142 / 218
魔女と奇妙な男 (19) 違和感の正体
しおりを挟む
ネリスは曲がり角を折れ、そこで自転車を降りました。少し探せばわかる場所に、急いで自転車を立てかけておきます。
次にネリスは、大急ぎで折れた先の脇にある小道に入りました。けもの道のような悪路ですが、彼女の冒険心は既に街中の到る所を探検し尽くしておりました。
ネリスは道の悪さをものともせず、正に獣のように悪路を突き進みます。この道は、先ほど通って来た本道につながっているのです。もちろんその出口だって、外からではまず発見できません。
彼女の作戦は、こうでした。
ネリスの自転車が予定外に角を曲がったとなれば、クレオンは慌ててそこまで来るでしょう。ただ、曲がったすぐの場所に、ネリスが仁王立ちをしてクレオンを待ち構えていると、彼は考えるかも知れません。まぁ、普通はそう思うでしょうね。
となると、彼も安易に角を曲がるわけにはいきません。慎重になり彼のスピードが落ちた隙に、秘密の通路を抜けて彼の背後に回り込む作戦なのです。あとは、わかりますよね。ネリスの行方を捜してウロウロしたクレオンは、すぐに自転車を見つけるでしょう。でもその時には、既に後ろにネリスが”してやったり”という顔をして立っているという寸法です。
さて、秘密の通路の出口付近でクレオンが通り過ぎるのを待つネリス。彼女の予想通り、ネリスが来た方向から恐る恐る曲がり角へと向かう影が通り過ぎました。あいにくと街灯がないために、クレオンだとはハッキリわかりません。ネリスは心もち彼よりも大きい気がしましたが、夜の闇がそう思わせたのだろうと考えました。
ネリスは通路の出口からヒョッコリと顔を出し、本道にクレオンがいないのを確認します。あとは、ネリスが彼の後ろを取るだけです。
きっと、ビックリするぞ。
ここ数日のわだかまりを吹き飛ばそうとばかり、抜け道から本道へ這い出たネリスは、勇んで自分も再び曲がり角へと急ぎました。
ネリスの作戦は、図に当たります。彼女が角を曲がって見たものは、案の定、ウロウロキョロキョロしている黒い影の姿でした。
作戦成功の高揚感と共に、ネリスは影の後ろに立ちました。
「クレオンさん、見張りはやめたって……」
大見えを切ろうとしたネリスでしたが、その声は途端に細っていきます。違うのです。クレオンじゃありません。月明かりに照らされたその姿は、身長二メートル半には及ぶ人型の黒い塊で、”それ”はネリスの声に反応して振り返りました。
ネリスの息が詰まります。”それ”は人の形をしていたとはいえ、獣のようにも見え、また悪魔のようにも見えました。彼女は恐怖で一歩も動けません。そんな彼女の心を知ってか知らずか、”それ”はゆっくりと、でも確実にネリスの方へと近づいていきました。
これだ、この感覚。
ネリスは、ハタと気がつきました。この恐ろしい怪物の醸し出すオーラのようなもの。これこそが”嫌な違和感”の正体だったのです。
怪物は、更にネリスに向かってにじり寄って来ます。こうなれば蛇に睨まれた蛙と同じ。あとは”食べられる”他ないと、ネリスは直感しました。
こ、こんな所で私の人生は終わっちゃうの? 師匠の跡を継いで、最高位の魔女になるはずだったのに……!
