ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (11) ネリスの涙

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コリスが、たまらず怒鳴ります。ネリスは目の前で起こっている出来事を、ただ茫然として、見守っているしかありませんでした。

「し、師匠、これは一体……」

年若い魔女が、やっとの事で声を振り絞ります。

「久しぶりに会うと、必ず、あぁなるのよ。男は、拳で挨拶するとか言ってね。バカじゃないかしらと思うけど」

コリスが、深く深くため息をつきました。

「ふん、今回も僕の勝ちだな」

「何言ってんだ。手加減してやってるんだよ。悪魔の姿に戻ってないだろ?」

クレオンが、床に座り込んでいた執事の手を取り引き揚げます。どうやら仲の良いもの同士の、ジャレ合いみたいだったようですね。

「次から今みたいのをやる時は、外でやってちょうだい。それからクレオン。その小汚い服は、すぐにオリビアさんへ渡して洗濯してもらってね。そんなので家中を歩かれちゃ、掃除が大変だわ」

「へいへい」

クレオンはバツが悪そうに、頭の後ろをかきました。

「レアロン、あなたもよ。ほんと、次はありませんからね」

クレオンもレアロンも、兄弟でふざけ合った後、母親に叱られているイタズラ坊主みたいにシュンとしています。

「じゃぁ、今日は少し早めの夕食とします。クレオンには、色々と確かめたい事もありますからね」

ネリスは呆気にとられるばかりでしたが、とにもかくにも一段落がついた事を知りました。

彼女が自分の部屋へ行こうとすると、洗濯スペースから、楽しそうな声が聞こえてきます。クレオン、そしてオリビアとフレディーが、久しぶりの再会を喜んでいるようでした。

その屈託のない笑い声を聞いて、ネリスはチョット焼きもちを焼いています。父母とも慕っているこの二人を、クレオンに取られた気がしたのですね。

自室に戻ったネリス。夕食までは、自習時間です。魔女は十八歳になった時、魔女大学へ行くかどうかの選択に迫られます。お金はかからないし、家柄なんてのも関係ありません。入学できるかどうかは、本当に実力一本の勝負です。

まぁ、上の等級を目指すならば行くに越した事はありませんが、現在の最高位の魔女の二人までは魔女大学出身ではないので、必ずしも出世に関係するとは言えないんですけどね。

でもまぁ、せっかく最高位魔女の自宅に居候しているのです。やるだけはやってみなさいというのが、コリスの方針でした。これまた、ネリスに選択権はありません。

師匠とクレオンさん、なんか本当に仲がいい友達みたいだったなぁ。いえ、もしかしたらそれ以上かも……。オリビアさんとフレディさんも楽しそうだったし……。あのレアロンでさえ、嬉しそうだった。あんな顔、初めて見たよ……。

それに引きかえ……。私、この家では、やっぱり只の居候なんだ……。

勉強疲れか、勉強が向いていないのか、ネリスは夢うつつの中でそんな事を漫然と考えていました。

「ネリスちゃん、夕食が出来たわよ」

扉越しのオリビアの声で、まどろみの中から現実に引き戻されたネリス。気持ちを悟られないよう元気に返事をして、食堂へと向かいます。ノートが、ちょっぴり濡れていたのにも気づかずに。

夕食はもう、久しぶりに放蕩息子が帰って来たかのような賑やかさで、レアロンも上機嫌です。コリスは時々、はしゃぐ二人に注意をするほどでした。

「さてと……」

食後のコーヒーが出て来た所で、コリスが本題に入ります。

「で、クレオン。あなたは、何でここに? っていうか、ネリスをストーキングしていたのは、どういうわけ?

魔女協会からの手紙では、”そっちにやるから、面倒を宜しく”とあっただけで、詳細は書いてなかったけど」

コリスが”さっさと白状しなさい”と言わんばかりに問い詰めます。
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