ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

文字の大きさ
215 / 218

魔女と奇妙な男 (92) ホールでの出来事

しおりを挟む
「それは、あなたの良心とか、そういう意味?」

話が混乱するのを避けるため、コリスがネリスの真意を確かめようとしました。

「わかりません。あの声が、自分自身の物だったのか、私の中に住む、他の誰かだったのか……」

本来ならば、ネリスの言い分は支離滅裂です。しかし、そもそも常識では考えられない事が起こったのですから、三人はネリスの答えに、口を差し挟もうとは思いませんでした。

「それで?」

今度は、クレオンが話を促します。

「その”私に出来る事”が、パッと……、本当にパッと頭に浮かんだんです。何故そう思えたのかは、今でもわかりません」

当時の恐ろしい記憶が呼び覚まされたのか、ネリスは小刻みに震え出しました。

「大丈夫、大丈夫よ、ネリス」

コリスが、ネリスの手をそっと握ります。

「あのままでは、クレオンさん、絶対にメサイトには勝てないと思いました。唯一、勝てる望みは、あの薬をもう一度飲む事……」

絞り出すような声で、ネリスが続けました。

「そう思った時、ずっと前の方に、キラリと光るものが見えたんです」

「キラリと光るもの?」

コリスが慎重を期すかのように、ネリスの言葉を繰り返します。

「えぇ。それはメサイトが、クレオンさんに捨てさせた”あの薬”です。私は、そう直感しました。

次の瞬間、私はもう走り出していました。わずかな可能性に賭けたんです」

いつもなら茶々を入れるレアロンも、肩を震わせる少女の話に聞き入りました。

「メサイトとクレオンさんがいる場所と、薬の捨てられた場所までは少し距離があったんで、取りに行けたんだと思います。その場所に到着すると、案の定、薬はまだ床に全部は染み込んではいなくって、何とかなるんじゃないかと思いました」

「あぁ、そう言えば、前日にワックスをかけたばかりだったわね。それで薬をはじいていたのかも知れないわ」

コリスが、ネリスの話を補足します。

「私はハンカチを取り出して、薬を出来るだけ吸い込ませました」

なるほど。これであの時、メサイトがネリスを一瞬見失った理由がわかりました。ハンカチに薬を吸い込ませようと床にかがんだネリスが、クレオンの影になったため、化け物には彼女が見えなかったのですね。

「そして、勝手知ったる倉庫の上階。私は必要な薬や道具を大急ぎで取りそろえ、三階の調合室へと駆け込んだんです」

ようやく落ち着きを取り戻したネリスは、しっかりと顔を上げて言いました。

「ちょっと、待て」

初めてレアロンが、口を開きます。

「俺は魔女じゃないんで、薬の知識はそれほど豊富じゃない。しかしクレオンの使った秘薬の話は、マダムの仕事を手伝う上で知っている。

お前はハンカチに染み込ませた薬に、何がしかの材料を加えて調合しなおしたと言っているようだが、魔女協会の調合の専門家が、研究に研究を重ね、ようやっと今の形まで持ってきたと聞いているぞ」

「確かに、そうだ」

クレオンが、使い魔執事に同調しました。

「君が再調合した薬は、ダチョウ、ゴリラ、ハヤブサの三つの力が使える効果があった。単純に混ぜたからって、そうなるものではないよ。

なるほど単独で服用するのに比べて、凄まじい副反応があったけど、それでも同時に違う力を使えるなんて普通はあり得ない。

もし出来るのならば、研究者の連中がとうの昔に複合薬を完成させているだろう。もちろん、只の偶然で出来るような代物でもない」

薬の効果を、直に体感したクレオンの言い分には、説得力があります。

「……確かにそうね。二人の言い分は、もっともだわ。ネリス、あなたは具体的にはどういう風に、薬を再調合したの?」

最高位魔女ですら予想できなかったネリスの告白に、皆が混乱していました。

「どうって……、とにかく頭の中に”アレとアレが必要で、それをこうやって調合すれば……”って、閃いたんです。ただ、本当に夢中で、今はもう具体的にどうやったんだか、全く思い出せません」

ネリスが、恐縮しながら話します。

「あ、でも調合室に行けば、使った薬が分かるんじゃないのかい? 空きビンがあるだろうからさ。それを元に、レシピを研究できないだろうか?」

薬の絶大な効果を知っているクレオンが、すぐさま助言しました。

「あぁ……。それは、多分無理ですね」

新米魔女は、力なく首を振りました。

「どうして?」

コリスが、問いかけます。

「とにかく時間がなかったんで、薬は倉庫で一つのビーカーに、まとめて入れちゃったんです。だから、調合室に空き瓶はありません」

ネリスが、済まなそうに言いました。

「あぁ、でもそれなら倉庫に行けば、やっぱり空き瓶があるんじゃないのか?」

レアロンが、新たな可能性を模索します。

「ううん、それも無理。必要な薬を探す時に、無我夢中で薬棚を引っ掻き回していったんで、必要ない薬は辺り構わず放り投げちゃったのよ。それで、殆どの薬びんは床に落ちて割れちゃったわ。

ついでに言うと、必要な薬もビーカーに入れたあと放り投げちゃったんで、そっちも割れれてると思うの」

ネリスのガサツな性格が、とんだところで秘薬の開発を妨げたようですね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...