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魔女と奇妙な男 (92) ホールでの出来事
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「それは、あなたの良心とか、そういう意味?」
話が混乱するのを避けるため、コリスがネリスの真意を確かめようとしました。
「わかりません。あの声が、自分自身の物だったのか、私の中に住む、他の誰かだったのか……」
本来ならば、ネリスの言い分は支離滅裂です。しかし、そもそも常識では考えられない事が起こったのですから、三人はネリスの答えに、口を差し挟もうとは思いませんでした。
「それで?」
今度は、クレオンが話を促します。
「その”私に出来る事”が、パッと……、本当にパッと頭に浮かんだんです。何故そう思えたのかは、今でもわかりません」
当時の恐ろしい記憶が呼び覚まされたのか、ネリスは小刻みに震え出しました。
「大丈夫、大丈夫よ、ネリス」
コリスが、ネリスの手をそっと握ります。
「あのままでは、クレオンさん、絶対にメサイトには勝てないと思いました。唯一、勝てる望みは、あの薬をもう一度飲む事……」
絞り出すような声で、ネリスが続けました。
「そう思った時、ずっと前の方に、キラリと光るものが見えたんです」
「キラリと光るもの?」
コリスが慎重を期すかのように、ネリスの言葉を繰り返します。
「えぇ。それはメサイトが、クレオンさんに捨てさせた”あの薬”です。私は、そう直感しました。
次の瞬間、私はもう走り出していました。わずかな可能性に賭けたんです」
いつもなら茶々を入れるレアロンも、肩を震わせる少女の話に聞き入りました。
「メサイトとクレオンさんがいる場所と、薬の捨てられた場所までは少し距離があったんで、取りに行けたんだと思います。その場所に到着すると、案の定、薬はまだ床に全部は染み込んではいなくって、何とかなるんじゃないかと思いました」
「あぁ、そう言えば、前日にワックスをかけたばかりだったわね。それで薬をはじいていたのかも知れないわ」
コリスが、ネリスの話を補足します。
「私はハンカチを取り出して、薬を出来るだけ吸い込ませました」
なるほど。これであの時、メサイトがネリスを一瞬見失った理由がわかりました。ハンカチに薬を吸い込ませようと床にかがんだネリスが、クレオンの影になったため、化け物には彼女が見えなかったのですね。
「そして、勝手知ったる倉庫の上階。私は必要な薬や道具を大急ぎで取りそろえ、三階の調合室へと駆け込んだんです」
ようやく落ち着きを取り戻したネリスは、しっかりと顔を上げて言いました。
「ちょっと、待て」
初めてレアロンが、口を開きます。
「俺は魔女じゃないんで、薬の知識はそれほど豊富じゃない。しかしクレオンの使った秘薬の話は、マダムの仕事を手伝う上で知っている。
お前はハンカチに染み込ませた薬に、何がしかの材料を加えて調合しなおしたと言っているようだが、魔女協会の調合の専門家が、研究に研究を重ね、ようやっと今の形まで持ってきたと聞いているぞ」
「確かに、そうだ」
クレオンが、使い魔執事に同調しました。
「君が再調合した薬は、ダチョウ、ゴリラ、ハヤブサの三つの力が使える効果があった。単純に混ぜたからって、そうなるものではないよ。
なるほど単独で服用するのに比べて、凄まじい副反応があったけど、それでも同時に違う力を使えるなんて普通はあり得ない。
もし出来るのならば、研究者の連中がとうの昔に複合薬を完成させているだろう。もちろん、只の偶然で出来るような代物でもない」
薬の効果を、直に体感したクレオンの言い分には、説得力があります。
「……確かにそうね。二人の言い分は、もっともだわ。ネリス、あなたは具体的にはどういう風に、薬を再調合したの?」
最高位魔女ですら予想できなかったネリスの告白に、皆が混乱していました。
「どうって……、とにかく頭の中に”アレとアレが必要で、それをこうやって調合すれば……”って、閃いたんです。ただ、本当に夢中で、今はもう具体的にどうやったんだか、全く思い出せません」
ネリスが、恐縮しながら話します。
「あ、でも調合室に行けば、使った薬が分かるんじゃないのかい? 空きビンがあるだろうからさ。それを元に、レシピを研究できないだろうか?」
薬の絶大な効果を知っているクレオンが、すぐさま助言しました。
「あぁ……。それは、多分無理ですね」
新米魔女は、力なく首を振りました。
「どうして?」
コリスが、問いかけます。
「とにかく時間がなかったんで、薬は倉庫で一つのビーカーに、まとめて入れちゃったんです。だから、調合室に空き瓶はありません」
ネリスが、済まなそうに言いました。
「あぁ、でもそれなら倉庫に行けば、やっぱり空き瓶があるんじゃないのか?」
レアロンが、新たな可能性を模索します。
「ううん、それも無理。必要な薬を探す時に、無我夢中で薬棚を引っ掻き回していったんで、必要ない薬は辺り構わず放り投げちゃったのよ。それで、殆どの薬びんは床に落ちて割れちゃったわ。
ついでに言うと、必要な薬もビーカーに入れたあと放り投げちゃったんで、そっちも割れれてると思うの」
