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真実を知ろうとは思えなかった

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「こんなつもりではなかったの!」

王妃は監禁された貴族牢で声を張り上げていた。
公爵を妹が愛していた。
しかし、公爵が選んだのは夫の従姉。
でも公爵の第二子を出産後に息を引き取った。
王妃は喜んで妹を公爵家に送り込んだ。

ちょうど年の近い娘を産んだばかりの妹は、父親がわからない娘を産んだという理由で実家から追い出された。
妻を亡くし、妻にそっくりの髪と瞳を持つ娘をみるのが辛い公爵は家に帰らなくなった。
その隙に妹は娘を連れて潜り込んだ。
娘は公爵と同じ金髪、瞳は母親と同じ赤色。
使用人たちは「公爵と私の子です」という王妃の妹の言葉ウソを信じた。
『母親殺しの子』なんかより大切にされた。

『母親が生命をかけて産んだ子』だという認識は誰にもなかった。





小さな兄がいた。
母の出産を前に、父方の祖父母の住む領地に預けられていた彼が帰ったとき、母はすでになかった。
新しい母、そして生まれたという妹の存在を信じていた。
仕事で忙しい父は帰ってこないものの、兄は新しい母とと仲良く過ごし、12歳に学園へと入学した。
騎士になるつもりで祖父に手解きを受けてきた兄は、妹以外に小さな女の子が邸内にいることを知っていた。
その子は、朧げな記憶となっている亡き母を思いださせる髪の色だった。
しかし使用人たちは「ゴミ」「生ゴミ生きたゴミ」と呼んでいた。
薄汚れたその子を、兄は妹だと思いもしないで……見捨てた。

のちに妹が王太子妃候補に選ばれたと知った。

父の選んだ後妻と一緒に暮らしてきた妹以外に、もうひとりという存在がいることを知った。
2人や執事おとなたちの言葉を信じてきた彼は、「ゴミ」と呼ばれた物体が妹だという事実を受け入れられず。
存在自体をも認めることが出来ず。
真実から目を背け、現実から逃避し続けた。
学園に入った年から一度も帰らなかった。
卒業と共に騎士団に入り、専用宿舎に入ってそのまま戻らなかった。

正式に、王太子妃として妹が選ばれたと聞き遠目から見ることができた。
その年に学園に入ったという妹は、あのとき『ゴミ』と呼ばれていた方だった。

王城で偶然父と顔を合わせても会話などしたことはない。
ただ、一度だけ父親に尋ねた。
「妹は父か母に似てるのか」と。
「母親に瓜二つだ」と返ってきた。
それだけだった。

もう一人の妹のことを詳しく聞こうと思ったが機会はなかった。
いや、真実を知ろうとは思えなかった。

そして、妹が毒をのんだと、呼び出された部屋で…………眠る妹と、対面した。
揺れる馬車が妹ののんだ毒を短時間で全身にいき渡らせたのだ。


顔の横に畳まれて置かれていたのは、座席に残されていたハンカチだということを……そのときは誰も知らなかった。
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