ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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扉の奥の秘宝 (32) 破格の申し出

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「なるほどな。よくわかったよ。それじゃぁ、オレはこれで出発させてもらうとするか」

秘密の一部始終を知ったフューイが、腰を上げようとすると、

「いや、待ってくれ。話はまだ終わっていない」

と、ボンシックが慌てて彼を引き留めました。

「何だ、まだオレに用があるのか。安心しろ。今の話は、決して口外しない」

フューイが、再びソファに身を委ねます。

「お前が、口外するとは思ってないよ。

……なぁ、相談なんだが、お前、王宮付きの細工師になるつもりはないか? 秘宝の罠に陥らなかったのであれば、人柄は十分に信用できるし、今回の仕事ぶりを見れば腕前も文句なしだ」

ボンシックの突然の申し出に、さすがのフューイも少し驚きました。一介の民間細工師が、王宮付きの細工師になるのです。大出世などという凡庸な表現では、表せないほどの大事ですよ、これは。

「いや、せっかくだがお断りする。オレには、やる事がある」

欲がないのか、単に馬鹿なのかはわかりませんが、フューイは破格の誘いを、事もなげに蹴り飛ばしました。

「まぁ、そう言うな。私が小耳にはさんだところによると、お前は”ある錠前”を探しているようだな。それは、とても珍しいものだとか」

ボンシックが、フューイの心の中を透かし見るように言います。

「……! 何でお前が、それを知ってるんだ」

全く予想外の話を聞かされて、珍しくフューイがうろたえました。

「宝物要塞の責任者様を甘く見るな。この十日間近く、私がぼんやりと過ごしていたとでも思っているのか」

いや、驚きました。小狡いだけの、木っ端役人だと思っていたボンシックでしたが、意外と大人物のようですね。

「で、今回の錠前はそれじゃなかったんだろ? 探す当てはあるのかい」

ボンシックが、少し意地悪な口調で尋ねました。

「うむ、今度こそはと思ったんだが、そうではなかった。また、あてどない旅が始まる事になる」

ボンシックの器量を見誤っていたと悟ったフューイは、自らを恥じると同時に落ち着きを取り戻します。

「だからこそだよ。民間の細工師が、依頼されたり立ち入れる仕事なんてたかが知れている。

だが、王宮付きの細工師ともなれば話は別だ。未踏破のダンジョンに眠っている宝箱や、そこに到る扉の鍵、他国から奪った宝箱、そのほか諸々、民間にいては拝む事すら出来ない錠前がゴロゴロしているぞ」

ボンシックは、ここぞとばかりに迫ります。

「……」

フューイは、しばし考え込みました。

「そうだな。その通りだ。あんたの誘いに乗ってやろう。

しかし大丈夫なのか。ギルドの推薦があったとはいえ、それはあくまで細工師の技量を保証されたに過ぎない。素性としては、どこの馬の骨ともわからないオレを雇っても文句が出ないのか?」

「もちろんだ。それは私が保証人になる」

ボンシックは、本当にフューイの事が気に入ったようですね。たった数日間の付き合いで、その身元を保証するまでになったのですから。

その後、フューイは一度、これまでの活動拠点に戻る事にしました。そこで正式に、王宮から使いが来るのを待つのです。

ボンシックをはじめ、多くの兵に見送られながら、フューイは宝物要塞を後にしました。

よし、ここからが第二のスタートだ。待ってろよ。かならず”お前”を見つけて解錠してみせるからな。

若き細工師の決意を後押しするように、森の鳥たちが一斉にさえずりました。
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