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魔女と奇妙な男 (63) 上機嫌
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クレオンはその様子を見てはいませんでしたが、背中でしっかりと聞いておりました。そして、嬉しそうに微笑みます。それは戦いの悦びからでも、化け物を調伏した満足感からでもありません。
コリスの目に、狂いはなかった。
クレオンは心の中で、そう呟きました。
普通であれば恐怖のあまり、サジルには目もくれずに逃げ出してしまうのが”まっとうな”十五歳の少女がとる行動でしょう。でも、ネリスはそうはしなかった。自分の命すら危ういこの状況で、サジルの命をも救おうとしたのです。
実のところクレオンは、最高位魔女のコリスが、自らの地位をかけて守るほどの価値を、ネリスという少女が持っているのか疑っておりました。そのため今回の”任務”にかこつけて、彼自身、それを確かめようとしていたのです。最初の内は半信半疑でしたが、今は盟友コリスの心眼を疑っていた自分を恥じておりました。
「さぁ、これで二人っきりだ。存分に戦いを楽しもうじゃないか」
どうにかこうにか、体勢を立て直したメサイトに向かって、クレオンが言い放ちます。
「もう、許さねぇ、絶対に許さねぇ」
歪んだプライドを粉々にされたメサイトは、ネリスに逃げられた事など意にも介さず叫びました。
「許さないんなら、どうするね?」
コリスが有望な後継者を得た事を知り、途端に機嫌の良くなったクレオンが、手招きをして化け物を挑発します。
「調子に乗るな!」
メサイトが、右のパンチでクレオンに襲いかかります。
クレオンはこれまでと同じように、左手を差し出しながら、
「学習しない化け物だねぇ。何度同じ手を使えば……」
と、メサイトの攻撃を軽々と受け止めようとしますが、ここでクレオンに油断が生まれました。すぐ調子に乗るあたり、ネリスと同じ性分のようですね。この先、気の合う二人になりそうです。
メサイトの拳がクレオンの左手に吸い込まれようとしたその時、メサイトはおもむろにその手を開いて、クレオンの腕をつかみました。
「何のつもりだね、化け物くん」
メサイトの意外な行動に虚を突かれ、少し驚いたクレオンでしたが、そんな事はおくびにも出しません。
「こういうつもりだよ!」
メサイトは、つかんだ腕をそのまま大きく振り回します。
「わっ!」
その声と同時に、クレオンは宙高く投げ飛ばされました。ホール円天井の一番高いところに届かんばかりの勢いです。
何で、こんな事になったのかですって? それはですね……。
クレオンはゴリラの秘薬で絶大な腕力と耐久力を手に入れましたが、体重は変わっておりません。ゴリラのように、重くなったわけではないのです。ですからメサイトに軽々と放り投げられてしまったのでした。
もっとも本来のクレオンならば、薬の力でメサイトの腕を引き戻せば済む話です。しかしここはやっぱり油断をしており、一瞬の判断の遅れがあったのですね。
上がる所まで上がったクレオンは、重力に導かれ真っ逆さまに落ちてきます。
「油断したな。やっぱり最後はオレの勝ちだ!」
無防備にただ落下する標的を狙って、メサイトが渾身の右ストレートを放ちます。いくら耐久力が増大したクレオンといえども、これをまともに食らえばかなりのダメージを負うのは確実です。
「あぁ、そのようだ。とんだ不注意だったよ。コリスに知られたら、大目玉まちがいなしだ」
コリスの目に、狂いはなかった。
クレオンは心の中で、そう呟きました。
普通であれば恐怖のあまり、サジルには目もくれずに逃げ出してしまうのが”まっとうな”十五歳の少女がとる行動でしょう。でも、ネリスはそうはしなかった。自分の命すら危ういこの状況で、サジルの命をも救おうとしたのです。
実のところクレオンは、最高位魔女のコリスが、自らの地位をかけて守るほどの価値を、ネリスという少女が持っているのか疑っておりました。そのため今回の”任務”にかこつけて、彼自身、それを確かめようとしていたのです。最初の内は半信半疑でしたが、今は盟友コリスの心眼を疑っていた自分を恥じておりました。
「さぁ、これで二人っきりだ。存分に戦いを楽しもうじゃないか」
どうにかこうにか、体勢を立て直したメサイトに向かって、クレオンが言い放ちます。
「もう、許さねぇ、絶対に許さねぇ」
歪んだプライドを粉々にされたメサイトは、ネリスに逃げられた事など意にも介さず叫びました。
「許さないんなら、どうするね?」
コリスが有望な後継者を得た事を知り、途端に機嫌の良くなったクレオンが、手招きをして化け物を挑発します。
「調子に乗るな!」
メサイトが、右のパンチでクレオンに襲いかかります。
クレオンはこれまでと同じように、左手を差し出しながら、
「学習しない化け物だねぇ。何度同じ手を使えば……」
と、メサイトの攻撃を軽々と受け止めようとしますが、ここでクレオンに油断が生まれました。すぐ調子に乗るあたり、ネリスと同じ性分のようですね。この先、気の合う二人になりそうです。
メサイトの拳がクレオンの左手に吸い込まれようとしたその時、メサイトはおもむろにその手を開いて、クレオンの腕をつかみました。
「何のつもりだね、化け物くん」
メサイトの意外な行動に虚を突かれ、少し驚いたクレオンでしたが、そんな事はおくびにも出しません。
「こういうつもりだよ!」
メサイトは、つかんだ腕をそのまま大きく振り回します。
「わっ!」
その声と同時に、クレオンは宙高く投げ飛ばされました。ホール円天井の一番高いところに届かんばかりの勢いです。
何で、こんな事になったのかですって? それはですね……。
クレオンはゴリラの秘薬で絶大な腕力と耐久力を手に入れましたが、体重は変わっておりません。ゴリラのように、重くなったわけではないのです。ですからメサイトに軽々と放り投げられてしまったのでした。
もっとも本来のクレオンならば、薬の力でメサイトの腕を引き戻せば済む話です。しかしここはやっぱり油断をしており、一瞬の判断の遅れがあったのですね。
上がる所まで上がったクレオンは、重力に導かれ真っ逆さまに落ちてきます。
「油断したな。やっぱり最後はオレの勝ちだ!」
無防備にただ落下する標的を狙って、メサイトが渾身の右ストレートを放ちます。いくら耐久力が増大したクレオンといえども、これをまともに食らえばかなりのダメージを負うのは確実です。
「あぁ、そのようだ。とんだ不注意だったよ。コリスに知られたら、大目玉まちがいなしだ」
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