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ヘリスウィル・エステレラの章(第二王子殿下視点)
ヘリスウィル・エステレラ~婚約者候補~
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あの店にはシムオンも親子でプレオープンに行ったと言っていた。あの店の料理人はロアール伯爵の厨房にいた料理人で、特にデザートを得意とする者をカフェのパティシエにしたということだった。料理長仕込みの料理人らしい。メニューは料理長のものと、各料理人の創作で料理長が認めたものしか出さないということらしい。
フィエーヤが僕だけ行ってない! と悲壮感を漂わせていたのでシムオンが連れて行くことになった。
シムオンは僕とロシュが二人で行ったことに軽く驚いたようだったが何も言わなかった。
ノクスとセイアッドは貴族院に通う年齢になるまで王都には来ないらしい。
冒険者に登録し日々クエストに邁進していると手紙には書いてあった。
ロシュもそのことを手紙で知っていたらしく、残念がっていた。
定期的に4人でお茶会を開いていたが、ロシュと二人という機会も増えた。
シムオンは勉強や魔法、趣味の料理と忙しいらしく、フィエーヤもそろそろ学院の入学試験対策で時間の取れないことが多くなってきていた。
ロシュもそうであるはずだったが、騎士団長が指導役の鍛錬には参加していたし、母が個人的に呼んでなぜか僕も参加させられてという機会が多くなった。
母はロシュを気に入ったらしく刺繍や手芸全般についても相談に乗っている。僕は横でそれを聞いているだけだが楽しそうに話すロシュを見るのは悪くなかった。
『月の神の神子とはどうなっている』
王都にこないんだ。会う理由もない。
『役に立たないな。あの赤いのが大切なのか』
うるさい。何のことだ。
『まあいい。短い時間を謳歌すればいい』
夢を見た。
大きくなったノクスとセイアッドに似た二人に太陽の神が理不尽な要求をする夢だ。
どうしてそんなことが言えるのだろう。
神子だって? そんな役目はいらない。
二人を引き裂くなんてしたくない。
どうしたらいいのかわからない。
朝起きると、頬が濡れていた。
夢はよく覚えていなかった。
王家の管理する森に母とロシュと来ていた。ピクニックに行くと母が言い出したからだ。お気に入りのロシュを誘ったついでだと、母は言った。
その森は社交シーズンに狩猟大会が行われる森で、今はオフシーズンだった。
もう秋になり風が冷たく感じ始める時期だ。
そこは花が咲き乱れる場所で、少し高くなった丘の木陰に敷物を敷いて持ってきた軽食を広げた。もちろん護衛も侍女もいる。
日傘を差し出している侍女や、お茶を淹れてくれる侍女に感謝しつつ、景色と軽食を楽しんだ。
ロシュが花を見に行って離れた時、母が私に聞いた。
「彼を婚約者候補にと陛下と話しているの。貴方はどう? 第二の性が現れるまで候補でしかないのだけれど優しい良い子であなたと馬も合う。彼がオメガになったのなら良縁じゃないかしら?」
「婚約者候補」
「あら、あなたはあの子が気に入っていると思っていたけれど違うの?」
「僕は友人と思っていて……」
「アルファなら側近候補だけれど、彼はオメガの可能性が濃厚なの。側近は難しいと思うのよ。もちろん、運命の番が他にいるなら仕方のないことだけれど、考えてみて」
母に突き付けられたもう子供でいられない現実。
ロシュが手を振っている。母が気付いて行ってあげなさいと僕の背を押した。
僕は立ち上がって彼の傍に行った。
「花冠を作ったんだ」
彼の手には花を編んだ花冠があった。それを頭にのせてくれる。
「こういうのはロシュが似合うんじゃないか?」
のせてくれた花冠をロシュの頭にのせる。出会った時は短かった髪がもう背の中ほどまで伸びていた。風にさらりと彼の赤い髪が舞う。
「え? そうかな」
「うん。似合うよ」
そういうとはにかんだ笑みを見せた。心臓がきゅっとなる。
