ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (39) コリスの指示

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レアロンは髭面の男の襟首をつかみ、手近な木へと投げつけました。それは彼の片手で行われましたが、男は勢いよく太い幹へと激突します。そしてレアロンは指を一回して、髭面の男にも激痛の魔法をかけました。

「ひ、ひでぇ! ちゃんと、全部話しただろうが!」

男が、悶絶しながらがなり立てます。

「だから、百倍の痛みは勘弁してやったよ。まぁ、頭領の責任として、四十倍の痛みにはなってるけどな。

本当だったらお前らなんぞ、肉の塊にして獣の餌にしてやりてぇくらいだ。それをとめたマダム・コリスの優しさに感謝するんだな」

のたうち回る髭面の男を尻目に、レアロンは邸の方へと向き直ります。

マダム・コリス!

レアロンが、口を開きます。

すると、どうでしょう。その声は、邸で不安げに待っているコリスの元へと届きます。しかし、そんな大声で叫んだわけではありません。お話の冒頭で、執務室に居た彼が門前のネリスと会話をしたように、魔法で声を飛ばしたのでした。

「あぁ、レアロン。どうなの、そっちの様子は?」

待ちくたびれたかのように、執務室の中をウロウロとしていたコリスが答えます。もちろん、その声をレアロンは拾う事が出来ました。執事はかいつまんで、事実のみを伝えます。

「つまり、まだネリスの安否はわからないわけね」

コリスの意気消沈した声が、レアロンの心に響きました。

「これから、どうしましょう? 」

執事からの問いかけに、コリスは悩みます。

一番確実なのは、レアロンが最初に不穏な空気を察知した場所で待っている事だわ。ネリスを捕まえた者は、あの子を引き渡す約束をしているわけだから、必ずそこへ現れる。でも……。

「マダム……」

傍にいるオリビアが、心配そうに押し黙っている主人の名を呼びました。

ネリスが立ち寄りそうな場所はある程度わかるし、もしまだ捕まっていないのなら、その前に助けた方がいいに決まっているわ。それに誘拐した者が待ち合わせ場所を訪れた時、誰もいない様子だったら、彼は不審がって用心するかも知れない。そもそもメサイトって人の仲間が、何人いるかも分からないんだから。

それよりは……。

「レアロン、あなたまだ、魔力を使って邪悪な意思を探知する事ができる?」

コリスが、ようやっと口を開きます。

「えぇ、もちろんですとも。でも、なんでそんな事を聞くんです?」

「あなたの事だから、今の連中をやっつけるのに、魔力を結構使ったんじゃないかと思って」

コリスが、注意深く尋ねました。

実は絶大な力を持つレアロンも、魔界以外では魔力の使用に大きな負担を強いられるのです。ま、スタミナが続かないって事ですね。

「大丈夫です。マダムの言いつけを守って、大した技は使っていませんから。ただ連中は、朝まで動けないようになっています」

「そう、それはよかったわ。じゃぁ、大変とは思うけど、ネリスを探してちょうだい。もちろん、あの子の安全が最優先よ」

コリスが命じると、忠実な執事は軽く息を吐きながら、

「わかりました。全力を尽くします」

と言って、街の方へと駆け出しました。レアロンはすぐに悪意やネリスの雰囲気をキャッチできるよう、広範囲に感覚を研ぎ澄ませ彼女の探索を始めます。

「マダム、ネリスちゃんは大丈夫でしょうか……」

オリビアが、心配そうに尋ねます。

「何とも言えないわね。だけど、ここはレアロンに任せましょう。今、この屋敷は彼の張った結界に守られているから、レアロンも探索に集中できるでしょうしね」

自らの不安を押し殺すように、コリスが言いました。
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