異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜

アーエル

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第六章

第69話

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時は戻って前日。
乙女の披露が終わった翌日の早朝。
最上階に唯一続く中央階段では騒動が起きていた。
さくらの部屋へ向かおうとする賓客たちとそれを食い止める『さくらの親衛隊』たちが揉めていたのだ。
賓客たちは「さくら様がお出ましになられないなら自分たちからご挨拶に」という傍迷惑で浅ましい考えを持っていた。
もちろん親衛隊は「こんな早朝から失礼だ!」と引き下がらず。
たとえ親衛隊を押し退けても、最上階には結界が張られていて誰も上がることが出来ない。

それでも『腕に自信』を持っている自意識過剰な数人が「結界を壊す」と鼻息が荒い。
昨日の『天花てんか』の際にシルエットとはいえさくらの姿(の一部)を見る事が出来た者たちが『さくらを神格化』させて自慢していたのだ。
そんな連中に「自分たちは『さくら様』とお会いして直接お話をした」と張り合いたい。周囲に自慢したい。
ただそれだけなのだ。



集まっている者の中にはセルヴァンの子供たちやドリトスの関係者、そしてヒナリの弟とその比翼もいる。

「皆さん!ここでいったい何を!」

騒ぎを聞いたジタンが慌てて駆けつけてきた。

「今すぐ結界から離れてください!」

ジタンの登場で「このチャンスを逃してたまるか!」と、一部の男たちが親衛隊と揉み合っている間に結界へと駆け寄った者たちがいた。
彼らは結界に手をかけて無理にでもじ開けようとしたのだ。
しかしそれは突然現れたハンドくんたちのハリセンが唸りをあげて、踊り場から階段の下へ虫のごとく叩き落とした。

それと時を同じくして、窓からヒナリとヨルクが飛び込んできた。


「お前ら!何してるんだ!」

ヨルクは一瞬で『何が起きていたのか』を正確に把握した。
ヨルクの怒りが同族であるヒナリの弟たちに向けられる。

「ロント!シリア!お前ら『神の結界』に手を出して許されると思ってるのか!一族が滅ぼされても良いのか!」

「いや・・・おれ達は何もしてない!」

「だったらなんで此処にいるのよ!」

「だって・・なあ」

ヒナリの怒りにロントは比翼のシリアに顔を向ける。
それに頷いたシリアが「本当だったら私達が『さくら様とお近付き』になれていたんですよ!」と騒ぎ出す。
彼女たちの頭の中では「私達が先に『さくら様』と会っていたら私達が『選ばれていた』はずだ!」ということらしい。
その内容にヨルクは呆れてものが言えなかった。


「私たちは『さくら様』がこの世界に来て3ヶ月もってからここへ来たのよ。ロントもシリアも。その3ヶ月間、一体どこで何をしていたの?」

私たちより先に会うことはいくらでも出来ていたはずでしょ?
そうヒナリに言われて、ゴニョゴニョというだけで何も言葉にして言い返せない2人。
ヨルクの放った『神の結界』という言葉に、結界を破ろうとしていた周囲の大人たちは青くなっている。

「シルバラートたちも一緒になって何してるんだよ。・・・こんなことセルヴァンが知ったらタダじゃ済まないぞ!」

セルヴァンの5人の子どもたちはヨルクの言葉に青褪めて周囲を見回す。

「セルヴァンなら来てねーよ。・・・『さくら様』が熱を出してるからドリトス様と一緒にそばについて看病してる」

「さくら様は!」

「さくら様はご無事なのか!」

ヨルクの言葉を耳にしてさくらを心配した大人たちが口々に騒ぐ。


その中で「自分がわざわざ時間をいて来てやったんだから早く会わせろ!」と言い出した男がいた。
騒ぎの間でも偉そうに周りを見下していた恰幅の良い男にヨルクはカチンときていた。


「『さくら様』に無理をさせれば更に寝込む」

「そんなこと『どうでもいい』。おい。そこのお前。さっさと『さくら様』とやらを此処ここに連れて来い!」


男は偉そうにヒナリを指さして命令する。
その瞬間、ハンドくんたちが何十発もその男に『ハリセン攻撃』を・・・『ハリセンで袋叩き』を放った。
男や取り巻きたちが魔法で抵抗しようとしたが、ハンドくんたちが繰り出す『集中砲火』のハリセンが魔法の詠唱を妨げる。
その様子はハンドくんにしては『異常』な光景だった。



