ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (29) 暗闇行

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「な、なんで?」

ネリスが思わず口にします。正式な手続きの元に中へ入った人が、扉を閉め忘れて帰ってしまったなんて可能性はまずありません。

それなのに、扉が開いている。

つまり”今”誰かが中にいるのです。でもこんな時間に、倉庫へ来るなんて普通は考えられない事でした。盗難などの間違いを防ぐため、通常は陽が高い内に作業を終了させるのが規則になっているからです。

「誰かいるんですかねぇ」

扉が開いているのを見て、サジルが言いました。ですがネリスの耳に、その言葉は届きません。

先ほどネリスから消えてしまった悪寒は甦ってはいないので、中にいるのが化け物でないのは確かなようです。

そして、もし普通の泥棒が入っていたのなら、とうの昔に警報音が鳴り響いていなければなりません。でも辺りは静寂に包まれています。

正当な鍵の管理者でもない。化け物でもない。泥棒でもない。

では、一体誰が……?

本来ならば、魔女の薬相談所へ戻って、先輩たちに報告すべき事態です。しかしネリスは、そうはしませんでした。

誰かがここにいるのは確かだわ。でも相談所に戻っている間に、その誰かが逃げてしまったら意味がない。あいつでない事は確かなんだし、サジルさんもいる。

恐ろしい化け物ではないのがわかっているせいでしょうか、ネリスの好奇心がドンドン首をもたげてきました。こういう風に調子に乗るのが彼女の悪い癖なんですが、これも性分であり、一生治らないでしょうね。

入口の扉を抜けた所には、受付のような場所があり、倉庫を訪れた人たちはここで記帳をしなければなりません。盗難を防ぐため、人や薬品の出入りは厳しく管理されているのです。

ネリスは少し迷った末に、ここで懐から携行ライトを取り出します。こめられた魔力で光を発する懐中電灯みたいなものですね。スイッチを押すと、筒状の先端から細い光が床に注がれます。

真っ暗な中でライトを点ければ、自ずとこちらの位置を知らせる事になってしまいます。ですが受付の先にある、持ち込まれたり、持ち出される薬を仕分けするためのホールへ行くのには、雑然と物が置かれている廊下を結構な距離、歩いて行く必要があります。もちろん、廊下の照明をつけるなんて事は出来ません。それこそ、自分達の存在を知らせてしまうようなものですからね。

「じゃぁ、サジルさん。まずはホールへ出てみましょう。あそこには盗むような物はないですから、誰かがいるとは思えませんけどね」

ネリスが、念押しします。

「大丈夫でしょうかね。やっぱり引き返した方が……」

サジルが、心配そうに尋ねます。

「受付からホールまでは、一直線の廊下で繋がっています。今ここには私たち以外いませんから、誰かいるとすればホールのその先ですよ。

危なそうだったら、すぐ逃げればいいんです」

倉庫内にいるであろう誰かの正体も分からないのに、随分と楽観的な見通しを立てるネリスでした。一方、サジルは浮かない顔です。正体不明の何かを恐れているのか、それとも……。

同行者のそんな表情にも気づかずに、ネリスはホールへと向かう廊下を抜き足差し足で進みます。ライトも出来るだけ足元だけを照らすようにして、正体不明者に悟られないよう努めました。

ホールへたどり着いた二人は、そこから壁沿いにその先にある薬貯蔵庫への道を目指します。ある意味、そこからが探索の本番です。

「ネリスさん、やっぱり帰り……」

サジルがそう言いかけた時でした。またしてもネリスの身に、思いもかけない出来事が起こりました。

突然、ホールがまばゆいばかりの光に包まれたのです!
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