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魔女と奇妙な男 (68) 死のイベント
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これまで激戦が繰り広げられてきたホールに、つかの間の静寂が訪れます。まるで何かの試合のように、二人はホール中央で向きあいました。
あいつ、何をする気なの?
アテロットに胸ぐらをつかまれ、息をするのもやっとのネリスでしたが、これから起きる血塗られた光景を想像すると、本当に自分の心臓が自分のものじゃないと思えるくらい、荒々しく脈打つのを感じます。
「んじゃま、最終ラウンドの開始と行こうじゃないか。おっと。その前に、てめぇにはやって貰わなくちゃいけない事がある」
メサイトが、いやらしい笑みを浮かべます。
何を、何をクレオンさんに、やらせようっていうの?
どうせロクでもない要求だろうと思ってはいるものの、ネリスは気が気ではありませんでした。もうここまで来たら、あとはメサイトが少しでもクレオンに勝機のある、バカな提案をする事を望むばかりです。
しかしネリスの淡い期待を裏切るように、メサイトは、
「その、腰のかっこいいベルトに付いてる入れ物な。そこに収まっている薬を全部捨てて頂きましょうかね」
と、慇懃無礼に言いました。
クレオンは眉ひとつ動かしません。化け物と戦っている当事者としては、メサイトの要求する内容は最初からわかっておりました。
だめ! それをしちゃ、だめ!
ネリスが、心の中で叫びます。口をパクパクと動かしますが、その訴えは声になりません。
これで本当に、クレオンの負けが確定したようです。進化する前のメサイト相手であるならば、薬の力がなくても彼の自力で勝てたかも知れません。しかしメサイト本人すら予想しなかった、今の姿の彼にはまず敵わないと言わざるを得ません。
加えて、ネリスが人質に取られているのです。万が一にでもクレオンに勝機が見えた時、メサイトがネリスを利用しない筈がありません。アテロットはサジルと違い、メサイトが命じれば躊躇する事なく、即座にネリスの首をへし折るでしょう。クレオンも、そこの所は重々承知しています。
既に勝ち誇った顔をしているメサイトを前に、クレオンは黙ってベルトのボルダーに収まっている、シリンダー状の容器を取り出しました。そして要求通りに、薬を捨てようとしますが、
「おっと、そのビンをただ捨てるだけじゃだめだ。蓋を取って、中身を床に捨てろ。最後はきちんと振って、完全に空にするんだ」
万が一の逆転も許さぬよう、メサイトは周到に指示を出しました。クレオンは言われた通り、一つ一つのビンの中身を床に垂らします。やがて全てのビンが空になると、ワックスをかけたばかりのフローリングの床に、小さな水たまりが出来ました。天井の照明の光を反射させ、キラキラと輝いています。
「ようし、いい子だ。では試合再開と行こう!」
メサイトの合図によって、再び死闘、いえクレオンをなぶり殺しにするイベントが始まりました。
「ほうら、ふっ飛びな」
メサイトは、右の拳を突き出します。もちろん、全力ではありません。一発で仕留めてしまう気などサラサラないのです。これまで煮え湯を飲まされてきたのですから、思う存分いたぶった末に、命を奪うつもりなのでした。
クレオンは腕をクロスさせて、そのパンチを受け止めます。
「ほぉ、まだ薬の効き目が残っていたか。だがな、さっきお前のパンチを受けてた時、少しずつだが威力が弱まっていくのを感じたぜ?」
薄緑色の肌をした化け物が、余裕しゃくしゃくで笑いました。
あいつ、何をする気なの?
アテロットに胸ぐらをつかまれ、息をするのもやっとのネリスでしたが、これから起きる血塗られた光景を想像すると、本当に自分の心臓が自分のものじゃないと思えるくらい、荒々しく脈打つのを感じます。
「んじゃま、最終ラウンドの開始と行こうじゃないか。おっと。その前に、てめぇにはやって貰わなくちゃいけない事がある」
メサイトが、いやらしい笑みを浮かべます。
何を、何をクレオンさんに、やらせようっていうの?
どうせロクでもない要求だろうと思ってはいるものの、ネリスは気が気ではありませんでした。もうここまで来たら、あとはメサイトが少しでもクレオンに勝機のある、バカな提案をする事を望むばかりです。
しかしネリスの淡い期待を裏切るように、メサイトは、
「その、腰のかっこいいベルトに付いてる入れ物な。そこに収まっている薬を全部捨てて頂きましょうかね」
と、慇懃無礼に言いました。
クレオンは眉ひとつ動かしません。化け物と戦っている当事者としては、メサイトの要求する内容は最初からわかっておりました。
だめ! それをしちゃ、だめ!
ネリスが、心の中で叫びます。口をパクパクと動かしますが、その訴えは声になりません。
これで本当に、クレオンの負けが確定したようです。進化する前のメサイト相手であるならば、薬の力がなくても彼の自力で勝てたかも知れません。しかしメサイト本人すら予想しなかった、今の姿の彼にはまず敵わないと言わざるを得ません。
加えて、ネリスが人質に取られているのです。万が一にでもクレオンに勝機が見えた時、メサイトがネリスを利用しない筈がありません。アテロットはサジルと違い、メサイトが命じれば躊躇する事なく、即座にネリスの首をへし折るでしょう。クレオンも、そこの所は重々承知しています。
既に勝ち誇った顔をしているメサイトを前に、クレオンは黙ってベルトのボルダーに収まっている、シリンダー状の容器を取り出しました。そして要求通りに、薬を捨てようとしますが、
「おっと、そのビンをただ捨てるだけじゃだめだ。蓋を取って、中身を床に捨てろ。最後はきちんと振って、完全に空にするんだ」
万が一の逆転も許さぬよう、メサイトは周到に指示を出しました。クレオンは言われた通り、一つ一つのビンの中身を床に垂らします。やがて全てのビンが空になると、ワックスをかけたばかりのフローリングの床に、小さな水たまりが出来ました。天井の照明の光を反射させ、キラキラと輝いています。
「ようし、いい子だ。では試合再開と行こう!」
メサイトの合図によって、再び死闘、いえクレオンをなぶり殺しにするイベントが始まりました。
「ほうら、ふっ飛びな」
メサイトは、右の拳を突き出します。もちろん、全力ではありません。一発で仕留めてしまう気などサラサラないのです。これまで煮え湯を飲まされてきたのですから、思う存分いたぶった末に、命を奪うつもりなのでした。
クレオンは腕をクロスさせて、そのパンチを受け止めます。
「ほぉ、まだ薬の効き目が残っていたか。だがな、さっきお前のパンチを受けてた時、少しずつだが威力が弱まっていくのを感じたぜ?」
薄緑色の肌をした化け物が、余裕しゃくしゃくで笑いました。
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