アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

魔の森①

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 心に何かが足りないと思っていても日々は過ぎる。

『それはお主の好きにしていい』
「もらっとく! サンキュー!」
 守護龍は基本、洞窟の奥に巣を作っていてそこで休んでいる。
 龍も生きているから、新陳代謝とかもある。脱皮をするわけではなく鱗が古くなると抜け落ちて新しいものが生えるのだ。
 むろん掃除はしない。さすがに俺には我慢できないので浄化の魔法を洞窟に使う。そしてごみを集めて捨てるわけだが、抜け落ちた鱗が大量に出てくる。
 古代龍の鱗など、レアもレアな素材だ。
 最初に浄化して洞窟を綺麗にした時にもらっていいと言われたので、拾い放題だ。
 たまにミハーラやボルドールに流して生活費にすることもある。
 今回も久しぶりに掃除をしたら、大漁だった。
 防具に使ったり、剣の素材にしてもいい。いいものが作れるだろう。

 焦燥感が募る毎日の中、俺はアイテムボックスやテントなどの整理をしていた。
 火属性の魔石を見ながら思う。
「もう一度、ダンジョンへ潜ろうか」

 そして夢を見た。

『ヒュー! 助けて!』
 ああ、愛しい人の声がする。助けてなんて、普通じゃない。俺の宝物に何が起きた?
『どうしたんだ!? メルト!』
 思わず近寄って抱きしめる。震える体に不安が胸を締め付ける。
『俺、俺、死刑になるかもしれない。』
『なんだって!?』
 死刑? 俺の愛しいメルトが死刑になるようなこと、するわけがない。
 陥れたのは誰だ?
『貴族を斬った。無理やり、無理やり……』
 無理やり? まさか? 信じられない思いで、メルトを更に抱きしめた。
『助けてっヒュー』
 その言葉を最後に、メルトの姿が掻き消えた。あとに残ったのは金色の光。
 ああ、でも、目が覚めたら忘れてしまう。
『メルト―――!』
 細い糸のつながりが切れてしまったようだった。

「ーーー!!!」
 起きたらすごい汗だった。居ても立っても居られない気分なのに、どうしていいか、わからない。
「くそっ」
 焦燥感に襲われて、でもどうしようもなくて。
 結局何もできずにいる自分を嫌悪した。

 帝国は大人しくしている。ミハーラによると突如、内政に力を入れ始めたらしい。軍の再編成、人材の育成、国力の充実。しかし、帝王の残虐さは依然として変わっていないと聞く。
 俺は、テントの中を改造し、過ごしやすくした。特にベッドはこだわって、横幅2メートル50センチ、縦2メートル20センチ。高反発のマットに羽毛の上掛け。敷布はダンジョン産の超高級リネン。手触り抜群、吸湿性に優れていて汚れにも強い。
 お風呂も少し広くした。シャンプーとコンディショナー、ボディーソープは柑橘系にした。快適なテントだ。みんなに無駄に高級すぎると言われそうだけど。

 このまま何も思い出せないなら、やっぱりダンジョンへ潜るのもいいかもしれない。
 何かがきっかけで、記憶が戻るかもしれない。

 そんな時、龍の様子がおかしくなった。
 なんだか龍がそわそわしている。発情期だろうか? いや、龍は性別はないはずだし。

『いい天気だ。空の散歩に行こうではないか?』

 あまりな誘い文句に驚いた。まあ、でも龍が誘うなどめったにないことだから頷いた。
 狩りもするかもしれないと言われてテントをアイテムボックスにしまい、冒険者仕様に服装を買えた。

