アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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トーナメント

第29話 タツト・タカハ・レングラント

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 開始の合図とともに二人は距離をとる。
 トラムは詠唱を開始。タツト君は、無詠唱でいけるだろうと思った。トラムの身体の周りの魔力がうねる。
 かなり魔力を使う魔法のようだ。

 タツト君は何個か、魔法をストックしている様子がある。俺と一緒かもしれない。
 無詠唱で頭の中に魔法を用意しておける。発動にはキーを使えばいい。

 マルティナがよく視ろ・・といったので、俺は“情報解析”と“神眼”を使っている。
 トラムは土魔法と水魔法の混合魔法“泥沼化”を発動した。タツトの足元が沈み込んだ。
 
 機動力を奪った隙に攻撃するつもりなのだろう。更に追い打ちで“石礫ストーンバレット”を放った。
 相手を近寄らせず、自分の得意な間合いで戦おうとしているということか。

「タツト君は近接戦闘が得意な子なのよ。体術にすぐれているの。彼らを見てると反対の印象を受けるけれど。でも、タツト君は効果的に魔法を使うのが得意なの。氷の騎士に鍛えられているから。」
 マルティナが解説をしてくれている。アーリアは納得したように頷く。

 何故なら、今、そのタツト君は泥沼を“乾燥”させてしまった。
 
 え? 相手の魔法の事象に改変してのける? いや、今のは魔法の事象ではなく、物理の事象と捉えて、水魔法で対応したぞ?
 あれは、彼のオリジナルだ。魔法陣における書き込みが独特。
 そして反射が速い。

 動けると一気に相手の懐へ飛び込む。
 相手は近寄らせまいとして水魔法、“水刃ウォーターカッター”を放った。対抗する魔法はなんと“火の玉ファイヤーボール”だった。しかもぶち当てて相殺、ではなく水蒸気の発生。
 一瞬トラムの目線がタツト君から離れる。

 その隙に、彼の姿が消える。
 そう、消えたのだ、文字通りに。
 きっとトラムには彼は見えなかった。素早く動いたか上に飛んだ、とでも思ったんだろう。
 俺の眼は驚くものを、とらえていた。
 そう、俺の分析結果に出た、“不可視化カメレオン”という魔法。カディスが使う“ハイディング”とはまた違う。気配遮断のスキルも併用しているため、いまトラムは相手を見失っている。
 そして首筋に振りおろされる手刀。トラムは気絶して、勝者はタツト君だ。
 始まってから15分。
 その15分の戦闘の濃い内容に観客は沸いた。

 これはレベルが違いすぎる。魔力量もどのくらいあるのかっていうレベルだ。
 勇者の称号補正、加護の成長補正。
 しかも、あれは相当鍛えている。
 あっけなく倒したように見えるが、使われた魔法の凄さは一体何人が気づいているか。

 あの“不可視化カメレオン”、諜報部に使わせてもらってもいいかな。いいよね。俺絶対使いたい。

「素晴らしい試合でした。ところで、氷の騎士ってどなたなのです?」
 さすが、アーリア。それは俺も聞きたかった。でも護衛が勝手に話しかけられないのが痛い。

「フリネリアの弟さんです。“ ウォルフォード・アクア・レングラント”今期は3学年ね。明後日のトーナメントに出場します。氷の魔法を得意としているので、そういう異名が付いている、のではないらしいですけど。」
 きょとんとした顔でアーリアが首を傾げる。

「彼はすごくもてますの。あらゆる告白を振り切ってついた異名なんですって。もう、目が冷たいらしくて。」
 くすくすと笑うマルティナは、本当にいい笑顔だった。これ、そのウォルフォードさん、かなり弄られてそう。
「でも今はタツト君の面倒を見ていてそれどころじゃないらしいですけどね。」
 なるほど。弟子ってことか。その氷の騎士の戦闘スタイルに似ているということね。
 第2試合は土属性を上手く使ったマーク・ラシッドの勝利だった。彼はタツト君とよく戦闘訓練をしているらしい。彼は貴族ではなく、大商人の息子なんだとか。

 お昼を挟んで15時から準決勝。
 俺は護衛や側近に、食事が用意されている部屋で食べた。一応マルティナが付いてくれているから、大丈夫としよう。索敵は常にしているが、この施設は魔法阻害の術があるらしく、範囲が限定される。なのでさっと食べてアーリアの後ろに着く。

 アーリアは楽しそうだ。マルティナは話術が巧みだから話しやすいんだろう。
 ゆっくり食べて少し控え室で休ませた。
「あの、タツト様という方、“彷徨い人”なのではないのでしょうか?」
 アーリアは迷った様子で俺に聞く。ごめんね。知っているけど、レングラント家が隠したいみたいだから俺は言えない。

「レングラント、って名字だから違うと思うけど。見かけだけ見たら俺の故郷の人間に見えるけどね。」
 アーリアが考え込む。
「まあ、気にしないで見ていればいいんじゃないのかな?」
 ぽんぽんとあやすように、頭を軽く叩いたら、顔が赤くなった。
 なんだか微妙な空気になって俺はさっさと手を離したのだった。やばい。あれからお互いちょっと意識しているんだよな。

