ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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魔女と奇妙な男 (40) 謎の男

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「マ、マダム! 今ちょっと外へ行こうと思ったら、屋敷の周りに変な光のとばりが降りていて、全然出られないんですが……」

オリビアの夫フレディが、慌てて執務室に駆け込んで来ます。事情を知らず泡を食ったように話す彼を見て、思わず顔を見回せプッと笑うコリスとオリビア。暗雲垂れこめる状況の中、僅かに心を和ませる一幕でした。

一方こちらは、塗炭の苦しみに喘ぐ強盗の一味たち。特にリーダー格の髭面の男の悶絶ぶりは、筆舌に尽くしがたいほど悲惨なものでした。

その男の傍らに、黒い影がスッと現れます。

「ひっ!」

髭面の男は、上ずった声を出しました。レアロンが戻って来たと思ったのです。

「様子を見に来てみれば、このザマか」

髭面はのたうち回りながらも、その男を地べたから見上げます。ですが、果たしてその男はレアロンではありませんでした。

「あ、あんたは……」

髭面の男は、思わす喋ってしまいます。でも今の彼にとって、それは激痛に繋がる行為でありました。

月明かりに照らされた、長身の男。

彼は黒よりもなお闇に溶け込みそうな濃紺のローブをまとっています。そうです。彼こそが、強盗団とメサイトに命令を出した人物なのでした。

「私の指示通り、人質が届くまで待っていないから、こうなるんだ」

ローブの男は冷たくそう言い放つと、髭面の男を軽く蹴りました。しかしレアロンの魔法に侵されている今、それは真っ赤に焼かれた火箸を押しつけられたに等しい激痛として、彼の身を襲います。暗い森に、人のものとは思えない悲鳴が轟きました。

「お、俺たちが悪かった。こ、殺さねぇでくれ!」

ローブの男の感情のない眼差しを見た髭面は、命令に背いた上に醜態をさらした罰として、葬り去られるのではないかと考えました。舌やノドの筋肉が激痛に悲鳴を上げていても、背に腹は代えられず情けない声で懇願します。

「慌てるな。お前たちを殺したりはしない。もう、知っている事を全部、あの悪魔に喋ってしまったからな。今更、殺す意味がない。

むしろ、殺して楽にさせてたまるものか。命令に背いた罪を思い知れ」

ローブの男は氷のように冷たい息を吐きながら、憐れな強盗を見下げます。

そして、もう一度、髭面の腹を蹴った後、

「さて、どうしたものか……」

と呟いて、レアロンが去って行った暗い道を眺めます。そしてすぐに考えをまとめたように、街の方へと走り出しました。いえ、走り出したように見えました。……どういう事かって? だって彼が走り出したかと思うと、その姿が煙のように掻き消えてしまったのですからね。

濃紺のローブの男、どうやら只者ではなさそうです。


さて。場面は戻って、魔女の薬倉庫。

ホールでは禁忌の薬を飲んで、化け物と化したメサイトがいい気分で話をしています。

「まずな、オレたちの目的は二つ。この薬倉庫から高価な薬や原料を盗み出す事。そして最高位魔女コリスの屋敷に押し入って、秘密の花壇に咲いている珍しい薬草、屋敷にある貴重な薬学書、まぁ、そういったお宝を手に入れる事だ。

屋敷の見取り図は大体出来ているんだが、本当に詳しい場所まではわからない。後は現場でって話だ。まぁ、それはオレの役目じゃないがな」

メサイトが、フフンと鼻を鳴らしました。

「オレの役目じゃないって、それどういう事よ」

少しは怪物に慣れたネリスが、勢いよく尋ねます。賊がコリス邸に押し入ると知っては、黙っていられません。
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