 龍の背に乗り、吹く風にマントが翻る。ずいぶんと飛んだ。
 アルデリアの国境近くまですぐだ。
 てっきり魔の森の奥の方で魔物を狩るかと思っていたが。
「どこまで行くんだ? ここまでくると、もうアルデリアを出てしまうんじゃ……」
 思わず問いかけた。
『もういい加減引きこもるのはやめて、新たな番を見つけた方がいいぞ』
「はい?」
『冒険者でも何でもして、自分で宿をとるんだな。しばらく私の塒は使用禁止だ』
 そう言われて落っことされた。
 急なことに驚いてしばらく落下に任せてしまった。
 ヤバい、このまま落ちたらいくらなんでも死ぬ。
 人間、慌てると機転が利かなくなるもんだなあ、と後に俺は思った。
 転移とか、飛行魔法とか使えたはずなのに、この時の俺は自分の体の下に風魔法の障壁を張って、落下の衝撃を殺すくらいしか思いつかなかった。

「―――― ……わ、あああああ―――――!」

 蔽い茂る森の中へ突っ込んで、枝を折りながら落下した。一応、障壁のおかげで怪我はなかった。
「うわー信じらんない。ほんとに落としてくれて。僕じゃなかったら死んでるっての」
 むくりと上半身を起こすと、目の前にあっけに取られた表情で立ち尽くす、青年がいた。
 金の短い髪、緑色の澄んだ目、右側の目の端の辺りに剣の傷があった。顔立ちは意外と柔和で目鼻立ちは整っている。
 身長は2mほど。筋肉質で、よく鍛えられている印象だ。腰に剣を佩いてることから剣士かもしれない。旅人風の恰好で、腰と背にマジックバッグを持っていた。

 心臓が跳ねた。
『―――だ!』

 一目惚れというのを体感したのは初めてだった。
 内心の動揺を押し隠して、俺は手をあげた。
「あれ? こんにちは」
 ああ、びっくりしている。そうだよな。普通人は空から降ったりはしない。
 俺はとりあえず立ち上がって埃を払う。髪に違和感を感じて手をやると、葉っぱだった。
 龍め。ついイラっとしてしまってその葉っぱを弄んだ。

「つかぬことを聞くけど、ここはどこなのかな?」
「はあ?」
「いやー迷っちゃって? 多分、魔の森に近いところだとは思うけど、確かなのかどうか心配になって。街はどっちか見えるかなって木に登ったけど、落ちちゃった!」
 苦しい言い訳だなあ。オイ。と自分で突っ込みながらもそう嘯いた。乾いた笑いを漏らしたが、相手は肩を竦めるだけだった。

「そうか。だが悪い。俺も今迷い中だ」
「は?」
 思わず出た声とともに、しばし、お互いに見つめあってしまった。
 え、迷子なのか? そういや、まるっと森だな。道なんかないぞ。と周りを見渡して思った。

 マップを展開したがグレーな領域だった。龍に運ばれてきた方が西だから西を目指せばアルデリアの一番端の街、デッザ辺りに出るだろう。
 自分だけなら転移で龍の塒に戻れるが、絶賛迷子中の彼をおいていくわけにはいくまい。
 一目惚れの相手だし。
『―――だ。思い出せ』
 心の水底にさざ波が立つように、心が騒めいた。

「じゃあ、森を抜けて街を出るまで、一緒に行動しようか?」

 相手は心配そうに俺を見て頷いた。
 あれ? これは俺のこと、子ども扱いって事か? 仕方ないか。今の俺は15歳くらいの外見だからな。
 二人で獣道を歩き出す。龍の影響で、どうやらあたりに魔物や動物の気配はない。しばらくすれば戻ってくるだろうが、しばらくは安全に進めるだろう。
 しばらくして野営の出来そうな場所に出た。木があまり生えてない空き地のようなところだ。
 そう言えば自己紹介がまだだったな。

「えっと、僕はヒュー。君は? とりあえず夕飯作ろうと思うけど、何か好き嫌いはある?」
「ああ、俺は、メルトだ。よろしく。好き嫌いはないが……」
 メルト! なんだかすごくいい響きの名前だ。

『メルトだ! やっぱりメルト!』

 心が浮き立つ。何だろう。こんなこと、初めてだ。
 ようし、張り切って夕飯を作ろう。胃袋を掴んだものはすべてを制す!
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