ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (2) 朝食

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ヴォルノースの住人たちは、皆、例外なく魔法を使えます。但し殆どの者は一種類の魔法しか使えません。それも、取るに足らないものが普通なんです。小指の先に僅かな炎を灯したり、ピンポン玉程度の大きさの軽い物を、十センチくらい浮かしたりといった具合にです。

そして魔法が発現するのは、だいたい六歳から十歳くらいまでの間となり、大抵の子供は七、八歳で魔法が現れます。

ニールは今八歳ですから、もう魔法が現れても不思議じゃないんです。実際、彼の友だちであるマリアやドッジは、それぞれ個性的な魔法を使えていますからね。《第一部 お髭のニール 参照》

クラスのみんなも四分の三くらいは魔法が発現しており、そうでないニールは少数派として肩身の狭い思いをしていました。でも、ニールはそんな事、おくびにも出しません。子供の彼にだって、プライドってものがありますからね。「どうしよう? 魔法が使えないまま、大人になったら……」と心配をしている事なんか、決して誰にも気取られるわけにはいかないんです。

たとえ大好きなママにだって、魔法について悩んでいると知られたら”オトコのコケン”に関わります。ニールは普段、ガキ大将気質であるドッジの男尊女卑発言を諫めていますが、やっぱりこういう所は男の子なのでした。

でもそんなニールの可愛らしい悩みも、ママはちゃんとお見通しです。だからさっき、ニールが魔法の事に思わず触れた時も、何も言わなかったんですね。実の所、ニールもちょっと”しまった!”と思っていましたから。

「おはよう、パパ」

ママの言いつけ通り丁寧に顔を洗い、一階の食堂へ降りて来たニールが、既にママの作った朝ご飯を頬張っているパパに挨拶をします。

「おはよう、ニール」

パパも返事をしますが、どこか上の空でした。彼は骨董品集めが趣味なのですが、実はいきつけの骨董屋「エンシャント・ケイブ」に、掘り出し物があるのを昨日見つけていたのです。《※ 第一部 扉の奥の秘宝 参照》

まだ半分ほど寝ぼけているニールが、

「どうしたの、パパ。また、ゼペックさんのお店で何か見つけたの?」

と言いました。

ゼペックというのはエンシャント・ケイブのオーナーを務める老人の名前です。ママの目を盗んで(といっても、ママには全部お見通しですけどね)、パパと何度もお店へ行くうちに、ニールはゼペック老人と仲良しになっておりました。彼が語る、骨董品にまつわる逸話は大変面白く、お話し好きのニールは虜になっていたのです。

「しっ!」

図星をつかれたパパが、慌てて人差し指を口に当て、ニールに注意をします。パパのコレクションを”ガラクタ”と呼んではばからないママに聞かれては、大変困った事になるからでした。

「あっ、ごめん」

それを知っているニールは、思わず手で口をふさぎます。

父子の間に密談があったのを知ってか知らずか、ママがニールの朝ごはんを運んできました。ホカホカと湯気を立てているコーンスープを前に、ニールのお腹がキュゥーっと鳴ります。

今は、悩んでも仕方ない。

ニールは、空腹という現実に向きあいました。ママの美味しい料理が、その小さなお腹を心地よく満たしていきます。

「パパ、今日の仕事はネツラン橋の修復って言ってたけれど、遅くなるの?」

既に朝食を済ませたママが、一足早い食後のコーヒーをすすります。
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