花の香りが立ち込めるなかで、ロシュから感じる甘い香りが僕の内の何かを揺さぶった。
冬を迎える頃、事件が起こった。
教会に突然、星と花の神子が現れたと教会からの連絡で王宮は大騒ぎになった。
父と母は青い顔でその知らせを聞いた。
私と兄はそれが何を意味するか、分かってはいなかった。
フィエーヤが僕だけ行ってない! と悲壮感を漂わせていたのでシムオンが連れて行くことになった。
シムオンは僕とロシュが二人で行ったことに軽く驚いたようだったが何も言わなかった。
ノクスとセイアッドは貴族院に通う年齢になるまで王都には来ないらしい。
冒険者に登録し日々クエストに邁進していると手紙には書いてあった。
ロシュもそのことを手紙で知っていたらしく、残念がっていた。
定期的に4人でお茶会を開いていたが、ロシュと二人という機会も増えた。
シムオンは勉強や魔法、趣味の料理と忙しいらしく、フィエーヤもそろそろ学院の入学試験対策で時間の取れないことが多くなってきていた。
ロシュもそうであるはずだったが、騎士団長が指導役の鍛錬には参加していたし、母が個人的に呼んでなぜか僕も参加させられてという機会が多くなった。
母はロシュを気に入ったらしく刺繍や手芸全般についても相談に乗っている。僕は横でそれを聞いているだけだが楽しそうに話すロシュを見るのは悪くなかった。
『月の神の神子とはどうなっている』
王都にこないんだ。会う理由もない。
『役に立たないな。あの赤いのが大切なのか』
うるさい。何のことだ。
『まあいい。短い時間を謳歌すればいい』
夢を見た。
大きくなったノクスとセイアッドに似た二人に太陽の神が理不尽な要求をする夢だ。
どうしてそんなことが言えるのだろう。
神子だって? そんな役目はいらない。
二人を引き裂くなんてしたくない。
どうしたらいいのかわからない。
朝起きると、頬が濡れていた。
夢はよく覚えていなかった。
王家の管理する森に母とロシュと来ていた。ピクニックに行くと母が言い出したからだ。お気に入りのロシュを誘ったついでだと、母は言った。
その森は社交シーズンに狩猟大会が行われる森で、今はオフシーズンだった。
もう秋になり風が冷たく感じ始める時期だ。
そこは花が咲き乱れる場所で、少し高くなった丘の木陰に敷物を敷いて持ってきた軽食を広げた。もちろん護衛も侍女もいる。
日傘を差し出している侍女や、お茶を淹れてくれる侍女に感謝しつつ、景色と軽食を楽しんだ。
ロシュが花を見に行って離れた時、母が私に聞いた。
「彼を婚約者候補にと陛下と話しているの。貴方はどう? 第二の性が現れるまで候補でしかないのだけれど優しい良い子であなたと馬も合う。彼がオメガになったのなら良縁じゃないかしら?」
「婚約者候補」
「あら、あなたはあの子が気に入っていると思っていたけれど違うの?」
「僕は友人と思っていて……」
「アルファなら側近候補だけれど、彼はオメガの可能性が濃厚なの。側近は難しいと思うのよ。もちろん、運命の番が他にいるなら仕方のないことだけれど、考えてみて」
母に突き付けられたもう子供でいられない現実。
ロシュが手を振っている。母が気付いて行ってあげなさいと僕の背を押した。
僕は立ち上がって彼の傍に行った。
「花冠を作ったんだ」
彼の手には花を編んだ花冠があった。それを頭にのせてくれる。
「こういうのはロシュが似合うんじゃないか?」
のせてくれた花冠をロシュの頭にのせる。出会った時は短かった髪がもう背の中ほどまで伸びていた。風にさらりと彼の赤い髪が舞う。
「え? そうかな」
「うん。似合うよ」
そういうとはにかんだ笑みを見せた。心臓がきゅっとなる。
花の香りが立ち込めるなかで、ロシュから感じる甘い香りが僕の内の何かを揺さぶった。
冬を迎える頃、事件が起こった。
教会に突然、星と花の神子が現れたと教会からの連絡で王宮は大騒ぎになった。
父と母は青い顔でその知らせを聞いた。
私と兄はそれが何を意味するか、分かってはいなかった。
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