ネリスのガサツな性格が、とんだところで秘薬の開発を妨げたようですね。
話が混乱するのを避けるため、コリスがネリスの真意を確かめようとしました。
「わかりません。あの声が、自分自身の物だったのか、私の中に住む、他の誰かだったのか……」
本来ならば、ネリスの言い分は支離滅裂です。しかし、そもそも常識では考えられない事が起こったのですから、三人はネリスの答えに、口を差し挟もうとは思いませんでした。
「それで?」
今度は、クレオンが話を促します。
「その”私に出来る事”が、パッと……、本当にパッと頭に浮かんだんです。何故そう思えたのかは、今でもわかりません」
当時の恐ろしい記憶が呼び覚まされたのか、ネリスは小刻みに震え出しました。
「大丈夫、大丈夫よ、ネリス」
コリスが、ネリスの手をそっと握ります。
「あのままでは、クレオンさん、絶対にメサイトには勝てないと思いました。唯一、勝てる望みは、あの薬をもう一度飲む事……」
絞り出すような声で、ネリスが続けました。
「そう思った時、ずっと前の方に、キラリと光るものが見えたんです」
「キラリと光るもの?」
コリスが慎重を期すかのように、ネリスの言葉を繰り返します。
「えぇ。それはメサイトが、クレオンさんに捨てさせた”あの薬”です。私は、そう直感しました。
次の瞬間、私はもう走り出していました。わずかな可能性に賭けたんです」
いつもなら茶々を入れるレアロンも、肩を震わせる少女の話に聞き入りました。
「メサイトとクレオンさんがいる場所と、薬の捨てられた場所までは少し距離があったんで、取りに行けたんだと思います。その場所に到着すると、案の定、薬はまだ床に全部は染み込んではいなくって、何とかなるんじゃないかと思いました」
「あぁ、そう言えば、前日にワックスをかけたばかりだったわね。それで薬をはじいていたのかも知れないわ」
コリスが、ネリスの話を補足します。
「私はハンカチを取り出して、薬を出来るだけ吸い込ませました」
なるほど。これであの時、メサイトがネリスを一瞬見失った理由がわかりました。ハンカチに薬を吸い込ませようと床にかがんだネリスが、クレオンの影になったため、化け物には彼女が見えなかったのですね。
「そして、勝手知ったる倉庫の上階。私は必要な薬や道具を大急ぎで取りそろえ、三階の調合室へと駆け込んだんです」
ようやく落ち着きを取り戻したネリスは、しっかりと顔を上げて言いました。
「ちょっと、待て」
初めてレアロンが、口を開きます。
「俺は魔女じゃないんで、薬の知識はそれほど豊富じゃない。しかしクレオンの使った秘薬の話は、マダムの仕事を手伝う上で知っている。
お前はハンカチに染み込ませた薬に、何がしかの材料を加えて調合しなおしたと言っているようだが、魔女協会の調合の専門家が、研究に研究を重ね、ようやっと今の形まで持ってきたと聞いているぞ」
「確かに、そうだ」
クレオンが、使い魔執事に同調しました。
「君が再調合した薬は、ダチョウ、ゴリラ、ハヤブサの三つの力が使える効果があった。単純に混ぜたからって、そうなるものではないよ。
なるほど単独で服用するのに比べて、凄まじい副反応があったけど、それでも同時に違う力を使えるなんて普通はあり得ない。
もし出来るのならば、研究者の連中がとうの昔に複合薬を完成させているだろう。もちろん、只の偶然で出来るような代物でもない」
薬の効果を、直に体感したクレオンの言い分には、説得力があります。
「……確かにそうね。二人の言い分は、もっともだわ。ネリス、あなたは具体的にはどういう風に、薬を再調合したの?」
最高位魔女ですら予想できなかったネリスの告白に、皆が混乱していました。
「どうって……、とにかく頭の中に”アレとアレが必要で、それをこうやって調合すれば……”って、閃いたんです。ただ、本当に夢中で、今はもう具体的にどうやったんだか、全く思い出せません」
ネリスが、恐縮しながら話します。
「あ、でも調合室に行けば、使った薬が分かるんじゃないのかい? 空きビンがあるだろうからさ。それを元に、レシピを研究できないだろうか?」
薬の絶大な効果を知っているクレオンが、すぐさま助言しました。
「あぁ……。それは、多分無理ですね」
新米魔女は、力なく首を振りました。
「どうして?」
コリスが、問いかけます。
「とにかく時間がなかったんで、薬は倉庫で一つのビーカーに、まとめて入れちゃったんです。だから、調合室に空き瓶はありません」
ネリスが、済まなそうに言いました。
「あぁ、でもそれなら倉庫に行けば、やっぱり空き瓶があるんじゃないのか?」
レアロンが、新たな可能性を模索します。
「ううん、それも無理。必要な薬を探す時に、無我夢中で薬棚を引っ掻き回していったんで、必要ない薬は辺り構わず放り投げちゃったのよ。それで、殆どの薬びんは床に落ちて割れちゃったわ。
ついでに言うと、必要な薬もビーカーに入れたあと放り投げちゃったんで、そっちも割れれてると思うの」
ネリスのガサツな性格が、とんだところで秘薬の開発を妨げたようですね。
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