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魔女と奇妙な男 (26) あいつがいた
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お客さんの出入りも一段落し、ネリスはガラスの玄関扉から目に入る人々の往来を、見るとはなしに見ていました。店の中なら安心だという思いと、退勤時間になったらまた暗がりを屋敷まで一人で帰らねばならないという憂鬱とが、シーソーの両側にまたがってギッタンバッタンしています。
「ネリスさん」
突然後ろから声を掛けられたネリスは、肩をビクッとさせて振り向きます。
「あぁ、ごめんなさい。驚かせてしまったようですね」
声の主はサジルでした。いつものように、店へ品物を納めに来ていたのです。驚いた事を適当に誤魔化したネリスは、気のいい商人と普段通りの会話を楽しみました。立ち向かう覚悟を決めたとは言っても、まだまだ少女のネリスです。親しい人とのホッとするひととき、他愛もない会話を楽しんだとしても、誰が彼女を責められるでしょうか。
その日はお客さんの入りが少なくて、サジルと話している間に退勤時間がやってきました。サジルも一緒に席を立ちます。コリスの屋敷とサジルの店は途中まで方向が同じだったので、ネリスは怖さを紛らわすためもあってか、自転車を引きながらサジルと並んで歩いていきました。サジルは彼女の悩みを何でも聞いてくれる、優しい伯父さんのような存在なのです。
お店を出て数分がたった頃、お店の倉庫へと延びている脇道がある場所に差し掛かりました。魔女の薬相談所では多種多様な薬に対応するため、お店の棚だけではとても足りません。何せ、ヴォルノースに出回っている殆どの薬を扱っているのですからね。その種類は膨大なものになります。そこでお店から少し離れた所に、本格的な倉庫を構えているのです。
倉庫への道は暗く、また奥まったところにあるので、夜はかなり不気味な道行きとなります。相談所の先輩たちも、暗くなった後に行きたがる人は誰もいません。
ですがよりにもよって、そんな状況でネリスはとんでもない感覚に襲われました。
「!」
なんと、お化けの森に通じるようなその暗がりの奥から、例の悪寒が漂って来るのを感じたのです。ネリスはビクっとして足を止めました。そして暗がりの奥に意識を集中します。
「どうしたの、ネリスさん」
魔女の突然の行動に、少し道を行き過ぎたサジルが振り返って尋ねました。
ネリスは、彼の問いかけに答えません。答える余裕がないのです。彼女は今、あの忌まわしい雰囲気を全身で、余すところなく感じ取っているのですからね。
あの化け物が、この奥にいる?
そう思うと、ネリスは肌が泡立つのを感じました。
でも、なぜ倉庫へと続く一本道なんかにいるのだろうか?
ネリスの好奇心は恐怖の中でも健在のようです。彼女は、ウズウズとする気持ちを押さえきれずに一歩、また一歩と自転車を道連れに闇の中へと踏み入りました。
その時です。十メートルばかり離れた木立の隙間。彼女が以前に遭遇した、大きな影が動いたように見えました。間違いありません。"あいつ"がいるのです。もしかしたらクレオンかも知れない恐ろしい何かが。
「ちょっと、ネリスさん。どうしたんだい、ほんとに」
まるで何かにとりつかれたようにフラフラと奥の道へと分け入るネリスに、再びサジルが声をかけました。でもネリスは一向に気づく様子はありません。少し迷ったサジルが思い切ってネリスの左肩を掴みました。
「ネリスさん」
突然後ろから声を掛けられたネリスは、肩をビクッとさせて振り向きます。
「あぁ、ごめんなさい。驚かせてしまったようですね」
声の主はサジルでした。いつものように、店へ品物を納めに来ていたのです。驚いた事を適当に誤魔化したネリスは、気のいい商人と普段通りの会話を楽しみました。立ち向かう覚悟を決めたとは言っても、まだまだ少女のネリスです。親しい人とのホッとするひととき、他愛もない会話を楽しんだとしても、誰が彼女を責められるでしょうか。
その日はお客さんの入りが少なくて、サジルと話している間に退勤時間がやってきました。サジルも一緒に席を立ちます。コリスの屋敷とサジルの店は途中まで方向が同じだったので、ネリスは怖さを紛らわすためもあってか、自転車を引きながらサジルと並んで歩いていきました。サジルは彼女の悩みを何でも聞いてくれる、優しい伯父さんのような存在なのです。
お店を出て数分がたった頃、お店の倉庫へと延びている脇道がある場所に差し掛かりました。魔女の薬相談所では多種多様な薬に対応するため、お店の棚だけではとても足りません。何せ、ヴォルノースに出回っている殆どの薬を扱っているのですからね。その種類は膨大なものになります。そこでお店から少し離れた所に、本格的な倉庫を構えているのです。
倉庫への道は暗く、また奥まったところにあるので、夜はかなり不気味な道行きとなります。相談所の先輩たちも、暗くなった後に行きたがる人は誰もいません。
ですがよりにもよって、そんな状況でネリスはとんでもない感覚に襲われました。
「!」
なんと、お化けの森に通じるようなその暗がりの奥から、例の悪寒が漂って来るのを感じたのです。ネリスはビクっとして足を止めました。そして暗がりの奥に意識を集中します。
「どうしたの、ネリスさん」
魔女の突然の行動に、少し道を行き過ぎたサジルが振り返って尋ねました。
ネリスは、彼の問いかけに答えません。答える余裕がないのです。彼女は今、あの忌まわしい雰囲気を全身で、余すところなく感じ取っているのですからね。
あの化け物が、この奥にいる?
そう思うと、ネリスは肌が泡立つのを感じました。
でも、なぜ倉庫へと続く一本道なんかにいるのだろうか?
ネリスの好奇心は恐怖の中でも健在のようです。彼女は、ウズウズとする気持ちを押さえきれずに一歩、また一歩と自転車を道連れに闇の中へと踏み入りました。
その時です。十メートルばかり離れた木立の隙間。彼女が以前に遭遇した、大きな影が動いたように見えました。間違いありません。"あいつ"がいるのです。もしかしたらクレオンかも知れない恐ろしい何かが。
「ちょっと、ネリスさん。どうしたんだい、ほんとに」
まるで何かにとりつかれたようにフラフラと奥の道へと分け入るネリスに、再びサジルが声をかけました。でもネリスは一向に気づく様子はありません。少し迷ったサジルが思い切ってネリスの左肩を掴みました。
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