186 / 218
魔女と奇妙な男 (63) 上機嫌
しおりを挟む
クレオンはその様子を見てはいませんでしたが、背中でしっかりと聞いておりました。そして、嬉しそうに微笑みます。それは戦いの悦びからでも、化け物を調伏した満足感からでもありません。
コリスの目に、狂いはなかった。
クレオンは心の中で、そう呟きました。
普通であれば恐怖のあまり、サジルには目もくれずに逃げ出してしまうのが”まっとうな”十五歳の少女がとる行動でしょう。でも、ネリスはそうはしなかった。自分の命すら危ういこの状況で、サジルの命をも救おうとしたのです。
実のところクレオンは、最高位魔女のコリスが、自らの地位をかけて守るほどの価値を、ネリスという少女が持っているのか疑っておりました。そのため今回の”任務”にかこつけて、彼自身、それを確かめようとしていたのです。最初の内は半信半疑でしたが、今は盟友コリスの心眼を疑っていた自分を恥じておりました。
「さぁ、これで二人っきりだ。存分に戦いを楽しもうじゃないか」
どうにかこうにか、体勢を立て直したメサイトに向かって、クレオンが言い放ちます。
「もう、許さねぇ、絶対に許さねぇ」
歪んだプライドを粉々にされたメサイトは、ネリスに逃げられた事など意にも介さず叫びました。
「許さないんなら、どうするね?」
コリスが有望な後継者を得た事を知り、途端に機嫌の良くなったクレオンが、手招きをして化け物を挑発します。
「調子に乗るな!」
メサイトが、右のパンチでクレオンに襲いかかります。
クレオンはこれまでと同じように、左手を差し出しながら、
「学習しない化け物だねぇ。何度同じ手を使えば……」
と、メサイトの攻撃を軽々と受け止めようとしますが、ここでクレオンに油断が生まれました。すぐ調子に乗るあたり、ネリスと同じ性分のようですね。この先、気の合う二人になりそうです。
メサイトの拳がクレオンの左手に吸い込まれようとしたその時、メサイトはおもむろにその手を開いて、クレオンの腕をつかみました。
「何のつもりだね、化け物くん」
メサイトの意外な行動に虚を突かれ、少し驚いたクレオンでしたが、そんな事はおくびにも出しません。
「こういうつもりだよ!」
メサイトは、つかんだ腕をそのまま大きく振り回します。
「わっ!」
その声と同時に、クレオンは宙高く投げ飛ばされました。ホール円天井の一番高いところに届かんばかりの勢いです。
何で、こんな事になったのかですって? それはですね……。
クレオンはゴリラの秘薬で絶大な腕力と耐久力を手に入れましたが、体重は変わっておりません。ゴリラのように、重くなったわけではないのです。ですからメサイトに軽々と放り投げられてしまったのでした。
もっとも本来のクレオンならば、薬の力でメサイトの腕を引き戻せば済む話です。しかしここはやっぱり油断をしており、一瞬の判断の遅れがあったのですね。
上がる所まで上がったクレオンは、重力に導かれ真っ逆さまに落ちてきます。
「油断したな。やっぱり最後はオレの勝ちだ!」
無防備にただ落下する標的を狙って、メサイトが渾身の右ストレートを放ちます。いくら耐久力が増大したクレオンといえども、これをまともに食らえばかなりのダメージを負うのは確実です。
「あぁ、そのようだ。とんだ不注意だったよ。コリスに知られたら、大目玉まちがいなしだ」
コリスの目に、狂いはなかった。
クレオンは心の中で、そう呟きました。
普通であれば恐怖のあまり、サジルには目もくれずに逃げ出してしまうのが”まっとうな”十五歳の少女がとる行動でしょう。でも、ネリスはそうはしなかった。自分の命すら危ういこの状況で、サジルの命をも救おうとしたのです。
実のところクレオンは、最高位魔女のコリスが、自らの地位をかけて守るほどの価値を、ネリスという少女が持っているのか疑っておりました。そのため今回の”任務”にかこつけて、彼自身、それを確かめようとしていたのです。最初の内は半信半疑でしたが、今は盟友コリスの心眼を疑っていた自分を恥じておりました。
「さぁ、これで二人っきりだ。存分に戦いを楽しもうじゃないか」
どうにかこうにか、体勢を立て直したメサイトに向かって、クレオンが言い放ちます。
「もう、許さねぇ、絶対に許さねぇ」
歪んだプライドを粉々にされたメサイトは、ネリスに逃げられた事など意にも介さず叫びました。
「許さないんなら、どうするね?」
コリスが有望な後継者を得た事を知り、途端に機嫌の良くなったクレオンが、手招きをして化け物を挑発します。
「調子に乗るな!」
メサイトが、右のパンチでクレオンに襲いかかります。
クレオンはこれまでと同じように、左手を差し出しながら、
「学習しない化け物だねぇ。何度同じ手を使えば……」
と、メサイトの攻撃を軽々と受け止めようとしますが、ここでクレオンに油断が生まれました。すぐ調子に乗るあたり、ネリスと同じ性分のようですね。この先、気の合う二人になりそうです。
メサイトの拳がクレオンの左手に吸い込まれようとしたその時、メサイトはおもむろにその手を開いて、クレオンの腕をつかみました。
「何のつもりだね、化け物くん」
メサイトの意外な行動に虚を突かれ、少し驚いたクレオンでしたが、そんな事はおくびにも出しません。
「こういうつもりだよ!」
メサイトは、つかんだ腕をそのまま大きく振り回します。
「わっ!」
その声と同時に、クレオンは宙高く投げ飛ばされました。ホール円天井の一番高いところに届かんばかりの勢いです。
何で、こんな事になったのかですって? それはですね……。
クレオンはゴリラの秘薬で絶大な腕力と耐久力を手に入れましたが、体重は変わっておりません。ゴリラのように、重くなったわけではないのです。ですからメサイトに軽々と放り投げられてしまったのでした。
もっとも本来のクレオンならば、薬の力でメサイトの腕を引き戻せば済む話です。しかしここはやっぱり油断をしており、一瞬の判断の遅れがあったのですね。
上がる所まで上がったクレオンは、重力に導かれ真っ逆さまに落ちてきます。
「油断したな。やっぱり最後はオレの勝ちだ!」
無防備にただ落下する標的を狙って、メサイトが渾身の右ストレートを放ちます。いくら耐久力が増大したクレオンといえども、これをまともに食らえばかなりのダメージを負うのは確実です。
「あぁ、そのようだ。とんだ不注意だったよ。コリスに知られたら、大目玉まちがいなしだ」
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる