アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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後発組集結

第27話 迷宮攻略②

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 そこはかとなく漂う緊張感が、俺の背中に非難の視線を突き立てる。

『何で王女がいるんすか、ラビちゃん先輩』
『自分だけでも魔物から命を守れないかもなのに王女までってひどすぎる!!鬼!』
『王女様……綺麗だあ』
『そうなんだ。へー、そうなんだ。』
『乙女の純情を弄ぶんだあ。』

 ……俺、心まで”読むリーディング”こと出来たっけな?

「よっしゃ、いくぞ!! 今日は第5層越えだ!」
 思わず迷宮の入口で大声になった。入口警護のお兄さん達が目を見開いて俺を凝視した。
 すみません。なんとなくテンションで、いろいろなこと誤魔化したいと思って。ほんとすみません。
 そこ、にやにやするのやめろよ。ほんとに。カディスめ!!

 アーリアは冒険者として連れまわしたからある程度はレベルが上がっている。
 護身としての短剣の扱い、弓術への適性、支援と回復魔法向きの魔法属性。
 後方で活きるタイプだ。

 今回の攻略は前半組。斥候をえりりんが行い、前衛をしんちゃんとハジメ、後衛をガッキ―、玲奈という布陣だ。ここに中衛として俺とアーリアが入った。
 カディスは全体を見てどうしてもという時に支援に入る。

 第1~第4層までは大体パターンは掴んでいる。第5層は所謂ボス部屋のはずだ。
 第5層のボスを倒せば転送陣に登録でき、次からは第6層から攻略できる。

 地図を確認し最短距離で下りることにした。アーリアにも戦闘経験をさせるため、攻撃の順番を変える。
 基本戦術は、索敵で見つけた魔物をまず、アーリアの弓で射抜く。次に支援魔法を前衛の二人に。後衛から援護の魔法を放って前衛がヘイトを集めつつ、殲滅できそうなら前衛が、無理そうなら後衛の攻撃魔法を援護として併用して倒す。
 緊急事態は俺とカディスが対応する。

 そうやって無事第4層まで下りてきた。第4層にある安全地帯で休憩をする。
 携帯食を口にして、水を飲んで、次の層への準備をする。

「アキ……ラビ様。皆さんお強くなってるようですね。」
 俺の隣に腰をおろして、そう、アーリアが言う。俺は頷いて、アーリアを見た。

「そうだな。でも俺を含めてまだまだだと思う。“邪王”って、こんなものじゃないんだろう?」
 少し考えるようにして、慎重に言葉を選んでるように答えた。
「文献でしか、伝わっていませんので、実際はわからないのですが、現れた時期によって強さは変わっているようです。その時の勇者様の強さとかにも関係があるとは思うのですが……文献ですので正確性というところが不足していますし……」
 今度文献を見せてもらおう。何か参考になるかもしれない。
「とにかく、この迷宮を踏破出来るくらいは強くならないと、話にならないとは思っているよ。」
 アーリアは少し複雑な顔をした。

「お前、遠巻きにされてるぞ。……それと女心をわかった方がいいぞ。その内背中から刺されるかもなあ。」
 横からカディスの声が聞こえた。
 遠巻き? そう言えば、ちょっと離れた所から盗み見ているような感じだな。……ってどうして俺が刺されるんだ? 意味がわからん。

「おい、なんでそんな離れたところにいるんだ?」
 じろり、と強い視線が返ってくる。
「普通はナチュラルに王女様と話しませんよ?」
 しんちゃんがじと目で言ってくる。
「そうなのか? アーリア様。」
 思わず、隣にいるアーリアに聞いた。
「私は”彷徨い人”の皆さまには、普通に接していただきたいです。」
 にっこりと彼らに向かって微笑んだアーリアはとても綺麗で、カリスマを持った王族なんだと、改めて感じた俺だった。

 とたんに5人が寄ってくる。
 俺はそっとそばを離れて、囲まれたアーリアを離れたところで見守った。
 囲まれたアーリアは質問責めにあって、困った顔をしていたが嬉しそうだった。
 休憩時間が終わるまで、俺はそのままにしておいた。
 いろいろと抱える物が多いアーリアに、少しでも息抜きになればと思った。

 第5層のボス部屋の扉の前に、俺達はやってきた。
 このフロアは魔物のエンカウントはなく、どうもボスがいる部屋のみのようだった。
 階段からまっすぐにこの扉まで来た袋小路で、下に抜けるにはここを通るしかないようだ。

「よし、用意はいいか? いくぞ?」
 とりあえず、初めてのボス戦だ。俺が先頭に立った。扉に触れると左右に勝手に開いて行った。
 空気がぴんと張り詰めているように思えた。

 何もない空間の中を見回すと後方に扉があった。全員が部屋に入ると扉が勝手に閉まった。
 ゲームに出てくるようなボス部屋だよ。
 こういうところはファンタジーだなあと思う。だから、“日本人”は危機感が緩むところがあると思う。
 気を引き締めて、ボスに備える。

 Dランクの魔狼が中央に出現した。周りにそれを護るようにEランクの魔物が出現した。10~15匹はいる。
 揃ったところでこちらに突進してくる。俺は剣を抜いた。

「弓、魔法放て! 前衛は盾を前に!」
 弓はアーリアと玲奈だ。魔法はガッキ―とえりりん。

 こちらに向かってきた取り巻きの集団に弓矢が当たっていく。
 ガッキ―は土魔法で”ストーンバレット”を、えりりんは水魔法の”水の刃”を幾重にも展開、密集している状態が幸いして、命中率がいい。
 3割を削った。前衛は盾を前に出しながら、少しづつ接近している。
 後衛も間があかないよう、距離を詰めながらボスに接近する。

 取り巻きが半分を切ったところで、魔狼が咆哮を発した。
 威圧が含まれていて、俺とカディスを除いて全員が一瞬硬直した。
 その隙をついて攻撃してくる。
 俺は風の盾を、前面に張ってそれを防いだ。

 ボスがいらついたように、俺を眼で射抜く。
 これでヘイトが溜まるのかよ。守りの魔法でか!

 しかし、盾で防いだ間に全員の硬直が解けて攻撃に復帰した。
 確実に取り巻きを減らしていく。
 魔狼が攻撃的になってくる。咆哮を何度か発してくる。
 俺はその度に風の盾を発動し、皆を守った。

「ボスには全員でかかって仕留めろ。行け!」
 取り巻きがいなくなったところで、ボスを仕留めるように発破をかけた。
 このレベルで倒せないと後々響くからだ。

 アーリアは前衛に、身体強化の支援魔法をかけて前衛の守りを固めていた。
 玲奈は回復魔法を、傷ついたものに掛けていた。
 えりりんは闇魔法で視界を奪っていた。
 それぞれが、自分の判断で動いていた。
 俺は、そこからは見ていただけになった。
 最後に魔狼の断末魔が聞こえ、ハジメが喉を掻き切っていた。

 ドンと倒れ込んだ音が聞こえ、魔石と毛皮を残して、魔狼は部屋に食われていった。
 奥の扉と入口の扉が開いた。第5層を攻略したのだった。

 魔石と毛皮を持って転移陣で入口に戻った。もう日が暮れかかり、門まで身体強化で走り抜けた。
 皆もう走ることには、疑問を持っていないようだった。
 全員危なげなく戻ってくることができた。
 アーリアはほっとした顔をしていた。

「無茶はしてないだろ?」
 アーリアはくすっと笑った。
「今回は、ですね。」
 信頼を勝ち取るのは難しいらしい。まあ、仕方ないけどなあ。
 それからはしばらくアーリアは公務を忙しくこなし、訓練への参加はなかった。
 迷宮の攻略は第7層へと移り、1フロアの広さも魔物の強さも増加していた。

 そうしている間に、バーダット魔法学院へアーリアと共に向かう日を迎えたのだった。
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