 準決勝、第一競技場は
 タツト・タカハ・レングラントVSダニー

 第二競技場は
 マーク・ラシッドVSアデイラ

 これからタツト・タカハ・レングラントVSダニーの試合が始まる。
 名前をコールされて二人が出てくる。

 ダニーは魔法使いらしい恰好だった。
 灰色の髪に青い目のやや細めの小柄な体で、感じる魔力量は、タツト君ほどではないが多い方に感じる。
 髪が長めで、前髪が目を隠している。

 審判の開始の声が上がる。

「闇の虜となれ、闇の檻ダークゾーン

 詠唱が短く唱えられた。闇属性の魔法だ。
 タツト君の周囲が闇で覆われていく。ゲームでよくある“暗闇”に効果は似ている。

 闇で作った真四角の箱でタツト君を包み込んだ。さて、どうするんだろう?
 闇魔法の対抗手段は光魔法だが、どうも違うらしい。

 生活魔法の“灯り”(彼の場合は“光の球ライト”)を使った。その後に、使われたのが対抗魔法とも言える彼のオリジナル魔法。
消えろスイッチオフ
 魔素をかき消し、魔法の構成を消滅させた。
 使いどころを考えると恐ろしい魔法だ。
 ダニーは彼の背後に回っていた。彼は風の盾を出して、反射的に飛び退いた。

 会話が聞こえる。

「まさか、破られるとは思わなかったよ。光魔法を使えたの」

 ダニーも一歩距離を取る。魔力を練っている様子だ。小さく詠唱が聞こえる。
「まさか、生活魔法だよ。灯りをともすだろ?それ。」
 タツト君があたりまえって、ドヤ顔をして言い放った。

 ぽかんとした顔をダニーはした。遠目だけど、俺には”神眼”があるので距離はお構いなしだ。

「そんなことで破られるとは思わなかった。発想がおかしい。」
 あ、俺もそう思うよ。
「とりあえず、“火の玉ファイヤーボール”!」
 とりあえずはないんじゃないかと突っ込みたかったが遠すぎる。

「水の盾」
 厚く強固な防護壁が展開された。

 その表面をなぞるように当たった炎が燃え上がる。そう。火魔法というよりは炎、だ。
「いつも思ってたんだけれど、それ、“火の玉ファイヤーボール”じゃないと思うよ。」
 口ぶりからすると、クラスメイトなのだろうか。炎は水の壁を越えられず、ダニーは防御に成功する。

「捕らえよ、闇の拘束、“闇の鎖ダークチェイン”」
 詠唱の終わりとともにタツト君の足元から黒い鎖が伸びてきて四肢に絡み付こうとする。
 タツト君は一瞬で判断して飛び退く。彼の口元が“砕けろ”と動いた。
 瞬間、黒い鎖は四散した。

「ちっ」
 と舌打ちが聞こえた。

 ダニーからタツト君が距離をとって、自分の身体の周りに風の盾を展開した。“囲め”と呟くとダニーの周囲を炎の壁で囲った。
 本当に無詠唱だ。俺もできるが、この早さは常に何手も先を考えて、ストックしている中から選んでいる感じなのか?
 徐々にその範囲を狭めて行き、近づく炎の包囲網に照らされた、ダニーの顔に焦りが浮かぶ。
 さらに風の竜巻を加えて、炎の竜巻に変えた。混合魔法か? 恐ろしいな。
 炎の色が赤から青へと変わっていき、温度が変化したのがわかった。

「これで、ダニー君は防御一辺倒になってしまいましたね。相当な魔力を消費していますから。」
 確かに。あれだけ魔力使って維持してるって、かなり優秀だ。俺もちょっと難しいかもしれないな。

 ジリジリとダニーに迫る炎を、ダニーは水の壁を押し広げて相殺するつもりのようだ。
 多分、水の壁があっても温度が届いているんだろう。その間にタツト君はダニーの背後に回り込んだ。
 一気に魔力量が上がった。
 水の盾が炎の竜巻を消し去る。ダニーが肩で息をしている。

風の礫ウィンドバレット
 背後からの追撃を予想していたダニーは振りかえってタツト君を正面で捉える。しかしタツト君は魔法を構わず撃ち放った。それと同時にダッシュして、ダニーに魔法が届くより早く肉迫する。腰に下げた短剣を手に持つのが見えた。
 ダニーが杖を構えてタツト君のナイフを防御する。風の礫はどうやらキャンセルしたようだ。
 カン、と杖とナイフがぶつかり合う音が連続で響く。彼らは打ち合いながらお互い相手の隙を窺っている。

「ダニー君は近接戦闘が苦手なんですけど、よく鍛えたようですわ。タツト君の近接戦闘はこの学年ではTOPクラスなのですから。」
 打ち合いが続くだけでもかなり努力したってことなんだろう。

 何度目かの打ち合いのあと、タツト君がナイフを当てて引かずに、杖にそって受け流すようにナイフを滑らせた。一瞬だけダニーの体勢が乱れた。
 その隙を見逃さず、ナイフを杖にひっかけるようにして、タツト君は自分側にダニーをひっぱり、掴むと投げた。

 あれ? それは柔道かなんかの技じゃないか?

 止めとばかりにあおむけに倒れたダニーの上にナイフをかざす。

「それまで!」

 タツト君の勝利がコールされた。
 その直後、健闘を称えあうような会話に、俺は青春だね、とおっさんのようなことを考えたのだった。
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