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大魔法使いの死 (4) 再び彼の地へ
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まばゆい光、そうとしか言いようがない。魔法ランプとは雲泥の差だ。しかしそれは、褒めているのではない。明るいが硬く、貧相な光だ。
パーパスは、再び仰ぎ見る事となった光をこのように評した。
「あぁ、気がついた。本当に良かった」
いつぞや夢で見た女性が、再び彼の眼前にいる。今度は、同じく医師らしき男性も傍らにたたずんでいた。
「九死に一生を得ましたね、馬場さん。あなたは、実に運のいい人だ。普通だったら、生きてはいませんよ。もう、先日みたいに暴れてはいけません。死にたくなければね」
女性とは裏腹に、厳しい口調で彼が諫める。
医師は看護師に幾つかの指示を出した後”では、お大事に”と、口先ばかりのいたわりを示して何処かへと去っていった。
「馬場さん、余り気にしないで下さいね。悪い人じゃないんだけど、真面目過ぎるのが玉に瑕なのよね、あの先生」
看護師が、少し困ったように微笑む。
また”ババサン”か。理由は分からないが、ワシはここでは、そう呼ばれているらしい。だが、これは本当に夢なんだろうか。
前回とは違い、既にパーパスはその明晰な頭脳をフル回転させ始めていた。
まずおかしいのは、この夢は就寝中に見ているものではないという事だ。ワシが実験室の爆発で気絶した時や、さっき意識が遠のいた後にだけ起こっている。果たして、そんな夢があるのだろうか。
それに今回も、明らかに前回と連続した状況設定になっている。夢とは脈絡がないものと決まっているから、これも不自然じゃ。
そして決定的な事柄。それは、ここにはワシが知らない物、知らない事が溢れておる。夢は実体験した現実や、たとえ想像上のものでも絵や物語で見聞きした知識が元になっている。”全く知らない”事物ばかりというのは、一体どういう事なのだ。
普段は整理整頓されているパーパスの頭の中は、混乱に満ち溢れていった。
「あぁ、篠原さんが来ましたよ。余りワガママを言わないようね」
看護師が、パーパスの耳元で囁いた。
シノハラサン……?
察するに、これも名前のようじゃが、この女の言い様からして、”ここ”でのワシの知り合いらしい。
いつもの太々しさを取り戻しつあるパーパスは、ひとつ徹底的に探索してやろうという気になった。夢ではない夢の研究。それもまた面白かろうと。
だが、彼のベッドわきに立った男を見て、パーパスは目を丸くした。
「マスター、大丈夫ですか?こっちの寿命の方が、縮んじゃいましたよ」
老人の前に現れた四十半ばの男、彼はなんとシュプリンそっくりだったのだ。勿論、着ている服は見慣れないものであるし、露出している肌はオーク材ではない、だが彼が町へ出かける際に人形とはばれないように付与される、幻影の魔法を施した時の姿とかわらないのである。
「おぉ、シュプリン。来てくれたのか。一体、これはどうなっているんじゃ」
パーパスは思わず彼の腕を取った。だが、慌てたのは、当の本人である。
「シュプリン? ちょっとマスター、何言ってるんですか」
篠原と呼ばれた男はとまどい、看護師の方を見た。
「あぁ、前の時もそうでしたが、混乱しているようなんですよ。大きな発作の後には、時々ある症状なんです。それに……」
看護師は篠原の反対側の腕を取り、パーパスに背中を向けた。
「先生によれば、どうやら認知症もかなり進んでいるようでして……」
耳打ちされた篠原は、あぁ、とばかりにうなづいた。大いに心当たりがあったからだ。
「シュプリン、何をコソコソ話しておるんじゃ。しっかりと説明せい」
パーパスは、イラつきながらそう言った。
「馬場さん。彼は篠原さんですよ、ケースワーカーの。ずっと、お世話になっているんでしょう?」
「けーすわーかー? 何じゃそれは、こいつは、ワシの執事を務めるシュプリンじゃ」
主張を譲らぬ老人に、二人は顔を見合わせる。
その時、パーパスの身に異変が起こった。何やら異様に眠くなり、体を起こしていられなくなったのだ。
「あぁ、まだ薬が効いているようですね。それじゃぁ、安静にして、もう少しお休みしましょうね」
看護師が、パーパスの横たわったベッドを整える。そして寝入ったのを確認すると、彼女は篠原と共に廊下へ出た。
「大丈夫でしょうかね」
篠原は、心配げな顔で尋ねる。
「そうですね、前回の発作はかなり大きなものでしたので、今度同じレベルのものが起こったら、命の保証はできないと先生は仰っています」
看護師の答えに、篠原の表情が厳しいものとなった。
「そういえば、篠原さんは馬場さんの事をマスターって呼んでましたけど、それはどういう?」
「あぁ、あれですか。あの人は比較的最近まで、喫茶店を経営していましてね。私は、そこの常連だったんですよ」
「へぇ、あの方が……」
「えぇ、それが外観も内装も非常に凝った作りでね。まるで剣と魔法の世界に来たんじゃないかって、そういう絵に描いたようなファンタジー趣味の店なんです」
篠原の意外な答えに、看護師は驚いた。
「じゃぁ、それがご縁でお世話を……」
「まぁ、そんなところです。我がままなのは昔からなんですが、どこか憎めない人でして」
篠原が、どこか懐かしそうに笑う。
「なら、いいかな。ご存じの通り、馬場さんは身寄りがないでしょう。先生も誰に話すか迷っておられたんですが、篠原さんなら……」
看護師の真剣で悲しそうな目に、篠原の心がギュッと締め付けられた。
まばゆい光、そうとしか言いようがない。魔法ランプとは雲泥の差だ。しかしそれは、褒めているのではない。明るいが硬く、貧相な光だ。
パーパスは、再び仰ぎ見る事となった光をこのように評した。
「あぁ、気がついた。本当に良かった」
いつぞや夢で見た女性が、再び彼の眼前にいる。今度は、同じく医師らしき男性も傍らにたたずんでいた。
「九死に一生を得ましたね、馬場さん。あなたは、実に運のいい人だ。普通だったら、生きてはいませんよ。もう、先日みたいに暴れてはいけません。死にたくなければね」
女性とは裏腹に、厳しい口調で彼が諫める。
医師は看護師に幾つかの指示を出した後”では、お大事に”と、口先ばかりのいたわりを示して何処かへと去っていった。
「馬場さん、余り気にしないで下さいね。悪い人じゃないんだけど、真面目過ぎるのが玉に瑕なのよね、あの先生」
看護師が、少し困ったように微笑む。
また”ババサン”か。理由は分からないが、ワシはここでは、そう呼ばれているらしい。だが、これは本当に夢なんだろうか。
前回とは違い、既にパーパスはその明晰な頭脳をフル回転させ始めていた。
まずおかしいのは、この夢は就寝中に見ているものではないという事だ。ワシが実験室の爆発で気絶した時や、さっき意識が遠のいた後にだけ起こっている。果たして、そんな夢があるのだろうか。
それに今回も、明らかに前回と連続した状況設定になっている。夢とは脈絡がないものと決まっているから、これも不自然じゃ。
そして決定的な事柄。それは、ここにはワシが知らない物、知らない事が溢れておる。夢は実体験した現実や、たとえ想像上のものでも絵や物語で見聞きした知識が元になっている。”全く知らない”事物ばかりというのは、一体どういう事なのだ。
普段は整理整頓されているパーパスの頭の中は、混乱に満ち溢れていった。
「あぁ、篠原さんが来ましたよ。余りワガママを言わないようね」
看護師が、パーパスの耳元で囁いた。
シノハラサン……?
察するに、これも名前のようじゃが、この女の言い様からして、”ここ”でのワシの知り合いらしい。
いつもの太々しさを取り戻しつあるパーパスは、ひとつ徹底的に探索してやろうという気になった。夢ではない夢の研究。それもまた面白かろうと。
だが、彼のベッドわきに立った男を見て、パーパスは目を丸くした。
「マスター、大丈夫ですか?こっちの寿命の方が、縮んじゃいましたよ」
老人の前に現れた四十半ばの男、彼はなんとシュプリンそっくりだったのだ。勿論、着ている服は見慣れないものであるし、露出している肌はオーク材ではない、だが彼が町へ出かける際に人形とはばれないように付与される、幻影の魔法を施した時の姿とかわらないのである。
「おぉ、シュプリン。来てくれたのか。一体、これはどうなっているんじゃ」
パーパスは思わず彼の腕を取った。だが、慌てたのは、当の本人である。
「シュプリン? ちょっとマスター、何言ってるんですか」
篠原と呼ばれた男はとまどい、看護師の方を見た。
「あぁ、前の時もそうでしたが、混乱しているようなんですよ。大きな発作の後には、時々ある症状なんです。それに……」
看護師は篠原の反対側の腕を取り、パーパスに背中を向けた。
「先生によれば、どうやら認知症もかなり進んでいるようでして……」
耳打ちされた篠原は、あぁ、とばかりにうなづいた。大いに心当たりがあったからだ。
「シュプリン、何をコソコソ話しておるんじゃ。しっかりと説明せい」
パーパスは、イラつきながらそう言った。
「馬場さん。彼は篠原さんですよ、ケースワーカーの。ずっと、お世話になっているんでしょう?」
「けーすわーかー? 何じゃそれは、こいつは、ワシの執事を務めるシュプリンじゃ」
主張を譲らぬ老人に、二人は顔を見合わせる。
その時、パーパスの身に異変が起こった。何やら異様に眠くなり、体を起こしていられなくなったのだ。
「あぁ、まだ薬が効いているようですね。それじゃぁ、安静にして、もう少しお休みしましょうね」
看護師が、パーパスの横たわったベッドを整える。そして寝入ったのを確認すると、彼女は篠原と共に廊下へ出た。
「大丈夫でしょうかね」
篠原は、心配げな顔で尋ねる。
「そうですね、前回の発作はかなり大きなものでしたので、今度同じレベルのものが起こったら、命の保証はできないと先生は仰っています」
看護師の答えに、篠原の表情が厳しいものとなった。
「そういえば、篠原さんは馬場さんの事をマスターって呼んでましたけど、それはどういう?」
「あぁ、あれですか。あの人は比較的最近まで、喫茶店を経営していましてね。私は、そこの常連だったんですよ」
「へぇ、あの方が……」
「えぇ、それが外観も内装も非常に凝った作りでね。まるで剣と魔法の世界に来たんじゃないかって、そういう絵に描いたようなファンタジー趣味の店なんです」
篠原の意外な答えに、看護師は驚いた。
「じゃぁ、それがご縁でお世話を……」
「まぁ、そんなところです。我がままなのは昔からなんですが、どこか憎めない人でして」
篠原が、どこか懐かしそうに笑う。
「なら、いいかな。ご存じの通り、馬場さんは身寄りがないでしょう。先生も誰に話すか迷っておられたんですが、篠原さんなら……」
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