学園裁判

アーエル

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第一章

自由に青春を謳歌しなさい。その経験が未来の自分たちを活かしていくわ

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学園裁判から早ひと月。
ここは後宮の一角。
今日も商品の新作見本を手にマーメリアは営業に来ていた。

「まあ! このハンドクリーム、サラッとしてるわぁ」
「あら、いい香り。これは桃かしら?」
「そちらのハンドクリームは夜会で手袋をされたときに蒸れないよう出来ております。そちらの保湿クリームは肘や踵にお使いください。そちらのグロスにも保湿剤が混ぜております。カサカサな唇が潤いのある唇に生まれ変わります」

営業が終わればお茶会に突入だ。
このお茶会もマーメリアの実家が取り寄せた新作茶葉の試飲会でもある。
この茶葉にあわせたお茶請けの試食会も兼ねている。

後宮には男性従業員は入れない。
だからこそ、マーメリアが後宮に足繁く営業に来ていたのだ。

「それがどうして後宮で王妃教育をしているなんて思い込んだのかしら?」
「ええ、公爵も『マーメリアが後宮に来ている』という話をしただけですってね」
「そうね。私が後宮にいるって公爵は知っているから、姪のマーメリアを見かけたことはないかって娘に聞かれて『後宮に行っている』って言っただけですって?」

全員の視線がマーメリアに集中する。
マーメリアは申し訳なさそうに目線を伏せた。

「公爵は我が家へ謝罪に来ました。ですが学園裁判を開いてしまったこともそうですが、多数の見目麗しい男性たちの弱みを掴んで侍らせていたことをお伝えして『悪辣すぎて許す気はありません。たとえ私が許したとしても被害者は私以外にもおります。その方々全員に謝罪して許されると思われますか? 亡くなられた御子息もいらっしゃられるのに?』と申し上げましたら、肩を落として帰られました」
「愚かよね……。フルール嬢だったのでしょう? オルスコット殿下の婚約者に内定していたのって」
「ええ、公爵家の令嬢として学園で勉学にいそしめば卒業と同時に婚約者となれたものを」

そう、家庭で習っていても学園に入ればランクが決まる。
授業を熱心に受けていても追いつかないこともある。
そのためにフォローをするための侍従侍女がついている。
中には通訳官もいる。
領地は領主たちが守り、彼らを監督する官吏もいる。
国王陛下も王妃陛下も礼儀作法やマナーは当然だが、それ以外に必要なのは人を惹きつける笑顔と話術、そしてダンスの上手さだ。
もちろん、実務も多くある。
だがそれは側近たちと話し合って決めることだ。
ただ内容を見て判を押せばいい仕事でもない。
中には内容を精査しないで判を押す国王もいるようだけど、この国ではそれはない。
複数の目で確認されてから決められる。

「実家は侯爵家ですが、直近で後宮に入った私がいる以上マーメリアは王太子妃候補から外れているはずよね」
「そうね。少なくとも三代は王妃・側妃のどちらにもなれないわ」
「それなのにフルール嬢は何を考えてマーメリアが王妃教育をしてるなんて信じたのかしら」
「父親に聞けばよかったのに……『マーメリアが後宮に出入りしているのは王妃教育を受けているからですか?』って。マーメリア本人に聞いてもよかったでしょう? 『なぜ後宮に出入りしているのですか?』って」
「思い込みであんな事件を起こすくらいなら、なぜ誰かに聞けなかったのでしょう」

それには心当たりがある。

「フルール嬢は学園では孤立していました。そのため女友達は1人もいませんでした」
「そりゃあ、弱みを握った男子学生を侍らせていたのですもの」
「公爵家なら弱みを握った女学生を取り巻きにすればよかったのにね」
「私が学生のときは上位貴族令嬢には必ず取り巻きがいて、派閥なんてあったのよ」
「だいたいは親同士の繋がりよね」

今も昔も特に変わらないようだ。
ただ、ここ最近は派閥という単語を聞いたことがない。
同学年でなければ争うことにはならないのだ。

「実は私のクラスにいる取り巻き候補にあたる女学生も……入学前から子息の取り巻きたちがいるということで必要以上に近付かなかったそうです。『不良物件から家族を守るのも私のつとめ』なんて言ってました」
「あらあら」
「それは賢い判断をしたわねえ」

此度のことで彼女たちは独立した女性として王城で働ける仕事を探していくらしい。

「あなたたちはまだ12歳や13歳なのよ。自由に青春を謳歌しなさい。その経験が未来の自分たちを活かしていくわ」
「はい、わかりました」

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