ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (67) 目ざめ その1

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「じゃぁね……。君は砂場付近で激しい頭痛に襲われて、今までは単なるノイズのような音に聞こえていたものが、意味を成す”言葉”となって、聞こえて来た。

と、いう事かい?」

「……はい」

ニールは、慎重に答えます。子供ながらに”これは良くも悪くも、大変な事になったのかも知れない”と、理解し始めていたからでした。

「公園の主は、ただ自分が倒れるという事だけを言ってきたのかい? それとも、他の何かも話したのだろうか」

メリドルの質問は続きます。


さて、このままメリドルとニールのやり取りをお伝えしても良いのですが、それだと、今一つ退屈の隙間に陥るかも知れません。それゆえ少し趣向を変え、ニールが経験したあれこれを追体験して頂こうと思います。

時間は、ニールが先ほど公園で激しい頭痛を感じ始めた場面にさかのぼります。


お願い! 頭痛よ、来ないで!

ニールの切なる願いも空しく、彼の頭の中では、何種類もの激しいノイズが首をもたげ始めました。

やめて!

泣き出しそうになりながら、彼は何かにすがらんばかりに懇願します。しかしニールの必死の訴えも、聞き入れられる事はありませんでした。

ボクはここで、死んでしまうんだろうか?

既に痛みと意識が乖離し始めたニールは、ボンヤリとそんな事を考え始めます。

ボクがいなくなったら、パパとママはどうするんだろうか。悲しんでくれるのかな……。

ドッジやマリアが、変に責任を感じて悩まなければ良いのだけれど……。

あぁ、もう一度、ゼペックさんのお店に行きたかったなぁ。お話も、もっともっと聞きたかった……。

そう言えば、読みかけの小説、最後はどうなるんだろう……。

様々な事柄が、ニールの脳裏に浮かんでは消えていきました。

そして彼の意識がいよいよ朦朧とし、深い暗黒の淵に飲み込まれようとしたその時です。

”……ール。ニール”

誰かが、彼を呼んでいます。しかし聞き覚えのない声ですし、ニールは死ぬ間際に聞いている幻聴だろうと思いました。

”……ニール、ニール。しっかりしておくれ。ワシの声を聞いておくれ”

その声は、次第にハッキリと彼の耳に届き始めます。すると、どうでしょう。今の今まで、ニールの頭の中をさいなんでいた暴走イノシシの如きノイズは、僅かずつではあるものの、小さく消えて行きました。

ニールの額に滲み出ていた脂汗も、次第に収まっていきます。

彼は気を取り直して、

「ボクに話しかけるのは誰? もしかして、死神さん?」

ニールは、心の中で呟きました。昔読んだ小説に、ちょうどこんな場面があったのを思い出したのです。

”馬鹿を言っちゃいかん。ワシは、お前たちが公園の主と呼んでいる巨木じゃよ”

突拍子もない、言い分です。まだ死神と言われた方が、説得力がありますよね。でも今のニールには、そんな事を考える余裕がありませんでした。

「公園の主? 砂場の近くの?」

ニールが心の声で答えると、

”そうじゃ。お前のすぐそばにいる大きな木じゃよ”

公園の主と称する声が言いました。

「公園の主が、なんで今、ボクに話しかけるの?」

ニールが問うと、

”今だけじゃない。何日も前からずっと話しかけておったんじゃよ”

と、その落ち着いた声の主は答えます。

「何日も前?」

ニールは、少しずつハッキリしてきた頭で、この数日間の記憶をたどりました。そして、思い当たったのです。

「もしかして、あの”変な感じ”って……」

ニールの言葉を聞くと、声の主は、

”変な感じ? あぁ、そうなのか。そう、多分そうじゃ。ワシが誰彼かまわず急を知らせようと話しかけていた時、お前だけが反応してくれた。

ワシは嬉しくて、必死に話し続けたが、お前はキョトンとした顔をして公園を通り抜けて行ってしまった”

と、続けました。
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