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魔女と奇妙な男 (62) 魔女の心得
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クレオンは、その隙を逃しません。今まで防御一辺倒でしたが、はじめて右拳を斜め下から繰り出しました。その腕は化け物に比べると、恐ろしく貧弱に見えます。もっともメサイトのそれが、異常に太いという事もあるんですけどね。
「そんな、軟弱パンチ……」
メサイトが言いかけますが、その時すでにクレオンの拳は化け物の脇腹にめり込んでいました。メサイトは一瞬、何が起こったのか理解できない感覚を覚えます。それが痛みであるとは、即座に理解できなかったようでした。
しかし、すぐに、
「グゥ! グイギュアァァ!」
と、言葉にならない苦悶の叫び声をホールに響かせます。
そしてメサイトは、もんどりうって床へと倒れ込みました。既に脇腹の赤黒くなっている部分を左手で押さえながら、痛々しいほどの嗚咽を漏らします。余程のダメージだったのでしょう。化け物は倒れたまま、全身けいれん状態です。
「さぁ、ネリス君。今だ!」
振り向きはしませんでしたが、クレオンが後ろに控えた少女に言いました。
ネリスは、ハッとします。
そうだ、逃げなくちゃ! 絶好のチャンスじゃない。
彼女は踵を返し、出口へと駆け出しました。その途中では、サジルが上半身を起こしてへたり込んでいます。先ほどメサイトから受けた一撃から少しは回復したようですが、そのダメージはかなり残っていると思われました。
「さぁ、サジルさん。立って!」
サジルの傍らに辿り着いたネリスが、彼の方へと手を伸ばします。
一瞬、驚いたような表情をしたサジルが、
「な、何を言ってるんだネリスさん。私にかまわず、早く逃げてくれ」
と言いました。
彼からすれば、自分はネリスを含め魔女協会を裏切っていた悪人です。それなのに、目の前の少女はそんな男を助けようとしています。彼が不思議に思うのも当然でした。
「そんな事、出来るわけないでしょ。さ、早く!」
ネリスは差し出した腕を振り、サジルが立ち上がるのを促します。
「ネリスさん。クレオンさんが、せっかくチャンスを作ってくれたんだ。無駄にしちゃいけない。私がいたんじゃ、足手まといになるだけだよ。
それに私は、あなた方を騙していた悪党だ。助けられる価値なんてないよ。
さぁ、早く行ってくれ!」
サジルは困惑しながらも、ネリスに急いで脱出するよう求めました。
「冗談じゃない!」
途端に眉を吊り上げたネリスが、サジルの方へ体を向き直り両手を広げました。
「確かにあなたは、私たちにウソをついていたけれど、さっき私を助けようとしてくれたじゃない。それだけで、私はもう怒ってないわ。
それにたとえあなたが悪人でも、人の命を救うのが魔女の仕事です!」
半分はコリスの受け売りですが、それがネリスの偽らざる気持でした。魔女魂というやつですね。
ネリスの熱弁に、サジルが呆然とします。そして自分の行いを、改めて後悔するのでした。
「で、でも」
ネリスの行為に甘えるべきか、未だ判断がつかないサジルに向かって、
「いい大人が、聞き分けのない事を言わないで! 少しでも私に悪かったと思ってるなら、言う事を聞いて下さい!」
と叫びます。
サジルはハッとしました。自分は、またもや勘違いをしていたのではないかと。
私はこの娘を逃がす為に命を捨てる事が、せめてもの罪滅ぼしだと思っていた。でも違うんだ。たとえどんなに恥辱にまみれようとも、生きて罪を償う事が、私に出来る唯一の務めじゃないか。
サジルは全身にほとばしる痛みをこらえながら、膝に手を当て、何とか立ち上がります。
「肩を貸します!」
ネリスの申し出に、形ばかりではありますが、ネリスの肩につかまったサジルは、足を引きずりながらも出口へと歩きだしました。
「そんな、軟弱パンチ……」
メサイトが言いかけますが、その時すでにクレオンの拳は化け物の脇腹にめり込んでいました。メサイトは一瞬、何が起こったのか理解できない感覚を覚えます。それが痛みであるとは、即座に理解できなかったようでした。
しかし、すぐに、
「グゥ! グイギュアァァ!」
と、言葉にならない苦悶の叫び声をホールに響かせます。
そしてメサイトは、もんどりうって床へと倒れ込みました。既に脇腹の赤黒くなっている部分を左手で押さえながら、痛々しいほどの嗚咽を漏らします。余程のダメージだったのでしょう。化け物は倒れたまま、全身けいれん状態です。
「さぁ、ネリス君。今だ!」
振り向きはしませんでしたが、クレオンが後ろに控えた少女に言いました。
ネリスは、ハッとします。
そうだ、逃げなくちゃ! 絶好のチャンスじゃない。
彼女は踵を返し、出口へと駆け出しました。その途中では、サジルが上半身を起こしてへたり込んでいます。先ほどメサイトから受けた一撃から少しは回復したようですが、そのダメージはかなり残っていると思われました。
「さぁ、サジルさん。立って!」
サジルの傍らに辿り着いたネリスが、彼の方へと手を伸ばします。
一瞬、驚いたような表情をしたサジルが、
「な、何を言ってるんだネリスさん。私にかまわず、早く逃げてくれ」
と言いました。
彼からすれば、自分はネリスを含め魔女協会を裏切っていた悪人です。それなのに、目の前の少女はそんな男を助けようとしています。彼が不思議に思うのも当然でした。
「そんな事、出来るわけないでしょ。さ、早く!」
ネリスは差し出した腕を振り、サジルが立ち上がるのを促します。
「ネリスさん。クレオンさんが、せっかくチャンスを作ってくれたんだ。無駄にしちゃいけない。私がいたんじゃ、足手まといになるだけだよ。
それに私は、あなた方を騙していた悪党だ。助けられる価値なんてないよ。
さぁ、早く行ってくれ!」
サジルは困惑しながらも、ネリスに急いで脱出するよう求めました。
「冗談じゃない!」
途端に眉を吊り上げたネリスが、サジルの方へ体を向き直り両手を広げました。
「確かにあなたは、私たちにウソをついていたけれど、さっき私を助けようとしてくれたじゃない。それだけで、私はもう怒ってないわ。
それにたとえあなたが悪人でも、人の命を救うのが魔女の仕事です!」
半分はコリスの受け売りですが、それがネリスの偽らざる気持でした。魔女魂というやつですね。
ネリスの熱弁に、サジルが呆然とします。そして自分の行いを、改めて後悔するのでした。
「で、でも」
ネリスの行為に甘えるべきか、未だ判断がつかないサジルに向かって、
「いい大人が、聞き分けのない事を言わないで! 少しでも私に悪かったと思ってるなら、言う事を聞いて下さい!」
と叫びます。
サジルはハッとしました。自分は、またもや勘違いをしていたのではないかと。
私はこの娘を逃がす為に命を捨てる事が、せめてもの罪滅ぼしだと思っていた。でも違うんだ。たとえどんなに恥辱にまみれようとも、生きて罪を償う事が、私に出来る唯一の務めじゃないか。
サジルは全身にほとばしる痛みをこらえながら、膝に手を当て、何とか立ち上がります。
「肩を貸します!」
ネリスの申し出に、形ばかりではありますが、ネリスの肩につかまったサジルは、足を引きずりながらも出口へと歩きだしました。
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