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魔女と奇妙な男 (7) 門前の黒い影
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倒れた自転車の所へ戻り、壊れていないのを確認したネリスは、薬工場へと向かいます。これ以上探索すれば、確実に遅刻をしてしまいます。
いつものように工場の自転車置き場に入ろうとした時、ネリスの心に、ふとした疑問が沸き起こりました。
「あいつ、どうやって追いかけてきたんだろう?」
ネリスが見た人影は、正に”人”そのものであり、他のものは全く確認できませんでした。ストーカーの足がどれだけ早かったとしても、自転車のネリスを走って追いかけるのは不可能です。特に彼女は遅刻しそうになっていたので、全速力を出していたわけですからね。
背中にゾクっとしたもの少し感じたネリスすが、始業の鐘が鳴り出したのを耳にして、一目散に工場へと駆け込みました。
「ネリス、ちょっと」
薬工場でちょこまかと働いているネリスに、コリスが声をかけます。今日は薬相談所へ行かなくてもよいので、自分と一緒に薬の配送ルートを回るよう指示されました。
正直、屋敷でも工場でもコリスと顔を突き合わせている身の上です。薬相談所でのアルバイトは、格好の息抜きになっていたのですが……。でも当然の事ながら、ネリスに拒否権はありません。
もっともコリスの方は、不肖の弟子に薬に関する色々な知識を授けようとの厚意なんですけどね。師匠の心、弟子知らずです。それにコリスの方でも朝の一件をネリスから報告され、結構気になる所ではありました。
夕方の四時半くらいでしょうか。師匠に付いての退屈な外回りが終り、二人は共に自転車に乗って屋敷へと戻ってまいります。ところがいつもとは違う、とても違う出来事が二人を待ち受けておりました。
門前に、黒い人影が突っ立っているのです。そうです。今日の朝、出勤するネリスを追いかけてきた、あの影に間違いありません。謎の男、大柄な体格からして男なのでしょうけれど、彼は門前で仁王立ちをし、屋敷の方を見ています。
異変に気付いた魔女の師弟は声をかけ合うでもなく、自転車をそっと降りました。
「し、師匠。どうしよう。あいつですよ、あいつ。朝、私を追いかけてきたのは!」
ネリスが如何に跳ねっ返りとはいえ、やっぱり大柄で真っ黒なローブをまとった正体不明の男は怖いようで、師匠に小声で話しかけます。
「どうしようって、あそこは私たちの家でしょう? なんの遠慮がいるものですか」
コリスはそう言うと、自転車を引きながら、ドンドン真っ黒な影の方へと進んで行きます。
「ちょ、ちょっと師匠。なにやってるんですか。襲って来るかも知れませんよ。ちょっと待って……」
師匠を心配しているのか、自分を心配しているのか。ネリス自身も良く分かりませんでしたが、さすがに一人で逃げるわけにもいかず、コリスの陰に隠れるように、黒い影の男の方へと進んでいきました。
「ごめんなさい。ここは私の屋敷です。中へ入りたいんですけどね」
コリスが、堂々と申し出ます。
わーっ、何やってんのよ、この人。こいつに暴れられたりでもしたら、どうするつもり? ネリスは逃げ出したい気持ちを、必死にこらえました。
その時、男は頭にかぶっていたフードを跳ね上げ、おもむろに両者の方を振り返ります。ネリスは恐怖のあまり、まともに男の顔を見られません。危うし、魔女師弟。
「よぉ、コリス。久しぶり」
男が、姿かたちの異様さとはかけ離れた、陽気な声を出しました。
えっ?
予想と余りにも違う雰囲気に、ネリスの頭は真っ白になります。
いつものように工場の自転車置き場に入ろうとした時、ネリスの心に、ふとした疑問が沸き起こりました。
「あいつ、どうやって追いかけてきたんだろう?」
ネリスが見た人影は、正に”人”そのものであり、他のものは全く確認できませんでした。ストーカーの足がどれだけ早かったとしても、自転車のネリスを走って追いかけるのは不可能です。特に彼女は遅刻しそうになっていたので、全速力を出していたわけですからね。
背中にゾクっとしたもの少し感じたネリスすが、始業の鐘が鳴り出したのを耳にして、一目散に工場へと駆け込みました。
「ネリス、ちょっと」
薬工場でちょこまかと働いているネリスに、コリスが声をかけます。今日は薬相談所へ行かなくてもよいので、自分と一緒に薬の配送ルートを回るよう指示されました。
正直、屋敷でも工場でもコリスと顔を突き合わせている身の上です。薬相談所でのアルバイトは、格好の息抜きになっていたのですが……。でも当然の事ながら、ネリスに拒否権はありません。
もっともコリスの方は、不肖の弟子に薬に関する色々な知識を授けようとの厚意なんですけどね。師匠の心、弟子知らずです。それにコリスの方でも朝の一件をネリスから報告され、結構気になる所ではありました。
夕方の四時半くらいでしょうか。師匠に付いての退屈な外回りが終り、二人は共に自転車に乗って屋敷へと戻ってまいります。ところがいつもとは違う、とても違う出来事が二人を待ち受けておりました。
門前に、黒い人影が突っ立っているのです。そうです。今日の朝、出勤するネリスを追いかけてきた、あの影に間違いありません。謎の男、大柄な体格からして男なのでしょうけれど、彼は門前で仁王立ちをし、屋敷の方を見ています。
異変に気付いた魔女の師弟は声をかけ合うでもなく、自転車をそっと降りました。
「し、師匠。どうしよう。あいつですよ、あいつ。朝、私を追いかけてきたのは!」
ネリスが如何に跳ねっ返りとはいえ、やっぱり大柄で真っ黒なローブをまとった正体不明の男は怖いようで、師匠に小声で話しかけます。
「どうしようって、あそこは私たちの家でしょう? なんの遠慮がいるものですか」
コリスはそう言うと、自転車を引きながら、ドンドン真っ黒な影の方へと進んで行きます。
「ちょ、ちょっと師匠。なにやってるんですか。襲って来るかも知れませんよ。ちょっと待って……」
師匠を心配しているのか、自分を心配しているのか。ネリス自身も良く分かりませんでしたが、さすがに一人で逃げるわけにもいかず、コリスの陰に隠れるように、黒い影の男の方へと進んでいきました。
「ごめんなさい。ここは私の屋敷です。中へ入りたいんですけどね」
コリスが、堂々と申し出ます。
わーっ、何やってんのよ、この人。こいつに暴れられたりでもしたら、どうするつもり? ネリスは逃げ出したい気持ちを、必死にこらえました。
その時、男は頭にかぶっていたフードを跳ね上げ、おもむろに両者の方を振り返ります。ネリスは恐怖のあまり、まともに男の顔を見られません。危うし、魔女師弟。
「よぉ、コリス。久しぶり」
男が、姿かたちの異様さとはかけ離れた、陽気な声を出しました。
えっ?
予想と余りにも違う雰囲気に、ネリスの頭は真っ白になります。
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