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魔女の薬 (16) 思い出した大切な事
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もしあのままレシピを忘れていたら、お客さんの笑顔はもう見られないじゃないか。
ジェイドは、そう思い至りました。
彼は、自分が苦労して編み出したレシピを盗まれたくないと思うがあまり、何のために、そのレシピを必死になって考え出したのかを忘れていたのです。それは言うまでもなく、料理を食べる人の喜ぶ顔のためでした。
でもレシピを誰かに伝える前に、自分に何かあってはどうしようもありません。彼はいつの間にか、お客さんよりも自分の心を優先させていたのでした。
そしてお金ちのバイソンも、同じような感覚に襲われていました。彼のお金一番という哲学は変わりません。でも何故、お金が一番なのかを忘れていたのです。
彼は子供の頃からお金の苦労が絶えず、お金があればみんなが幸せになれるのにという思いで働き続けました。そして、とうとう今の地位を築き上げたのです。それは間違った考えではありません。でもいつしか、お金を集めること自体が幸せだと勘違いをしていたのでした。
彼はお金を数える時に、喜びと共に感じていた”心がカラカラと音を立てている”不愉快さの正体を知りました。
また流行作家のキャシー・キャシー。彼女もまた、大切な事に気がつきました。自分の心の中に満ち溢れる夢を小説という形にする。それを至福の悦びとしていたはずなのに、人気作家ゆえの締め切りに追われる日々の中、期日に間にあわせるためだけに作品を書くようになっておりました。
しかし文字を忘れ、全く小説が書けなくなった数時間を経験し、なぜ自分が物を書くのかという理由に初めて真剣に向きあったのです。彼女の疑問は吹っ切れました。これからは前にも増して、良い作品を世に出していけるでしょう。
このように被害に遭った人たちは、多かれ少なかれ彼らと同じ体験をしていました。それは自分を再発見する出来事です。だから魔女工場のしでかした不始末にも、寛容になれたのです。
数日後、事の顛末を魔女会議に報告したコリスが工場へと帰って来ました。当然ながら、ネリスへの処罰も携えています。
ネリスを工場長室へ呼んだコリスは、
「さて、ネリス。魔女会議があなたに下した処分ですけどね……」
と、さも仰々しく手ぶりを交えて言いました。
ネリスは当然の事ながら、工場をクビになるだろうと考えています。もちろんそれは彼女にとって大変残念な事態ですが、自分の失敗が人に大きな不幸をもたらさなかった事の方が、彼女には嬉しかったので諦めもついていました。
「総合的、ふかん的に検討した結果……」
コリスが、どこぞの政治家みたいな言い方をします。
「とりあえず、首の皮一枚でつながったわよ」
トラブルを引き起こした弟子をからかうように、コリスはあっさりと言いました。
「首の皮一枚?」
ネリスが、キョトンとした顔で聞き返します。
「そう。今回の罰として、向こう一年間、あなたには工場でタダ働きをしてもらいます」
コリスは、判決を弟子に伝えました。
「えぇ? タダ働きですか! でもそれじゃぁ、私はどうやって暮らしていけばいいんです? アパートの家賃だって払えないし、いえ、そもそも一年間何も食べないで生きて行くなんて出来ませんよぉ」
ジェイドは、そう思い至りました。
彼は、自分が苦労して編み出したレシピを盗まれたくないと思うがあまり、何のために、そのレシピを必死になって考え出したのかを忘れていたのです。それは言うまでもなく、料理を食べる人の喜ぶ顔のためでした。
でもレシピを誰かに伝える前に、自分に何かあってはどうしようもありません。彼はいつの間にか、お客さんよりも自分の心を優先させていたのでした。
そしてお金ちのバイソンも、同じような感覚に襲われていました。彼のお金一番という哲学は変わりません。でも何故、お金が一番なのかを忘れていたのです。
彼は子供の頃からお金の苦労が絶えず、お金があればみんなが幸せになれるのにという思いで働き続けました。そして、とうとう今の地位を築き上げたのです。それは間違った考えではありません。でもいつしか、お金を集めること自体が幸せだと勘違いをしていたのでした。
彼はお金を数える時に、喜びと共に感じていた”心がカラカラと音を立てている”不愉快さの正体を知りました。
また流行作家のキャシー・キャシー。彼女もまた、大切な事に気がつきました。自分の心の中に満ち溢れる夢を小説という形にする。それを至福の悦びとしていたはずなのに、人気作家ゆえの締め切りに追われる日々の中、期日に間にあわせるためだけに作品を書くようになっておりました。
しかし文字を忘れ、全く小説が書けなくなった数時間を経験し、なぜ自分が物を書くのかという理由に初めて真剣に向きあったのです。彼女の疑問は吹っ切れました。これからは前にも増して、良い作品を世に出していけるでしょう。
このように被害に遭った人たちは、多かれ少なかれ彼らと同じ体験をしていました。それは自分を再発見する出来事です。だから魔女工場のしでかした不始末にも、寛容になれたのです。
数日後、事の顛末を魔女会議に報告したコリスが工場へと帰って来ました。当然ながら、ネリスへの処罰も携えています。
ネリスを工場長室へ呼んだコリスは、
「さて、ネリス。魔女会議があなたに下した処分ですけどね……」
と、さも仰々しく手ぶりを交えて言いました。
ネリスは当然の事ながら、工場をクビになるだろうと考えています。もちろんそれは彼女にとって大変残念な事態ですが、自分の失敗が人に大きな不幸をもたらさなかった事の方が、彼女には嬉しかったので諦めもついていました。
「総合的、ふかん的に検討した結果……」
コリスが、どこぞの政治家みたいな言い方をします。
「とりあえず、首の皮一枚でつながったわよ」
トラブルを引き起こした弟子をからかうように、コリスはあっさりと言いました。
「首の皮一枚?」
ネリスが、キョトンとした顔で聞き返します。
「そう。今回の罰として、向こう一年間、あなたには工場でタダ働きをしてもらいます」
コリスは、判決を弟子に伝えました。
「えぇ? タダ働きですか! でもそれじゃぁ、私はどうやって暮らしていけばいいんです? アパートの家賃だって払えないし、いえ、そもそも一年間何も食べないで生きて行くなんて出来ませんよぉ」
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