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魔女と奇妙な男 (87) 暗くて暗い場所
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さて、一方こちらは、ヴォルノースの森のどこかにある、暗い暗いもっとも暗い場所にそびえ建つ、漆黒の闇に包まれた不気味な館。
その一室の窓に、妖しい光が灯っていました。
部屋は天井の高い落ち着いた書斎となっており、古めかしくはありますが、しっかりとした造りの家具で満たされています。壁際にはそびえ立つような本棚が設置され、主に歴史と薬と魔法に関する書物が収められていました。どれも、非常に貴重な品ぞろいです。
その窓際近くにはオーク材のドッシリとしたデスクがあり、傍らにはこれまた趣のあるクラシックで豪勢な椅子が据えられて、そこには三十前後に見える美しい女性が腰かけておりました。
座っているので良くは分かりませんが、背丈は非常に高いようで、なめらかな肌は氷のように白く透き通っています。そして何より注目すべき事柄は、彼女の背中には美しい蝶のような羽が生えているという事実でした。
彼女は紛れもない「妖精」です。ヴォルノース三大種族の一つである、妖精ビトの一人ですね。
あぁ、やっと帰って来た。
彼女の白く細い指がピクリと動いたかと思うと、ドアをトントンとノックする音が聞こえてきました。
「お入りなさい」
彼女は穏やかではあるものの、とても冷たく、また威厳のある声でそう言います。
一瞬、間を置いた後、重厚なドアが、僅かなきしみと共に開きました。
「ただいま戻りました。マダム・ティシカ」
部屋へ入り、そう言って頭を垂れたのは、紛れもないあの”濃紺のローブの男”です。
彼が口にした”ティシカ”と言う名前。これは現在、行方不明になっている最高位魔女の一人のそれと同じでした。
マダム・ティシカと呼ばれた女性は、ゆっくりと立ち上がり、少し離れた所にあるソファーへと移動します。
「では早速、首尾を聞きましょうか。あぁ、ゼシュタル。その前に、ローブはもうお脱ぎなさい」
サイドテーブルにおかれた長いキセルに煙草の葉を詰めながら、ティシカはゼシュタルと呼ばれた男に命じました。
ゼシュタルは言われるがままに、紺色のローブを脱ぎ、たたんで自らの腕に引っ掛けます。すると彼のすぐ横にある鏡に青白い光が反射しました。
着物を取ったゼシュタルの姿。それは蒼白の肌に赤々と光る瞳、耳は長く伸び、背中にはコウモリに似た翼が生えています。瞳の色こそ違え、これは正にレアロンと同じ種族を表す風貌でした。
そうです。ゼシュタルもまた悪魔であり、その上、ティシカの使い魔であったのです。これで彼が、色々と不思議な力を使えた事にも納得ですね。そして彼やメサイトが”あのお方”と呼んでいる人物が、この妖精である事もハッキリといたしました。
ゼシュタルはそれからしばらくの間、今まで見聞きした情報を過不足なく主人へ報告します。あくまで冷静な、そして時にはティシカに対する畏怖の念すら感じるような面持ちでありました。
「なるほど、大体のところは分かりました。ご苦労でしたね」
ご主人様のねぎらいの言葉を耳にして、ゼシュタルの表情が少し緩みます。
「でもね、幾つか問い正したい事があるわ」
ティシカの言葉は、喋り方こそゆったりしたものでしたが、その奥には氷のような硬さがありました。ゼシュタルの背中に、冷たいものが流れます。おそらくはレアロンと同じか、もしくはそれ以上の力を持っている彼でさえ、ティシカという妖精魔女は恐ろしい存在なのでしょう。
その一室の窓に、妖しい光が灯っていました。
部屋は天井の高い落ち着いた書斎となっており、古めかしくはありますが、しっかりとした造りの家具で満たされています。壁際にはそびえ立つような本棚が設置され、主に歴史と薬と魔法に関する書物が収められていました。どれも、非常に貴重な品ぞろいです。
その窓際近くにはオーク材のドッシリとしたデスクがあり、傍らにはこれまた趣のあるクラシックで豪勢な椅子が据えられて、そこには三十前後に見える美しい女性が腰かけておりました。
座っているので良くは分かりませんが、背丈は非常に高いようで、なめらかな肌は氷のように白く透き通っています。そして何より注目すべき事柄は、彼女の背中には美しい蝶のような羽が生えているという事実でした。
彼女は紛れもない「妖精」です。ヴォルノース三大種族の一つである、妖精ビトの一人ですね。
あぁ、やっと帰って来た。
彼女の白く細い指がピクリと動いたかと思うと、ドアをトントンとノックする音が聞こえてきました。
「お入りなさい」
彼女は穏やかではあるものの、とても冷たく、また威厳のある声でそう言います。
一瞬、間を置いた後、重厚なドアが、僅かなきしみと共に開きました。
「ただいま戻りました。マダム・ティシカ」
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マダム・ティシカと呼ばれた女性は、ゆっくりと立ち上がり、少し離れた所にあるソファーへと移動します。
「では早速、首尾を聞きましょうか。あぁ、ゼシュタル。その前に、ローブはもうお脱ぎなさい」
サイドテーブルにおかれた長いキセルに煙草の葉を詰めながら、ティシカはゼシュタルと呼ばれた男に命じました。
ゼシュタルは言われるがままに、紺色のローブを脱ぎ、たたんで自らの腕に引っ掛けます。すると彼のすぐ横にある鏡に青白い光が反射しました。
着物を取ったゼシュタルの姿。それは蒼白の肌に赤々と光る瞳、耳は長く伸び、背中にはコウモリに似た翼が生えています。瞳の色こそ違え、これは正にレアロンと同じ種族を表す風貌でした。
そうです。ゼシュタルもまた悪魔であり、その上、ティシカの使い魔であったのです。これで彼が、色々と不思議な力を使えた事にも納得ですね。そして彼やメサイトが”あのお方”と呼んでいる人物が、この妖精である事もハッキリといたしました。
ゼシュタルはそれからしばらくの間、今まで見聞きした情報を過不足なく主人へ報告します。あくまで冷静な、そして時にはティシカに対する畏怖の念すら感じるような面持ちでありました。
「なるほど、大体のところは分かりました。ご苦労でしたね」
ご主人様のねぎらいの言葉を耳にして、ゼシュタルの表情が少し緩みます。
「でもね、幾つか問い正したい事があるわ」
ティシカの言葉は、喋り方こそゆったりしたものでしたが、その奥には氷のような硬さがありました。ゼシュタルの背中に、冷たいものが流れます。おそらくはレアロンと同じか、もしくはそれ以上の力を持っている彼でさえ、ティシカという妖精魔女は恐ろしい存在なのでしょう。
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