163 / 218
魔女と奇妙な男 (40) 謎の男
しおりを挟む
「マ、マダム! 今ちょっと外へ行こうと思ったら、屋敷の周りに変な光のとばりが降りていて、全然出られないんですが……」
オリビアの夫フレディが、慌てて執務室に駆け込んで来ます。事情を知らず泡を食ったように話す彼を見て、思わず顔を見回せプッと笑うコリスとオリビア。暗雲垂れこめる状況の中、僅かに心を和ませる一幕でした。
一方こちらは、塗炭の苦しみに喘ぐ強盗の一味たち。特にリーダー格の髭面の男の悶絶ぶりは、筆舌に尽くしがたいほど悲惨なものでした。
その男の傍らに、黒い影がスッと現れます。
「ひっ!」
髭面の男は、上ずった声を出しました。レアロンが戻って来たと思ったのです。
「様子を見に来てみれば、このザマか」
髭面はのたうち回りながらも、その男を地べたから見上げます。ですが、果たしてその男はレアロンではありませんでした。
「あ、あんたは……」
髭面の男は、思わす喋ってしまいます。でも今の彼にとって、それは激痛に繋がる行為でありました。
月明かりに照らされた、長身の男。
彼は黒よりもなお闇に溶け込みそうな濃紺のローブをまとっています。そうです。彼こそが、強盗団とメサイトに命令を出した人物なのでした。
「私の指示通り、人質が届くまで待っていないから、こうなるんだ」
ローブの男は冷たくそう言い放つと、髭面の男を軽く蹴りました。しかしレアロンの魔法に侵されている今、それは真っ赤に焼かれた火箸を押しつけられたに等しい激痛として、彼の身を襲います。暗い森に、人のものとは思えない悲鳴が轟きました。
「お、俺たちが悪かった。こ、殺さねぇでくれ!」
ローブの男の感情のない眼差しを見た髭面は、命令に背いた上に醜態をさらした罰として、葬り去られるのではないかと考えました。舌やノドの筋肉が激痛に悲鳴を上げていても、背に腹は代えられず情けない声で懇願します。
「慌てるな。お前たちを殺したりはしない。もう、知っている事を全部、あの悪魔に喋ってしまったからな。今更、殺す意味がない。
むしろ、殺して楽にさせてたまるものか。命令に背いた罪を思い知れ」
ローブの男は氷のように冷たい息を吐きながら、憐れな強盗を見下げます。
そして、もう一度、髭面の腹を蹴った後、
「さて、どうしたものか……」
と呟いて、レアロンが去って行った暗い道を眺めます。そしてすぐに考えをまとめたように、街の方へと走り出しました。いえ、走り出したように見えました。……どういう事かって? だって彼が走り出したかと思うと、その姿が煙のように掻き消えてしまったのですからね。
濃紺のローブの男、どうやら只者ではなさそうです。
さて。場面は戻って、魔女の薬倉庫。
ホールでは禁忌の薬を飲んで、化け物と化したメサイトがいい気分で話をしています。
「まずな、オレたちの目的は二つ。この薬倉庫から高価な薬や原料を盗み出す事。そして最高位魔女コリスの屋敷に押し入って、秘密の花壇に咲いている珍しい薬草、屋敷にある貴重な薬学書、まぁ、そういったお宝を手に入れる事だ。
屋敷の見取り図は大体出来ているんだが、本当に詳しい場所まではわからない。後は現場でって話だ。まぁ、それはオレの役目じゃないがな」
メサイトが、フフンと鼻を鳴らしました。
「オレの役目じゃないって、それどういう事よ」
少しは怪物に慣れたネリスが、勢いよく尋ねます。賊がコリス邸に押し入ると知っては、黙っていられません。
オリビアの夫フレディが、慌てて執務室に駆け込んで来ます。事情を知らず泡を食ったように話す彼を見て、思わず顔を見回せプッと笑うコリスとオリビア。暗雲垂れこめる状況の中、僅かに心を和ませる一幕でした。
一方こちらは、塗炭の苦しみに喘ぐ強盗の一味たち。特にリーダー格の髭面の男の悶絶ぶりは、筆舌に尽くしがたいほど悲惨なものでした。
その男の傍らに、黒い影がスッと現れます。
「ひっ!」
髭面の男は、上ずった声を出しました。レアロンが戻って来たと思ったのです。
「様子を見に来てみれば、このザマか」
髭面はのたうち回りながらも、その男を地べたから見上げます。ですが、果たしてその男はレアロンではありませんでした。
「あ、あんたは……」
髭面の男は、思わす喋ってしまいます。でも今の彼にとって、それは激痛に繋がる行為でありました。
月明かりに照らされた、長身の男。
彼は黒よりもなお闇に溶け込みそうな濃紺のローブをまとっています。そうです。彼こそが、強盗団とメサイトに命令を出した人物なのでした。
「私の指示通り、人質が届くまで待っていないから、こうなるんだ」
ローブの男は冷たくそう言い放つと、髭面の男を軽く蹴りました。しかしレアロンの魔法に侵されている今、それは真っ赤に焼かれた火箸を押しつけられたに等しい激痛として、彼の身を襲います。暗い森に、人のものとは思えない悲鳴が轟きました。
「お、俺たちが悪かった。こ、殺さねぇでくれ!」
ローブの男の感情のない眼差しを見た髭面は、命令に背いた上に醜態をさらした罰として、葬り去られるのではないかと考えました。舌やノドの筋肉が激痛に悲鳴を上げていても、背に腹は代えられず情けない声で懇願します。
「慌てるな。お前たちを殺したりはしない。もう、知っている事を全部、あの悪魔に喋ってしまったからな。今更、殺す意味がない。
むしろ、殺して楽にさせてたまるものか。命令に背いた罪を思い知れ」
ローブの男は氷のように冷たい息を吐きながら、憐れな強盗を見下げます。
そして、もう一度、髭面の腹を蹴った後、
「さて、どうしたものか……」
と呟いて、レアロンが去って行った暗い道を眺めます。そしてすぐに考えをまとめたように、街の方へと走り出しました。いえ、走り出したように見えました。……どういう事かって? だって彼が走り出したかと思うと、その姿が煙のように掻き消えてしまったのですからね。
濃紺のローブの男、どうやら只者ではなさそうです。
さて。場面は戻って、魔女の薬倉庫。
ホールでは禁忌の薬を飲んで、化け物と化したメサイトがいい気分で話をしています。
「まずな、オレたちの目的は二つ。この薬倉庫から高価な薬や原料を盗み出す事。そして最高位魔女コリスの屋敷に押し入って、秘密の花壇に咲いている珍しい薬草、屋敷にある貴重な薬学書、まぁ、そういったお宝を手に入れる事だ。
屋敷の見取り図は大体出来ているんだが、本当に詳しい場所まではわからない。後は現場でって話だ。まぁ、それはオレの役目じゃないがな」
メサイトが、フフンと鼻を鳴らしました。
「オレの役目じゃないって、それどういう事よ」
少しは怪物に慣れたネリスが、勢いよく尋ねます。賊がコリス邸に押し入ると知っては、黙っていられません。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる