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魔女と奇妙な男 (86) もう一つの戦い
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ほどなく病院からの馬車がコリス邸に駆けつけると、最高位魔女はオリビアとフレディに見送られ、クレオンの待つ病院へと急ぎました。ネリスがどうやら無事だと分かり、オリビア夫婦も胸をなでおろします。
コリスが病院へ到着すると、真っ先にネリスが師匠を出迎えました。
「まぁ、ネリス。大丈夫なの? 怪我はない?」
魔法電信では、文字でしかネリスの事は分かりません。実際に自分の目で確かめるまでは安心しきれなかったコリスも、深い安堵の吐息を漏らします。
「来たか、コリス。急げ、全く予断を許さない状況だ」
師匠と弟子の再会もそこそこに、待ちきれないといった様子のクレオンがやって来ました。
「そうね。必要だと思う物は全てそろえて来たわ。早速、手術を始めましょう」
コリスが魔女の帽子を脱ぎ、ネリスへと渡します。
「その帽子は、どこかへ置いていけ」
クレオンがそう言うと、コリスは怪訝な顔をしました。
「ネリス君、君も一緒に来るんだ」
既に戦闘服を脱ぎすてたクレオンが、意外な一言を発します。
でもこの言葉に一番驚いたのは、他ならぬネリス自身でした。
え? なんで私?
ネリスは唖然としますが、それは当然でしょう。魔女が手術に立ち会う事自体は珍しくありません。薬の扱いに関しては、魔女の方が普通の医師よりもずっと優れていますし、患者の様態により、その場で最適な薬を調合する場合だってありますからね。
でも、第九等級の魔女が手術に立ち会うなんて話は、聞いた事がありません。
「ちょっと、クレオン。あなた、どういうつもりなの? ネリスには、まだ早すぎるわ!」
コリスが手術着に着替えようと、魔女の外套を脱ぎすてながら言いました。
「いや、彼女にはその資格がある。僕は、そう思う」
いつにない真剣な彼のまなざしが、コリスの瞳に映し出されます。
この人、普段はいい加減きわまりないけれど、大事な場面でふざける人じゃないわ。
コリスは、そう思いながらも迷いました。
「ネリス、あなたはどうなの? 手術に立ち会うというのは、そんな生易しいものじゃないのよ? 特に話を聞く限り、大量出血や、骨や内蔵だって目にしなければいけないわ。
そんな恐ろしいものを見て、耐えられる?」
今度はコリスが、真剣なまなざしでネリスを見つめます。
「この子は、その百倍も恐ろしいものを、既に見て来たさ」
クレオンが、横から口をはさみました。
「わ、私、行きます。立ち合わせて下さい!」
私の事を、命を投げ出して救ってくれたサジルさん。私はあの人を助けたい! 少しでも、そのお手伝いがしたい!
ネリスが、コリスの瞳を見つめ返します。
「……わかったわ。一緒に来なさい。責任は私が取ります」
互いの顔を見合わせる、コリス、クレオン、そしてネリス。まるで、三人の魔女魂が共鳴しているようでした。
そうして、異例の緊急手術が始まります。
第九等級の、しかも十五歳の魔女が同席するなんて前代未聞の話ですが、魔女協会の幹部二人が言うのです。医師たちは一も二もなく承諾しました。
手術は、明け方近くまでかかります。治療を終えてロビーへ戻った魔女や医師たちの顔には、疲労困憊の色がにじみ出ておりました。そんな彼らを、朝日が優しい光でねぎらいます。
え? サジルは助かったのかって?
魔女協会の幹部二人が全力を尽くしたのですよ。失敗するわけが、ないじゃありませんか。そして新米魔女も、微力ながらよく頑張ったとつけ加えておきましょう。
コリスが病院へ到着すると、真っ先にネリスが師匠を出迎えました。
「まぁ、ネリス。大丈夫なの? 怪我はない?」
魔法電信では、文字でしかネリスの事は分かりません。実際に自分の目で確かめるまでは安心しきれなかったコリスも、深い安堵の吐息を漏らします。
「来たか、コリス。急げ、全く予断を許さない状況だ」
師匠と弟子の再会もそこそこに、待ちきれないといった様子のクレオンがやって来ました。
「そうね。必要だと思う物は全てそろえて来たわ。早速、手術を始めましょう」
コリスが魔女の帽子を脱ぎ、ネリスへと渡します。
「その帽子は、どこかへ置いていけ」
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でもこの言葉に一番驚いたのは、他ならぬネリス自身でした。
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でも、第九等級の魔女が手術に立ち会うなんて話は、聞いた事がありません。
「ちょっと、クレオン。あなた、どういうつもりなの? ネリスには、まだ早すぎるわ!」
コリスが手術着に着替えようと、魔女の外套を脱ぎすてながら言いました。
「いや、彼女にはその資格がある。僕は、そう思う」
いつにない真剣な彼のまなざしが、コリスの瞳に映し出されます。
この人、普段はいい加減きわまりないけれど、大事な場面でふざける人じゃないわ。
コリスは、そう思いながらも迷いました。
「ネリス、あなたはどうなの? 手術に立ち会うというのは、そんな生易しいものじゃないのよ? 特に話を聞く限り、大量出血や、骨や内蔵だって目にしなければいけないわ。
そんな恐ろしいものを見て、耐えられる?」
今度はコリスが、真剣なまなざしでネリスを見つめます。
「この子は、その百倍も恐ろしいものを、既に見て来たさ」
クレオンが、横から口をはさみました。
「わ、私、行きます。立ち合わせて下さい!」
私の事を、命を投げ出して救ってくれたサジルさん。私はあの人を助けたい! 少しでも、そのお手伝いがしたい!
ネリスが、コリスの瞳を見つめ返します。
「……わかったわ。一緒に来なさい。責任は私が取ります」
互いの顔を見合わせる、コリス、クレオン、そしてネリス。まるで、三人の魔女魂が共鳴しているようでした。
そうして、異例の緊急手術が始まります。
第九等級の、しかも十五歳の魔女が同席するなんて前代未聞の話ですが、魔女協会の幹部二人が言うのです。医師たちは一も二もなく承諾しました。
手術は、明け方近くまでかかります。治療を終えてロビーへ戻った魔女や医師たちの顔には、疲労困憊の色がにじみ出ておりました。そんな彼らを、朝日が優しい光でねぎらいます。
え? サジルは助かったのかって?
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