ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (19) 違和感の正体

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ネリスは曲がり角を折れ、そこで自転車を降りました。少し探せばわかる場所に、急いで自転車を立てかけておきます。

次にネリスは、大急ぎで折れた先の脇にある小道に入りました。けもの道のような悪路ですが、彼女の冒険心は既に街中の到る所を探検し尽くしておりました。

ネリスは道の悪さをものともせず、正に獣のように悪路を突き進みます。この道は、先ほど通って来た本道につながっているのです。もちろんその出口だって、外からではまず発見できません。

彼女の作戦は、こうでした。

ネリスの自転車が予定外に角を曲がったとなれば、クレオンは慌ててそこまで来るでしょう。ただ、曲がったすぐの場所に、ネリスが仁王立ちをしてクレオンを待ち構えていると、彼は考えるかも知れません。まぁ、普通はそう思うでしょうね。

となると、彼も安易に角を曲がるわけにはいきません。慎重になり彼のスピードが落ちた隙に、秘密の通路を抜けて彼の背後に回り込む作戦なのです。あとは、わかりますよね。ネリスの行方を捜してウロウロしたクレオンは、すぐに自転車を見つけるでしょう。でもその時には、既に後ろにネリスが”してやったり”という顔をして立っているという寸法です。

さて、秘密の通路の出口付近でクレオンが通り過ぎるのを待つネリス。彼女の予想通り、ネリスが来た方向から恐る恐る曲がり角へと向かう影が通り過ぎました。あいにくと街灯がないために、クレオンだとはハッキリわかりません。ネリスは心もち彼よりも大きい気がしましたが、夜の闇がそう思わせたのだろうと考えました。

ネリスは通路の出口からヒョッコリと顔を出し、本道にクレオンがいないのを確認します。あとは、ネリスが彼の後ろを取るだけです。

きっと、ビックリするぞ。

ここ数日のわだかまりを吹き飛ばそうとばかり、抜け道から本道へ這い出たネリスは、勇んで自分も再び曲がり角へと急ぎました。

ネリスの作戦は、図に当たります。彼女が角を曲がって見たものは、案の定、ウロウロキョロキョロしている黒い影の姿でした。

作戦成功の高揚感と共に、ネリスは影の後ろに立ちました。

「クレオンさん、見張りはやめたって……」

大見えを切ろうとしたネリスでしたが、その声は途端に細っていきます。違うのです。クレオンじゃありません。月明かりに照らされたその姿は、身長二メートル半には及ぶ人型の黒い塊で、”それ”はネリスの声に反応して振り返りました。

ネリスの息が詰まります。”それ”は人の形をしていたとはいえ、獣のようにも見え、また悪魔のようにも見えました。彼女は恐怖で一歩も動けません。そんな彼女の心を知ってか知らずか、”それ”はゆっくりと、でも確実にネリスの方へと近づいていきました。

これだ、この感覚。

ネリスは、ハタと気がつきました。この恐ろしい怪物の醸し出すオーラのようなもの。これこそが”嫌な違和感”の正体だったのです。

怪物は、更にネリスに向かってにじり寄って来ます。こうなれば蛇に睨まれた蛙と同じ。あとは”食べられる”他ないと、ネリスは直感しました。

こ、こんな所で私の人生は終わっちゃうの? 師匠の跡を継いで、最高位の魔女になるはずだったのに……!

諦めるなんて事は出来ません。だけど、諦めを上回る勇気が湧き出て来る余裕なんて、とてもありませんでした。

その時です。

「なんだ、そこで何をしているんだ!」

曲がり角の所から、声がしました。怪物は一瞬、ビクっとしてそちらを見やります。

「なんだ、何をしている」

声はもう一度、大きく響きます。その声を聞きつけて、道路の向こう側を歩いていた人たちも何人か集まって来ました。怪物は、少したじろぎます。怪物がやって来た人たちと争って負けると思えませんが、大勢の人たちに姿を見られる事を恐れているようです。

それを敏感に感じ取ったネリスの心にポッと火が灯ります。それが、カチコチに固まっていた彼女の希望を段々と元気づけていくのでした。
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