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魔女と奇妙な男 (30) 現れた男
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実際は普段通りの明るさなんですが、暗闇に目が慣れていたネリスには、目を開けていられないくらい眩しく感じられたのです。
そして明るさに目が段々と慣れてくると、壁際の照明のスイッチからホールの真ん中へと移動していく、ボンヤリとしたシルエットが見えました。
でも、どこか変なのです。ネリスには、何かヒラヒラしたものが移動しているようにも見えました。やがてそのヒラヒラは、ピタリと止まります。もう殆どまわりの明るさに慣れたネリスの目には、一種異様なものが映り込みました。
それは、明らかに人間です。比較的若く、中肉中背の青年。ヒラヒラして見えたのは、彼が来ている衣服がそう見えたのです。でも更によく観察すると、ヒラヒラは服の装飾ではありません。服が破けて、その布切れがヒラヒラしているのでした。
彼は腰に手を当て、ネリスの方を見て微笑みます。本当にこれと言って特徴のない、大人しそうな顔つきです。泥棒をするような悪党ヅラではありません。
「ようこそ、ネリスさん」
フラットな調子で、青年は淡々と語りかけます。
いきなり名前を呼ばれたネリスは、
「な、何で、私の名前を知っているの!?」
と、面食らって尋ねました。
「いやだな、忘れちゃったんですか? 初対面じゃないのになぁ」
少しおどけたように答える青年。
顔の顔をよく見た彼女は、あっと小声をあげました。
「あんた……、確かサジルさんのところの従業員で、えぇっと名前は……」
ネリスは必死に思い出そうとしますが、あと一歩及びません。
「メサイトだよ、メサイト!」
業を煮やした青年の口調が、急に乱暴なものになりました。その事に驚いたネリスですが、なるほどそうです。メサイトです。余りにも印象が薄いので、忘れていたネリスでした。
「そう、思い出したわ。で、でもあんたが何でここにいるのよ。それにその変てこな恰好は何? あと、ようこそって言ったけど、どういう意味なの?」
ネリスは、疑問を一気にぶつけます。
「まぁ、色々と教えてやるよ。あまり時間はないけどな。俺たちの役に立ってもらった後は生かしてはおけないから、冥土の土産ってやつだ」
メサイトの声はナイフのように鋭く、氷のように冷たいものでした。ネリスはデジャブを覚えます。
この感覚、どこかで……。
ですが今は、この場をどう切り抜けるかの方が重要です。
とりあえず、逃げなくちゃ。
ネリスには、メサイトの言っている意味がまるで分かりませんでしたが、自分にとって危険な存在であるのは間違いのないところでした。
相手は平凡なやさ男でしたので、逃げ出すのは簡単に思えました。ネリスの逃げ足の速さは天下一品です。よく自分でも吹聴しているほどですから。
しかし踵を返して振り向いたネリスの前に、大きな影が立ちはだかりました。それは言うまでもなく、同行者のサジルです。
ネリスはここで、おかしな事に気がつきました。
さっきからサジルさんは、一言も発していない。自分の所の従業員が、こんな場所にあんな変な恰好でいるのに、メサイトに何も声をかけない……。
ネリスが見上げると、サジルの顔は何とも情けなく、今にも泣き出しそうに見えました。
「おい、サジル。逃がすなよ」
メサイトが蛇のような、いやらしい声で言いました。
サジルさんも仲間!?
ネリスはその時、初めて悟ります。彼女は反射的にサジルの横に飛び出そうとしますが、時すでに遅し。小柄なネリスはサジルに両肩を掴まれて、もうどこへも逃げようがありません。
そして明るさに目が段々と慣れてくると、壁際の照明のスイッチからホールの真ん中へと移動していく、ボンヤリとしたシルエットが見えました。
でも、どこか変なのです。ネリスには、何かヒラヒラしたものが移動しているようにも見えました。やがてそのヒラヒラは、ピタリと止まります。もう殆どまわりの明るさに慣れたネリスの目には、一種異様なものが映り込みました。
それは、明らかに人間です。比較的若く、中肉中背の青年。ヒラヒラして見えたのは、彼が来ている衣服がそう見えたのです。でも更によく観察すると、ヒラヒラは服の装飾ではありません。服が破けて、その布切れがヒラヒラしているのでした。
彼は腰に手を当て、ネリスの方を見て微笑みます。本当にこれと言って特徴のない、大人しそうな顔つきです。泥棒をするような悪党ヅラではありません。
「ようこそ、ネリスさん」
フラットな調子で、青年は淡々と語りかけます。
いきなり名前を呼ばれたネリスは、
「な、何で、私の名前を知っているの!?」
と、面食らって尋ねました。
「いやだな、忘れちゃったんですか? 初対面じゃないのになぁ」
少しおどけたように答える青年。
顔の顔をよく見た彼女は、あっと小声をあげました。
「あんた……、確かサジルさんのところの従業員で、えぇっと名前は……」
ネリスは必死に思い出そうとしますが、あと一歩及びません。
「メサイトだよ、メサイト!」
業を煮やした青年の口調が、急に乱暴なものになりました。その事に驚いたネリスですが、なるほどそうです。メサイトです。余りにも印象が薄いので、忘れていたネリスでした。
「そう、思い出したわ。で、でもあんたが何でここにいるのよ。それにその変てこな恰好は何? あと、ようこそって言ったけど、どういう意味なの?」
ネリスは、疑問を一気にぶつけます。
「まぁ、色々と教えてやるよ。あまり時間はないけどな。俺たちの役に立ってもらった後は生かしてはおけないから、冥土の土産ってやつだ」
メサイトの声はナイフのように鋭く、氷のように冷たいものでした。ネリスはデジャブを覚えます。
この感覚、どこかで……。
ですが今は、この場をどう切り抜けるかの方が重要です。
とりあえず、逃げなくちゃ。
ネリスには、メサイトの言っている意味がまるで分かりませんでしたが、自分にとって危険な存在であるのは間違いのないところでした。
相手は平凡なやさ男でしたので、逃げ出すのは簡単に思えました。ネリスの逃げ足の速さは天下一品です。よく自分でも吹聴しているほどですから。
しかし踵を返して振り向いたネリスの前に、大きな影が立ちはだかりました。それは言うまでもなく、同行者のサジルです。
ネリスはここで、おかしな事に気がつきました。
さっきからサジルさんは、一言も発していない。自分の所の従業員が、こんな場所にあんな変な恰好でいるのに、メサイトに何も声をかけない……。
ネリスが見上げると、サジルの顔は何とも情けなく、今にも泣き出しそうに見えました。
「おい、サジル。逃がすなよ」
メサイトが蛇のような、いやらしい声で言いました。
サジルさんも仲間!?
ネリスはその時、初めて悟ります。彼女は反射的にサジルの横に飛び出そうとしますが、時すでに遅し。小柄なネリスはサジルに両肩を掴まれて、もうどこへも逃げようがありません。
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