ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (27) 再びの追跡

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「サ、サジルさん?」

ようやく夢の世界から抜け出たような顔をしたネリスが、肩越しに振り向きます。

「どうしたんですよ。そっちは倉庫でしょ?」

長年、店に出入りをしているサジルはその事を知っていました。

「いたんですよ。いえ、いるんです。あいつが……」

ネリスは、口にするのもおぞましいという様子で、サジルに語ります。

「あいつって……?」

突然の話に、サジルは聞き返します。ネリスはテンパると相手の理解度なんて気にしないで喋る癖があったので、まぁ、普通は通じません。師匠のコリスには、いつも注意されているんですけどね。

「実は……」

ネリスは暗闇の中で、今までの経緯を手短に小太りの商人へと伝えました。

サジルは真剣な顔で少し考えた後、

「ねぇ、ネリスさん。もしあの暗がりの奥にいるのが、噂の化け物だったとしたら大変だ。このまま、やり過ごしましょうよ。

危険なのは、わかるでしょう?」

と言いました。もっともな意見です。でも、ネリスは納得しません。これから自警団の人たちに知らせたとしても、化け物はとうに逃げおおせてしまうでしょう。それでは意味がありません。

ネリスだって、自分が化け物を捕まえられるなんて思ってはいませんでしたが、とにもかくにも"何かの進展”は欲しかったのです。奴がクレオンかも知れないという事も含めて。

「大丈夫……とは言えないけれど、この道と、その先にある倉庫の事は良く知っているわ。万が一見つかっても、通りまで逃げ出す自信はあります」

ネリスはサジルを説得しようとしますが"一緒について来てくれ"とは言いません。彼を自分の好奇心の犠牲にするつもりはないし、失礼ながら化け物からネリスを守る力が彼にあるとは思えなかったからでした。それにサッと逃げるには、この中年のおじさんは足手まといになるかも知れません。

「う~ん、どうしても行くんですか? それなら私もついていきます」

サジルが、答えました。

「もしネリスさんに何かあったら、私は誰に対しても顔向けが出来ませんからね」

彼女の好奇心に負けたサジルが、複雑な顔をして付き添いを申し出ます。いざとなったら一人でも化け物の正体を暴こうと思っていたネリスにとって、多少頼りなくても、一応は味方を得た事になりました。

二人は早速、倉庫への道を慎重に進みます。化け物の影はもう見えませんでしたが、ネリスの肌には未だ突き刺すような悪寒が走っています。奴が逃げ去っていない証拠です。

通りからの脇道へ入ってから少し経った時、ネリスは自転車を木の柵へと立てかけました。ここから先は、自転車がかえって邪魔になります。もし何かあった時は、この場所まで引き返して自転車で逃げるなり、サジルに自転車を投げつけてもらおうとネリスは考えたのです。

青い月が煌々と照らす中、少女と中年男は慎重に進みます。そして二人は倉庫の入口へと辿り着きました。目の前にそびえ立つ真っ黒なシルエット。地上三階、地下一階、レンガ造りの堂々たる建物です。でも今は、魔界の入り口のような禍々しさを醸し出していました。

緊張の中、ネリスの頭にとある疑問が浮かびます。

なんで、倉庫なんかに来るんだろう?

仮に倉庫の中の薬を盗んたとしても、そう簡単にはお金になりません。魔女の薬は厳格に管理されていて、盗まれた場合は、事態が即座に各店舗へと通達されます。これは魔女が直接運営していない店も同様です。盗品を持ち込もうものなら、たちまち警察へ通報されるでしょう。

また一般の人や病院に、直接売るなんて事も不可能です。彼らはそれが盗品であると、知っていますからね。
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