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魔女と奇妙な男 (78) 最後の勝負
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でも、それ以上は何も起こりません。
「!?」
メサイトが絶句します。これは彼にしてみれば、当然のリアクションでした。だって、メサイトの予想に大きく反し、彼の丸太のような腕はクレオンの前腕に当たり、止まっているのですからね。えぇ、クレオン自身はもちろんの事、メサイトの腕が当たった前腕さえも、只の一ミリだって動いてはいませんでした。
「ば、ばかな。てめぇが小娘から受け取ったのは、たった一つの薬びんだったはずだ! それに、今まで薬を隠し持っていたとは思えねぇ。
だから、こんなパワーを出せるわけねぇんだ。なのに、どうして……」
メサイトが、唖然とした表情で尋ねます。
「だからさ、答える義務はないって言ったろう?」
ニッコリと応じるクレオン。
「ちくしょう! こうなったら」
メサイトは立ち上がり、ペース配分など全く無視して、パンチといいキックといい、滅茶苦茶に繰り出し始めます。やけっぱちにも見えますが、彼のパワーを考えれば、それはそれで効果的な攻め方でした。
クレオンはその攻撃を、神速の速さで避けたかと思えば、次には正面から受け止めるといった、変幻自在の防御を見せつけます。
そして、メサイトがへばり始めたのを察したクレオンは、
「じゃぁ、そろそろ」
といって、ゴリラの力で右ストレートを放ち、その拳を化け物の腹へとめり込ませます。メサイトはグエッとばかりに、醜い嗚咽をもらしたかと思うと、ホールの奥に向かって大岩のようにゴロゴロと転がっていきました。彼がぶつかった先のあれやこれやが散乱し、メサイトの体はようやく止まります。
ほんのわずかの間、沈黙の時間がホールに流れましたが、
「オレは負けねぇ!もしここで負けたら、オレは一生、陽の当たる場所へは出られねぇ。才気あふれるオレ様が、こんな所で終わるなんて有り得ねぇ!」
と、メサイトはスックと立ち上がり、クレオンの方へと向き直りました。その身には、異様な気迫がまとわりついています。
「それは遺言かな? 化け物くん」
あいも変わらず軽口をたたくクレオンでしたが、次が最後のぶつかり合いだと感じていました。
薬の効果、もう、それほどもたないな。
クレオンは、心の中で呟きます。ネリスから託された、強烈で素晴らしい薬の効き目が切れかけているのです。もちろんスペアなんてありません。
「ぐぉおおお!!」
メサイトが、ひときわ大きく咆哮します。それはもはや、獣そのもののと言って良いものでした。するとその場の皆、これはメサイト自身も含めてですが、彼らの予想だにしなかった光景が繰り広げられます。
「何? あれは!?」
小窓から、戦いの行方を固唾をのんで見守っていたネリスが、思わず口走ります。
それもそのはず。にわかにメサイトの全身から蒸気のような湯気が立ち昇り、やがて彼の体は、薄緑色から炎のような真っ赤な色に変わっていきました。
この変化に一番驚いたのは、他ならぬメサイトです。
彼は腕と言わず体と言わず、全身を見回しながら、
「おぉ! おぉ! これぞ、あのお方の言っていた、本来のオレのあるべき姿、絶対無敵の姿なのか!」
メサイトは歓喜に打ち震え、ホールの壁が崩れんばかりに大声で叫びました。
「おい、戦闘魔女。これデ、おマえの死ハ、か、カクジツだ。ジごクでこ、こ、コウカイ……」
メサイトは悪態をつきますが、喋り方が何か変になって来ています。その言葉は、人と獣の中間のような、いえ、ドンドン狂暴な、獣の鳴き声のような響きを帯びていきました。
「!?」
メサイトが絶句します。これは彼にしてみれば、当然のリアクションでした。だって、メサイトの予想に大きく反し、彼の丸太のような腕はクレオンの前腕に当たり、止まっているのですからね。えぇ、クレオン自身はもちろんの事、メサイトの腕が当たった前腕さえも、只の一ミリだって動いてはいませんでした。
「ば、ばかな。てめぇが小娘から受け取ったのは、たった一つの薬びんだったはずだ! それに、今まで薬を隠し持っていたとは思えねぇ。
だから、こんなパワーを出せるわけねぇんだ。なのに、どうして……」
メサイトが、唖然とした表情で尋ねます。
「だからさ、答える義務はないって言ったろう?」
ニッコリと応じるクレオン。
「ちくしょう! こうなったら」
メサイトは立ち上がり、ペース配分など全く無視して、パンチといいキックといい、滅茶苦茶に繰り出し始めます。やけっぱちにも見えますが、彼のパワーを考えれば、それはそれで効果的な攻め方でした。
クレオンはその攻撃を、神速の速さで避けたかと思えば、次には正面から受け止めるといった、変幻自在の防御を見せつけます。
そして、メサイトがへばり始めたのを察したクレオンは、
「じゃぁ、そろそろ」
といって、ゴリラの力で右ストレートを放ち、その拳を化け物の腹へとめり込ませます。メサイトはグエッとばかりに、醜い嗚咽をもらしたかと思うと、ホールの奥に向かって大岩のようにゴロゴロと転がっていきました。彼がぶつかった先のあれやこれやが散乱し、メサイトの体はようやく止まります。
ほんのわずかの間、沈黙の時間がホールに流れましたが、
「オレは負けねぇ!もしここで負けたら、オレは一生、陽の当たる場所へは出られねぇ。才気あふれるオレ様が、こんな所で終わるなんて有り得ねぇ!」
と、メサイトはスックと立ち上がり、クレオンの方へと向き直りました。その身には、異様な気迫がまとわりついています。
「それは遺言かな? 化け物くん」
あいも変わらず軽口をたたくクレオンでしたが、次が最後のぶつかり合いだと感じていました。
薬の効果、もう、それほどもたないな。
クレオンは、心の中で呟きます。ネリスから託された、強烈で素晴らしい薬の効き目が切れかけているのです。もちろんスペアなんてありません。
「ぐぉおおお!!」
メサイトが、ひときわ大きく咆哮します。それはもはや、獣そのもののと言って良いものでした。するとその場の皆、これはメサイト自身も含めてですが、彼らの予想だにしなかった光景が繰り広げられます。
「何? あれは!?」
小窓から、戦いの行方を固唾をのんで見守っていたネリスが、思わず口走ります。
それもそのはず。にわかにメサイトの全身から蒸気のような湯気が立ち昇り、やがて彼の体は、薄緑色から炎のような真っ赤な色に変わっていきました。
この変化に一番驚いたのは、他ならぬメサイトです。
彼は腕と言わず体と言わず、全身を見回しながら、
「おぉ! おぉ! これぞ、あのお方の言っていた、本来のオレのあるべき姿、絶対無敵の姿なのか!」
メサイトは歓喜に打ち震え、ホールの壁が崩れんばかりに大声で叫びました。
「おい、戦闘魔女。これデ、おマえの死ハ、か、カクジツだ。ジごクでこ、こ、コウカイ……」
メサイトは悪態をつきますが、喋り方が何か変になって来ています。その言葉は、人と獣の中間のような、いえ、ドンドン狂暴な、獣の鳴き声のような響きを帯びていきました。
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