異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜

アーエル

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第六章

第70話

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「あれほど穏やかな表情の父上を見たのは初めてだ」

獣人族専用の執務室に設置されている応接室セット。
そのソファーに座ったソルビトールは、昨夜みたセルヴァンの顔を思い出す。
自分たちの前では決して見せたことのない表情はヨルクの腕の中・・・たぶん『さくら様』に向けられていたのだろう。

「母上がまだ生きてた頃に、どうして母上は父上と結婚したのか聞いたことがあるわ」

五人の中で最年長の長女カトレイアの言葉に弟妹は視線を集中させる。

「母上は何と?」

末っ子のアムネリアが興味津々な表情で姉に先を促す。
その様子に他の兄姉が苦笑する。

「母上が仰るには『誰よりも愛情深い方だから』って。でも今まではその言葉を信じていなかったの。だって父上は『鬼族長』で有名だったもの」

そうなのだ。
この大陸では『セルヴァン』の名前を知らなくても『獣人族の鬼族長』と聞いただけで恐れおののく。
そして『ドワーフ族のドリトス様』と共に恐れられる存在と認識されているのだ。
そのドリトス様も父同様、さくら様のお側に仕えるため部族長を辞められた。
それを聞いて、事情を知らない誰もが「さくら様はお二人がお世話しないといけないほど『困ったどうしようもない性格』なのか?」とウワサされたくらいだ。


「・・・でもね。昨日の父上の表情を見て分かったわ。父上はさくら様のそばだと『本当の父上』でいられるのね」

それは同じく『すべてを投げ捨ててさくら様を選ばれた』ドリトス様や幼馴染のヒナリやヨルクにも言えることなのだろう。
そして自分たちでは父に穏やかな表情も笑顔もさせられないことが哀しかった。
此処で父に教育を受けているシルバラートたちは、逆に父を激怒させてしまった。
そんな父を落ち着かせたのは『さくら様の存在と御言葉』だ。
それも難しい言葉ではない。
ただひと言「早く帰ってきてね」。
それだけだ。

でもその『ひと言』が父にはどんな言葉よりも『大切』なのだろう。

カトレイアはそれを聞いて驚いた。
そんな『簡単な言葉』ですら、自分たちは父に掛けたことはなかったのだ。
そして気付いてしまった。
父は自分たち子供の前でも『族長国王』のままだったのだ。
そんな父から『国王』という重圧と仮面を取り払い、『セルヴァン』という一人の獣人として見てくれるさくら様を、『守護者』としてお守りしたいと願うのは『当たり前』のように感じた。
それはドリトス様やヒナリ、そしてジタン様にも『当てはまる』のだろう。
重圧やプレッシャーを一蹴し、『個人』を尊重してくれるさくら様に、誰もが惹かれてもおかしくはない。

そして、飄々としつつ特定の相手にしか心を見せないヨルクも・・・
先ほど、さくら様が熱を出されたと話したヨルクはツラそうだった。
彼らは『ことを大きくしないため』に来たのだろう。
もしも父やドリトス様が来ていたら『タダでは済まなかった』ハズだ。
ジタン様から『さくら様は怒気に弱い』と聞いている。
あの騒動に2人が出ていたら、怒気を纏ってさくら様のそばへ戻ることが出来なかった。
その代わりに来たヨルクたちだったが、彼らだってさくら様から離れたくなかったハズだ。

彼らには本当に申し訳ないことになってしまった。



ヒナリの弟たちロントとシリアは『自分達が先に会っていたら『さくら様とお近付き』になれていた』と思っていたようだ。
しかしそれは無理だろう。
あの2人では近付く事も出来なかったハズだ。

・・・そう。さくら様の側にいられるのは『自分勝手』な考えを主張する者ではないだろう。


「帰る前にヨルクやヒナリに『幼馴染み』として会いたいな」

ソルビトールは天井を見上げる。
その先にいるであろう幼馴染みに聞こえるように。
彼は昨日会えなかったヨルクに会いたくて行ったのだ。
彼の兄弟たちも同じだ。
ただ『幼馴染みの2人と会って色々と積もる話をしたかった』だけだ。

他の大人たちとは違い『さくら様』が目当てではない。
だから階段を守っていた親衛隊に『どうしたらヨルクたちに会えるか』と聞きたかった。
しかし騒ぎが起き、『最悪なカタチ』で幼馴染みと再会してしまった。
ヨルクには誤解されたかもしれない。

自分とカトレイアは数日後に帰国する。
次に会えるとしたら来月にこの国で執り行われる戴冠式だ。
その前に『誤解』だけは解いておきたい。

きっとヨルクは戴冠式に出ないだろう。
そしてさくら様も。
ヒナリを通してヨルクに連絡が取れたとしても、ヨルクはさくら様を一人にして出てくる事はないだろう。

さくら様には父やヨルクがご迷惑をおかけしていないか聞いてみたい。
でも昨夜見た父の様子ではさくら様をとても大切にされていた。
屋上庭園からの逆光で姿はシルエットだったが、さくら様から父に手を伸ばしたのは分かった。
それはさくら様が父を信用し慕っているからだろう。
隣にいたドリトス様も父と同じく穏やかな笑顔を見せていた。
そんな様子をヨルクとヒナリはやはり笑顔で見守っていたのだ。

「さくら様には『これからも父上やヒナリたちのことをお願いします』ってお伝えしたいわ」

カトレイアも同じことを考えていたのだろう。
父はさくら様の前では『鬼族長』の姿を見せていないのだろう。
シルバラートたちからは『さくら様の話をヒナリとしただけで父上の怒気がほぼ消えた』と聞いている。


「ねえ。ジタン様に話を聞いてみない?」

『だれの?』とは聞かない。
父や幼馴染みの話に『さくら様の話』が少しでも入ればいいと思っている。
ジタンならさくら様とお会いしているのだから『どのような御方』かをご存知だろう。

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