白手袋をしているハンドくんからホワイトボードを見せられたジタンは、またたに真っ青になった。

「兵士の皆さん!その男を捕らえなさい!邪魔をするならその者たちも一緒に!」

ジタンの言葉にジタンの後ろに控えていた兵士たちの行動は素早かった。
ハンドくんたちが攻撃している男と妨害した者たちを、『捕縛』魔法の掛かったロープで引っ捕らえていく。
彼らは賓客として招かれているはずだが、ジタンは投獄を命じた。



ハンドくんたちは、捕らえられた男がまだ許せないのだろうか。
頭や背中、臀部などを叩き続けている。
男は完全に気絶スタンしているが、それでもハンドくんたちは許す気がないようだ。
引き摺られていく男から離れようとせず、ハリセン攻撃を止めない。
中にはハリセンではなく靴やスリッパで臀部を叩いているハンドくんたちもいる。

「ハンドくん。それは流石に『やり過ぎ』だろ・・・」

「ヨルク。後で話があります」

ヨルクの耳に『直接』届いたジタンの声に「分かった。あとで行く」と返事をする。
ジタンが『囁き』魔法で話しかけてきたのだ。
そのため近くにいたヒナリやロントたち、セルヴァンの子どもたちにも聞こえていなかった。



その場にいる者たちは、流石に誰も「さくら様に会わせろ」とは言わなくなった。
賓客として招待された国で投獄などされたら『母国の恥』だ。
それも投獄理由が『さくら様に無理矢理会おうとした』と知られたら『恥の上塗り』でしかない。
更に『神の結界』に触れて天罰を受けたりしたら、それこそ『一族の恥さらし』になってしまう。

そこまでのリスクを考えて、仲間と顔を見合わせている者たちもいた。




「・・・この騒ぎはいったい」

声のした方を見ると聖なる乙女たちが立っていた。

「何しに来たんだよ」

ヨルクが不機嫌オーラ全開で睨み付ける。

「あの・・・私たちはジタン様に昨日のお礼を伝えに来たのですが」

乙女たちが近くにいたから空気が少しでも浄化されて、残っている者たちが冷静を取り戻したのだろう。
乙女たちの登場で賓客たちの気持ちは落ち着いたようだが、このまま『何事もなく』すんなり解散するのは許されなかった。

ハンドくんたちがこの場に集まっていた人たちの後頭部をハリセンで一発ずつ叩いていったのだ。
さくら親衛隊も殴られていたし、『神の結界』に手を出そうとした者たちは数発殴られていた。

・・・その中にジタンもいた。

「なんで僕まで叩かれるんですか!」

「この騒動をひとりで止められなかったからだろ」

ヨルクの台詞に言葉を詰まらせるジタンだったが、【 一緒にいたから『つい』間違えた 】というハンドくんの『自白』に「『つい』って・・・間違えないで下さいよ・・・」と脱力してしゃがみこむ。


「はぁ・・・。とりあえずマジで『天罰』食らう前に解散しろよ」

行こうぜ、ヒナリ。
そう言ってヨルクはヒナリと共に窓から出ていった。
それを見送ったジタンも、乙女たちを連れて1階の応接室へと向かった。
ドリトスの旧友たちやセルヴァンの子どもたちは『見つかって大事おおごとになる』前にそそくさとその場から離れた。
その様子に気付いた、『神のいかり』に恐れをなしていたものの、「臆病者」と嘲笑われるのが怖くてその場を後に出来なかった者たちも、次々と帰っていく。

さくらに会いたいが、その前に『神の結界』があり手を出せば天罰を受けるのは必至だ。

それでも『もしかして』という淡い希望と期待をいだいて残っていた者たちには、ハンドくんたちが遠慮なく『フルスイング・ハリセン攻撃』をち込まれた。
しなったハリセンが側頭部経由で顔面まで到達する見事な攻撃を受けた者もいた。
更に親衛隊が「次の『捕縛対象者』はこの中の誰だと思う?」などという仲間内の会話を聞こえるように話して威圧脅しを掛けたため、賓客全員が隣の迎賓館へと戻っていった。




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