諦めるなんて事は出来ません。だけど、諦めを上回る勇気が湧き出て来る余裕なんて、とてもありませんでした。
その時です。
「なんだ、そこで何をしているんだ!」
曲がり角の所から、声がしました。怪物は一瞬、ビクっとしてそちらを見やります。
「なんだ、何をしている」
声はもう一度、大きく響きます。その声を聞きつけて、道路の向こう側を歩いていた人たちも何人か集まって来ました。怪物は、少したじろぎます。怪物がやって来た人たちと争って負けると思えませんが、大勢の人たちに姿を見られる事を恐れているようです。
それを敏感に感じ取ったネリスの心にポッと火が灯ります。それが、カチコチに固まっていた彼女の希望を段々と元気づけていくのでした。
次にネリスは、大急ぎで折れた先の脇にある小道に入りました。けもの道のような悪路ですが、彼女の冒険心は既に街中の到る所を探検し尽くしておりました。
ネリスは道の悪さをものともせず、正に獣のように悪路を突き進みます。この道は、先ほど通って来た本道につながっているのです。もちろんその出口だって、外からではまず発見できません。
彼女の作戦は、こうでした。
ネリスの自転車が予定外に角を曲がったとなれば、クレオンは慌ててそこまで来るでしょう。ただ、曲がったすぐの場所に、ネリスが仁王立ちをしてクレオンを待ち構えていると、彼は考えるかも知れません。まぁ、普通はそう思うでしょうね。
となると、彼も安易に角を曲がるわけにはいきません。慎重になり彼のスピードが落ちた隙に、秘密の通路を抜けて彼の背後に回り込む作戦なのです。あとは、わかりますよね。ネリスの行方を捜してウロウロしたクレオンは、すぐに自転車を見つけるでしょう。でもその時には、既に後ろにネリスが”してやったり”という顔をして立っているという寸法です。
さて、秘密の通路の出口付近でクレオンが通り過ぎるのを待つネリス。彼女の予想通り、ネリスが来た方向から恐る恐る曲がり角へと向かう影が通り過ぎました。あいにくと街灯がないために、クレオンだとはハッキリわかりません。ネリスは心もち彼よりも大きい気がしましたが、夜の闇がそう思わせたのだろうと考えました。
ネリスは通路の出口からヒョッコリと顔を出し、本道にクレオンがいないのを確認します。あとは、ネリスが彼の後ろを取るだけです。
きっと、ビックリするぞ。
ここ数日のわだかまりを吹き飛ばそうとばかり、抜け道から本道へ這い出たネリスは、勇んで自分も再び曲がり角へと急ぎました。
ネリスの作戦は、図に当たります。彼女が角を曲がって見たものは、案の定、ウロウロキョロキョロしている黒い影の姿でした。
作戦成功の高揚感と共に、ネリスは影の後ろに立ちました。
「クレオンさん、見張りはやめたって……」
大見えを切ろうとしたネリスでしたが、その声は途端に細っていきます。違うのです。クレオンじゃありません。月明かりに照らされたその姿は、身長二メートル半には及ぶ人型の黒い塊で、”それ”はネリスの声に反応して振り返りました。
ネリスの息が詰まります。”それ”は人の形をしていたとはいえ、獣のようにも見え、また悪魔のようにも見えました。彼女は恐怖で一歩も動けません。そんな彼女の心を知ってか知らずか、”それ”はゆっくりと、でも確実にネリスの方へと近づいていきました。
これだ、この感覚。
ネリスは、ハタと気がつきました。この恐ろしい怪物の醸し出すオーラのようなもの。これこそが”嫌な違和感”の正体だったのです。
怪物は、更にネリスに向かってにじり寄って来ます。こうなれば蛇に睨まれた蛙と同じ。あとは”食べられる”他ないと、ネリスは直感しました。
こ、こんな所で私の人生は終わっちゃうの? 師匠の跡を継いで、最高位の魔女になるはずだったのに……!
諦めるなんて事は出来ません。だけど、諦めを上回る勇気が湧き出て来る余裕なんて、とてもありませんでした。
その時です。
「なんだ、そこで何をしているんだ!」
曲がり角の所から、声がしました。怪物は一瞬、ビクっとしてそちらを見やります。
「なんだ、何をしている」
声はもう一度、大きく響きます。その声を聞きつけて、道路の向こう側を歩いていた人たちも何人か集まって来ました。怪物は、少したじろぎます。怪物がやって来た人たちと争って負けると思えませんが、大勢の人たちに姿を見られる事を恐れているようです。
それを敏感に感じ取ったネリスの心にポッと火が灯ります。それが、カチコチに固まっていた彼女の希望を段々と元気づけていくのでした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる