ではありませんが薬づくりの補助をする従業員全員を緊急に招集しました。十年前に起こったある出来事以来、ヴォルノースの森に住む魔女とその仲間たちは、急を知らせるためのアイテムを肌身離さず持たされています。
その効果もあって、招集から三十分も経たない内に、総勢四百人を超える人達が工場へとはせ参じました。見ていて実に爽快な光景です。そしてコリスの号令一下、全員で街にちらばり、住民の健康調査が始まりました。
でも文句を言う魔女など一人もいませんし、ましてやネリスを責める魔女も誰一人としていませんでした。そんな事をしている場合じゃないと分かっていましたし、仲間の失敗を我が事のように受け止めフォローするのがすなわち”魔女魂”。人の健康を預かっているという、魔女の誇りでもありました。
そして魔女ではない他の従業員たちも、彼女たちと思いは一緒でした。
もっとも後日、ネリスの頭をコツンと軽く叩く先輩魔女はいましたけどね。だけどもそれは、落ち込んでいるだろう後輩にエールを送る”コツン”なのでありました。
調査団一行には、もちろんネリスも同行します。しかしコリスの指示で、ネリスが騒動の張本人だという事は秘密にされました。これは事態を複雑にしないためと、先ほど申し上げた通り、大いなる魔女魂の賜物でした。
さて、彼女たちに対する町の人達の反応は、どうだったのでしょうか、? 激怒したに決まっているだろうって? いえいえ、そんな事はありません。みなそれほど腹を立てたりもせず、むしろ魔女たちの調査に協力を惜しみませんでした。
薬の効き目は、もう、とうに切れてる上、大した実害もありませんでしたし、何より町の人たちはコリスに大変な恩義を感じていたからです。それは十年前に起こった出来事と深く関係しているのですが、また後のお話となります。
それから、もう一つ理由がありました。何か大切な事を忘れ、後になってそれを思い出した時に不思議な感覚に襲われた人が多かったからです。
シェフのジェイドは、今はウエイターをしていますが、シェフ志望のソランを本格的に指導しようと決めました。彼に、ソースのレシピを伝えるためです。ジェイドは今まで、頑なにレシピを隠してきましたが、ある事に気がついたのです。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる